内科クリニックの現状と財務・経営戦略

公開日:2019年8月2日
更新日:2024年3月18日

はじめに

内科の現状

内科医の年収は開業医で2500万円程度、勤務医で1600万円程度と言われています。世間一般のサラリーマンで働いている方と高めの年収ですが医師の激務・社会的責任ということを考えていくと決して高い年収ともいえないのかなという気がします。このような面からみても内科は意外にも厳しい現実に立たされているような感じがします。
最近内科専門もしくは内科を中心に行っているクリニックの収益が10年前と比べておよそ8%から1割近く減少をしているようです。そのようなことと相まって内科を志す医師も少なくなっているようです。

このように内科の収入の原因としては都市部を中心に新規のクリニックや医院などが増えていること・地方を中心に高齢者が病院に通いにくくなったこと・年齢が高くなっても診療の自己負担があまり減らないこと・医師の診療の負担を減らすための診察と投薬の長期化などがあげられます。

また、クリニックだと大きな病気の手術などを行うことが原則難しいこと・また入院のためのベッド数が20床未満などということもあって1人の患者からまとまったお金を取ることができません。地道に診察と投薬という形で稼いでいくしかありません。

このような面からみても内科関係のクリニックの収益が減少しているという方向に進んでいるのという気がします。今後もこの傾向が続いてしまうかもしれません。

内科の収益が減少する原因とは?

内科のクリニックの収益が減少する理由はそろっています。特に競合の多い都市部では深刻な問題になります。収益が5%くらい下がってもいいではないか?なんて考えていると痛い目に遭います。建物の賃貸費用や人件費は基本的に削ることが難しいからです。このようになってしまった理由をいくつか考えていきます。

診療報酬の改定~理由その1

まず診療報酬の改定で初診・再診料の点数が4%ほど下がりました。これで患者数が現状維持であれば収益はこれだけで3%減少になります。医科クリニックの初診の点数が282点から270点、再診の点数が72点から69点に減少しました。これでほぼ4%の減少です。薬剤に関していえば現状維持か少し上がった感じはします。ただトータルで考えていくと1診察あたり3%程度の減少になっています。けっこうな痛手になります。

クリニック数の増加~理由その2

さらに医院数の増加という問題があります。クリニックは年間に1000院程度増えています。これは平成を通してあまり変化がありません。平成20年当時は10万院ほどだったのが平成28年には10万8000院程度まで増えています。8年で8000院増えていますので単純に年間1000ペースで増えています。

その中で内科クリニックはクリニック全体の総数・増加数ともにその3分の2ほどで平成20年に65000院ほどだったのが平成28年には7万弱ほどと5000院弱ほど増えています。病院に通う患者さんの総数が変わらなければ病院の増えるペースと反比例の関係になります。よって毎年1.5%程度の減益になってしまいます。

超高齢化~理由その3~

日本は高齢化社会が超ハイペースで進んでいます。すでに2018年9月時点で70歳以上の高齢者が20%を大きく超えています。この高齢化率は世界一となっています。この高齢化率に伴って診療報酬の改定が行われました。

以前は高齢者は自己負担率が1割で済みました。ただこの高齢者医療制度で75歳以上の方の医療費の負担は今まで通り1割です。ただ70歳以上74歳未満の方は2割・さらに65歳以上69歳未満の方の医療費負担は現役世代同様の3割になりました。また年齢に関係なく高齢夫婦で世帯年収が520万円以上・個人で383万円以上ある方は現役世代と同じ負担率の3割を払うことになりました。

その結果病院に行かなくなってしまった高齢者がかなり増えているという話になっています。高齢者の生計のあては主に企業からの退職金・年金・保険などの収入です。自分で稼いで収益を得ているという高齢者はそう多くはありません。最近シルバーワーカーなども含めて60代・70代の方も社会参加しています。それでも多くの方は年収100万円から150万円程度で留まっているはずです。

また会社経営などを行っている方もいますが多くは子供などの若者に任せて儲かり分の権利収入という形でいただいている方が多いです。それが最も効率的な収入と言えますが現役世代の方と同等に自分で稼いで得たものではありません。よって医療費も含めて使うことに抵抗が起こっても不思議ではありません。

国としては日本の中で数の多い・さらに病院に罹る方の割合の高齢者層から負担をいただきたいという気持ちは理解できます。ただ今までは1割だった医療費の負担が2割・3割になってしまったら生活の面で厳しくなる高齢者も出てきます。

高齢者になるとよく病気をします。あれこれ体の不調が出てきます。1割負担でも医療費で月1万円程度をかけている方もいます。それが2割・3割になると2万円・3万円になるということです。こういうことを考えてみるとけっこう大変だなという気がします。

ということで病院に行かなくなる高齢者も増えています。高齢化率が異常なので病院に行く高齢者数自体は当然ながら毎年増加しています。ただクリニック自体で増益というわけではありません。

入院日数の減少~理由その4~

これは診療報酬の減少とも絡んでいるのですが、国自体に全体的な財源が乏しく今後医療費を削減していく方向に進むのではないかと言われています。入院日数の減少もその例です。がんや脳疾患などで本来であれば入院させるべき患者さんを強引に退院させているケースもあります。私の親類の方もこれで退院させられたこともあります。なるべく病院よりも在宅でという方向で今後医療が進んでいくようです。

この入院日数の減少というものが病院の収益を下げています。病院の入院日数が平均で1割減少するとクリニックの収益も下がります。クリニックだと入院という概念はあまりありませんが多少の病床数を確保しているクリニックにとってはこれで年間百万単位で収入を落とすことがあります。

在宅医療は病院の嫌いな高齢者の方にはありがたいです。ただ子供がなく身寄りの少ない方も多くいます。そのような方はどうやって今後を暮らせばいいのかの不安は尽きません。この点からみても難しい問題です。

医療スタッフや設備などのコスト

内科のコスト

今までは収益の面でみてきました。今度は医療スタッフや設備などのコストの面を考えていきます。

まずクリニックを経営するには建物が必要です。建物を買うか・借りるか。またその費用を一発現金で払うか・ローンで払うかという問題が出てきます。そこで購入・一発現金以外の場合は毎月の建物のローンが発生します。このローンの額は地方・都市部。駅近く・郊外などによってかなりのばらつきが出ます。おそらく最低でも月10万円・高いところは100万円近くなってもおかしくはありません。

さらに看護師などのスタッフを確保する必要があります。内科のクリニックの多くは医師と看護師で足ります。ただ臨床検査技師やリハビリ士などのスタッフが必要になります。この看護師などのスタッフの月収を減らすことは基本的に難しいです。長く働いていただいた方には昇給をする必要があります。新規のスタッフを採用するとなると年間何百万円という経費がかかることがあります。

収益の計算をしてみると

収益の計算

収入=患者数×客単価に診療報酬の点数が比例してきます。在宅医療を志す方はそれなりにいます。ただそれを超える数の高齢者がいます。患者数は高齢化社会で増えていきます。患者数が1割増えても競合が年間数%程度増えていきます。さらにクリニックの場合は客単価が稼げません。さらに診療報酬が数%程度減少します。こうなってくると収入を維持するのは大変になります。

さらに建物などのコスト・人件費などの固定費もかかってきます。人件費がかからないのでこの固定費が基本的には減りません。ただ備品などのローンの返済が順調に進めばまだいいのですがここが進まないと難しいです。いずれにしても固定費もそう簡単に減らせません。

この収入が減る・固定費が変わらないということになってくると大変なことになってきます。

収益=収入ーコストで計算できます。前年度の収入が年間6000万円・固定費などのコストが4500万円であれば6000‐4500=1500万円手元に残ります。

この収入が6000万円から仮に7%減って年間5580万円になるとこの収益が1080万円になってしまいます。1年で420万円も収益が減ってしまうのはかなり不安になります。

ホームページでの集患も重要

ホームページ集患

ホームページで集患をしたり、スタッフを求人したりする医院が増えてきました。

ただこのホームページを自身で作る方は多くありません。ホームページを制作業者に任せる方が多いです。その制作料金が結構高く150万円くらいかける方も多くいます。ただその制作をしても収益に結び付きにくいホームページを作ってしまうホームページ業者がいます。デザイン性はあっても検索に上手く表示されないホームページもあります。

地域や診療科目を意識してタイトルに盛り込むこと・医師や看護師の見栄えの良い写真やプロフィールなどを意識して作ればそれなりに検索はされると思われます。あとはクリニックの場所をしっかりと明記しておくことも重要です。通いやすい、そして、行きたくなるようなホームページ制作を心掛けるべきです。

「診療科目+地域」(「内科 渋谷」など)と検索すると、Googleのマップが自然検索より上に表示されます。

最近は、ここからホームページに訪れる患者さんの数が増えています。Googleのマップ対策(マップエンジン最適化)も重要になっています。ただ、過度のマップエンジン対策はGoogleからペナルティを受ける可能性もあります。

《合わせて読んでおきたい:医院・クリニックのホームページ制作で気を付けたい7つの対策

クリニック側の努力も必要

さらにクリニックの開業する医者や看護師などの努力も重要になります。いくら優れたホームページを作って集患がうまくいっても肝心のスタッフの対応が雑だったり不機嫌な対応を取ってしまうようであれば安定経営は望めません。

クリニックなどは特に女性の口コミで持っているところもありますので患者さん対応という面ではしっかりと行う必要があります。ここが丁寧か雑かで年間の収益が2・3割は変わってくるのではないかと考えています。クリニック経営を行っていく上でとても大事なところといえます。

3割弱が廃業!?都市部のクリニック経営は激戦

都市部のクリニックは本当に通って気持ちのいいほどのクリニックや専門病院が多いです。もう来なくていいと言われても来たい・診てほしいというところもあります。

ただそのような都会のクリニックも数年で10院に3院弱は残念ながら廃業をしているようです。私は千葉県境の都内在住で地元のクリニックがどんどん潰れているような印象はないのですが全体的にはそうなっているようです。新規開設するクリニック数と閉院するクリニック数がさほど変わらない地域もあるとのことです。

クリニックを閉院してしまうと院長さんなどの開業医をしていた方もまた勤務医として再スタートしなければなりません。これは本当に大変なことです。年齢も高くなってしかも借金なども抱えてしまうこともあります。金銭的・肉体的・精神的にもすごく大変になります。そうならないようにしっかりとしたクリニック経営をしていただきたいです。クリニックの財務と経営を知り尽くしていて、かつ、柔軟な対応をしてもらえる税理士を見つけると良いでしょう。

内科のレセプト請求の事例

 A医院(分業)B医院(分業)C医院(非分業)
実患者数110711431018
延患者数207618791095
請求点数   
平均来院回数1.881.641.08
診療単価   
レセ単価   
初診料153389114
初診:機能強化加算10829897
初診:夜間・早朝等加算149  
初診:乳幼児加算1897
初診:妊婦加算 4 
再診料18481548876
同日再診料732
電話等再診8  
再診:夜間・早朝加算89326
再診:休日加算5  
再診:乳幼児加算316
再診:妊婦加算147
時間外対応加算   
時間外対応加算1869654 
明細書発行体制加算1869654198
地域包括診療加算1   
地域包括診療加算2768  
認知症地域包括診療加算1   
認知症地域包括診療加算234  
外来管理加算1978864962
診療情報提供料118912
調剤技術基本料   
消炎鎮痛等処置   
運動器リハビリテーション料3   
血液学的検査判断料37616596
免疫学的検査判断料(144点)1182934
尿・糞便等検査判断料(34点)819
微生物学的検査判断料(150点)634
生化学的検査判断料(144点)450297216
呼吸機能検査判断料(150点)521
外来迅速検体検査加算(10点)28 1
単純撮影316546
CT撮影   
MRI撮影   
超音波検査181235
胃・十二指腸ファイバースコピー(1140点)8  
大腸ファイバースコピー(1550点)   
骨塩定量検査9  
心電図19345
脳波図1 4

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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