クリニックの中途採用の書類選考や面接時の質問で確認したい項目の1つに「前職の退職理由」があります。

退職リスクを見極める上では重要な項目ですが、他人の過去に踏み入るデリケートな話題に至りやすいので注意しましょう。

そこで、今回は「前職の退職理由」を質問する際の注意すべき点について詳しくお伝えしたいと思います。

書類選考で退職リスクを判断する3つのポイント

まずは面接の前に、書類選考時におさえておきたい3つのポイントがあります。この時点で退職リスクがある程度判断できることがあるためです。

特に次のパターンに該当する場合は、書類選考の時点でふるいにかけても良いでしょう。また面接するにしても要注意な可能性が高いので前職の退職理由は必ず確認するようにしましょう。

短い期間で頻繁に職場を変えているかどうか

短い期間で頻繁に職場を転々としている、つまりジョブホッピングしているような人は要注意です。

これまで頻繁に職場を変えてきたわけですから、今回採用してもすぐに退職される可能性が高いと言えます。

特に1年だけ勤めて、退職後は海外でワーキングホリデーをしたり、日本一周の旅に出たり……。

このようなことを繰り返している人は短期的な生活費目当てに働き口を求めている可能性が高いので要注意です。

このタイプの人は書類選考の時点で職歴等などによって読み取れるので、面接前にふるいをかけてしまっても良いかもしれません。

3ヶ月で前職を退職しているかどうか

前職も病院やクリニックであったとしても、3ヶ月で退職している際は要注意です。

なぜかというと試用期間で契約が更新されずに退職となった可能性が高いためです。

もちろん、「もっと自分を活かせる仕事がしたい」など前向きな理由で早々と退職を決断した場合もあります。ただし、その場合は必ず前職の退職理由は確認して、退職リスクや働く意欲・熱意を確認しましょう。

求職者の住所が遠方にあるかどうか

求職者の現住所がクリニックの所在地から遠方にあり、履歴書の備考欄に「◯月◯日にクリニックの近くに転居予定」と記載されている場合。

書類選考時にふるいにかけるようなことはしなくとも、面接時には注意が必要かもしれません。

というのも、なかには交際相手が住む場所を変えるのに併せ、自分も住む場所を変えていることがあるためです。

このタイプの人は交際相手を中心に生活が回っており、相手の都合に合わせて仕事を頻繁に休んだり、すぐに離職したりする可能性があります。

【面接の注意点①】前職の悪口ばかり言う人は要注意

前職の退職理由を質問すると、やたら前職の愚痴や悪口ばかり話して、しかも止まらない人がいます。

このような人は、おそらく前職と同じことを繰り返し、同じ不満を募らせ、すぐに辞めるかトラブルを起こす可能性が高いです。

また先生のクリニックを退職したあと、同じように次のクリニックの面接で、先生のクリニックの悪口をまくし立てる恐れがあります。

もちろん、本当に前職で嫌な経験をして、うつ状態まで追い詰められて退職せざるを得なかった場合もあるでしょう。

ただ、その場合でも根っからネガティブ思考でなければ、面接時に前職の悪口をまくし立てるようなことはしないでしょう。

また前職の悪口を延々と話す場合は、「当院で働くことで実現したいことは何か?」と質問を変えてみても良いでしょう。

質問を変えてみて、熱意や意欲を感じられないようであれば、採用を見送って問題ありません。

【面接の注意点②】メンタルヘルスに関わる病歴の確認はどうか?

メンタルヘルスの悪化により前職を退職したケースも非常に多いです。

その際、前職の職場環境がたまたまひどく耐え難いものだったのか、それとも、本人にもともと病歴があるのかは気になるでしょう。

メンタルヘルスに関する質問は慎重さを要する内容

採用面接時において病気の内容を聞くこと自体は、職業安定法や男女雇用機会均等法等で禁止されているわけではありません。しかし病歴、特にメンタルヘルスに関わるものであれば慎重さを要する内容です。

病名そのものに焦点をあてるのではなく、「業務に支障をきたすかどうか」という観点で確認をとるようにしてください。

アンケートを作成するのもひとつの方法

メンタルヘルスに関わる病歴については、求職者に直接口頭で確認することは抵抗があるかと思います。

病歴、治癒状況、業務への支障度合いなどが確認できるアンケートを作成し、記入してもらうのもひとつの方法です。

万が一、求職者が記入内容を偽ったり、隠したりするような場合でも、アンケートをとることには意義があります。

というのも本人が就職後に雇用契約どおりに働けない場合は、病歴を偽ったり隠したりすることを懲戒事由として判断できるためです。

メンタルの病気の思い込みや偏見を排除する

面接者が求職者の健康状況を確認する際には、メンタルの病気に対する思い込みや偏見を持ちながら行ってはいけません。

昔に比べれば、だいぶメンタルヘルスに関する理解は進んでいる印象はありますが、注意は必要です。

面接者が必要と判断して病歴の聴き取りをするときには、少なくともその病気に対する正確な知識を知っておくようにしましょう。

面接者の思い込みや偏見で、安易な聴き取りを行い、求職者に対して不快感を与えてしまわないように注意が必要です。

「治癒しているのか」「業務上支障はないのか」という観点で、あらかじめ専門家に確認したうえで面接すると良いでしょう。

ストレス耐性や失敗の対処法を質問してみる

メンタルヘルスに関わる病歴があるかどうかに関わらず、求職者のストレス耐性は、採用する側から考えると気になる点です。

あまりストレス耐性がないスタッフだと、例えメンタルヘルスに関わる病歴がなくてもうつ病などに罹患する可能性があります。

そのため、次のようなストレス耐性を図る質問や、失敗したときの対処法を質問してみることも1つの手です。

・今まで仕事やアルバイトでストレスを感じたことはなんですか?
・インシデント経験ではどう対処しましたか?
・クレームを受けたときはどう対処しましたか?
・人間関係がうまくいかなかったときはどうしましたか?
・ストレス発散法を教えてください

ストレス耐性が高く、またストレスを回避できるスタッフは退職リスクが低く、戦力になる可能性も高いです。

【参考】面接時に聞いてはいけない項目

メンタルヘルスに関わることは面接時に質問するのは禁じられていないとお伝えしました。しかし、なかには面接時に聞くことが禁止されている項目があるので注意しましょう。

まず職業安定法の指針では、次のようなことについては情報取得に制限がかかっています。

理由としては求職者本人に責任のない事項であり、本来個人の事由であるべきものと捉えられるためです。

採用面接時には、次のようなことを積極的に聞かないように注意しましょう。

(1)人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項

(2)思想および信条(生活信条・支持政党・購読新聞など)

(3)労働組合の加入状況

さらに、男女雇用機会均等法では、女性の求職者に「結婚の予定の有無」「子どもが生まれた場合は働き続けるか?」という質問がタブーになっています。

特に女性のスタッフが多いクリニックでは「子供が生まれたらどうするか?」は気になるところですが、ストレートに聞くのは避けましょう。

【面接の注意点③】前職の解雇理由の書面を求めることは可能か?

面接で前職の退職理由を聞いてみたら「解雇」だった場合、院長先生としては当然懲戒事由を知りたいところです。

整理解雇なのか、それとも普通解雇や懲戒解雇なのかで全然違ってきます。

また労働契約法第16条で解雇権を濫用できないことが定められているものの、理不尽な理由で解雇された可能性も否定できません。

前職の退職理由が解雇であった場合、解雇理由の書面を求職者に求めることは可能なのでしょうか?

「退職時の証明書」も「解雇理由証明書」も請求可能

解雇理由の書面としては、労働基準法22条で定めているものとして、「退職時の証明書」と「解雇理由の証明書」の2種類があります。

結論としては、中途採用の求職者に対して、これらの書面を求めることは問題ありません。

退職時の証明書の記載事項

こちらについては労働基準法第22条の第1項にあたります。以下条文抜粋します。

労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

つまり、記載事項は次の5つです。

(1)使用期間
(2)業務の種類
(3)その事業における地位
(4)賃金
(5)退職の事由

「退職の事由」については、労働基準法第22条の条文どおり、解雇の場合は、その理由も含まれます。

また解雇に限らず、自己都合退職、勧奨退職、定年退職も含まれます。

解雇理由証明書の記載事項

解雇理由証明書については、労働基準法第22条の第2項になります。以下抜粋します。

労働者が、第20条第1項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。

解雇理由証明書は、労働者が次の目的を満たすために交付されます。

「解雇が恣意的になされるのを防止すること」
「解雇についてやむを得ないと受忍するか、またはこれを争うかを迅速に判断できるようにすること」
「争う場合にも第三者機関が解雇の有効性を迅速、適格に判断できるようにすること」

解雇理由証明書で証明されるのは、解雇に関することのみです。

解雇に関する就業規則の条項の内容や当該条項に該当するに至った事実関係が記入されたものとなっています。

「退職時の証明書」と「解雇理由証明書」の入手時期

退職時の証明書と解雇理由証明書については、記載事項だけでなく入手できる時期にも大きな違いがあります。

退職時の証明書は退職後以降から請求可能に対して、解雇理由証明書は解雇の予告日から請求可能です。

求職者が解雇の予告をされた日から退職する日までの間に選考を受けに来た場合、解雇理由証明書を請求することになります。

一方、再就職の活動時期が離職後であれば、退職時の証明書を請求することが可能になります。

【面接の注意点④】前職の退職理由以外に「退職リスク」を見極める質問と回答例

前職の退職理由を中途採用時の面接で質問する理由は、「すぐ辞めてしまわないか」といった退職リスクを見極めるためです。

退職リスクを見極めるためには、前職の退職理由を聞く以外にも、次のようなことを質問しても良いでしょう。

退職リスクを見極める質問項目

前職の退職理由以外に、退職リスクを見極める質問として有効なのは、次のような質問です。

前職の人間関係はどうでしたか?

前職の退職理由とは少し切り口を変えて、前職の仕事や人間関係について聞いてみるのもいいでしょう。

前職の仕事についての質問は、即戦力や成長意欲を確認するために必須といえる質問です。

また、前職の人間関係に関する質問をすることで、退職リスクの判断材料となることがあります。

「前職の退職理由」と同様に、前職の悪口をまくし立てる人がいるためです。

もしかしたら、本当に前職の職場の雰囲気が劣悪だった可能性はありますが、それでも一方的に愚痴を言うなら問題です。

ただ、「前職では人間関係が良かったとは言えなかったが、反省点を踏まえて今度はいい関係を築きたい」と、自己責任の気持ちがあるなら採用の余地はあります。

逆に他責思考が強いと感じる場合は、採用を見送ってください。

月に〇時間くらい残業がありますが、大丈夫ですか?

勤務時間について確認する質問です。

もし、残業を極端に嫌がる求職者や、労働条件や待遇に関することを聞いてばかりの求職者であれば採用を見送りましょう。

先生のクリニックがブラックな職場であれば話は別ですが、許容範囲内の残業や休日出勤すら敏感な求職者は、不満を抱えやすくなります。

ただし、「子育てや介護と両立できる範囲」など、求職者によって事情が違いますので臨機応変に対応してください。

お子さんの体調不良で急に休む人がいた場合、代わりに出勤できますか?

子育て中のスタッフが多いクリニックであれば、代わりに出勤できるかどうかを確認してみてください。

なお、先ほどお伝えしたように「結婚や出産の予定はありますか?」という質問はNGなので注意してください。

ただし、「結婚や出産の予定があり、〇〇な場合はどうですか?」と逆質問されるようであれば、可能な働き方を説明してください。

お互いが納得できる形で入職してもらうことで、退職リスクを大幅に軽減できます。

40~50代のスタッフが多いですが、その点は大丈夫ですか?

年代、性別、性格などクリニックのスタッフの特徴があれば求職者に説明するようにしてください。

また、スタッフの特徴を紹介するだけでなく、実際に職場を見学してもらって雰囲気をつかんでもらうのもいいでしょう。

雰囲気が合っていれば働きたいと思うでしょうし、「雰囲気が合っていない」と感じる求職者は辞退するでしょうから退職リスクを軽減できます。

「一生懸命がんばります」「クリニックに尽くします」過剰な熱意は要注意

面接で求職者と話をしていて、「一生懸命がんばります」「全力を尽くします」「クリニックに尽くします」の発言をしていたら要注意です。

特に入職前から過剰に熱意を伝えてくる求職者は、本心でない可能性があり、本心だとしても冷めるのが早いです。

そのため、ちょっと仕事に失敗したり叱責されたりした途端に仕事に対する熱意が急速に冷め、退職してしまう可能性が高いです。

そもそも職場に対する愛社精神は、実際に働いてみてやりがいを感じ、院内で認められた場合でないと出てこない感情です。

「ちょっとこの人熱量が高い感じするけど、うちには合わないかな……」くらいに考えておくくらいがちょうどいいでしょう。

とはいえ、上昇志向や高い理想を持つことは決して悪いことではないので、志望動機やこれまでの経験など様々な質問をして総合的に判断してください。

なぜ「他に不明点や疑問点はありますか?」という質問が有効か?

あと、面接の最後に「何か不明な点や疑問点はありますか?」という質問をするようにしてください。

退職リスクを見極める上で有効な質問であるためです。

なぜかというと、この質問をすると「待っていました」とばかりに労働条件や待遇に関する質問をしてくる人がいるためです。

労働条件や待遇については、院長先生の方からあらかじめ面接時に説明することは大切です。

しかし求職者にとっては医療従事者として適性があることをアピールする場です。

それなのに労働条件や待遇ばかり話をするということは、果たして成長意欲や向上心があるのか疑わしいでしょう。

何かささいな不満があったらすぐに辞めてしまう可能性が高く、前職もそうした理由で辞めた理由が高いです。

つまり数々の職場を転々としてきた可能性が高いので、採用を見合わせたほうが良いでしょう。

【まとめ】前職の退職理由を質問するときは慎重に

中途採用の面接においては、求職者が前職でどのような仕事をしていて、なぜ転職しようと思ったかはとても気になる事項です。

しかし前職の退職理由については、この記事で紹介したように、ある程度デリケートな問題に触れる可能性もあります。

面接する先生自身、その質問で求職者が気分を害さないか、より話しやすい質問がないかを考慮して面接するようにしましょう。

なお、今ではインターネットで採用面接の「よく聞かれる質問」や「模範解答例」をすぐに検索して見つかるようになっています。

そのなかの1つに、必ず「前職の退職理由を聞かれたら〇〇と答える」というものがあり、求職者はネットで検索して模範解答を用意している可能性があります。

あまりにもテンプレートを丸暗記してきたような回答であれば、採用は見送る方向で考えるか、質問内容を変えるようにしましょう。

新卒・中途採用を含めたクリニックの採用面接や書類選考、スタッフ教育については、以下の記事に詳しく掲載していますので合わせてご覧ください。

【関連記事】医院・クリニック開業時の採用面接、書類選考、採用後のスタッフ教育で失敗しないコツとは?

ご相談・お問い合わせ

お問い合わせはこちらから

この記事の執筆・監修はこの人!
プロフィール
亀井 隆弘

社労士法人テラス代表 社会保険労務士

広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。

                       

こちらの記事を読んだあなたへのオススメ