医院・クリニック開業にあたり、開業資金がまずいくら必要になるのかを算出するために事業計画書の作成が必要となります。

金融機関から資金調達するには、作成した事業計画書の提出が求められます。

金融機関は事業計画書を参考にして融資が可能かどうかを判断します。

一方で、事業計画書は医院・クリニックの未来予想図であり、先生が理想の医療を実現するための第一歩です。

資金調達のためというだけでなく、開業後に長期的に利益が医院や先生ご自身の手元に残るように、具体的に計画を立てましょう。

開業時によくある3つの失敗パターン

「せっかく開業したのに毎月の経営が苦しい」
「思ったほど、全然収入が増えない」
「毎月の返済額が大きくて、資金繰りが楽にならず、全然診療に専念できない」

開業した先生からよく聞かれる声です。

なぜこうしたことが起きるのでしょうか?

よくあるパターンを解説しましょう。

1)開業場所の選択ミス

・ライバルとなる医院が周りに多く、うまく差別化もできなかった
・診療科目に合った患者が近隣に少なく、集患に苦労する
・安かったからと路地裏に開業してしまい、周りから発見されにくく、認知されるまでに時間がかかってしまった
・居抜き物件で医院の名前を変えなかったので、前医院長の悪い評判を引き継いでしまった
・不動産業者の「こんな優良物件が手に入るのは今だけですよ」という強引な勧めに乗ってしまった

このように、開業場所の選択ミスにより、しなくても良い苦労を背負い込んでしまうことになります。

2)先生・スタッフの数が多すぎる

・大病院で勤務していた経験しかなく、医大病院と同じくらい、たくさんのスタッフを雇ってしまった
・仕事量に比べて多すぎる先生やスタッフを雇ってしまった。

先生やスタッフの数が多すぎることで、人件費(固定費)が増大し、経営を圧迫します。

また、仕事が少ないことで士気が下がり、やる気をなくすことにもなりかねません。

3)設備にお金をかけすぎる

・高額な医療機器を買いすぎた
・診察室や待合室の内装を必要以上に豪華にしすぎた

自分が勤めていた大学病院には色々な治療機器や検査機器があるからと、最初から多くの設備を整え、内装にお金をかけてしまうと、初期資金が多く必要になります。

その結果、借入金の返済期間が延び、利息も多く支払うことになってしまいます。

「医院・クリニックを開業する!」と決意して、必要以上にテンションが上がってしまい、大切なことを勢いで決めてしまう。

その結果、失敗につながりやすいのです。

事業計画書はなぜ必要なのか

合理的な判断ができるよう、事前に綿密な計画を立て、個人的な願望や周囲の根拠のない意見に流されないようにしましょう。

そのためにも、開業前に綿密な「事業計画書」を作成しておくことが重要なのです。

まずは事業計画書の必要性についてお話します。

1)資金ショートを起こさず、余裕を持った経営を行うため

経営のための運転資金が足りなくなることを「資金ショート」と言います。

資金ショートが起き、お金が足りない状態が続くと、経営が続けられず、医院を廃業せざるを得なくなるでしょう。

事業計画書を開業前に作っておくのは、この「資金ショート」を避けるためなのです。

経営者として資金ショートを起こさないよう、設備資金や運転資金を見積もっておきましょう。

そのために、開業場所やスタッフの採用計画、設備投資計画なども事前に検討しておくのです。

「近くに同じ診療科目の医院やクリニックが開業しても大丈夫か」
「医療設備を買い替える際に、想定外の支出はないか」
「思ったように患者の数が伸びなくても、何とかやっていけるか」

事業計画を作成する際には、甘い見通しではなく、できるだけ厳しい条件を設定しておくのが基本となります。

2)開業資金の融資を受けるため

開業資金をすべて自前で賄える場合は良いのですが、通常は金融機関などからの融資によって資金調達することを検討すると思います。

融資を受ける場合には、事業計画書を金融機関などに提出し、経営計画を説明する必要があるでしょう。

その際、いかに現実的な収支計画、資金の返済計画を作成しているかが重要です。

一方で、保守的な計画だけではなく、「地域にとっての医院の必要性」「経営者の自信」「医院の存続、そして成長の夢」を語れるかも非常に大切なのです。

慎重さと自信のバランスが取れ、融資した金額をしっかり回収できると判断される事業計画書を作成しましょう。

3)開業後の検証材料にするため

事業計画書は、あくまで開業前の試算であるため、実際の経営実績とは必ず乖離するものです。

想定していた計画と、実際の経営実績とどの程度の差異が出たのか、原因はどこにあったのかを検討していくことで、経営改善のヒントになることもあります。

さらに、事業計画書の中の数字は、複数パターン作成しておくことが必要です。

例えば、

・患者数(集患数)について、最低の伸びの場合、想定どおりの伸びの場合、期待以上の最高の伸びの場合、といったパターン
・オペ室の有無
・医院・クリニックの坪数が広い場合、狭い場合

など、診療科目や地域の特性を検討しながら、現実的にありそうなパターンを作成しておきましょう。

資金計画で成功する医院と失敗する医院

具体的な事業計画書作成のステップの説明の前に、まずは資金計画の基本的な考え方についてお話します。

というのも、資金繰りがうまくいかない先生は共通して,資金計画について間違った考え方をして、利益が残らないためです。

そのため、最初は資金計画で成功する考え方と失敗する考え方についてお伝えします。

ほとんどの院長先生が勘違いしている資金計画で失敗する考え方

上図は、個人開業医の先生の一般的な資金計画の考え方を図示したものです。

ほとんどの先生は上の図の矢印のように、まずは保険診療と自由診療を合わせた医業収入(売上)を予測し、人件費や各種経費、税金や借入金の返済を引いた残りを院長先生の生活費と考えます。

資金計画としては、一見すると真っ当なように思いますが、これではなかなか手元に生活費が残りません。

なぜかというと、「お金の貯め方」の話をすると、よく出てくる「パーキンソンの法則」というものがあります。

これは「支出の額は,収入の額に達するまで膨張する」という意味で、要は「ついついお金を使ってしまう」ということです。

資金計画で成功する考え方

上図は、成功する資金計画の考え方を持っている先生の例です。前者の図と何が違うかというと、矢印の向きだけです。他は何も変わっていません。

では前者と何が違うかというと、まずは生活費をいくら確保するか、ということを決め、逆算して収入や支出を考えているのです。

将来のために、生活費や貯蓄をこれくらい用意したい。

そのためには医業収入はこれくらいでなくてはならない。収入がこれくらいであれば、支出はこれだけに抑えないといけない。

このような逆算思考で、ようやく医業収入や支出の目標額などが明確になるのです。

事業計画書作成5つのステップ

それでは、以上を踏まえて事業計画書作成の5つのステップについてご説明します。

上記の資金計画の図では、まずは先生の手元に残る生活費を考えます。

税引き後の利益に,医療機器や人材採用などへの投資や借入金の返済,院内に貯蓄する額を差し引いて,ようやく院長先生に手元にお金が残ります。

赤字になれば,院長先生にはお金が残らず貯蓄を切り崩すことになり,赤字が続けば資金ショートします。

そのようなことがないように,最初に手元に残しておくべきお金を決めておくのです。

その後、月々の借入金の返済額や後述する運転資金(支出)を考え、手元にお金を残すために必要な医業収入を考えるというステップになります。

そのため、事業計画書の作成は、次のステップで考えていきます。

ステップ1 初期投資(開業資金)の見積り

初期投資額、つまり開業資金の見積もりを行い、必要額を融資してもらう必要があります。

1)物件の決定

物件の種類としては、テナント、集合医療施設テナント、自己所有の3つのケースがあります。

1つのポイントとして、オペ室を作るかどうかが大きい要素です。

オペ室を作るとなるとスペースもその分必要になります。

オペ室ありとなしの2パターンを作成し、手術件数に確信が持てるようなら、オペ室を持つことを検討しても良いでしょう。

2)その他の支出の計算

・物件の不動産コスト(仲介手数料、契約金や保証金・礼金など)
・医療機器代金
・内装工事代金
・広告宣伝費
・医師会/歯科医師会入会金額
・コンサルティング費用 など

こうした計算は経験がないとどのようにして良いか分からないことも多いと思います。

相見積りを取るとか、可能ならば先に開業した同じ診療科目の先輩に相談・確認するなどして、大まかな相場を掴むようにしてください。

なお、開業してまもなくは、広告の費用対効果が高まります。

ここで広告予算を下げすぎてしまうのは患者の伸びを抑制してしまうことにもなります。

一方で、無駄な広告費をかけても思うように集患効果は望めないので、意外と慎重な検討が必要です。

ステップ2 支出の見積り

毎月の支出としては、固定費と変動費があります。

経営のコツは、何もしなくても出ていく固定費をなるべく必要最低額に抑え、小さく抑えることです。

1)固定費

・人件費
最も固定費で大きいのは、人件費(ご自分、他の先生やスタッフの人件費)になるでしょう。医業収入の20~25%ほどかかると言われています。

目指す診療コンセプトや予想患者数によって職種別・正職員・パート職員の人数を決めてください。

さらに常勤や非常勤の割合、法定福利費(社会保険料、厚生年金、雇用保険料)を考慮して計算しましょう。

個人別の給与額や時給額は、新聞チラシや求人誌などを参考に決めるとよいでしょう。

なお開業後3ヶ月以内に当初のスタッフが入れ替わることも非常に多く、それに伴う求人広告費などのコスト増加を考慮しておくことも必要です。

・賃借料(家賃)、リース料など
上図の資金計画表の、人件費の下の「経費」にあたる部分の一部ですが、大きな割合を占めます。

設備投資計画から予想される家賃やリース料を見積ります。

また、借入金条件から毎月の支払利息を算出します。

・水道光熱費、消耗品費、通信費、衛生費、広告宣伝費、旅費交通費、医師会費、医療機器や電子カルテの保守料などの経費
これも、上図の資金計画表の「経費」にあたる部分です。

こうした経費は、開業規模によって異なってくるのですが、概ね月額30~50万円程度を目安に予想してください。

ネット広告や駅看板、電話帳など積極的な広告宣伝を行う予定であればその分も加算する必要があります。

2)変動費

・薬品費、診療材料費、検査外注費など
変動費は、売上に伴って変動して必要になる金額です。医院・クリニックで言えば、薬品費、診療材料費、検査外注費などです。

これらは診療科目や院外処方にするかどうかで大きく変わってきます。

計算方法としては、診療収入に対する比率を用いて金額を予測することができます。

独立行政法人 福祉医療機構(http://www.wam.go.jp/)が出している、医療法人の経営分析参考指標などを参考にする良いでしょう。

ステップ3 医業収入の見積り

先生が手元に残したいお金、開業費用に伴う月々の返済額、開業後の運転資金をもとに、必要な医業収入を見積もります。

これで、必要な医業収入に達する見込みがなければ、ステップ1~2を検討し直す必要があります。

診療収入を計算するためには、次の3つの数字を見積りましょう。

1)1日の患者数
2)診療単価:患者一人当たりの平均単価
3)診療日数

年間の診療報酬は、
1)1日の患者数 × 2)診療単価 × 年間の診療日数 で計算できます。

1)1日の患者数

診療科目を考慮しながら、診療圏調査などを参考に、まずは1ヶ月あたりの来院患者数を算出してみましょう。

前項目でお話したように、患者数(集患数)について、最低の伸びの場合、想定どおりの伸びの場合、期待以上の最高の伸びの場合、といったパターンを作成しておくことも必要です。

2)診療単価:患者一人当たりの平均単価

保険診療収入と自由診療収入の2つがあります。

診療方針や診療科目による差異を考慮しながら、患者一人あたりの診療報酬点数を元に計算してみましょう。

3)診療日数

休診日、お盆や年末年始の休みを考慮し、どれくらいの日数を診察に割り当てられるか、検討してください。

学会や医師会などの会合への参加、先生やスタッフに与える休みなどを検討していくと、意外と診療日数が少なくなってしまうこともありますので、注意が必要です。

ステップ4 資金繰り表の作成

今までの収益シミュレーションを元に、

①開業時に用意できる運転資金
②毎月の診療収入
③毎月の支出
④月末の運転資金残高

を記載した「資金繰り表」を3~5年分、作成しましょう。

資金繰り表を作っておくことで、資金ショートにならないよう、毎月の経営を行う指標となります。

一度資金ショートを起こしてしまうと、慌てて金融機関に追加融資を打診することになると思います。

しかし追加融資の場合は審査が厳しく、条件は当初より悪くなる(金利が高くなる)傾向があるのです。

だからこそ、運転資金を十分に用意し毎月の資金繰りをしっかりと行います。

逆に余剰資金が多ければ、借入金の繰り上げ返済(=支払利息の圧縮)も目指せるのです。

さらに、毎月の可処分所得、つまりあなた自身の収入も計算できるようになるため、求める生活レベルにいつ頃達するのかが分かります。

住宅ローンや子供の教育費などを考慮し、欲しい収入(生活費)を決定しましょう。

ただし、開業後の数ヶ月間はどうしても患者数が伸びず、赤字が続くことになりがちです。

赤字の時期を無収入で乗り切るわけにはいきませんから、①の開業時に用意できる運転資金をしっかり用意しておきましょう。

なるべく余裕を持たせ、できれば1,000~1,500万円程度は用意が欲しいところです。

ステップ5 開業日までのスケジュールの作成

開業日からの逆算で、スケジュールを作成してみてください。

例えば、物件に関しては

・開業日の1ヶ月前には保健所の検査日
・検査日の1ヶ月前には内装工事の完成日
・工事期間を半年として工事開始日

先生やスタッフの雇用については

・先生やスタッフの教育期間
・スタッフの雇用契約締結、採用
・募集期間、求人広告作成期間

他にもホームページ制作やセキュリティの設置など、細かいスケジュールを引いていく必要があるでしょう。

そう考えていくと、開業を思い立ってから、開業までの準備期間としては、2年程度を想定しておくのがベターだと思われます。

2年の準備期間があれば、

・現在勤務している病院を止めるのに退職をスムーズにでき、独立後も医局との関係を良好に保てる
・物件探しやスタッフの雇用も、余裕を持って行える
・医療機器も慎重に選べる
・資金調達や資金をためるためにも時間を使える

というメリットがあるからです。

開業を急ぎすぎて、失敗しないように気を付けてください。

【まとめ】事業計画書作成時の注意点

まとめとして、事業計画書の作成時に特に注意すべき点として、次の3点にご留意ください。

1)収入をシビアに見積ること

・1日の患者数
・診療単価
・診療日数

これらについては決して楽観的にならず、現実的な見積りを行ってください。

2)過大投資に気を付けること

見積もった負債や経費は、ほとんどの場合そのまま現実となります。

一方で、収入や利益は期待値通りに行くことがほとんどありません。

それが経営の厳しさです。

したがって、資金ショートを避けるためにも初期投資はなるべく抑える方が賢明です。

3)計画で出てきた収益が想定と異なる場合、計画の見直しや開業の延期も検討すること

計画の実現性を客観的に検討してみてください。

必要資金を計算してみると、50坪程度で開業しようと考えていても、実際は30坪程度が精いっぱい、ということもあります。

その場合、診療科目を見直すことや、一旦開業を延期して、勤務医として開業資金を貯めることも視野に入れるべきでしょう。

なお、拙著「開業医の教科書Q&A」では、事業計画書の具体的な作り方を細かく解説し、テンプレートもダウンロードできるようになっています。

開業を検討中の先生は、ぜひ本書を基に事業計画書を作成し、自信を持った開業準備を行っていってください。

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プロフィール
笠浪 真

税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

                       

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