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はじめに
「節税したい。払う税金はなるべく少なくしたい」
「スタッフや患者から訴えられる医院が増えているって聞いているけど、何をどうすれば…」
「スタッフや先生たちの労務規定ってどうやって作ればいいの?」
「不動産登記ってなんだか大変そう」
「生命保険、入っておいた方がいいのかな?」
医院を経営するとなると、診療やスタッフ教育にだけ集中するわけにはいきません。
税務や訴訟対策、労務など、様々な対応・対策が必要になります。
診療をこなしながらこれらすべての業務を院長が一人で請け負うのは極めて困難でしょう。
そうした業務に精通した税理士や弁護士、社会保険労務士などの専門家の力をうまく借りることをお勧めします。
ここでは医院開業の際に「専門家チーム」を作り、対応していく際に、留意すべき点を見ていきます。
専門家を利用するメリットとは?
専門家に助けてもらうメリットは非常に大きく、次のようなことが挙げられます。
1)それぞれの分野のトラブルを避けられる
2)それぞれの立場からの専門的アドバイスがもらえる
3)院長が自分の仕事に集中できる
4)結局、一番安い
それぞれを簡単にご説明しましょう。
1)それぞれの分野のトラブルを避けられる
税務対応や税務署対応(税務調査対応)、スタッフや患者からの訴訟対策、労務対策、など院長が考えておくべきことは多岐に亘ります。
どれか1つでも対応を誤ると、追徴課税(追加での税品支払)や訴訟での賠償金支払いなど、経営に大きな影響を与えかねないものばかり。
そうしたトラブルを未然に防げるよう、事前に専門家に相談し、手を打っておきましょう。そうしておけばもし実際にトラブルが発生したとしても、被害を最小限に食い止めることができるでしょう。
2)それぞれの立場からの専門的アドバイスがもらえる
節税対策や事前の法律上の届出、労務規定の作成など、医院経営上、専門知識が必要なことはたくさんあります。
その都度、アドバイスや作業を代行してくれる専門家を探すのでは非効率になりますので、「是非この人に相談したい」「この人にやってほしい」という専門家を見つけておきましょう。
何でも相談し、特にトラブルの際に親身になって対応をしてくれる方を確保しておけば、安心して本来の業務に取り組むことができるのです。
3)院長が自分の仕事に集中できる
専門業務に対する事前対策や、もし何か起きてしまった場合のトラブル処理を任せられる専門家がいれば、院長は安心して経営や医療の仕事に集中することができます。
院長が専門分野以外の業務(税務、労務、保険など)から解放されることで、ストレスも減少します。
それが医院経営の安定につながり、ひいてはスタッフや患者さんのためにもなることでしょう。
4)結局、一番安い
腕のいい専門家でチームを作ると、一見お金がかかってしまうように見えてしまうかもしれません。
しかし、事前対策が不十分でトラブルが起きてしまったり、そのトラブルが長引いたりすると、時間的にも費用的にも大きな損失を出してしまうことになりがちです。
それを未然に防げるのであれば、専門家と契約して適切な助力をもらうことは、「非常に良い投資」となるのです。
結局は最も安い買い物になることでしょう。
専門家選びの方法とは?
開業を手伝ってくれる専門家は次の基準で選ぶと良いでしょう。
1)開業に関わった実績があること
2)面談に応じてくれること
3)ある程度時間の融通が利くこと、時間にきっちりしていること
4)開業後のフォローもしてくれること
それぞれの方法の留意点等を解説します。
1)開業に関わった実績があること
メニューに開業支援をうたいながら、実は実績のほとんどない専門家も存在します。
そうした人にお願いしてしまうと、
・不適切なアドバイスからトラブルが起きる
・手戻りが発生し、対応に時間が取られる
・他のスタッフや患者さんに迷惑をかける
・結局高くつく
など、メリットがないばかりかデメリットばかり、という結果になってしまいます。
「これまで他に何件くらい、開業のお手伝いをされた実績がありますか?」とはっきり確認するようにしてください。
できれば知り合いの先生等に聞いてみて、「彼に任せたら本当に良くやってくれた」というような声がある方を選ぶのが良いでしょう。
2)面談に応じてくれること
開業のサポートを依頼すると、無事に開業するまで、もしくは開業後もずっと付き合いが続くことが想定されます。
ですから、サイトだけで良し悪しは判断はせず、必ず面談を行いましょう。
信頼がある方を紹介してもらうのも非常に良い方法です。
面談では2-3時間、納得いくまで話を聞き、またこちらからも開業に関する思いや、どんな医院を作り上げていきたいかを話しましょう。
比較のため、できればそれぞれの専門家、2-3人と会って面談してみることをお勧めします。その中で最も有能で気が合いそうな方に開業を手伝ってもらえばいいのです。
複数の専門家とそれぞれ最低1時間以上話すことで、その方の専門レベルも把握できますし、自分と気の合う人もはっきりとわかってくるでしょう。
「いいな」と思った方には2,3回会うのも良いでしょう。
3)サポート内容や料金が明確であること
最初からサポート内容や料金を明示していない方にはご用心ください。
こちらの懐具合に合わせて金額を吊り上げたり、サポートメニューがあいまいな場合は、サポート内容を、詳細に検討していない可能性があります。
その方が、具体的に開業まで何をしてくれるのか、大まかなスケジュールと共にサービス内容を説明できない人は避けるべきでしょう。
こうしたことを最初から決めずにお願いしてしまうと、後になって追加料金を請求されたり、「それはサポート範囲外です」と言われてしまったりして、トラブルになるケースもあります。
4)ある程度時間の融通が利くこと、時間にきっちりしていること
優秀な専門家には仕事が殺到するため、どうしても忙しくなりがちです。
ただし、あまりにも忙しすぎて時間の融通が利きづらい場合は要注意です。
開業準備中のドクターは、普段の診療に加えて、開業準備のための勉強や物件探し、資金繰りなどいくらでもやることがあるもの。
したがって、夜や土日にスケジュールを合わせるのが難しい、という相手であれば、打ち合わせの時間を確保するのにも苦労するはずです。
時間的に、柔軟に対応してくれる専門家を選びましょう。
「夜や土日でも、ある程度、打ち合わせには応じていただけますか?」と最初に確認しておきましょう。
同じ理由で、時間にルーズな方も避けた方が無難です。
お互い忙しい身であることが前提になりますので、相手の時間を尊重できないようでは、これから一緒に仕事をするのは心配ですよね。
5)開業後のフォローもしてくれること
「開業さえ無事にできればそれでおしまい」という専門家とは、いっしょに仕事をすべきではありません。
なぜなら開業後に、思ったように患者が集まらない場合、雇用に問題が出た場合、など専門家に相談したいケースが必ず起きるからです。
開業準備から一緒にやってくれた専門家はいわば「戦友」。
実力があり、人柄も良いのであれば末永く付きあっていきたいと思われるでしょう。
専門家として定期的に医院を訪れ、必要な助言やサポートをしてくれる専門家は非常にありがたいものです。
・開業後のフォローとして、どのようなことをしてくれるか
(フォローのためのメニューは用意されているか)
・実際に、他医院の開業後にどのようなフォローをしているか
・「一緒に良い医院を作っていきたい」という意識が感じられるか
など、最初になるべく具体的に確認しておきましょう。
各専門家で押さえるべきポイントとは?
開業や医院経営の際に必要となる、次の代表的な専門家について、押さえておくべき点についてお話ししましょう。
1)税理士
2)社会保険労務士
3)弁護士
4)不動産の専門家(司法書士、宅地建物取引士等)
5)保険の専門家
6)医療マーケティングの専門家
1)税理士
開業後は毎年税務申告が必要になりますので、医院の税務会計を委託する税理士が必要になってきます。
できれば開業後ではなく、開業準備中から節税や税務上の留意点についてアドバイスができる税理士と二人三脚で進められると良いでしょう。
税理士は何といっても、医療の分野の税務・会計に詳しいことが重要です。
税務申告書の作成自体はどんな税理士であっても可能ですが、医療現場に明るくないと診療科目上の留意点が分からず、アドバイスや節税が不十分になりやすいからです。
また医院の規模にもよりますが、税務署による数年に一度の税務調査の対応も、業務知識がないと、受け答えがしどろもどろになりがちです。
税理士は税務署からの追及に対して、徹底的に医院や先生を守るべき職業です。
税務署からの指摘事項に対して、税務調査官より経験も専門知識も多ければ、余裕を持って指摘事項を論破していくことができるでしょう。
なぜそのような税務処理をしているか、税法や業界の常識に照らして論理的に回答できれば、税務署側に主導権を握られてしまう事態を避けることができます。
一方で税務調査対応がお粗末な場合は、多額の追徴課税(追加の税金支払い)を負ってしまう可能性もあります。
したがって税務調査対応の能力や経験のある税理士を、必ず選択しましょう。
(面談の際に必ず確認してください。)
将来、医療法人化をする場合のことも視野に入れ、法人化のノウハウがあるかどうかも確認しておきましょう。
2)社会保険労務士
就業規則の作成や、繁忙期に重点的に働いてもらうための変形労働時間制の導入、スタッフや先生の社会保険への加入や、不適切なスタッフの解雇のための事前相談などに力を発揮するのが社会保険労務士(社労士)です。
特に解雇において、事前通告なく行ってしまうと「不当解雇だ」ということになり、訴訟になってしまう可能性もあります。必ず、信頼できる社労士に事前に相談するようにしてください。
やはり医療業界で活躍している社労士を探すのが良いでしょう。
3)弁護士
・診療を巡って患者から訴えられた場合
・解雇を巡ってスタッフや先生から訴えられた場合
・テナントのオーナーが変わり、新しいオーナーが無理難題を突き付けてくる場合
などに、頼れる弁護士がいると安心です。
医療業界での訴訟の取り扱い件数や、勝率などを見て探すようにしてみてください。
4)不動産の専門家(司法書士、宅地建物取引士等)
開業時や分院展開していく中で、新しい医院を建築するような場合には、不動産の専門家としての司法書士、宅地建物取引士等に業務を依頼するケースがあります。
不動産建設には多額のお金が動くことになりますので、不動産業者の言うことだけをうのみにしてしまうのは不安でしょう。単純な業務委託というより、こうした専門家の意見をセカンドオピニオンにできれば心強いものです。
やはり医院建築に関わった経験の多い方を選択するのが望ましいと言えます。
5)保険の専門家
開業にあたっては、建物の取得費用や改装費用などで、新たな借入金も発生するでしょう。
増加したリスクに見合う生命保険への加入や、建物について火災保険や施設賠償責任保険といった損害保険にも加入する必要が出てきます。
そんな時に、最も自分の状況に即した保険を提案してくれるFP(フィナンシャル・プランナー)や、医院対象の取引を得意とする営業の専門家がいると心強いものです。
相見積もりを取るなどして信用できる方を探しましょう。
6)医療マーケティングの専門家
「思ったように集患がうまくできない」「一度来てくれた患者さんの再来院率が低い」という悩みが発生した場合に、相談できるのが医療マーケティングの専門家です。
新規患者の集患や、継続して患者さんに通ってもらうためにも、チームに加えておくと心強いでしょう。
この医療マーケティングの専門家を選ぶ際の視点は、なんと言っても過去の実績と、得意としている集患方法です。
過去にどんな地域でどのような成果を出したのか、得意としている診療科目は何か、地方と都心のどちらの集患が得意か、などをしっかりと確認しましょう。
また、患者さんの聞き取りから始めてチラシを出すのが得意、ネットを使った調査をして集患をするのが得意など、サポートのやり方は専門家ごとにかなり異なることが予想されます。どんな手順で、何をサポートしてくるのかも聞き出しましょう。
まとめ 良い専門家には待遇を上げて長く付き合おう
専門家を利用するメリット、専門家選びの方法、各専門家で押さえておくべきポイントについてお話してきました。
ただし、短時間で素晴らしい専門家をすべて押さえ、契約までするのは難しいと思います。
従って、ある程度の期間を設け、腕が良く自分の理念に共感してくれる専門家を探しましょう。知り合いの信頼できる先生に紹介を依頼しても良いでしょう。
場合によっては、スタッフの採用と同じように試用期間を設け、少しお付き合いをしてから、今後もお願いするかどうかを見極めてみるのも良いでしょう。
経営者として、何か起きた時のために頼りになる専門家を確保しておくことの安心感は、測り知れません。
本当に頼りになる専門家に出会った際には、長い付き合いができるように、専門家に対する待遇を良くすることも検討していってください。
ご相談・お問い合わせ

- 笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。
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