コロナ禍をきっかけに「そろそろ当院でも、オンライン診療の導入を検討したほうがよいのでは?」とお考えのクリニックの院長先生もいらっしゃるでしょう。

しかし、オンライン診療には医療機関にとっても患者さんにとってもメリットがある一方でデメリットや問題点があり、普及には時間がかかっています。

また、オンライン診療に適切な病気・症状もあれば、そうでない病気・症状もあります。

オンライン診療のメリット・デメリットと現状、そして導入時に検討しておくべきことを解説します。

オンライン診療のメリット

まずは、オンライン診療のメリットについては、医療機関側、患者さん側両方にとって次のようなものが挙げられます。

コロナ禍をきっかけに急速に認知されるようになったオンライン診療ですが、コロナに関係ないメリットが大きいところがあります。

時間と交通費の節約

患者さんが来院しなくても、自宅等で診察を受けることができ、病院に通うのにかかる時間と交通費を節約することができます。

また来院のために家族に送り迎えをしてもらう必要もなく、足腰が弱い高齢者や具合の悪い患者さんなどの受診のハードルが下がるでしょう。

さらに時間予約制を採用することで、患者さんが待合室で長時間待つ必要がなくなります。

処方薬については、自宅または近所の調剤薬局で受け取ることもできれば、郵送してもらえる場合もあります。

特に離島に住んでいる患者さんが医療機関に通うのが大変な場合や、仕事の都合上、受診が難しい場合などに力を発揮します。

感染症のリスクや病気の症状悪化の予防

患者さんが医師や他の患者さんと接触することがないため、インフルエンザや風邪など感染症のリスクや、院内での症状の悪化等のリスクを下げることができます。

治療からのドロップアウトの防止

高血圧や生活習慣病のリスクは、忙しい勤労世代の方ほど、ストレスや過労で高まる傾向にあります。

継続的な治療が必要になってきますが、自覚症状が少ない場合、通院期間が空きすぎたり、治療自体を止めたりする方も多いでしょう。

オンライン診療を利用して、昼休みや夜間などの空き時間に、予約した診療を受けられると、時間的な負荷が下がり、治療継続のための大きな助けとなります。

また、患者さんが転勤や退職、結婚などで遠方に引っ越した場合でも継続的に診療が可能になります。

患者満足後の向上

上記のようなメリットによって、結果的に患者満足度の向上が期待できます。

特に拙著「開業医の教科書®」でもお伝えしている通り、患者さんにとって待ち時間が長いのは大きな不満要素となります。

オンライン診療によって、お互いストレスのない診療を行うことができます。

オンライン診療のデメリットと問題点

大きなメリットのあるオンライン診療ですが、一方で次のようなデメリットと問題点があります。

そのため、オンライン診療を行う際は注意点も多く、厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の遵守が求められています。

診断のための情報不足の発生

オンライン診察時では、対面での触診や機器を使用した検査ができず、映像と音声情報しかないため、身体のわずかな変化や全身の状態を見ることができません。

重症化の兆候や想定外の症状を見落としてしまうリスクや、各種検査(尿、血液検査やレントゲン撮影など)ができず診断そのものができないリスクがあります。

また、治療の遅れによる症状悪化のリスクなどもあります。

そのため、完全なオンライン診療ではなく、対面診療との組み合わせでの実施が奨励されています。

特に初診でのオンライン診療については、原則としてかかりつけの医師が行うなどの基準があります。

急病や容体急変の対応には不向き

上記と同様に、対面での触診や機器を使用した検査ができず、様々な検査が必要な急病の患者さんや、容体が急変した患者さんへの対応は難しく、結局来院を促すことが必要です。

電子処方箋ではなく、処方箋や薬を郵送する方式を採用している場合、患者さんの手元に薬が届くのが間に合わず、さらに対応は難しくなるでしょう。

オンライン診療に適さない病気・症状がある

オンライン診療には相性の良い病気・症状もあれば、そうでない病気・症状もあります。

一般社団法人日本医学会連合が作成した「オンライン診療の初診に適さない症状」に掲載されている症状については、対面診療を実施するのが望ましいとされています。

また、症状によってはオンライン診療では処方できない薬もあります。

我が国におけるオンライン診療の導入状況

我が国におけるオンライン診療の導入状況についてお伝えします。

オンライン診療には、上記のメリット・デメリットがあるため、普及にはまだまだ時間がかかると考えられます。

オンライン診療の導入が難航している現状

デロイトトーマツグループがWEB上で実施した『コロナ禍での国内医療機関への通院状況・オンライン診療の活用状況』に関するアンケート調査結果を、2020年8月に発表しました。

その結果、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあって、約半数の48.4%の患者さんが「なるべく通院は控えたい」と回答。

オンライン診療についても「知っている(認知)」と回答したのは43.9%でした。

にも関わらず、一方で「実際に利用したことがある」のは1.9%に留まっています。

認知度実際の利用
43.9%1.9%

また、医療機関側の回答を見ると、約80%の医師が新型コロナウイルスの影響により患者数(外来:初診・再診、入院)は「減少」と回答しています。

しかし患者さんの来院数が減少したにもかかわらず、eヘルスケアが2020年5月に実施した臨床医約500名へのアンケート調査によると、オンライン診療の専用システムを導入済みと回答したのは3%、電話診療を含めてオンライン診療の受付の実績があるのは28%でした。

さらに約55%の医師が「実施する予定はない」と回答しています。

オンライン診療には、大きな可能性があるとはいえ、我が国では導入が難航していることがうかがえます。

現在オンライン診療を行っている診療種別や症状

とはいえ、オンライン診療の関心が高まり、国としても導入しようと仕組みを整備しつつあるのはたしかです。

そのため、普及は多少遅い可能性はあるものの、今後はオンライン診療が今以上に普及するのは間違いないでしょう。

日本オンライン診療研究会の「オンライン診療に関するアンケート集計結果」によると、診療種別で一番多いのは保険診療の121件でした。

しかし、自由診療も81件と比較的多く、オンライン診療は保険診療でも自由診療両方でニーズが高いことがうかがえます。

また、オンライン診療を行っている主な対象疾患については、以下の順位となっています。

1位:高血圧症(13件)
2位:AGA(9件)
3位:アレルギー性鼻炎(8件)
3位:ED(8件)
5位:睡眠時無呼吸症候群(7件)
6位:月経困難症(6件)
6位:脂質異常症(6件)
8位:糖尿病(5件)
8位:生活習慣病(5件)
8位:気管支喘息(5件)
8位:アトピー性皮膚炎(5件)
12位:不妊症(4件)
12位:避妊(4件)
12位:更年期障害(4件)
12位:花粉症(4件)

これらの症状は緊急の対応をしなくても命に関わらないものや、慢性的で経過観察が必要なものが多く、オンライン診療との相性が良いことがわかります。

オンライン診療導入までの検討事項

診療の正確性に対する懸念はあるものの、コロナ禍への対応の必要性の後押しや、高齢化の進行による免許返納数の増加などで、在宅医療への切り替えも進んでいくでしょう。

長い目で見ればオンライン診療の導入は徐々に進んでいくものと思われます。

オンライン診療の導入の決断をしないまでも、検討を進めておいた方が良いでしょう。

厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」では、次のような検討が必要になると記載されています。

オンライン診療システムやセキュリティの検討

オンライン診療に対応した予約、治療計画作成、診療等が可能な、オンライン診療システムが増えてきつつあります。

機能や操作の利便性、導入価格、ランニングコスト、導入にかかる期間等の情報を収集しておきましょう。

現在、主なオンライン診療システムとして、現在次のようなものがあります。

・CLINICS(メドレー)
・curon(MICIN)
・YaDoc(インテグリティ・ヘルスケア)
・オンライン診療ポケットドクター(MRT、オプティム)
・kakari for Clinic(日医工・メドピア)
・CARADAオンライン診療(株式会社カラダメディカ)
・リモートドクター(アイソル)
・LINEドクター(LINEヘルスケア)

また、医師に「セキュリティリスク等と対策および責任の所在について患者さんに説明し、合意を得ること」も求めているため、システム導入の際に特に検討が必要です。

ネットワーク整備の検討

厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」には、次のような記載があります。

医師は、騒音により音声が聞き取れない、ネットワークが不安定であり動画が途切れる等、オンライン診療を行うに当たり適切な判断を害する場所でオンライン診療を行ってはならない。

病院のネットワーク整備について、増強の必要性を検討しておきましょう。

オンライン診療の部屋の整備

加えて「オンライン診療の適切な実施に関する指針」には、次の記載があります。

第三者に患者の心身の状態に関する情報の伝わることのないよう、医師は物理的に外部から隔離される空間においてオンライン診療を行わなければならない。

オンライン診療に適した診察室の設置が可能かどうかも、検討が必要です。

関連省庁からの指針として、オンライン診療の導入にあたり、現在の動向や、患者さんの個人情報保護に関係するセキュリティ方針等を確認する必要があります。

厚生労働省の、オンライン診療に関するホームページに情報がまとまっています。

また、以下のガイドラインについても押さえておきましょう。

・クラウドサービス事業者が医療情報を取り扱う際の安全管理に関するガイドライン(総務省)
・医療情報を受託管理する情報処理事業者における安全管理ガイドライン(経済産業省)
・医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン(総務省・経済産業省合同)

【まとめ】オンライン診療はメリットもデメリットもあるが診療内容によって導入が必要

以上、オンライン診療のメリット・デメリットと導入までの検討事項について解説しました。

お伝えした内容をまとめると、次の3点です。

  1. オンライン診療の認知度や期待値はある程度高まっているものの、実際の導入は進んでいないのが現状である
  2. 長い目で見ればオンライン診療の導入は徐々に進んでいくものと思われる
  3. オンライン診療に対応するべく、オンライン診療システムの比較や、ネットワーク増強、診療部屋の整備などを検討し、関連省庁からの指針も押さえておくと良い

特にオンライン診療と相性の良い症状については、本記事でお伝えしたことを検討しながら、積極的に導入の準備をするといいでしょう。

なお、本記事でも何回か登場した厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」については、以下の記事に詳しく紹介しています。

【関連記事】「オンライン診療の適切な実施に関する指針」2022年改訂版の重要ポイント

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プロフィール
笠浪 真

税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

                       

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