開業医の成功例と失敗例は数多くありますが、診療科目によって事例の特徴が少し違ってきます。

今回は小児科開業の事例についてお話しますが、小児科の成功・失敗事例にも特徴があります。

特に小児科の開業医の先生は、ある層を敵に回してしまうと、集患に大きな影響を与えます。

もしかしたら、本記事の事例のように取り返しのつかないことになるかもしれません。

小児科での開業を検討されている先生は、必ず最後までご覧になっていただきたいと思います。

【小児科開業失敗事例①】最高の立地条件で自己破産した小児科のクリニック

小児科開業の成功ポイントを語るには、まずは小児科開業の失敗事例をいくつか紹介した方が早いでしょう。

ということで、まずは廃業もしくは倒産に追い込まれた小児科の事例を紹介します。

開業時は順調なスタート

まずは、東京郊外で開業した小児科の院長のA先生の事例です。

このA先生は近くの病院で長く勤務医として働いていました。

しかし激務続きで疲弊し、自分のやりたい診療を自分のペースでやりたいということで開業することにしました。

そこで開業コンサルタントに事前準備や手続き、物件探し、資金調達、人員確保、医療機器の手配といったことをお願いしました。

その開業コンサルタントの良かったところは、とても良い物件を選んでくれたことでした。

最寄り駅から徒歩2分という好立地で、しかもわかりやすい場所で、絶対に道に迷うようなことはないような好立地でした。

その代わり開業資金はやや高めでしたが、その甲斐があって、開業当初は患者さんが来てくれました。

スタートとしてはかなり順調で、この小児科クリニックは成功するかに見えました。

その後患者数が激減して広告費を増やしても効果なし

しかし、その後、どういうわけか患者の数が減っていったのです。

その影響で赤字が続くようになり、人件費や開業資金の返済でキャッシュフローが圧迫されていきました。

A先生は「なぜだ!最初はあんなに順調だったのに!」と焦り、開業コンサルタントに相談します。

開業コンサルタントは次のように答えます。

「広告出しましょう。インターネットで広告出したり、チラシを撒いたりしましょう。看板も立ててください」

しかし、この読みは完全に外れていました。

原因は他のところにあったのですが、開業コンサルタントは小児科クリニックの実態まで把握していないので見抜けませんでした。

そのため、集患に困ったら「広告出しましょう」という短絡的なアドバイスしかできません。

結果として、莫大な広告費を無駄にしただけで、小児科クリニックは経営がますます苦しくなりました。

患者数が激減した本当の原因

では、いったい何が悪かったか。それはクリニック内の雰囲気を見れば一目瞭然でした。

A先生は、よくスタッフにイライラして怒鳴り散らす人でした。

「なんでこんなこともできないんだ!」

「何度言ったらわかるんだ!」

がA先生の口癖になっていました。

しかも後からA先生が慰めるようなこともしません。A先生はただ感情的に怒っているだけです。

だから、小児科のクリニックなのに、院内の雰囲気はどこか暗く、看護師を含めたスタッフ全員覇気がありません。

スタッフ間で会話もほとんどありませんし、子供に対しても無愛想です。

院長先生が毎日ピリピリしているので、子供に対してまともな対応をする気力がないのです。

スタッフは笑顔を見せずに、対応も雑です。患者である子供やお母さんはどこか不満な顔をしています。

これを見たA先生は、「こんなだから患者が来ないじゃないか!」とますますイライラを募らせていきます。

A先生はイライラを我慢できず、患者である子供と母親のいる待合室で怒りを爆発させてしまいました。

これを見た子供、そしてお母さんはどのような気持ちになるか、言うまでもありません。

「ここにはもう、2度と来ない」と他の小児科に通うことになるでしょう。

A先生の診療圏内には、小児科クリニックが他にもありました。

口コミで悪評が広がり、ますます患者さんが減る

ターゲットが小さな子供を持つお母さんである小児科にとって、お母さんの評判を落としたり、敵に回したりすることは致命的です。

お母さんは、何と言っても口コミで周りのお母さんにも噂を広めてくれます。

良い噂も、悪い噂も。

小児科クリニックは、お母さんの口コミを通して、あっという間に悪い噂が広まってしまいました。

患者さんもスタッフも失い自己破産

失ったのは患者さんばかりではありません。

スタッフに対して、極度のストレスを与え続けたA先生。

毎日のように、しかも患者の目の前で怒鳴り散らして、働き続けたいわけがありません。

あっという間に看護師を含めてオープニングスタッフは全員が退職しました。

患者さんもスタッフもいなくなったA先生は、借入金を返しきれずに廃業、そのまま自己破産しました。

【小児科開業失敗事例②】キッズスペースが逆効果に

もうひとつの小児科の開業失敗事例を紹介します。

とある大学病院で小児科に勤務していた女医のB先生。

もともとB先生は子供が大好きなので、小児科医は性に合っていました。

子供の笑顔が大好きなB先生は、

「いつか自分の手で、もっと子供もお母さんも喜ぶような病院を開業したい」

という夢を叶えるべく、小児科のクリニックを開業することにしました。

B先生も開業直後の集患は順調だったが……

このB先生の理念に共感した開業コンサルタントは、

「ぜひクリニック内でキッズスペースを入れたらどうか」と提案します。

小児科といえば、キッズスペースを設置するかどうかは、開業時の悩みどころになります。

ただお母さんと子供の笑顔が見られるクリニックにしたいと思っていたB先生にとって、キッズスペースを設置しない理由はありませんでした。

しかし、これがB先生の運命を大きく狂わせてしまいます……。

クリニック開業後、当初はたくさんの患者さんが来てくれました。

小児科に来るのは子供とお母さんさんです。

女医で、しかも子供好きのB先生に対する安心感もあって、B先生の小児科クリニックの評判は上々。

B先生は、先のA先生と違って朗らかな性格で、スタッフと看護師との人間関係も比較的良好でした。

患者減、さらにストレスを抱えるスタッフ

ただ、B先生の温和な人柄とは裏腹に、スタッフや看護師のストレスはかなり溜まっているようでした。

決してクリニック内の雰囲気は明るいとは言えません。

しかもなぜか、患者さんの数が徐々に減っていってしまいます。

最初は順調かと思えたクリニック経営ですが、売上はどんどん失速していきました。

キッズスペースが悪い口コミを呼び、経営はますます悪化

悪化の原因は、B先生が思いを込めて設置したキッズスペースでした。

キッズスペースで遊んで騒いだり、ケンカして泣きわめいたりする子供で1日中うるさいのです。

スタッフが患者さんを呼ぶ声が聞こえないほどです。

だからお母さんからクレームも発生するようになりました。

スタッフがストレスを抱えていたのは、ギャン泣きする子供の対応や、お母さんからのクレーム対応だったのです。

次第にキッズスペースに対して、お母さんだけでなくスタッフや看護師からも不満が上がってきます。

キッズスペースを撤去して予約システムを導入して売上が回復

子供の遊ぶ姿が好きなB先生は、当初キッズスペースをなくそうとは考えませんでした。

しかし、経営悪化が深刻化し、このままでは廃業しかねない状況と気付き、B先生は泣く泣くキッズスペースを撤去しました。

このままでは、A先生の小児科クリニックのように悪い噂が広がり続けてしまいます。

B先生の小児科クリニックは、キッズスペースを撤去してから、お母さんの信頼を取り戻し、スタッフも勤務中のストレスがなくなりました。

さらにB先生は、キッズスペース撤去と同時に、予約システムの導入で待ち時間を短縮する仕組みを作りました。

お母さんと子供がスムーズに診療できるようになったので、温和なB先生の人柄もあり、今では評判の良い小児科クリニックとなっています。

売上も徐々に回復し、A先生のように廃業、自己破産へと向かうことは防ぐことができました。

小児科の運命を左右するお母さんの口コミ

2つの小児科のクリニックの失敗事例を紹介しましたが、小児科クリニックは、お母さんの口コミが思った以上に影響します。

ママ友などのコミュニティを想像すればわかりますが、お母さんの口コミの影響力は、男性には想像つかないほど大きいです。

お母さんは、日頃から周りのお母さんとコミュニケーションを多くとっています。

ですから、良い噂も悪い噂もあっという間に広がります。

そして、良い噂よりは悪い噂のほうが広がりやすいものです。

お母さんに「2度とこの小児科に来ない」と思われたら最後、悪評はどんどん広まってしまいます。

小児科の成功の秘訣は、お母さんの信頼を勝ち取ることといっても過言ではありません。

小さなお子さんの目の前でスタッフを怒鳴るなんて問題外です。

お母さんを不快にさせたら、あっという間に患者さんは遠のいてしまいます。

小児科にキッズスペースは必要か? コロナ禍以降の対策

先ほどのB先生の事例のように、小児科や、小さな子供をターゲットにした歯科医院にとって、キッズスペースの設置は悩みどころです。

子供が喜ぶ雰囲気作りとしてキッズスペースは有効ですし、実際にキッズスペースの有無で小児科を選ぶお母さんもいるでしょう。

しかし、キッズスペースには先に書いたように子供が騒いでうるさくなるデメリットもあります。

実際に、最近の小児科の開業では、キッズスペースを設けることは少なくなっています。

特にコロナ禍以降は、その傾向が強くなっています。

子供同士がケンカしてケガをしたり、院内感染を防止したりするためです。

特にお母さんは、こういったことを最も心配しますし、コロナ禍以降は特に気にするお母さんが増えていても自然なことです。

実際にコロナ禍の医院経営で特に打撃を受けたのは、小児科と耳鼻咽喉科という統計データがあります(経済産業省「コロナ禍の影響を大きく受けた医療業;回復の動きにも差あり」より)。

地域やクリニックのコンセプトにもよりますが、キッズスペースよりは、院内感染予防のために隔離室の設置をした方が合理的な場合があります。

また、キッズスペースを設けなければ、その分必要スペースは少なくなり、開業コストやランニングコストは安くなります。

最近では、キッズスペースの設置より、インターネットの順番待ち予約システムの導入など、待ち時間の短縮に力を入れている小児科が多いです。

必ずしもキッズスペースがNGではありませんが、予約システムの導入や隔離室の設置と併せて慎重に検討するのがいいでしょう。

【まとめ】お母さんが信頼できる小児科クリニックを作る

小児科は、お母さんの満足度が、成功か失敗かを大きく左右します。

小さなお子さんを持つお母さんの価値観は、自分よりも子供に向いていることの方が多いです。

ですから、お母さんが持っている子供に対する心配や不安について、しっかりと対応していく姿勢が必要です。

また、お母さんは感性で判断される方も多いです。

小児科医の先生の腕は当然重要ですが、クリニック内の雰囲気作りもお母さんの評判を大きく左右します。

お母さんの口コミの影響力はとても大きいので、お母さんとの信頼関係の構築が小児科成功の秘訣といっても過言ではありません。

以下の記事も合わせてご覧ください。

【関連記事】小児科の開業医・勤務医の年収は? 開業の必要資金、物件選びや集患対策のポイントも詳しく解説

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プロフィール
笠浪 真

税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

                       

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