はじめに

個人のクリニックの経営が軌道に乗ってきて年商6,000万円(年収1,500万円)程度になると、開業医の先生は医療法人化を検討するようになります。

その際、個人の開業医時代以上に「どの税理士と組むか」がとても重要になってきます。

そうでなければ医療法人設立の手続きで思わぬトラブルが発生したり、せっかく医療法人化してもその恩恵が受けられないことがあります。

ここでは、医療法人の失敗しない税理士の選び方について、いくつか重要なポイントをお伝えしていきたいと思います。

医療法人の経験が十分な税理士か?

言うまでもなく、医療法人化する開業医の先生にとってもっとも頼りになる税理士は、医療法人手続きの経験のある税理士です。

しかし、この医療法人化、もしくは医療法人設立後の税務顧問に自信を持っている税理士はさほど多くありません。

年収が高いので所得税の税率が40%を超えた、医療機器の償却期間がもうすぐ終わる、社会保険信託報酬が5,000万円以上、分院展開したい、相続・承継対策したい…

このような理由で既に医療法人化のタイミングになっているのに、いつになっても医療法人化の提案をしてこない。

「そろそろ医療法人化したい」と相談したら、「対応できない」と言われてしまった…。

このような話は、案外多く聞きます。

クリニックが医療法人化することは、税理士にとっても顧問料や報酬の増加などが見込めるのでメリットのある話です。

しかし、医療法人化の手続きは特有のものがあり、しかも煩雑です。

また医療法人設立後の節税の提案、税務調査の対応なども特有なものがあります。

さらにクリニックの分院展開や事業拡大、相続・承継まで対応したことのある税理士は多くありません。

もし、今の税理士が医療法人化をはじめ、医業全般で経験が少ないならば税務顧問の変更を検討しても良いと思います。

行政書士、社労士との連携がスムーズな税理士か?

医療法人の設立は、都道府県知事に対して医療法人設立認可手続きが必要となり、複数回のやり取りが必要となります。

しかも医療法人設立申請期間は年に2回程度の決まった期間に限定され、約6~10ヶ月前からの準備が必要になります。

なお医療法人化とは医療法人を設立したうえで、これまで個人で開設していた医科・歯科クリニックを医療法人の開設に切り替えるという2段階の手続きになります。

これらの手続きはかなり煩雑で、開業医の先生や奥様が自分で対応を行うことは不可能です。

また、医療法人設立の手続きは、行政書士資格がないと、代理申請ができません。

それに設立後の健康保険や厚生年金などの社会保険の加入手続きは社会保険労務士の範疇となります。

また、医師国保・歯科医師国保を医療法人でも継続する場合でも特殊な手続きが必要となります。

このように、医療法人化は税理士のみならず、行政書士や社会保険労務士との連携が必要になります。

特に医療法人化の手続きは煩雑だけでなく、行政との折衝も必須であり経験が豊富な専門家の存在が不可欠です。

行政書士・社労士と連携がスムーズな税理士であれば、医療法人設立の手続きをワンストップで進めることが可能になります。

医療法人化のデメリットやリスク回避もしっかり把握している税理士か?

医療法人化には、当然メリットもあればデメリットもあります。

顧問の税理士は、医療法人化のメリット、デメリットをしっかり把握している必要があります。

医療法人化が妥当と判断されるクリニックであっても、法人化のデメリットを消し去ることは不可能で、リスク回避が必要となります。

また、一度医療法人化してしまうと、再び個人のクリニックに戻るにはとても煩雑な手続きが必要です。

ですから、医療法人化してから後悔のないように、設立準備前に十分シミュレーションしておく必要があります。

簡単に1つ1つ解説していきます。

これらのことをしっかり把握してサポートできる医療法人の経験が豊富な税理士を選ぶようにしましょう。

医療法人は個人事業と異なり、お金の自由が利かない

個人の開業医と医療法人の大きな違いのひとつがキャッシュフローの変化です。

医療法人化して後悔する理由として多く言われるのが、法人設立により資金の自由度が制限され、個人で使えるお金が減ってしまうことです。

そのため、個人の借入金が大きい場合や養育費や教育費の支払いなど、個人で大きな支払いが想定されている場合は注意が必要です。

特に個人の借入金が多い場合は、個人のキャッシュフローが減ってしまうので、医療法人化による節税の恩恵は思いのほか大きくありません。

また、借入金や将来的な大きな支払いのため、役員報酬を一時的にあげるようなことをすれば、今度は先生個人の所得税の負担が大きくなります。

ですから、長期的な視点で所得税負担を極力抑えながら役員報酬の設定をしていく必要があります。

コストの増加と節税効果の比較が必要

医療法人化することで社会保険の強制加入が必要となりますから、社会保険料の支払いの負担が増加します。

さらに税務申告の手間が増え、法務局や都道府県に毎年、提出する書類が必要になってくるため税理士や司法書士に対する報酬も増加します。

医療法人の場合は赤字になっても均等割額という税金が必ずかかってきます。

ただ、社会保険の加入については、スタッフから見れば福利厚生効果が増えるということになりメリットになります。

このようなコストの増加と、福利厚生効果や節税によるメリットを比較することが必要になります。

後継者がいない場合は解散時に残余財産が国、地方公共団体等に帰属する

これから医療法人を設立する場合は、すべて新法の持分の定めのない医療法人になります。

つまり、解散した医療法人に残余財産がある場合は国、地方公共団体に帰属し、院長に戻ることはありません。

※ただし、院長が最初に出したお金については、基金というかたちをとって、解散時は返還される取決めをすることが可能。

そこで後継者のいない医療法人は、中長期事業計画による役員報酬、退職金でコントロールし、残余財産を残さないようにする必要があります。

しかし、最近は親族などに後継者がいないという理由で、M&A(第三者への承継)も考える人も増えています。

ただ、解散するにしろ、M&Aにしろ長期的な計画が必要です。

クリニックの診療を継続している間に話を進めていくようにしましょう。

医療法人設立後もしっかりと経営戦略を立てることができる税理士か?

先に書いたように、税理士や社労士などの専門家の役割は医療法人の設立だけではありません。

むしろ、医療法人設立後の運営もしっかり経営戦略を立てることができるかどうかがより重要です。

開業医とは、医師として地域の患者さんに理想の医療を提供し、経営者としてクリニックを存続・発展させる役割を担います。

開業医の先生をサポートできる税理士などの専門家は、このようなことを把握したうえで中長期的な戦略を立てていく必要があります。

このような経営戦略には、大きく分けて「攻め」の経営戦略と「守り」の経営戦略があります。

攻めの経営戦略とは、主に事業拡大のための戦略です。

  1. 医療広告ガイドラインを遵守したホームページなどの広告宣伝
  2. 外観や内装
  3. 待合スペースの快適化
  4. スタッフ教育やマネジメント
  5. 医療機器や電子カルテなどの設備投資
  6. 分院展開

医療法人化が必須の分院展開以外は、個人の開業医時代から力を入れているクリニックは多いと思います。

そうでなければ、医療法人化するほど経営が軌道に乗ることはないでしょう。

しかし、こういった攻めの経営戦略と同時に必要になってくるのが、長期的な計画をもとにした守りの経営戦略です。

  1. 承継問題(親子承継、M&A)
  2. 長期事業計画
  3. 節税

こちらに関しては「診療で忙しい」「専門外でわからない」といったことで後回しになりがちです。

さらに、「顧問の税理士などの専門家から提案がない」という悩みも多いです。

しかし、この守りの経営戦略は放っておくことで大きなリスクになる可能性があります。

例えば、税制は定期的に改正されます。

医療法人の税務は特有なものがあり、動向を把握していかなければ、所得税や相続税の増税に繋がります。

承継問題も、後継者の気持ちが変わってしまうことがあります。

その場合は解散かM&Aを事前に検討する必要があります。

また、院長先生が不慮の事故や病気にならないとも限りません。突然引退を余儀なくされることもありえるのです。

こういったリスクを回避していくには、医療法人の経営戦略に長けた専門家の力が必要になります。

このような守りの戦略をその都度見直すことで、無駄な支出を削減することができます。

そして分院展開や事業拡大のための設備投資、優秀な人材の確保など、さらに「攻めの経営」への投資が可能になるのです。

まとめ

医療法人化の際は、個人の開業医時代以上に税理士との関わり方が重要になってきます。

医療法人の経験が豊富な専門家を選ぶことは、法人設立だけでなく、設立後のクリニックの繁栄にも大きく関わってきます。

プロの専門家による長期的な経営戦略で、安心して医療に専念し、引退したときはセカンドライフを満喫できるようにしましょう。

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