はじめに

労働基準法32条において、1日の労働時間は8時間、1週間では40時間と規定されています(法定労働時間)。これは医科歯科クリニックでも変わりません。

この法定労働時間を超えてクリニックのスタッフを働かせた場合は時間外労働となるため、残業代を支払わなければいけません。

ここまでは多くの開業医の先生がご存知かと思います。ただ、なかには「これは労働時間になるの?」と疑問に持つようなこともしばしばあるでしょう。

例えば朝礼や研修の参加、オンコールの時間を労働時間に含めるかといったものです。

そこで今回は労働時間の定義や、労働時間に含めるかどうか判断に迷う事例について詳しくお伝えしていきたいと思います。

労働時間の定義とは?

そもそも労働時間はどのように定義づけられているのでしょうか?

労働時間については判例法理として確立されている程度でしたが、平成29年に厚生労働省のガイドラインで明文化されました。そちらをまずは紹介したいと思います。

労働時間は厚生労働省のガイドラインによって定義されている

厚生労働省は、労働時間の定義について次のように定義しています。少し長いですが、そのまま抜粋します。

労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。

そのため、次のアからウのような時間は、労働時間として扱わなければならないこと。
ただし、これら以外の時間についても、使用者の指揮命令下に置かれていると評価される時間については労働時間として取り扱うこと。

なお、労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであること。

また、客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものであること。

ア 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付
けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃
等)を事業場内において行った時間

イ 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、
労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手
待時間」)

ウ 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の
指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

労働時間≠診療時間であることに注意

上記のア~ウを見てわかることは、決して労働時間とは診療している時間だけではないということです。

例えばアに従えば、診療前の始業準備や診療後の後始末についても労働時間に含めなければいけません。

診療時間以外の労働時間の事例については詳しく後述しますが、診療時間は労働時間の一部に過ぎないことを念頭に置くようにしましょう。

【これも労働?】診療以外の労働時間の事例

医院・クリニックは、業務の自己研鑽の区別、院内研修の取り扱い、オンコールなどの扱いが曖昧になりがちです。

これがサービス残業のもととなるのですが、すでに厚生労働省のガイドラインで労働時間は定義されています。

労使トラブルを避けるためにも、ガイドラインに沿って労働時間のルールを明文化しておく必要があるでしょう。

そこで診療時間以外の労働時間の事例について、いくつかお伝えしていきたいと思います。

始業前の準備や診療後の後片付け

先にも書いたように、上記ガイドラインのアに該当する箇所です。

つまり申し送り・情報収集、始業前の準備作業、診療後の後片付けや看護記録は、指揮命令下ならば労働時間としなければいけません。

また指揮命令ではなく自主的に行ったものでも、業務上必要不可欠な作業なら労働時間とされる場合があります。

例えば電子カルテを導入したが端末の台数が少なく、始業前の情報収集の時間を確保するために早く出勤せざるを得ないような場合です。

朝礼や準備体操

始業前に朝礼や準備体操を実施しているクリニックもあるでしょう。

クリニックでも朝からモチベーションを高めて、スタッフが一丸となって仕事に取り組むには一定の効果があるようです。

ですから朝礼などを実施すること自体は問題ないのですが、注意したいのは朝礼や準備体操も労働時間に含まれることです。

厚労省のガイドラインをもう再度抜粋します。

ここに引用文が入ります。

朝礼や準備体操も、十分「使用者(院長)の指揮命令下に置かれている時間」になります。

朝礼や準備体操を労働時間外としているクリニックは注意しましょう。始業開始前に朝礼を行っていれば時間外労働に該当します。

更衣時間

法令に基づく防護服や一定の作業着などを所定の場所(更衣室など)で着用することを義務付けられていれば、原則として労働時間になります。

つまり、更衣時間については制服の着用が義務付けられているかどうかが論点となります。

例えば看護師の服装は決められていることが大半と考えられるので、着替えの時間も労働時間に含めるのが妥当でしょう。

患者待機による休憩・仮眠時間

上記ガイドラインのイに該当するところです。

お昼休みなどでない限り、患者対応に備えるために控室などで待機するような場合は労働時間(手待時間)とされます。

救急外来の合間の仮眠についても同様です。即応が求められる状態にあれば労働時間とみなされる場合があります。

労働時間に含めるかどうかは、労働から完全に解放されて自由が保障されているかどうかが基準となります。

オンコールではなく、クリニックで待機しているのであれば、労働から完全に解放されているとは考えにくいでしょう。つまり、患者待機中も労働時間と考えたほうが良いでしょう。

オンコール

クリニック内の待機時間(手待時間)に比べると、オンコールは労働時間として扱うかどうか判断に迷うところです。

帰宅しているとはいえ「労働から完全に解放されて自由が保障されている状態」と定義できるかどうかは難しいところでしょう。

例えばオンコール時間に旅行に出かけたりはできないのは明白で、場所的な拘束は否定できません。

また、労働基準法ではオンコールについての明確な規定はありません。

オンコール時間は基本的には最高裁の判例などから一般的に「労働時間ではない」とされています。

一方で場所的拘束の程度など「拘束性の度合によって労働時間と判断される場合がある」と労働基準監督署が勧告したケースもあります。

拘束の度合いや、呼び出しの頻度によっては労働時間とみなされる可能性もあると言えます。

オンコール時間の労務管理上の扱いについては、やや曖昧なところは否めず今後も議論されるのではないかと思われます。

なお、クリニックによっては2,000~4,000円程度のオンコール手当を支給していることもあります。

扱いが難しいオンコールについては、労働時間とする代わりに手当を支給するのもひとつの方法でしょう。

院内研修・新人研修

上記ガイドラインのウを読むと、受講義務がなく、出席しなくても何も不利益がなければ労働時間とはみなされないことになります。

つまりスタッフが、業務とは全然関係のない資格を取得するために受講した講座や試験は当然労働時間とはみなされません。

ただし指揮命令下によるものでなくとも、受講しないとクリニックにとって不利益となる場合は労働時間とみなされる場合があります。

また院外の研修だけでなく、院内に講師を呼んで研修を行うクリニックも多いです。

その場合は研修の企画、運営などの準備作業も自主的に行うものでなければ労働時間とされます。

研修は技術的なものだけでなく、人間関係やコミュニケーションスキル、コーチングスキルを高める研修もあります。

どのような研修にしても判断基準は変わりません。クリニックの利益に関わるスキルは技術的なものだけではありません。院長先生の指示であれば労働時間に含めるべきです。

看護研究・医師の自己研鑽

自己研鑽や研究は基本的に労働時間とはみなされないものの、労働の内容や指揮命令の有無によって総合的に判断されます。

特に上記のガイドラインのウでは、「使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間」も労働時間と定義されています。

例えば、院長先生がeラーニングの学習をスタッフの人に指示していたのであれば労働時間とみなされます。

なお、看護研究については「看護業務の一環であり施設内で行えば労働時間である」という裁判例が残っています。

【まとめ】労働時間のルールの明確化を

労働基準法第115条では、過去2年前までさかのぼって、残業代などの賃金を請求できることになっています。

今回のように労働時間に含まれるかどうかルールを明確化しないと、あとで未払い残業代をまとめて請求されてしまう可能性もあります。

労働時間や時間外労働については、労使トラブルに発展しやすい問題のひとつです。

労働時間については明確にルール化し、スタッフに周知するようにしていくことでトラブルを未然に防ぐようにしましょう。

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