はじめに

厚生労働省の「看護師のセカンドキャリアにおける活躍を図るための職場環境整備の好事例集」では、次のような医療法人の事例が紹介されています。

「昭和43年の発足当時から定年制を設けずに運営しており、高齢スタッフが、後進の指導や日常業務を通じて年齢に関わりなく役割意識を持てるようにするとともに、職場の先輩として役割を果たせるような職場風土を育てることを通じて、その高い能力を多方面に発揮してもらうことができています」

この医療法人は昭和43(1968)年から定年制を設けずに運営しているとのことですが、医院・クリニックでも高齢者の高齢者促進が進んでいます。

採用難に悩む医院・クリニックにとって、知識と経験が熟練した高齢者の継続雇用は、多くのメリットがある一方で、問題点もあります。

そこで、今回は定年廃止や継続雇用のメリットやデメリットについてお伝えします。

高年齢者雇用安定法の概要

最初に、高齢者の雇用促進を図る目的で制定された高年齢者雇用安定法の概要についてお伝えします。

スタッフが希望すれば65歳まで雇用し続けること

現在、高年齢者雇用安定法第9条によって、65歳未満の定年を定めている事業主に対して、次のように定められています。

第九条 定年(六十五歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。
一 当該定年の引上げ
二 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
三 当該定年の定めの廃止

つまり、定年の引上げ(延長)、継続雇用制度、定年廃止のいずれかにより、希望する人に対して65歳まで従業員を雇用し続けなければいけません。

高年齢者雇用確保措置を講じない場合と経過措置

上記のいずれかの措置が講じられていない場合には、厚生労働大臣による指導、助言、勧告、企業名の公表がされることもあり得ます。

(公表等)
第十条 厚生労働大臣は、前条第一項の規定に違反している事業主に対し、必要な指導及び助言をすることができる。
2 厚生労働大臣は、前項の規定による指導又は助言をした場合において、その事業主がなお前条第一項の規定に違反していると認めるときは、当該事業主に対し、高年齢者雇用確保措置を講ずべきことを勧告することができる。
3 厚生労働大臣は、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる

ただし、継続雇用制度については、下図のように厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢に到達した以降の者を対象に、基準を引き続き利用できる12年間の経過措置が設けられます。


※厚生労働省「高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)」より抜粋

65歳⇒70歳までの雇用を義務付ける動き

なお、この高年齢者雇用安定法ですが、現在65歳まで雇用を義務付けている現行法を、70歳まで引き上げる動きが出ています。

すでに2019年に厚生労働省の審議会で具体的な議論がされ、改正法案が2020年1月の通常国会で提出されます。

早ければ2021年4月から実施される見通しです。

このように、高齢者の雇用促進の動きは今後さらに加速していくことになります。

医院・クリニックの高齢者の継続雇用のメリット

法律的にも、高齢者の雇用促進の流れは高まっていますが、一方で高齢者の継続雇用のニーズも加速度的に高まっています。

医院・クリニックで高齢スタッフに働き続けてもらうメリットについて解説します。

労働力不足の緩和

医療業界全体が人材採用難に悩む時代、高齢スタッフがクリニックを辞めずに働き続けるのは、人材確保の点で非常に貴重です。

実際に過疎地域で、人材確保に悩むクリニックが、シニア採用を行うことによって、人材不足の解消に成功したケースがあります。

また、子育て中、もしくは両親を介護しているスタッフは、働くことができる時間帯が限られています。

これを高齢スタッフが補うようにする就業形態を確立し、労務の改善に繋がったケースもあります。

熟練した経験とスキル

長年、看護師、医療事務として働いてきた高齢スタッフは、知識と経験が熟練しています。

そのため、長年の就業経験から多くのケーススタディにも対応できるため、患者さんにとって安心感があり、非常に頼りになるでしょう。

これまでの経験とスキルを活かして、患者の情報収集や担当診療科への誘導、診療・検査・処方等の専門的事項の説明を行うようなケースもあります。

このように、高齢スタッフのスキルやノウハウを活用して、円滑なクリニック経営に繋げることも可能になります。

後進の育成

また、医院・クリニックでも、継続雇用している高齢スタッフに対して後進の育成に従事してもらうなど、経験を生かした活躍ができます。

経験が浅い若手スタッフにとっては、様々な知見を吸収できる場となり、良き見本となり、若手スタッフの成長に繋がります。

結果として、円滑なクリニック経営に繋がるでしょう。

高齢患者が勇気づけられる

高齢患者が多く通う医院・クリニック、介護医療施設では、高齢スタッフがイキイキと働く姿を見て、勇気付けられる患者さんも多いでしょう。

実例を紹介すると、とある介護医療施設では80代の介護職員が元気に働いています。

施設の入居者よりも年上の人が健康的な姿を見せているわけです。プラスの意味で大いに刺激を与えているのは言うまでもありません。

助成金の申請が可能

高齢者の継続雇用やシニア採用の大きなメリットの1つとして、助成金の申請ができることがあります。

詳しくは以下のシニア採用の記事で詳しく書いていますので、併せてご覧ください。

【関連記事】【看護師等の65歳以上の求人】クリニックのシニア採用の好事例と助成金活用

医院・クリニックの高齢者の継続雇用のデメリット

このように、高齢者の継続雇用についてはメリットがあり、採用難の時代には注目すべきことではあります。

一方で、高齢者の継続雇用には、次のようなデメリットや問題点があり、それらをカバーして、高齢者が元気に働ける仕組みづくりが欠かせません。

フットワークが重くなる

若い人が入職しなければ、院長先生と一緒にスタッフの高齢化が進みます。

スタッフの高齢化が進むと、全体的にフットワークが重くなってしまい、結果的に院内のモチベーションが低くなる懸念があります。

高齢者の雇用を促進するとともに、若手スタッフの採用も並行して行うようにしましょう。

その方が、高齢スタッフとしては後進の育成という立場で活躍できますし、各々が刺激し合うことが可能になります。

人材の配置に気を遣う必要がある

若手スタッフと高齢のベテランスタッフをバランスよく採用することは重要です。

しかし、若手スタッフの中に高齢スタッフがぽつんと配置されても、人間関係に馴染めず、本来の力を発揮してもらえない懸念があります。

先に書いたように、高齢スタッフが経験やノウハウを発揮できるポジションを用意するなど、高齢スタッフの立場を確立できる仕組みも必要でしょう。

健康の不安がある

どうしても高齢者となると、若手スタッフより健康面に配慮しなければいけません。

そのため、フルタイムの雇用だけでなく、様々な勤務形態を用意して、柔軟に対応するようにしましょう。

また、先に紹介した介護職員のように、元気にイキイキと働けるよう、食事や運動の管理について組織的に取り組むことも検討の余地があります。

有期雇用の無期転換制度は定年後の再雇用も該当するか?


※厚生労働省「有期契約労働者の無期転換ポータルサイト」より抜粋

平成25(2013)年4月1日施行の改正労働法により、上図のように有期労働契約が通算5年を越えた労働者から希望があれば、無期労働契約に切り替えないといけません。

これを無期転換制度と言って、助成金の申請対象にもなります。

無期転換制度は、有期雇用契約となっている若年層に配慮して生まれた制度です。

では、定年退職後の継続雇用者が無期雇用を求めた場合はどうなるでしょうか?

定年後に有期雇用契約として雇用を延長し続けると、5年後には無期雇用契約に再度戻す必要があると考えられます。

この点については、就業規則などで第二定年を設定するなどが必要と言われています。

第二定年とは2つ目の定年のことで、第一定年を65歳とした場合、その後に作られるもう1つの定年が70歳といった具合です。

第二定年を設定しなければ、いつまでも働き続けることができることになってしまいます。

なお、第二定年は無期雇用になったパートやアルバイトなどの契約スタッフに対して定年の年齢を定めるものです。

フルタイムの正職員を対象とした継続雇用とは根本的に違った制度になります。

高齢の契約スタッフが在籍している医院・クリニックは注意しておく必要があるでしょう。

【まとめ】高齢者がイキイキと元気に働ける仕組み作りを

以上、医院・クリニックの高齢者の継続雇用や定年廃止、延長のメリットやデメリットについてお伝えしました。

高年齢者雇用安定法の遵守というのもありますが、人材確保の観点でも、高齢者の継続雇用や定年延長については、積極的に検討する必要があるでしょう。

高齢スタッフの存在が労務の改善を促し、円滑なクリニック経営に繋がった例もあります。

高齢者がイキイキと元気に働けるような仕組みを作り、若手スタッフのスキルアップやモチベーションアップも図れるような体制を整えましょう。

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