皮膚科クリニックの現状と財務・経営戦略

公開日:2019年8月23日
更新日:2024年3月18日

はじめに

皮膚科は10年前に比べて15%程度増えているようです。クリニック全体では同期間に9%から10%程度の増加になっていますので皮膚科は平均以上のペースで増えているということです。皮膚科は比較的参入がしやすいのかもしれません。

1日60名は確保したい

皮膚科の患者数は1院あたりの平均でだいたい1日80名(月1800名程度)で月500万円程度と言われています。1日1人あたり2800円程度(自己負担800円程度)という感じになっています。皮膚科のコストはだいたい年3000万円から3500万円程度のところが多くなっています。ここからすると皮膚科では患者数が1日60名程度(月1300名程度)は確保できないと経営は成り立たないのかなという気がします。

1日80名だと年間6000万円ほど行きますので経営的にはさほど問題はなさそうです。平均的に見ると皮膚科の収益は1800万円から2200万円程度ありそうですので問題なく経営できているところが多いのかなという気がします。ただ都市部のクリニックなどでは経営に苦戦しているところもそれなりにはありますので注意が必要になります。

夏季に患者が多い

皮膚科は夏に患者が多くなります。患者数でいうと5月から8月が110、3月から4月と9月から10月が100、11月から2月が90という感じです。夏となると暑く汗をかきやすくなります。あせも・かぶれ・水虫などができやすくなりますので皮膚の弱い方には厳しい季節になります。また暑くなってくると肌を露出する方も多くなります。そうなると女性の方はしみなどを意識して隠したくなります。このような面でも皮膚科を利用する方が多くなることも予想されます。

その他としては3月に患者数が多くなるクリニックも出ています。花粉症の季節なので鼻が荒れる可能性が考えられます。花粉症で皮膚科を利用する方は割に多くいますので3月に患者数が多くなるという面でも納得がいきます。

女性医師の割合が多い


皮膚科では全国平均で見ても女性医師の割合が3名に1名ほどいます。医師全体の中で女性医師が占める割合はおよそ7名に1名程度なので女性医師の割合のかなり多い科といえます。産婦人科では女性医師の割合が半数程度います。そこまでは行きませんが皮膚科もかなりの女性医師が活躍している科といえます。

ただ皮膚科クリニックの女性医師となると3割に届かない程度と少し減少します。やはりクリニックとなると開業医が多くなります。開業を志す医師は男性の方が多くなること・女性医師は安定した病院で働きたいという考えもあるせいか病院の方が女性医師の割合は多くなっています。皮膚科だけではなく全体的にみてもクリニックよりも病院の方が女性医師の割合は高くなっていますので同様の傾向になっているのかなという感じがします。

皮膚科の診療領域

皮膚科ではどのような病気を診ていくのか。基本的にはアトピー性皮膚炎・湿疹・じんましん・かぶれ・ヘルペス・水虫・うおのめ・脱毛症・やけど・しみ・あざなどが中心になります。また皮膚がんや膠原病なども皮膚科で診ることが多くなっています。最近はレーザー脱毛などの美容部門も皮膚科の診療領域に入ってきています。幅広い知識と手術の腕なども必要になってきます。

皮膚科の自由診療


皮膚科の自由診療はにきびなどのシミに準じた治療・しわやたるみなどを改善していくヒアルロン酸注入・角質を活性化させるためのケミカルピーリング・脱毛治療などを行っているところがあります。自由診療の治療費は医療機関によって異なります。ただ目安としては1回あたり数千円程度のところが多くなっています。自由診療の場合でも高すぎると患者が来ない・安すぎるとクリニックとしての経営が成り立ちません。やはりある程度の価格を決めておく必要はありそうです。

経営的には大丈夫か?

皮膚科の数は10年で15%ほど増えています。ただそれでも1クリニック・1日あたりで平均で80名ほどの患者さんが来ます。全国平均でクリニックの収入が年ベースで6000万円程度・収益が2000万円程度を稼いでいます。この程度を稼ぐことができれば通院人口を確保できそうな今後10年から20年程度はそれなりに経営はできそうな気がします。ただその後は日本の人口も急減していきます。そうなると皮膚科のクリニックでも人口減少の影響を受けそうです。

患者をさばくのに精一杯のところも多い

皮膚科クリニックも1日の患者数が平均で80名ほどいます。1時間に8名から9名を診察しても9時間から10時間程度はかかってしまいます。そこにスタッフの昼休憩が入るとまさに朝から晩まで診察という状態になります。体力的にも精神的にも厳しい仕事になります。さらに夏季は患者さんが増えますので現場は地獄になります。

1時間に8名から9名ということは1人あたりの診察時間は6分程度になります。患者の入れ替わりもありますのでその時間も引かなければなりませんのでだいたいこの程度になります。この6分という時間を割ると患者さんにとってのストレスが増すようなのでギリギリという時間で診察を行っているということになります。

皮膚科も増えていますが患者さんもそれなりには増えているので診察時間や人数が変わるということは当面ないかもしれません。流れを変えていくことはしばらくは難しそうです。

美容部門をどこまで行うか?

皮膚科の診療はアトピーやじんましんなどの治療のような保険診療だけではなくなってきています。最近は美容整形やデトックスなどのようないわゆる自由診療の領域に手を出すクリニックも多くなってきています。実際に保険診療のクリニックよりも自由診療のクリニックの方が稼げます。ただそこに医師としての責任感が出てきて悩んでいる医師の方もいます。難しい問題です。

クリニックの開業医であれば素直に稼げるところを行えればいいのではないか。ただそこに踏み込むには勇気が要ります。自由診療をメインに保険診療も行う皮膚科クリニックを開業しても良いのではないかと思われます。

皮膚科の収入

収入=患者数×客単価に診療報酬の点数が比例してきます。

皮膚科の診療所の場合は月平均の患者数を1800人・客単価が2800円程度になっています。そうなってくると診療所に入ってくる1年の収入は1800円×2800人×12か月=6048万円程度になります。皮膚科では経費を引いても2000万円程度の利益は少なくても手元に残りそうです。この収益は医師自身の収入といっても過言ではありません。こうしてみると皮膚科の開業医にもそれなりの収入は入りそうです。

皮膚科の経費


今までは収益の面でみてきました。今度は医療スタッフや設備などのコストの面を考えていきます。

まず皮膚科クリニックなどを経営するには建物が必要です。建物を買うか・借りるか。またその費用を一発現金で払うか・ローンで払うかという問題が出てきます。そこで購入・一発現金以外の場合は毎月の建物のローンが発生します。このローンの額は地方・都市部。駅近く・郊外などによってかなりのばらつきが出ます。おそらく最低でも月20万円・都心部などの高いところでは80万円クラスの規模になってもおかしくはありません。皮膚科クリニックも眼科や耳鼻咽喉科同様にさほど広い施設を必要とはしないのかなという気がします。この面では建物の費用はそれなりに抑えられそうです。

また人員面でも医師と看護師2名がいれば大きな問題はなさそうです。さすがに1名では万一がありますので2名以上いることが理想的といえます。事務員さんなどは奥さんや身内の方に手伝ってもらうことも可能ですがそれでも多少の人件費はかかってしまいます。いずれにしても固定費もそう簡単には減らせません。この収入が減る・固定費が変わらないというところがクリニック経営の難しいところでもあります。

建物・器具・人件費などでで皮膚科のコストはだいたい3000万円程度はかかるといわれています。他の科よりも膨大にかかるというわけではないのですがそれでもかなりのコストがかかるのではないかと思われます。

収益=収入ーコストで計算できます。前年度の収入が年間6000万円・固定費などのコストが3000万円であれば6000万円‐3000万円=3000万円程度は手元に残ります。

収入はほぼ横ばいと仮定して100万円くらいプラスで考えていきます。人件費は少しずつ高騰していくので10年で100万円くらいの出費がさらにかかるものと計算します。となると数年後には6000万円‐3100万円=2900万円になります。患者さんもしばらくの間は維持できそうですのでそれなりの収益は出そうな気がします。

どこに皮膚科を開院するか?

皮膚科をどこに開院するかは大きな問題になりそうです。皮膚科クリニックは専門医院なので患者さんは優秀な実績のあるクリニックに行く傾向があるようです。一般的な20万都市といわれているところに専門的な皮膚科クリニックは10から11ほどで十分といわれています。それ以上の数になると無駄な競争をする必要が出てきてしまいます。

また都市部でも主要駅近くや住宅街などの人口の多いところや地方だとショッピングモールの近くなどは競合院も多くなります。さらに建物の賃料や保証料なども高めになる傾向がありますのでこの面でも難しい問題になります。

開業する際には患者さんがどのクリニックをメインに利用しているかなどの綿密な実地調査が必要になってきそうです。あとはどのような年代層の方がいてどのような治療を望んでいるかなどの患者心理などを知ることも重要になってきそうです。

患者対応も重要


皮膚科クリニックの場合も患者数が多くなりますので患者さんへの対応が重要になります。患者対応が悪くなると口コミなどで悪評を言われてしまうと一気に患者が減ってしまってクリニックの経営自体に問題を起こしてしまうこともありますので看護師の方を中心とした対応が重要になります。

都市部のクリニックはこの面はできているところが多いのですが、まだ地方のクリニックでは昔ながらの手法で行っているところも多く患者対応が雑になっているところも少なくありません。ネット時代になってくるとこの面での対応を地方のクリニックも行う必要が出てきますのでこの面は注意事項になります。

あとは自由診療をメインに行うところでは美容整形などの手術の成否も影響します。特に女性にとっては命と同じくらいの価値を持って美容整形などを行う方もいます。失敗させてしまうと大きな問題にもなり得ます。しっかりとした手術の技能と丁寧なカウンセリングを行うことを心掛けるべきです。

自由診療の方が稼ぐことはできるのですが難しい問題もありますので、総合すると一長一短なのかなという気がします。皮膚科クリニックを開業する際は、財務・経営に精通した税理士選びも大きなポイントになります。

皮膚科クリニックのデータ作成

 K医院(分業)
実患者数2228
延患者数3190
平均来院回数1.431
初診料1520(68.2%)
初診:乳幼児加算164
初診:妊婦加算2
初診:乳幼児夜間加算 
初診:夜間・早朝等加算9
再診料1432
同日再診料2
電話等再診 
再診:乳幼児加算173
再診:夜間・早朝加算10
再診:妊婦加算 
時間外対応加算1 
時間外対応加算2 
明細書発行体制加算1432
外来管理加算761
診療情報提供料3
皮膚科特定疾患指導管理料176
皮膚科特定疾患指導管理料168
皮膚科軟膏処置491
創傷処置20
熱傷処置11
いぼ焼灼法9
いぼ等冷凍凝固法543
皮膚科光線療法187
皮膚レーザー照射療法2
軟属腫摘除107
四肢・躯幹軟部腫瘍摘出術 
皮膚血管腫摘出術1
皮膚腫瘍摘出術 
皮膚・皮下主要摘出術2
細菌顕微鏡検査221
血液学的検査判断料47
免疫学的検査判断料76
尿・便等検査判断料5
微生物的検査判断料198
生化学的検査判断料42
呼吸機能検査等判断料< 
外来迅速検体検査加算87
単純撮影8
CT撮影 
超音波検査 
胃・十二指腸ファイバースコピー 
骨塩定量検査 
心電図 
負荷心電図 

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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