はじめに

少子高齢化が急速に進行する中、企業の人材不足が深刻になっています。

特に団塊世代が大量に退職した2010年頃から少子高齢化のインパクトが非常に強くなり、多くの企業が求人に苦戦しています。

そこで注目されてきたのが、定年退職した65歳以上の人材の雇用を目指すシニア採用です。

病院やクリニックなどの医療機関でも同様で、どの医療機関も求人に関しては売り手市場になっています。

そのため、医療機関でも60歳以上、もしくは65歳以上の退職者の求人をするケースが増えてきました。

また、シニア採用については、対象となる助成金制度があるので、条件を確認して活用していきましょう。

そこで、今回は医院・クリニックのシニア採用の好事例と助成金についてお伝えします。

看護師のシニア採用の好事例

厚生労働省は「看護師のセカンドキャリアにおける活躍を図るための職場環境整備の好事例集」において、看護師のシニア採用の好事例について掲載しています。

掲載されているのは、ほとんどが比較的規模の大きい病院ですが、シニア採用の参考になるのもあるので一部紹介します。

※以下の事例は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構作成の次の事例集から抜粋しています。

A:生涯現役いきいき企業100選(2014年版)
B:生涯現役いきいき先進事例集(2014年版)
C:70歳いきいき企業100選(2012年版)
D:70歳雇用先進事例集(2012年版)
E:平成25年度 高年齢者の多様な働き方事例集
F:平成24年度 高年齢者の多様な働き方事例集
G:平成22年度 高年齢者の多様な働き方事例集

短時間勤務等の柔軟な勤務形態

  1. 賃金は定年時より下がるが、希望に応じて短時間勤務を認めたり、肉体的負担の少ない部署へ配属する。
  2. 65歳継続雇用終了後の再雇用の慣例を内規化するとともに、必要な能力基準や目標を明示して仕事の質や技術の向上を図る。
  3. 定年後に本人の希望に応じた柔軟な働き方の選択を可能とし、正職員同様の評価基準を適用したり能力に応じた役割・目標を与えてモチベーションの維持を図る。
  4. 医療法人内に委員会を設置し、職員アンケートなどを踏まえて数多くの就業形態を設計。
  5. 過疎地域のために人材確保が困難であったことから、年齢・時間について本人の希望を優先し、条件の制限を撤廃して募集。多数の高齢者の応募があり、人材確保に成功。

60代の高齢スタッフが「まだまだ働けるぞ!」と言っても、どうしても青壮年期のように元気に働くには限界があります。

どうしても体力や健康面では20~40代よりは不利になります。

そのため、フルタイムの正社員雇用だけでないのはもちろん、様々な勤務形態を用意して、柔軟に対応する必要があります。

週3~4日勤務や、週6時間勤務を選択できるようにして、さらに変更が可能なようにしましょう。

一方で、長年の熟練した技術を活かせるような評価基準や目標を明確に示すことで、モチベーションを維持することは大切です。

勤務時間帯の設定の工夫

  1. 60歳定年後は、65歳まで嘱託として、常勤、週30時間以上のパート、週30時間未満のパートから選択して勤務。
  2. 子育てをしている看護師は早朝や夕方勤務を外れたり、日勤と夜勤の切り替わる時間帯に人手が不足する傾向がある。これを比較的時間に余裕のある高齢者にカバーしてもらうような勤務時間を設定。若手と高齢者がお互いに補い合って勤務できる就業形態を確立。

先ほども書いたように、体力的な限界のある高齢スタッフに対しては、勤務時間や勤務日については柔軟に対応する必要があります。

しかし、一方で子育て中や両親を介護中のスタッフにも、勤務時間に物理的な限界があります。

高齢スタッフは比較的時間に余裕のある確率が高く、相互の限界を補完できる勤務形態にすることで、労務の改善を図ることができます。

人手不足も解消されやすくなり、スタッフからも不満が生まれない、生産性が高くなるように勤務時間を工夫しましょう。

高齢スタッフがやりがいを持てる仕事・処遇・職場風土の形成

  1. 1968年の発足当時から定年制を設けずに運営。高齢スタッフが、後進の指導や日常業務を通じて役割意識を持てるようにして、職場の先輩として役割を果たせるような職場風土を育てている。
  2. リーダー的な高齢スタッフには技能伝承のためのマニュアル作成や新人教育指導者として活躍してもらっている。
  3. 作業負担軽減のために職場改善等、勤務時間・日数の選択制等、モチベーション維持のための再教育制度などを検討中。

高齢スタッフと若手スタッフの大きな違いは、何と言っても長年の経験と熟練した技術です。

そのため、後進の指導、マニュアル作成や研修での指導者として、大きな役割を果たしてもらえそうです。

新しい職域の開発

  1. 専門知識を活用して患者の情報収集や担当診療科への誘導、診療・検査・処方等の専門的事項の説明を行う新しい就業形態(シニア・コンシュルジュナース)を設けている。結果として、円滑な病院の運営や患者満足度等のアップに繋げている。

高齢スタッフの長年の熟練した知識と技術を活かせるような就業形態を設けることで、自分に合った働き方ができることもあります。

高齢スタッフの働くモチベーションを維持できるのはもちろん、医院全体の生産性が上がり、患者満足度の向上に繋がることがあります。

その他健康管理、研修

  1. 高齢スタッフが長く元気に生き生きと働けるよう、食事と運動の管理について組織的に取り組む。
  2. 理事長自らが主治医となって、高齢スタッフに対して日々食事と運動の管理についてフォローしている。
  3. 研修を充実することにより、スタッフが経営の方向性を共有できるので、高齢になっても働き続ける目的や目標を持てるようになっている。

高齢スタッフの心配な点は健康面や体力でしょう。

定年退職後の継続雇用に関しては、長く健康的に働けるように健康診断など健康管理については組織的に取り組んでいきましょう。

シニア採用時の助成金活用

クリニックでも活用できる助成金はたくさんありますが、シニア採用時に活用できる助成金について紹介します。

受給額や条件が変わることがあるので、詳しくは専門の社労士に相談し、厚生労働省などのホームページも随時確認するようにしましょう。

特定求職者雇用開発助成金

高齢者、母子家庭の母親、障害のある方、東日本大震災の被災者などをハローワークの紹介により雇用した場合に支給する助成金です。

全部で4つのコースがありますが、高齢者の雇用に関する助成金は特定就職困難者コース、もしくは生涯現役者コースになります。

特定就職困難者コース

【対象】高年齢者(60~65歳)や母子家庭の母、障害者などの就職困難者を雇い入れた場合

【支給額】

対象労働者 支給額 助成対象期間 支給対象期
ごとの支給額
短時間労働者以外の者 高年齢者(60歳以上65歳未満)、母子家庭の母等 60万円 1年 30万円×2期
重度障害者等を除く身体・知的障害者 120万円 2年 30万円×4期
重度障害者等 240万円 3年 40万円×6期
短時間労働者 高年齢者(60歳以上65歳未満)、母子家庭の母等40万円 1年 20万円×2期
重度障害者等を含む身体・知的・精神障害者 80万円 2年 20万円×4期

※2020年1月1日現在。

生涯現役コース

【対象】65歳以上の離職者で1年以上継続して雇用することが確実な労働者(雇用保険の高年齢被保険者)として雇い入れた場合

【支給額】

支給対象者 支給額 助成対象期間 支給対象期ごとの支給額
短時間労働者以外の者 70万円 1年 35万円×2期
短時間労働者 50万円 1年 25万円×2期

※2020年1月1日現在。

65歳超雇用推進助成金

高年齢者が意欲と能力のある限り年齢に関わりなく働くことができる生涯現役社会を実現するための助成金です。

65歳以上への定年引上げや高年齢者の雇用管理制度の整備等、高年齢の有期契約労働者の無期雇用への転換を行う事業主に対して助成されます。

全部で3つのコースがあります。

65歳超継続雇用促進コース

【対象】
次の(1)~(3)の条件を満たす場合。
(1)次のいずれかの制度を導入している
A:65歳以上への定年引上げ
B:定年の定めの廃止
C:希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入

(2) 高年齢者雇用推進員の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置を実施している

(3) 1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いる

【支給額】( )は年齢の引上げ幅

A:65歳以上への定年引上げ | B:定年の定めの廃止
60歳以上
被保険者数
AB
65歳まで引上げ66歳以上に引上げ定年の定めの廃止
(4歳未満)(4歳)(5歳未満)(5歳以上)
1~2人10万円15万円15万円20万円20万円
3~9人25万円100万円30万円120万円120万円
10人以上30万円150万円35万円160万円160万円

※2020年1月1日現在。

C:希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入
60歳以上
被保険者数
C
66~69歳70歳以上
(4歳未満)(4歳)(5歳未満)(5歳以上)
1~2人5万円10万円10万円15万円
3~9人15万円60万円20万円80万円
10人以上20万円80万円25万円100万円

※2020年1月1日現在。

高年齢者評価制度等雇用管理改善コース

【対象】
(1)雇用管理整備計画の認定
次のいずれかの取組みに係る「雇用管理整備計画」を作成し、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長に提出して認定を受けている

・高年齢者の雇用の機会を増大するための能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入
・医師もしくは歯科医師による健康診断を実施するための制度の導入

(2)高年齢者雇用管理整備の措置の実施
(1)の雇用管理整備計画に基づき、同計画の実施期間内に高年齢者雇用管理整備の措置を実施している

【支給額】
雇用管理制度の整備等の実施に要した経費に、次の助成率を乗じた額

中小企業事業主の
助成率
中小企業事業主以外の
助成率
生産性要件を満たした場合75%60%
生産性要件を満たさなかった場合60%45%

※2020年1月1日現在。

高年齢者無期雇用転換コース

【対象】
次の(1)~(2)によって50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者の無期雇用労働者への転換を実施した場合

(1)無期雇用転換計画の認定
「無期雇用転換計画」を作成し、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長に提出してその認定を受けること

(2)無期雇用転換措置の実施
(1)の無期雇用転換計画に基づき、当該計画の実施期間中に、高年齢の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換すること

【支給額】
対象労働者1人につき、以下の金額を支給。< >は生産性要件を満たした場合。

中小企業中小企業以外
48万円 <60万円>38万円 <48万円>

【まとめ】医院・クリニックでもシニア採用が増えるのは必須

少子高齢化の人材難の時代というのもありますが、そもそも昔に比べれば、今の高齢者は健康で、65歳を過ぎても働く意欲が十分です。

また、技術的に熟練しているので、後進の育成やマニュアルの整備に貢献するなど、医院運営が円滑になり、生産性が向上することも考えられます。

結果として医院・クリニックの生産性の向上や患者満足度の向上に繋がるように、高齢者が働きやすい体制を整えていきましょう。

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この記事の執筆・監修はこの人!
プロフィール
亀井 隆弘

社労士法人テラス代表 社会保険労務士

広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。

                       

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