はじめに

近年、ハラスメントという言葉をよく耳にするようになりました。

とはいえ、そもそもハラスメントという言葉は知っているつもりで、何がハラスメントに当たるのか?

その境界線は曖昧ではないでしょうか。

実際のところ、日常の業務の中で「そのつもり」ではなかった言動が、結果的にハラスメントになってしまったケースもあるので注意が必要です。

そこで、今回はセクハラ、モラハラ、パワハラなどのハラスメントの中でも、医院の職場内で特に発生しやすいとされるパワハラをテーマに詳しく解説していきます。

医療現場ではパワハラが発生しやすい?

一般の職場と違い、医療は人の生命にかかわる大切な役割を果たすために、簡単なミスも許されません。

また、業務が多忙で日頃様々な患者さんと接することも多く、対人関係のストレスも高いなど緊張を強いられる労働環境にあります。

加えて、医師をはじめスタッフは専門家集団であり、スタッフ個々の自律性が高く、一般企業に比べて組織的な統治がされにくい環境にあります。

以上の理由から、医療現場は一般企業に比べてパワハラが発生しやすい環境にあります。

「うっかり」パワハラの加害者になっていないか?

業務上の指導のつもりの発言で、指導内容として正しいことを話しているだけなのに、「言い方が高圧的、攻撃的、感情的であったために部下が傷ついたり病気になったりしている」という理由で、裁判でパワハラと認定されるケースが出てきています。

こうした「うっかり」パワハラの加害者は、往々にして意欲も実力も実績も高いことが多く、チームの誰も反論できないことが少なくありません。

本人は決してそのつもりはないはずなのに、部下やスタッフの立場からすると、実は怖くて何も言えない、言っても無駄と思っているだけのケースも少なくないようです。

もし、このような職場環境をそのまま放置しておくと、いつかパワハラとして厄介な問題に発展しかねません。

特に今の若い世代は叱られる経験も少なく育っていることが多く、簡単につぶれてしまう可能性がある、という認識が必要です。

とはいえ、日頃スタッフや部下を指導する立場にある医師からすると、そもそも何が指導で、何がパワハラに相当するのか、その境目が曖昧なのも事実。

そもそも何をもってパワハラというのでしょうか?

そもそもパワハラとは?

まずは簡単に、パワハラを定義から確認しておきましょう。

パワハラとは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」をいいます。

ちなみに、この定義で言われる「職場内での優位性」には、「職務上の地位」に限らず、人間関係や専門知識、経験などの様々な優位性が含まれます。

つまり、パワハラという言葉は、上司から部下へのいじめ・嫌がらせをさして使われる場合が多いですが、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して行われるものも含まれることになります。

また、「業務の適正範囲」とは、原則として業務上の適正な範囲で行われている場合には、たとえ業務上の必要な指示や注意・指導を不満に感じたりする場合でも、パワーハラスメントとして該当しないということになります。

しかし、先ほどの「うっかり」パワハラの加害者のように、業務の適正範囲だった「つもり」が、結果的にパワハラになってしまうケースもあるので難しいところです。

そこで、もう少し具体的に、パワハラの事例を見てみましょう。

パワハラの6類型

パワハラは、以下6種類に分類されています。

1)身体的な攻撃

職務上の地位や知識などの優位的な地位を利用して、蹴ったり、叩いたり、スタッフの体に危害を加える行為は「身体的攻撃」型のパワハラとなります。

2)精神的な攻撃

「やめてしまえ」などの従業員としての地位を脅かす言葉、「おまえは小学生並みだな」「無能」などの侮辱、名誉棄損に当たる言葉、「バカ」「アホ」といったひどい暴言は、何気なく注意することなく、業務の指示の中で言葉として出た場合などは、業務を遂行するのに必要な言葉とは通常考えられません。

このような言葉による精神的な攻撃は、「業務の適正範囲」を超えたパワハラに当たると考えられます。

3)人間関係からの切り離し

簡単に言えば、仲間はずれ、無視など個人を仲間はずれにするパワハラです。

例えば、仕事のやり方を巡ってスタッフと口論してから、業務に必要な指示が与えない、すぐそばにいるのに連絡を他の人を介して行う、話しかけても無視するなどの行為は、職場内の優位な立場を使って行われる「人間関係からの切り離し」型のパワハラになります。

4)過大な要求

業務上明らかに不要なことや、業務遂行不可能なことの強制があった場合、「過大な要求」型のパワハラに当たることがあります。

単に仕事の量が多いというだけではパワハラとは言えませんが、例えば業務上の些細なミスについて見せしめ的・懲罰的な業務を求めたり、明らかに能力、経験を超える無理難題な指示を与えたりして、他のスタッフよりも著しく多い業務量を課したりするなどの場合は、「過大な要求」型のパワハラに当たると考えられます。

5)過小な要求

先ほどの「過大な要求」とは逆に、合理的な理由がないのにもかかわらず、スタッフ本来の能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じること、あるいは仕事を全く与えないことは「過小な要求」型のパワハラになります。

6)個の侵害

「個の侵害」とは、個人のプライバシーを侵害するパワハラを指します。例えば、労働基準法上、有給休暇の取得にあたり、スタッフは休暇の理由を申し出る必要はありません。

しかし、この時上司が「誰と、どこへ、どうして」など執拗にスタッフに問う行為は、「個の侵害」型のパワハラに当たります。

以上が、パワハラの具体的な類型6種となります。

どの類型についても、どのようなことが「業務の適正な範囲」を超えるパワハラなのかは、該当する行為が行われた状況、その行為が継続的であるかどうかによっても、その判断が左右されます。

そのため、職場での認識を統一し、その範囲を就業規則などで明確にすることが大切です。

見逃せないパワハラの職場への影響

パワハラを受けた人は、人格を傷つけられ、仕事への意欲や自信を喪失します。

パワハラは精神的に悪影響を及ぼすだけではなく、特に身体的な暴力を伴う場合には被害者にとってトラウマともなりかねません。

看護職を対象とした調査では、職場内の人間関係の悩みやハラスメントの被害経験は、離職意向に大きく影響するということが分かっています。

また、パワハラの影響は本人だけには限りません。

パワハラの場面を見たり、聞いたりした周囲の人への影響も考えなければなりません。

一緒に働くスタッフにとって、職場環境や対人関係を悪化させる職場でのハラスメントは仕事への意欲低下につながります。

また、患者さんや外部の人がパワハラの場面を見聞きすることは、その病院の評判や信用の低下に影響しかねません。

このように、院内の職場ハラスメントの影響は、医院経営者にとっても大きな「損失」をもたらすと言えます。

では、どのように対策を取ればいいのでしょうか?

パワハラの対応策は?

これほど、パワハラをはじめ、ハラスメントに対する意識が高まりつつあるにもかかわらず、現状では、パワハラなどのハラスメントに対する職場内で組織的な対策を取る医院はまだまだ少ないようです。

パワハラは未然に防ぐことが重要です。

また、実際に起こってしまった場合に早期に対応できる体制を整えておくことがパワハラ対策の基本です。

それでは、このような職場内でのパワハラに対して、経営する医院としてどのような取り組みをしていけばいいのでしょうか?

厚生労働省が2015年に発行した「パワーハラスメント対策導入マニュアル」には、パワハラ対策の基本的な枠組みを構築するために、実施すべき7つの取り組みが示されています。

先ほど見たとおり、パワハラにはさまざまな形がありますが、この7つの取り組みは、組織でのハラスメント対策の基本として参考になるでしょう。

<予防のための取り組み>
1.トップのメッセージ:
組織としてハラスメント対策の方針を明確にし、施設のトップから全職員に対して、ハラスメントは取り組むべき重要課題であるということを発信しましょう。

2.ルールを決める:
労使一体で取り組みを進めるために、労使協定などでルールを明確化、罰則規定などを具体化して、ハラスメント対策マニュアルなどを作成しましょう。

3.実態を把握する:
職場での実態を把握するために、早い段階でアンケート調査を実施して、ハラスメント防止対策を効果的にすすめられるようにしましょう。

4.教育する:
教育のための研修の実施は、予防策の中で効果的です。職員全員が受講できるように定期的に実施し、新卒・中途採用者に対しても入職時の研修に取り入れるなどしましょう。

5.周知する:
組織の方針やルール、相談窓口などについてポスターを掲示したり、パソコン上で職員がすぐに見られるようにしたりするなど、周知を実施しましょう。

<解決のための取り組み>
6.相談や解決の場を提供する:
ハラスメントに関する相談窓口を設置し、相談対応者は守秘義務を負うこと、プライバシーを保護することを明確にしましょう。施設内での設置が難しい場合は、外部の相談窓口の利用を検討しましょう。

7.再発防止のための取り組み:
相談者への迅速な対処や、ハラスメントの早期解決が再発防止につながります。一時的な対応にならないために、解決後も対応策の見直しや改善を継続的に行いましょう。

まとめ

今回は、ハラスメントの中でも、院内で発生しやすい「パワーハラスメント(パワハラ)」について取り上げました。

法律での対応が義務づけられているセクシャルハラスメントとは違って、パワハラは、まだ、そこまでの対応は義務付けられていません。

しかし、2011年に厚労省が「職場のいじめ嫌がらせ問題に関する円卓会議」を立ち上げて、専門家が議論を続けています。

パワハラの対応にも法律が関与してくるのは、早晩時間の問題でしょう。

指導的立場とはいえ、後輩やチームに対して高圧的、攻撃的、感情的態度を続けることは、パワハラで訴えられるリスクを内在することにつながります。

ハラスメントに対する意識が高まっている昨今、無用なトラブルに巻き込まれないためにも、最新のパワハラ事情をまめに収集し、トラブルを上手に回避する具体的な対策については社会保険労務士等の専門家に相談してみるのもいいでしょう。

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