医療法人の親族は役員?従業員? 報酬や給与を損金とする場合の注意点

公開日:2019年10月15日
更新日:2024年4月23日
医療法人の親族は役員?従業員? 報酬や給与について

医療法人の場合、理事長である先生の他、奥様や兄弟姉妹など親族を含めて経営している方もいらっしゃるかと思います。

奥様には事務のお手伝いを、兄弟や姉妹であれば同じ医院内の医師・看護師として雇いながら医院を経営するケースは珍しくありません。

そして、一緒に仕事をしていた親族が結婚や出産などの様々な事情で、業務から一時的に離れることがあります。

さらには親族だからといって職場に来ていないにも限らず、給与を支払っている医院もあります。

このような話は医療法人に限らず、中小規模の会社の家族経営ではよくあることです。

ただし税務調査で、このような状況が発覚してしまうと「過大な役員報酬」「過大な給与」などで損金として認められず、修正申告が必要となることがあります。

では、親族が医療法人内に在籍する場合の報酬や給与について、どのようにすれば良いのでしょうか?

今回は親族の報酬や給与を損金として判断されるための注意点について、役員と使用人(従業員)のそれぞれのケースでお伝えいたします。

親族を医療法人の役員扱いとする場合

親族を医療法人の役員扱いに

院長先生の役員報酬が高くなるほど所得税の税率も上がります。

そのため、「家族を役員扱いとすることによって所得分散が可能…!」と考えている先生もいらっしゃるのではないでしょうか?

特に家族や親族経営での医院では、配偶者を役員とすることによって、世帯としての税金の負担額を減らしている先生も多くいらっしゃいます。

たとえば、役員報酬を「院長:80万円」から「院長:50万円、配偶者30万円」といったように変更すると、世帯としての支給額は一緒でも税金を減らすことができます。

※院長先生の年収960万円(所得税率33%)⇒院長先生の年収600万円(所得税20%)、配偶者の年収360万円(所得税20%)

さらに配偶者だけでなく、お子さんが医療法人内に勤めていれば、同様に所得分散による節税が見込まれます。

ただし、親族の役員報酬額をいくらでも設定しても良いのか?……というと一概にそうとは言い切れません。

それは役員報酬額には損金として計上できるには制限があるためです。

役員報酬を調整することで、医療法人としての利益もコントロールでき、法人税を少なくすることができます。

このような調整が意図的に行われないよう、損金算入に対して制限が設けられているのです。

そこで本項では税務調査などで役員報酬が損金として判断されるためのポイントをお伝えいたします。

医療法人の役員報酬を損金算入する条件

医療法人の役員報酬を損金算入する条件

役員報酬を損金算入するには、次の2つのいずれかの条件に該当する必要があります。

役員報酬を損金算入するために必要ないずれかの条件
  • 定期同額給与
  • 事前確定届出給与

※利益連動給与については、医療法人は該当することはないと思われるので除外します。

定期同額給与

事業年度内は増減なく、毎月同じ金額を支給し続けることです。

ただし、事業年度内に、定期給与の額の改定や経営状況の著しい悪化により減額があった場合であっても、要件に該当すれば損金算入が認められます。

とはいっても、定期給与の改定前、改定後の定期給与は毎月同額があることが条件となり、頻繁に役員報酬を増減することはできません。

事前確定届出給与

役員給与の支給時期や支給金額をあらかじめ定め、事前に税務署に届け出ることで損金算入できます。

給料のように月額ではなく、非常勤の役員などに年に数回だけ報酬を支払ったりするケースに適用されます。

ただし、経営状況が著しく悪化しても金額を支払わなければならず、事前確定届出給与を使っている法人は多くありません。

多くの医療法人の常勤の役員については、基本的に定期同額給与が基本的な損金算入の考え方になるでしょう。

高額な役員報酬は損金対応できない

役員報酬は従業員とは異なり、常勤せずとも支給可能なため、家族を役員にして報酬を支給することで節税になると先ほどお伝えしました。

しかし、前提条件として、役員報酬において不相当に高額である場合は損金としての算入ができないことになっています。

不相当に高額かどうかは、その役員の職務内容、法人の収益状況、使用人に対する給与の支給状況などを総合的に勘案して判断することになっています。

もし、家族の役員が業務に従事しているのであれば、何らかの給与が支給されることに問題はないでしょう。

ただ、業務や経営において何も携わってないのに「役員であるから報酬を払う」というケースでは問題があると判断されかねません。

そのためにも、業務従事者でない役員報酬については、高額設定しないように注意する必要があります。

親族を役員として報酬を支払うのであれば、以下の基準で支給額を決めておきましょう。

  1. 職務内容、責任レベルに見合っていること
  2. 同規模の医院と比べて過大でないこと
  3. 勤務実態に見合った報酬額であること

社員総会や定款で役員報酬の資料を残す

医療法人で親族を役員にするなら、役員報酬の資料を残す

役員報酬額の操作により法人税などの税負担を不当に減少できないよう、税務署長は給与額や計算方法の安易な変更を否認することができます。

通常、役員報酬に関しては総額を社員総会で決議するか、定款にて定める必要があります。

そのため、社員総会など役員報酬が決まる重要な会議の開催後には必ず議事録を作成しておき保存しておきましょう。

なお、金額の決定事項だけでなく、役員報酬の計算方法なども議事録として記録しておくことによって、より信憑性が高い成果物として成立します。

家族を役員として、報酬を支給するのであれば、役員報酬額の妥当性を説明できるエビデンスは重要なポイントになります。

親族を従業員(特殊関係使用人)とする場合

親族を従業員(特殊関係使用人)とする場合

役員に対する給与は適切な額であれば全額損金に算入されますが、不相当に高額な部分の金額については損金に算入されません。

一方、従業員の給与については、このような制約が存在しない時期があり、役員の親族を故意に役員とせず、従業員として多額の給与を支給する例も多く見受けられました。

そのため、平成10年4月1日以降に開始する事業者は、役員の親族である従業員に対して、過大な給与を損金不算入となるよう規則が制定されています。

つまり、役員の身内や親族に対する従業員としての給与が高額すぎる場合、その勤務に見合った金額でないと損金にできません。

役員の身内や親族を使用人とした場合、後述する特殊関係使用人として扱われ、妥当でない高額部分に対して、経費として認められないように制定されたのです。

特殊関係使用人とは?

特殊関係使用人とは?

以下の条件に当てはまる役員の身内や親族など、特殊な関係にあたる使用人(従業員)のことを特殊関係使用人と呼びます。

特殊関係使用人の条件
  • (1)役員の親族(役員の6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)
  • (2)役員と婚姻関係にあたる人
  • (3)(1)と(2)以外で役員から生活費の援助を受けている人
  • (4)(2)または(3)と同一生計の親族

このように、特殊関係使用人として該当するのは、役員の親族以外に役員と事実婚にある人、役員から生活支援を受けている者とその親族などです。

たとえば、院長先生が愛人に生活費を出していた場合、その愛人の兄弟姉妹や子供を従業員扱いにしていると、特殊関係使用人として該当します。

過大な給与は損金計上できない

過大な給与は損金計上できない

院長や役員の親族という理由で、高額給与を支払うと、その場合は過大給与と判断されることがあります。

特殊関係使用人に対して支給する給与の額のうち、不相当に高額な部分の金額は、その法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されません。

不相当に高額であるかは、下記の状況を踏まえた基準額から判断されます。

  1. 特殊関係使用人の職制・職務内容
  2. 医院・クリニックの収益
  3. 他の使用人への給与支給状況
  4. 類似規模医院・クリニックの使用人への給与支給状況

ただし、職制や職務の内容など正当な理由で特殊関係使用人の給与が他の従業員より高くなることもあるかと思います。

そのためにも、給与の支給額が職制や職務内容に見合うことを証明できるよう、給与規定など資料を揃えておくことが重要です。

【まとめ】親族の場合、役員でも従業員でも不当に高額な報酬は損金不算入

今回は、院長夫人や家族等の親族に支払う役員報酬や従業員給与について、損金算入と損金不算入のポイントについてお伝えしました。

  1. 常識を逸脱した高額な役員報酬を設定しないこと
  2. 役員報酬は社員総会や定款で決め、議事録等のエビデンスを残すこと
  3. 過大な使用人給与を設定しないようにすること
  4. 給与の支給額の判断が明確である記録を残すこと

医療法人では院長夫人や兄弟姉妹などの身内が医療職務や事務などのために役員・従業員として従事されていることは多くあります。

そして、本記事でお伝えしたことを守ることで報酬や給与を損金扱いとすることで節税することも可能となります。

ぜひ、今回お話したことを1つでも取り入れて、医療法人の節税を実現していただきたいと思います。

亀井 隆弘

広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。

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