クリニックで事務長を採用するメリットと円滑な経営を実現する5つの方法

公開日:2019年5月16日
更新日:2024年3月18日
クリニックで事務長を採用するメリットとは?

勤務医の先生と違い、開業医の先生は「医師、経営者、管理者」という3役をこなす必要が出てきます。

日々の診療だけでも忙しいのに、経営者・管理者としての仕事まで抱えるのは開業医の先生にとってはかなり大きな負担でしょう。

「診療に専念したい」という時には、経営者・管理者としての業務を任せることができる、或いはサポートしてくれる“事務長”が大きな役割を果たしてくれます。

そこで今回は事務長を採用するメリットと、事務長制をうまく機能させ、クリニックの円滑な運営を実現するポイントをお伝えします。

事務長を採用する2つのメリット

メリットの画像

事務長採用には新たな人件費が当然かかってくるので、事務長の求人をためらう開業医の先生もいらっしゃるかと思います。

また、「果たして自分のクリニックが事務長を採用するメリットがあるのだろうか?」と考える先生もいらっしゃるでしょう。

そこで、医院・クリニックが事務長を採用するメリットについて簡単にお伝えします。

診療以外の業務が格段と減る

言うまでもなく、事務長を採用することによって、開業医の先生は診療に専念することができます。

開業した先生が戸惑うのが、経営者・管理者としてやるべき膨大かつ煩雑な業務の数々です。

クリニックの日々の事務作業、管理上の手続き、月次の経営データの集計や分析、税理士への提出書類、 スタッフの入退職時の手続きなどの人材採用の業務、行政関連の仕事……。

これらの仕事をすべて任せたり、サポートしてくれたりする事務長がいればどれだけ楽でしょうか?

もちろん、奥様がすでに事務長的な役割を果たされていて、先生をサポートされている場合もあるので、新たな事務長採用でどれだけ軽減負担になるかはクリニックによって変わってきます。

例えば1日数時間など、院長先生の負担を大幅に軽減できるようであれば、検討の余地はあるでしょう。

院長とスタッフの橋渡しになれる

事務長に、院長先生とスタッフの橋渡しになってもらうことで、諸々のスタッフ問題の解決につながるというメリットもあります。

経営側の院長には話しづらいことも、事務長になら話すことができる、というスタッフは多いと言われています。

事務長とスタッフとの間でコミュニケーションが円滑になれば、院長先生は事務長を通してクリニック内のさまざまな情報を知ることができ、またスタッフへの対応も先回りして行うことが可能になります。

院長から直接スタッフに伝えづらいことは代わりに事務長に伝えてもらうなど、面談の際にクッションとして入ってもらうこともできるでしょう。

つまり、スタッフのクリニックに対する不満軽減につながり、ひいては人間関係やモチベーションの改善につながるのです。

ただ、このパイプ役は必ずしも事務長がやる必要はありません。

看護師長などベテランスタッフや、奥様が院長先生とスタッフの橋渡しとなってくれる場合もあります。

このようなクリニックのリーダーとなり得る方が在籍している場合は、事務長にその役割を担ってもらう必要はないかもしれません。

事務長採用で円滑なクリニック経営を実現する5つの方法

事務長採用でクリニック経営がうまくいく5つの方法

先のメリットの話でもお伝えしたように、事務長採用の必要性はクリニックによって違います。

なかには事務長を採用することで、クリニック経営が大幅に改善するクリニックもあるでしょう。

しかし、それはあくまで事務長制がうまく機能した場合です。

うまく機能しなければ、すぐに事務長が辞めてしまったり、院長先生の負担が減らなかったり、クリニックの雰囲気がかえって悪化することも考えられます。

事務長制を機能させ、円滑なクリニック経営を実現するために必要なポイントをお伝えします。

事務長の業務範囲を明確化する

事務長の業務範囲を明確にする

事務長はクリニックの運営マネージャー的な役割で、業務範囲が多岐に渡ります。

しかし、この業務範囲はクリニックによって差があります。

そこで事務長は、どのような業務をどこまでやるのかを明確にし、さらにスタッフに事務長の役割を共有しておきましょう。

スタッフに共有しなければ、事務長に何を相談すれば良いのかわかりませんし、「あの人は何をする人なんだろう……?」と疑問を生じさせてしまいます。

そのままにしておくと、スタッフから「必要ない人では?」と思われ、結果的に事務長がクリニックに居づらくなってしまうことも考えられます。

もし事務長がスタッフと馴染めないような場合は、業務範囲が明確か、スタッフに伝わっているかを確認してみましょう。

事務長のポジション取りを考える

事務長のポジション

事務長制失敗の理由でよくあげられるもので、「スタッフに事務長という立場を軽視させてしまったこと」があります。

事務長の仕事は、医師や看護師に比べてもはっきりと見えづらいので、このようなことが起こりがちです。

そこでお勧めしたい方法が、「事務長のポジション取り」です。

何をするのかと言うと、「事務長がいるおかげで、スムーズに業務ができる」という意識をスタッフ全員に浸透させるのです。

具体的には、スタッフの前で事務長を叱らなかったり、事務長に何か言いたいことがあるときは1対1で伝えるようにしたりすることが重要です。

そのような細かな配慮から、事務長に対するスタッフの意識が変わっていきます。

あるクリニックでは、事務長制を導入するにあたり、下記のような対応をして、事務長のポジショニングを高めることに成功しています。

事務長のポジショニングを高める対応例
  • ・院長の考えは事務長が代弁して伝える
  • ・スタッフの相談相手を事務長にする
  • ・スタッフの前で事務長に注意しない
  • ・面接のときに、事務長に同席してもらう
  • ・事務長の意見も取り入れたスタッフ評価をつける

このような対応を心がけることで、スタッフが事務長を「なくてはならない存在」と認識することを助け、事務長制導入に成功したのです。

院長でなくても対応できる業務は一任する意識を持つ

事務長の業務範囲

とあるクリニックの院長先生の事例を紹介します。

その院長先生は、仕事を人に任せることをせず、診療以外の業務も自分で抱えてしまう傾向にありました。

そのため、院長先生は常にフル稼働で夜遅くまで働き、あまりの多忙さに周りのスタッフに当たることもあったと言います。

そのため、院長先生とスタッフの関係が、みるみるギスギスしていきました。

スタッフの顔からも、徐々に笑顔が消えています。

院長先生も、多忙の挙げ句に人間関係に悩み、過剰なストレスがたまりクリニックを無断欠勤したくなるほどになってしまいました。

精神的に追い詰められた院長先生は「このままではいけない!」と改心し、まずは自分でなくても対応可能なことは、極力事務長に任せるようにしました。

思った以上に事務長は業務の呑込みが早く、院長先生の診療時間中に、事務仕事を片付けていきます。

すぐに院長先生は仕事が楽になり、気持ちに余裕ができたのでイライラすることがなくなりました。

そして、院長先生とスタッフ間の人間関係も徐々に良好になっていきました。

事務長は、基本的には経営業務を一手に引き受ける立場です。

院長先生でなくてもできる業務は、どんどん事務長に任せる意識を持ちましょう。

これは先に書いた「事務長の業務範囲を明確にする」「ポジション取りをする」意味でも重要なことです。

院長やスタッフから出た意見は事務長に対応を任せる

事務長に対応を任せる

先に「事務長は院長先生とスタッフの橋渡しをして、両者の意見を代弁する」とお伝えしました。

しかし、その役割を事務長に求める場合、伝言ゲームのようにただ院長やスタッフに伝えるだけでは意味がありません。

たとえばスタッフや意見や不満が出てきたような場合、そのまま院長先生に伝えるのではなく、

  1. スタッフの意見や不満の本当の意図は何か?
  2. 事務長とスタッフで対応して解決できないか?
  3. もっと何か良い方法はないか?

これらを総合して、対応すべきことはして院長先生に報告するのです。

もしかしたら、院長先生に報告するまでもなく解決することがあるかもしれません。

これは、院長先生が事務長に意見を言う場合も同様です。

事務長に、院長先生とスタッフ間の橋渡し役を任せるような場合は、採用時にしっかり上記の役割を明確に伝えましょう。

非常勤事務長制も検討して人件費を抑える

非常勤事務長の採用

人件費を抑える対応策として、正職員登用ではなく、“非常勤事務長制”を検討するのも良いでしょう。

非常勤ではあっても、院長先生の経営・管理者の部分をサポートしてくれるので、かなり時間に余裕は生まれます。

仕事量との兼ね合いもありますが、1~2週間に1回ほどの割合で労務管理業務を中心に受け持ってもらうのです。

この「非常勤事務長制」なら、社会保険料の負担もなくなりますから、人件費を最小限に抑えることができます。

事務長制を導入することで、今まで先生の時間を圧迫していた大量の事務作業の委託が可能になり、医療に専念する時間を増やすことができます。

新型コロナウィルス対策の影響で、テレワークが増えてきましたが、担当する業務によっては一部テレワークも検討して良いでしょう。

【まとめ】事務長を採用するなら最大限に事務長制の機能を活かす

今回は、事務長制におけるメリットと、事務長制をうまく機能させて円滑なクリニック経営に繋げる方法についてお話いたしました。

  1. 事務長の業務範囲を明確化する
  2. 事務長のポジション取りを考える
  3. 院長でなくても対応できる業務は一任する意識を持つ
  4. 院長やスタッフから出た意見をそのまま伝えない
  5. 非常勤事務長制も検討して人件費を抑える

事務長制をとることで、院長の大幅な時間を捻出することができ、理想の医療の実現に近づけることができます。

事務長は決して事務だけを行うのではなく、クリニックの経営やマネジメントも行うことのできる重要なポジションです。

ぜひ、事務長制をうまく機能させ、先生が診療に専念できる環境を作り、クリニックの収入につなげていただければと思います。

亀井 隆弘

広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。

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