はじめに

開業医の先生の平均年収は約2,500万円程度と言われていますが、診療科目によってばらつきがあります。

特に美容整形外科の開業医の平均年収は約4,500万円と、かなりの高年収が期待できます。

また、美容整形外科は、眼瞼下垂症など、一部保険診療が認められるもの以外は基本的に自由診療になります。

ですから、自由に価格を決められることになります。

しかし、それだけに一方で倒産、廃業に至る医院も多い診療科目でもあります。

華やかなイメージの高い美容整形外科ですが、比較的ハイリスク・ハイリターンの科目と言えます。

今回の開業失敗事例では、こうした美容整形外科の失敗例と、開業の注意点についてお話していきたいと思います。

美容整形外科の開業失敗事例

東京都内の大病院の整形外科で勤務医として働いていたA先生。

勤務医としての年収でも1,500万円程度と、勤務医の平均年収くらいにはなっているのですが、内心では「もっと儲けたいなあ」と思っていました。

というのも、A先生も当然勤務医、開業医、美容整形外科の開業医の平均年収については知っているわけです。

しかも、先に美容整形外科として開業した先輩医師が、年収4,500万円ほどになっているという話を聞きます。

これは美容整形外科の平均年収程度とはいえ、身近にそれくらい稼いでいる人がいることで、リアルに「自分もいけるのでは?」と思い始めます。

「今より3,000万円も年収アップしたら…」

と、自分もそれくらいの年収を手にしたときのライフスタイルを想像したら、もうワクワクして仕方ありません。

「よし!おれも開業しよう」

とA先生は、早速先の先輩医師に相談し、開業コンサルタントを紹介してもらい、美容整形を開業することにしました。

年収が4,000~5,000万円くらいになって、今よりリッチな生活が送れると思うと、思わず顔がニヤけるA先生。

しかし、これが地獄の始まりでした。

成功した先輩医師が紹介するんだから大丈夫だろう。

そう思ったA先生は、開業コンサルタントに言われるがまま、物件、医療機器、資金調達、ホームページ、人材の確保、様々な準備を進めました。

都心の一等地で、美容整形外科らしく、かなりお金をかけて、高級感があって女性が好みそうな、内装やレイアウトにしました。

医療機器や設備も最新でハイスペックなものを揃え、ライバルの美容整形外科に負けないような体制を整えました。

結果として、開業費用は1億円ほどかかってしまいました。ほとんどは銀行の借り入れです。

でも、勤務医時代に十分整形外科で経験を積んだA先生は、技術的には自信満々です。

そのうち、いっぱい稼げるわけだから、すぐにローンは返せるだろう。

A先生ははりきって開業を迎えました。

これだけやれば、すぐに患者は来るだろう…、このAさんの考えは甘かったようです。

そう、開業してから全然患者さんが来ないのです。

「最初はそんなものなのかなあ?」と思いつつ、先に開業した先輩医師に相談しました。そしたら、

「広告を出そう」とアドバイスされます。

A先生は、インターネットで広告を出したり、地方誌で広告を出したりしました。

これで一安心……、とはいきませんでした。

結果として、集患効果は全然ありませんでした。

借金の返済はあるし、人件費の支払いはあるし、そこに無駄な広告費をかけてしまうことに……。

もともとセレブな生活に憧れを持っているA先生は、そこまで貯蓄がありません。

自分自身の貯金を切り崩す日々が続きました。

「あれ、儲かると思っていたのだが、むしろ生活が苦しくなっている……」

と思ったのもつかの間、あっという間に貯金は底についてしまいました。

そして、1年後、A先生は廃業に追い込まれ、開業時の借金を返せずに自己破産してしまいました。

なぜこの美容整形外科は廃業、自己破産に追い込まれたのか?

この事例は、実際にあった美容整形外科の失敗事例をもとに編集したものです。

編集したとはいえ、実例とはさほど大きく変わりません。

そして美容整形外科のクリニックは、比較的廃業件数が多いのです。

さらに、この事例には、美容整形外科、もしくは開業医の典型的な失敗要因がいくつか隠されています。

巨額の開業資金

まず、開業資金をかけすぎです。

A先生は1億円もの巨額の開業資金をかけています。

最初に開業する医院で、これだけの巨額の投資をしてしまうと、医院経営が軌道に乗るまでキャッシュフローを大きく圧迫します。

A先生は「美容整形外科だから」という理由と「成功者になりたい」という気持ちが強かったのか、都心の超一等地の物件を選んでしまいます。

しかも、必要以上に最新の医療機器を備え、内装・外装も豪華なものにしました。

お金さえかければうまくいく、という考えが甘かったとしか言いようがありません。

じつは、先輩医師が紹介した開業コンサルタントも、この開業資金の借入に心配していました。

しかし、A先生は開業コンサルタントの言うことには耳を貸すことはありませんでした。

開業コンサルタントも、開業資金が多ければ多いほどコンサル料も高くなり、自分は儲かることもあり、強く言うことができませんでした。

大手の美容整形外科も存在する激戦エリア

しかもA先生が場所に選んだ超一等地は、大手の美容整形外科も存在しており、これまでも多くの美容整形外科が開業しては撤退したエリアです。

しかし、最新の医療設備と自分自身の医師としての技量に自信を持っていたA先生は「勝負できる」と思って、迷わずその場所を選んでしまいました。

開業コンサルタントが選んできた一押しの物件でしたが、戦略がかなり甘かったとしか言いようがありません。

特に銀座など東京都内の一等地は、大手の美容整形外科が多く存在し、開業数年の美容整形外科の生存率はかなり低い実態があります。

大手の美容整形の広告戦略には勝てない

そのような美容整形外科の激戦エリアで、慌てて広告費をかけても集患できるわけがありません。

というのも、大手の美容整形クリニックと、A先生のかけられる広告費は、桁が違います。

大手の美容整形クリニックのテレビCMを何回も見たことがあると思います。

それだけ、大手の美容整形クリニックは莫大な広告費をかけています。

正直、まともな広告宣伝では勝てるわけがありません。

A先生は、広告費をかける前に、大手との違いを打ち出した魅力的なコピーが入った広告を検討するべきでした。

そもそも、A先生に大手と競合しない独自の強みがあったのか、それすら疑問です。

数打てば当たるでは絶対に大手に勝てることはなく、イメージ広告的なものより訴求力の高い広告が必要だったでしょう。

しかも、医療業界の広告は訴求力の高いコピーを書く際は注意が必要です。

医療広告ガイドラインの規制があるためです。

体験談は基本的にNG
ビフォーアフターの画像は条件が厳しい(もちろん加工、修正はだめです)
根拠なく◯%の満足度とは書けない
「◯◯手術は効果が高く、おすすめです」はNG
「最高」「最高峰」「最高級」などの最上級表現はNG
「痛くない治療」はNG
雑誌や新聞に医院や医師が紹介された記事や、芸能人や著名人との関連は掲載NG

など、かなり厳しい規制があります。

【関連記事】知らないと怖いホームページの医療広告規制5つのポイント

昔はホームページに関しては規制されてませんでしたが、2018年の医療広告ガイドラインの改正で、ホームページも規制対象となりました。

自由診療の割合が高い歯科や美容整形、美容皮膚科は、特に気をつけないといけません。

経営者の腕と、医師の腕は違う

A先生の致命的な欠点がもうひとつあります。

たしかに医師としての腕はたしかだったかもしれませんが、経営者としての素質はいまいちだったと思います。

まず、開業コンサルタントの助言を鵜呑みにして、都心の激戦区に開業してしまったこと。

そして莫大な開業資金。

それに加えて、A先生勤務医時代から外車をすぐ買い替えたり、夜は派手に豪遊するなど、お金を散財し、年収の割に貯蓄がありませんでした。

会計に対する考え方そのものがまったく身についていないのに、「ただおれも稼ぎたい」と思って開業する。

これほど危険なことはありません。

しかも、A先生は大手など競合がひしめく美容整形外科です。

自分自身の美容整形外科の強み、売りは何なのか、なぜうちの美容整形でないとだめなのか、といったコンセプトはもちろん大事です。

それでいて、詳細な事業計画を念入りに組むように考えないといけません。

そうでないと、何とか開業にこぎつけたとしても、A先生のように「全然集患できない」「借金が返せない」といったことになってしまいます。

廃業、倒産に陥る美容整形外科は、このパターンでつぶれています。

A先生の先輩医師はなぜ美容整形外科で成功したか?

それでは、A先生の先輩医師(仮にB先生とします)は、なぜ無事に医院を運営し、4,500万円もの年収を手にしたのでしょうか。

言ってみれば、A先生と逆のことをしたのです。

まず、A先生のような散財癖がありませんでした。

B先生は、華やかな美容整形のイメージとは一味違い、かなり堅実な人で、勤務医時代からしっかり貯蓄したり、一部を運用に回していました。

今でこそベンツを保有していますが、それは開業3~5年で、医院の運営が安定した頃です。

その頃に自分のクリニック名義で車を買えば、経費となることもあり、税金対策になることも意識したのでしょう。

貯蓄や節税に関することをしっかりと把握し、無駄遣いを極力避けて開業時のリスクを避ける努力をしていたのです。

それでいて、しっかりした資金計画を立てていました。

これも通常の開業医の先生と違って、まずは自分自身がどのような生活を送りたいか、ということから逆算していました。

どうしても開業というと、物件選びに着目する先生が多いのですが、本当に大事なことは資金計画です。

そうでないと、A先生のように、無理のある開業資金をかけてしまうことになります。

最後に、B先生が素晴らしかったのはコンセプトです。

じつはB先生は、ただ儲かるという理由で美容整形外科医になったわけではありません。

B先生は、大学時代、年の離れたお姉さんが美容整形で失敗し、裁判沙汰になったことがあるのです。

そのとき、B先生は美容整形外科医を信じられなくなり、「おれは絶対に美容整形にはいかない」と思ったそうです。

しかし、そのタイミングで、あるとき今度は尊敬できる美容整形の先生に出会います。

その先生は、人間的にとても尊敬できる先生だったそうです。

「将来この先生のような人になりたい」

そう思ったB先生は、「姉さんのような人を増やしたくない、もっと責任を持って治療できる美容整形外科医になりたい」と思い直し、美容整形外科の道を選ぶのです。

このように、理念がはっきりしていたB先生は

「なぜ開業するのか」

「自分自身のクリニックの強みや売りは何か」

「なぜ勤務医ではだめなのか」

「どういう患者さんに来てほしいか」

「なぜ自分でなくてはだめなのか」

「自分が提供できる価値は何か」

ということを徹底的に考え、ブレないコンセプトを作り上げました。

B先生も、近くに大手の美容整形はあったのですが、結果として大手と競合しない美容整形クリニックに成長しました。

まとめ

美容整形外科は、他の診療科目に比べても年収は高いけど、廃業や倒産の事例も多い科目です。

・莫大な開業資金はキャッシュフローを圧迫するだけ
・通常の広告戦略では大手に勝てないことを知る
・大手と競合しない強みを見つける
・経営者のセンスと医師のセンスは違う

これを意識するかしないかだけで、A先生とB先生みたいに、はっきりと天国と地獄が見えるのがわかったでしょう。

A先生の失敗例も、B先生の成功例も、美容整形ではよくある事例です。

いずれ美容整形クリニックを開業したいと考えている人は、ぜひ参考にしてほしいと思います。

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プロフィール
笠浪 真

税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢42人(R2年4月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

                       

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