開業医・勤務医に関わらず、資産運用に興味を持つ医師の先生が増えています。

しかし、「何となく怖い」「考える余裕がない」と、どうすればいいかわからない先生も多いのではないでしょうか?

金融機関などのよく知らない相手に運用を任せっぱなしにするだけでは、「なぜこんなところに投資してしまったのか」ということになりかねません。

そこで、今回は、長期的に堅実にお金を増やすために必要な原則についてお伝えします。

未だに多い「投資は怖い」という日本人の価値観

以前よりは資産運用について意識が高くなっているとはいえ、日本では、「投資は怖い」「現金預金が一番安全だ」という価値観がまだ根強いです。

※日本銀行調査統計局「資金循環の日米欧比較」

家計金融資産の内訳を各国で比較すると、日本人の現金預金の内訳が54.2%に対し、アメリカは12.6%、ヨーロッパは35.5%です。

一方で、日本人は株式や投資信託への投資が欧米に比べて極めて少ない現状があります。

積立NISAなど資産運用を推進する流れになっているとはいえ、現状は、まだまだ日本人は貯蓄好きで、運用を避ける傾向にあります。

ただ、昨今の円安や物価高で、今後もインフレが進むようであれば、現金を持っていても資産価値は目減りします。

現金の安全神話はすでに崩れつつあるので、資産運用の必要性を感じている人は増えています。

実際に医師の8割近くは、NISAや投資信託などを含めると、現在資産運用を行っているというデータもあります(民間医局コネクト調べ)

投資はリスクがつきものですが、現金だけ保有するのもリスクなので、余裕資金があれば資産運用を慎重に検討するのもいいでしょう。

医師が失敗しない資産運用をするために必要な8つのお金の考え方

それでは、医師が失敗しない資産運用をするための基本的な8つの原則をお伝えします。

ただ、実際に資産運用については専門家に相談して、自己責任で行うようにしてください。

何歳までにいくら必要かを決める

まだまだ日本人は、欧米に比べれば資産運用に消極的ですが、リタイア後のライフプランに関心を持つ人は徐々に増えています。

資産運用をする際は、「何歳までいくら必要か?」という出口戦略が重要です。

医師、特に開業医の先生であれば、廃業・M&Aなど自分の医院・クリニックの今後と併せてご自身のライフプランを考える時期が必ずやってきます。

医療法人の相続・承継を含めて子どもに資産を残すことを考えている先生も多いのではないでしょうか?

自分が将来クリニックをどうしたいか、子どもの独立時期、住宅ローンなどの借入金などの状況など、自分の理想のライフプランによって将来必要な資産額とリスク許容度は変わります。

できればファイナンシャルプランナーなどに相談して、シミュレーションしてみると良いでしょう。

月々貯蓄する額を決める

月々貯蓄する額を決めることは、とても重要なことです。

実は医師でも、生活レベルの向上や住宅ローン・養育費などに出費が多くて、収入に比べて
貯蓄額が多くない先生が少なくありません。

なかなか貯蓄できない方の大半は、月々の貯蓄額を決めていない傾向にあります。

そもそも貯蓄できなければ、元手がないので投資はできません。

無理に投資してもリスクでしかありませんし、現金もないのに資産運用すること自体無意味です。

目安を収入の2割として、月々いくら貯蓄していけばよいかを決め、それに合わせて支出を抑えましょう。

NISAなどの積立投資や、変額保険などの投資性のある保険商品で強制的に貯蓄するのも有効です。

特に開業医の先生は、まずはご自身の生活費と貯蓄額を決めて、逆算思考で人件費や経費、設備投資などの支出を決める必要があります。

資産クラスや通貨を分散する

投資の世界には「卵は1つのカゴに盛るな」という言葉があります。

特定の金融商品だけに一括で巨額に投資するのではなく、「複数の金融商品に投資をして、リスクを分散させよ」ということです。

上図のように、財産三分法と言って、普通預金、有価証券、不動産など資産クラスを分散する考え方で投資をするのが理想です。

※ここでは、複数の証券会社が扱っている「財産三分法ファンド」などの毎月分配型投資信託等を勧めているわけではありません。

また、資産クラスだけではなく、米ドルなどの外貨やゴールドと分散しておくのも1つの手です。

ただし、2011~2012年頃の超円高時代に比べれば、現在の円安時でタイミングが適切かどうかは微妙なところですし、売買手数料には注意が必要です。

積立投資で時間的リスクヘッジをする

リスクヘッジでは,資産クラスや通貨だけではなく,時間的な分散を図る方法もあります。

代表的なところが、月々定額のお金を積み立てていく「積立投資」です。

積立投資は、株数や口数を決めて一定の量を投資するのではなく、一定の金額を決めて投資するのがポイントです。

これは「ドルコスト平均法」と言われる方法で、価格が高い時は購入数量が少なく、安い時には多くなるため、単純な数量分割に比べて有利になるという考えです。

たとえばA社の株を月々10万円ずつ購入するとします。

1カ月目は株価が10,000円なので10株
2カ月目は5,000円まで下落して20株
3カ月目は8,000円まで持ち直し12.5株
3カ月目までの購入株数は42.5株。合計投資額は30万円ですが、3カ月目は8,000円なので8,000円×42.5株=34万円

最初に投資を開始した時期より株価が下がっているにもかかわらず、4万円のリターンがあるのです。

このように、「ドルコスト平均法」は下げ相場でも安定的に利益が見込めるのが特徴ですが、逆に上げ相場では一括投資よりは不利になります。

ただ、市場は常に右肩上がりではなく、基本的に多少乱高下するので、積立投資のほうが一喜一憂せずにすみます。

流動性リスクの高い不動産投資に注意する

医師は比較的銀行からの融資も受けやすく、不動産投資に有利な立場と言えます。

不動産投資をする際は目的に応じて、国内だけでなく海外不動産も含めるのも1つの手です。

すでに成熟した日本国内やハワイやアメリカ不動産投資ではインカムゲイン狙いが主流ですが、他国の不動産はキャピタルゲイン狙いのこともあります。

しかし、キャピタルゲインを狙う場合は、キャピタルゲイン課税について注意が必要です。

所有期間5年以下の短期譲渡所得の場合は39.63%、5年超の長期譲渡所得でも20.315%です。

※税率は「所得税+復興特別所得税+住民税」

不動産投資は比較的市場の予想がしやすいところがメリットですが、特に海外不動産の場合は政治的な理由で状況が一気に変わることもあるので要注意です。

また、国内外問わず不動産投資で気をつけたいのは、流動性リスクゆえの購入タイミングです。

たとえばこれから開業を検討している勤務医の場合、これから開業資金が必要になるというときに不動産投資に着手するのはおすすめしません。

将来の開業場所を確保する目的ならよいかもしれませんが、その場合でも万一開業を断念した場合に賃貸や売却で十分収入が得られるかどうかなども考慮に入れ、慎重に検討するようにしましょう。

医療法人化を検討中の開業医の先生で、養育費等これから大きな支出を予定している場合も、不動産投資は慎重になったほうがよいでしょう。

医療法人化することで、役員報酬以外のお金を自由に出し入れできなくなるためです。

投資詐欺に注意する

医師は一般に高収入の印象を持たれているため、いまだに医師をターゲットとした詐欺話が後を絶ちません。

一時期多かったのはFXの自動売買(EA)で、「月利6%」というタイプの投資詐欺です。

月利6%と言えば、1年で資産が倍になる利回りです。

詐欺ではなく、ただ運用に失敗しただけということもあるかもしれませんが、ハイリスク・ハイリターンどころの話ではありません。

実際にこのようなタイプの案件で、まともに利益が得られたという話はあまり聞きません。

また、かつて多かったのが未公開株詐欺や事業出資詐欺のようなタイプです。

未公開株の販売や証券会社を通さない株取引はインサイダー取引になる可能性が高く、事業出資詐欺は「なぜ銀行から借りないのか?」という疑問が生じます。

ちょっと考えればわかるようなことですから、少しでも疑問に感じたら、その投資には手を出さないのが無難です。

投資詐欺は、形を変えて今でも続いています。特に先行き不透明な時代になるほど投資詐欺は増える傾向にあるので、今後も注意するようにしましょう。

金融商品を勧められたときの効果的な質問を知っておく

証券会社や保険会社の営業の人に、金融商品を勧められた場合、必ずしてほしい質問があります。

「あなたは同じ金融商品に投資していますか?」

もしNoであれば、その金融商品を買うのはいったん躊躇したほうが良いでしょう。

本当に良いと思って勧めているわけではなく、自分の利益目的で売っている可能性が高いためです。

投資は長い目で見る必要があります。本当にその人が信用できるかどうかを見極めることが大切です。

プライベートバンクの利用に注意する

「プライベートバンク」とは、預金・証券・保険・不動産など、オーダーメイドで資産管理や運用を提供する金融機関です。

もし億単位の資産がある先生であれば、プライベートバンクの口座開設を検討してもよいでしょう。

最近のプライベートバンクは海外だけではなく日本の金融機関でも本格化していますが、プライベートバンクに資産を預ければ安心というわけではありません。

国内では手数料率が高い金融商品を販売する傾向にあるなど、多くの課題を抱えています。

逆に海外だとルールが頻繁に変わったり、政府のコントロールが厳しかったりして、自由度がかなり低いプライベートバンクもあります。

なるべく伝統的なプライベートバンクに口座を開くのがよいのですが、どれを選ぶのかは相性があります。

専門家に相談しながら、複数のプライベートバンクから選ぶのがよいでしょう。

もちろん、相談する専門家は直接やり取りができて,信頼関係を築いている人を選ぶのが基本です。

特に海外にいる日本人は要注意です。

海外在住のプライベートバンカーが日本に来て営業することは、原則的に金融商品取引法で禁じられています。

セミナーを行うために来日することもありますが、実際のところグレーゾーンと言ってよいでしょう。

最も安全性が高いのは、金融庁に登録している国内在住の運用会社で、プライベートバンクと提携している運用委託先です。

これはプライベートバンクに限らず海外投資全般でも同じことが言えますが、専門家と接触する際は、このような前提条件は押さえておきましょう。

【まとめ】堅実な資産運用で理想のライフプランを実現する

以上、医師が資産運用で失敗しないための8つのポイントをお伝えしました。

昔ほどではないですが、未だに日本人は「投資は怖い」と思って資産運用に消極的な姿勢です。

しかし、出口戦略を考えて堅実に長期的にお金を増やすことが目的であれば、インフレリスク等を避けながら資産形成できます。

ただ気をつけたいことは、投資案件の選び方です。一見利回りが期待できる金融商品にすぐに飛びつくのはもちろんタブーです。

複数の情報を得て、専門家も含めて慎重に選ぶようにしましょう。

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この記事の執筆・監修はこの人!
プロフィール
笠浪 真

税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

                       

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