はじめに

クリニックにもよりますが、医師や看護師は緊急の呼び出しなどで休日出勤する機会も少なくありません。

そこでクリニックの労務管理上重要になるのが、休日出勤した日に代わって休日を設ける振替休日や代休です。

振替休日と代休を区別して運用しているクリニックはさほど多くないのですが、この2つは似ているようで重要な違いがあるので注意しましょう。

そこで本記事では、振替休日と代休の具体的な違い、法律上の取得期限、代休の取得推進のための仕組みづくりについて詳しくお伝えします。

休日出勤や長時間労働が蔓延しているクリニックの院長先生は、ぜひご覧になってください。

振替休日と代休の違いとは?

振替休日と代休の違いを簡単に言うと、次表のようなイメージになります。

振替休日 代休
労働基準法に基づく 労働基準法に定めはない
事前の振替 事後の振替

具体的にどういうことか、詳しくお伝えしていきます。

振替休日とは?

振替休日とは、所定の休日と労働日を事前に入れ替えることです。

例えば、日曜日と同一週の火曜日を入れ替えた場合に、もともと休日だった日曜日が労働日となり、火曜日が休日となります。

この場合、休日と労働日を入れ替えただけなので、日曜日の出勤は休日労働扱いにはならず、休日割増を支払う必要はありません。

しかし、翌週に振り替えたことで、その週の法定労働時間を超えるようなことも考えられます。その場合は週の時間外労働に対する割増賃金を支払う必要があるので注意が必要です。

労働時間は日単位と週単位の両方で確認をしますので、週の法定労働時間を超えたときには割増賃金部分の0.25が発生します。

なお振替休日を行うときには就業規則などでできる限り、休日振替の具体的事由と振り替えるべき日を規定することが望ましいとされています。

代休とは?

振替休日が事前の振替だということに対して、代休は休日出勤後の処理方法になります。つまり実際に休日労働をしたあとに、その代償として他の日に休ませるのが代休です。

代休については労働基準法に根拠はなく、任意規定なので必ずしも代休を与える義務はありません。

しかし事後に休日を与えたとしても、休日労働した日が法定休日であれば35%、法定外休日であれば25%の割増部分の支払いが必要です。

ただし、同一週内に代休を取得した場合は、週当たりの勤務時間に変更がないため割増賃金は発生しないこともあります。

また代休は任意規定とはいえ、制度として運用する場合は運用ルールを就業規則に規定する必要があります。

振替休日と代休との違いまとめ

以上、振替休日と代休の違いについてまとめると次表のようになります。

振替休日 代休
制度の内容 36協定が締結されていない場合などに、休日労働をさせる必要が生じたとき 休日振替の手続きをとらずに、休日労働や長時間労働を行わせたあとに、その代償として他の労働日に休日を与えるとき
行われる場合の要件 ・就業規則に振替休日などの規定があること
・前日までに振替日を指定する
・振替休日では、できるだけ近接した日が望ましい
任意の規定なので、代休を与えるか与えないか、代休日を無給とするか有給とするかはクリニックが自由に決めることができる
休日の指定 クリニックが指定 クリニックが指定することもあれば、スタッフが申請することで与えることもある
賃金の支払い 振り替えた休日が同一週の場合、休日割増賃金は発生しない。ただし、休日の振替により週の法定労働時間(40時間)を超えた場合には、この部分について時間外割増賃金が必要になる 休日の出勤日については割増賃金の支払いが必要(法定休日の場合)。ただし休日出勤が所定休日の場合でも、休日出勤によって週40時間を超える法定時間外労働が発生すれば時間外割増賃金の支払いが必要

振替休日や代休をいつ与えるか? 法律上の取得期限はあるのか?

代休と振替休日の取得期限は特に法律で定められていません。

振替休日については通達が出ていますが、「振り替えるべき日については、振り替えられた日以降できる限り接近している日が望ましい」とされている程度です。明確に期日が定められているわけではありません。

ただしもちろん医師や看護師が連続出勤になったり、長時間勤務になることを避けて健康管理に配慮する必要はあるでしょう。

そこで振替休日の通達のように、できるだけ休日出勤した日と接近した日に振り替えるか代休を与えるのが理想と言えるでしょう。

代休制度の取得基準、取得期限を明確にルール化しよう

おそらくクリニックの場合、急な対応などで休日出勤する場合が多いでしょうから、振替休日よりは代休の方が利用頻度は多いと思います。

しかし休日出勤日に近い日に代休を与えるのが理想とはいえ、現実的には代休の取得促進が進んでいないクリニックも多いのではないでしょうか?

代休制度はあるが人手不足もあってなかなか取れない。医師や看護師に代休を取るように言っても業務多忙を理由になかなか取らない。

振替休日は事前に振替日を指定する必要はありますが、代休は任意の規定なので、それだけ曖昧になりがちです。

しかも取得期限が法律上定められていないこともあり、制度が形骸化しているクリニックも少なくないでしょう。

取得期限を設定せず「取れるときに取ってください」としたり、「取得期限は半年」など期限が長すぎる場合は、代休の取得促進に繋がりません。

代休制度を設けるのであれば、次のように明確にルール化するなどの仕組みづくりが必要です。

スタッフからの申請ではなく、しっかり制度化する

代休をスタッフからの申請方式にすると、業務に追われて代休を取得しないケースが多くなります。

時間外・休日労働が一定時間数に達したら、必ず代休を取得させるように制度化することで実効性が高まります。

代休の付与基準を明確にする

「1ヶ月の時間外労働の時間数が◯時間を超えた場合、もしくは休日出勤を1回行ったら代休を1日付与する」

このように代休の付与基準を明確にすることで、院長先生はスタッフの代休を指示しやすくなるでしょう。

代休取得期間を設ける

休日出勤を行った月の翌月1~20日の間に代休を付与するなど、取得期間を設定します。

また「特別の事情がない限り代休は必ず取得すること」とある程度強制力を持たせるのも良いでしょう。

半日代休を運用してみる

丸一日休むことが難しい場合でも、半日代休であれば実効性があり、総労働時間の削減に繋がることがあります。

ただし、暦日休日制の原則(休日は午前0時から午後12時までの暦日で付与する)には反してしまいます。

制度化するにしても「スタッフの希望」により代休を付与するのが良いでしょう。

オンコール時間に対する代休を付与するか?

医師や看護師の場合はオンコール時間が発生することもあるでしょう。

特に今は在宅医療が増えているので、ますますオンコール対応のニーズは高まっていくでしょう。

しかしオンコールについては労働基準法には明確な規定はありませんが、一般的には労働時間とはみなされないことが多いです。

それでは、オンコール時間に対する代休の付与についてはどのようにすれば良いでしょうか?

実際に呼び出されて勤務する場合と、結局呼び出しがなかった場合に分けて解説します。

※なお、医師や看護師が自宅ではなくクリニック内で待機する場合は「手待時間」と言って労働時間として扱われます。

実際に呼び出されて勤務した場合

結論としては、実際にクリニックに呼び出されて勤務した場合は代休の付与が必要と考えられます。

オンコール体制をとり、夜間などに急に呼び出されて実際に働いた場合は時間外労働となります。

業務に従事した時間分の割増賃金を通常の賃金(実労働時間分)に加えて支払う必要があります。

翌勤務日を代休とするかどうかは、先に書いたようにクリニックの裁量で決められます。ただし、代休を翌勤務日に与えないにしても、出勤時刻を遅らせるなどの配慮は必要でしょう。

なお、この際に代休ではなく有給休暇で処理することは望ましいことではありません。

有給休暇の請求権はスタッフにあるので、原則的に勝手にクリニックが代休ではなく有給休暇として処理することはできないためです。

クリニックからの呼び出しがなかった場合

クリニックから呼び出しがなく実際に勤務していない場合については、先に書いたように法的には労働時間とはなりません。

そのため、クリニックは代休を与える必要はないでしょう。

【まとめ】振替休日や代休取得の明確なルール化を

以上、休日出勤時の振替休日や代休の違いについてお伝えしました。似ているようで、実はかなり重要な違いがあったのがわかったかと思います。

振替休日については労働基準法に基づいており、事前に休日出勤日と振替休日を指定する必要があります。

しかし代休については労働基準法に基づいておらず、クリニック側に委ねられます。

それだけに代休制度については形骸化してしまっているクリニックも多いでしょう。

スタッフの健康管理のために代休の取得を推進するには、代休制度の取得期間など明確なルールを定めるようにしていきましょう。

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この記事の執筆・監修はこの人!
プロフィール
亀井 隆弘

社労士法人テラス代表 社会保険労務士

広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。

                       

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