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はじめに
医院・クリニックの院長先生が日々悩まされる問題の1つが、働くスタッフのモチベーション維持です。
「みんなやる気ないな……」
「看護師のAさんが最近元気ないけど、どうしたのかな?」
「スタッフに辞めたいと言われてしまった……」
このような悩みのない先生の方が、むしろまれではないかと思われます。
しかし、多くの先生が理想としているのは、スタッフ一人ひとりがイキイキと働き、全員が笑顔で働いている光景ではないでしょうか?
今回は、スタッフのモチベーションがどのように医院経営に影響を及ぼすか、そしてモチベーションを高める秘訣についてお伝えします。
スタッフのモチベーションの高いクリニックと低いクリニックの違い
スタッフのモチベーション維持はクリニックの日々の労務の中で、非常に重要な役割を担います。
スタッフのモチベーションの高いクリニックと、そうでないクリニックの違いを表にすると、医院経営に雲泥の差が出るのがわかります。
モチベーションの高いクリニック | モチベーションの低いクリニック | |
---|---|---|
患者対応 | ||
患者満足度 | ◯(高い) | ☓(低い) |
患者の再診率 | ◯(高い) | ☓(低い) |
クレーム | ◯(少ない) | ☓(多い) |
口コミ | ◯(良い) | ☓(悪い) |
利益率 | ◯(上がる) | ☓(下がる) |
スタッフ問題 | ||
労使間トラブル | ◯(少ない) | ☓(多い) |
離職率 | ◯(低い) | ☓(高い) |
生産性 | ◯(高い) | ☓(低い) |
ストレス | ◯(低い) | ☓(高い) |
人間関係 | ◯(良い) | ☓(悪い) |
チームワーク | ◯(良い) | ☓(悪い) |
スタッフ採用 | ◯(有利) | ☓(不利) |
スタッフのモチベーションを高める4つの方法それだけに、スタッフのモチベーションは院長先生にとっては大きなストレス要因であり、同時に大きな関心事なのです。
それでは、スタッフのモチベーションを高める方法についてお伝えします。
どれか1つでも、先生のクリニックや働くスタッフに合った方法を実践してみると、劇的にモチベーションが改善されることがあります。
「これは意識してなかったな」と思ったことは、1つでも実践してみると良いでしょう。
自院に合わないスタッフを採用しない
スタッフのモチベーションや人間関係の問題を解決するために、一番確実で効果が高いのが、そもそも自院に合わないスタッフを採用しないことです。
モチベーションや人間関係というと、現存のスタッフにばかり目を向けがちですが、一番注意しないといけないのはスタッフ採用です。
最初からやる気のあるスタッフだけ採用していれば、モチベーション低下に悩んだり、退職や労使間トラブルに悩まされる確率は下がります。
自院に合ったスタッフを採用するには、まずは面接時や求人広告で給与や福利厚生の話から始めないことです。
給与や福利厚生も重要ですが、それだけでは、少しでも嫌なことがあるとすぐにやる気をなくすでしょう。
せっかく採用してもすぐ辞めてしまったり、トラブルを起こす可能性も高く、周囲のモチベーションを下げてしまいます。
むしろ、クリニックの理念や方針を共有することの方が先です。
理念や方針に共感した人はやりがいを持って働いてくれますし、周りにも良い影響を与えてくれます。
スタッフ採用で重要な「長く働いてくれるスタッフを採用」を実現しやすいでしょう。
もし、スタッフの定着率や、全体のモチベーションに問題を感じるようでしたら、まずは採用から見直すと良いでしょう。
しかし、クリニックの実態が理念や方針から大きく乖離していれば、やる気のあるスタッフの離職に繋がるので要注意です。
古典的な自己啓発書や他人が薦める本を読む
コミュニケーションやマネジメント、成功哲学に関する本は昔からたくさんあり、最近はこれらについてクリニックに特化した本も出版されています。
ただ、本屋に行っても、Amazonで検索しても、あまりに多くて何を読んだら良いかわからない先生も多いのではないでしょうか?
しかし、多くの本は各々切り口が違うだけで、大元となる原理原則はそんなに変わらないことが多いです。
そのため、まずは何を読んだらわからない先生は、次のような本を読むと良いでしょう。
- 古典的で有名な自己啓発書
- スタッフのモチベーションが高く、医院経営に成功している先生がすすめる本
- 医業だけでなく、異業種でも経営に成功している経営者がすすめる本
古典的で有名な自己啓発書としては、例えばスティーブン・R・コヴィーの「7つの習慣」や、ナポレオン・ヒルの「思考は現実化する」「成功哲学」があります。
多くの経営者のバイブルとなっているピーター・ドラッカーの本も、古典的な自己啓発書の部類になるでしょう。
これらの本は、ときに完訳本が難解で難しいことがありますが、古典的名著についてはマンガ版などもあるので、併せて読んでみると良いでしょう。
その他、読んでおきたい本は、上記のように、スタッフのマネジメントがうまくいっている人が薦める本です。
読書の時間を確保するのは大変ですし、本の内容を活かせなければ意味がありません。効率的に良書を探すようにしましょう。
好敵手の存在がスタッフを成長させる
人間関係の悪いストレスフルなクリニックで、スタッフがやる気を持って働くことは不可能です。
それだけに、スタッフのモチベーション維持のためには、安心・安全な職場であることが必須です。
しかし、安心・安全な職場であると同時に、「がんばろう」と思わせるような刺激も必要です。
そうでなければ、ただ安心・安全な職場に依存し、成長することなく伸び悩むスタッフが出てくるからです。
成長意欲がないので働くモチベーションの減退が進み、それがスタッフ全員に蔓延し、全員のやる気の低下に繋がります。
やる気の低下に繋がれば、人間関係も徐々に悪くなり、安心・安全な雰囲気も保てないでしょう。
では、スタッフ本人が「もっと成長したい」と思えるような、刺激のあるクリニックになるにはどうするか?
それが好敵手の存在です。好敵手とは、試合や勝負事で力が同じくらいの、良いライバル関係にある人のことを言います。
マラソンでは、タイムが同じくらいの選手が競い合えば、どちらにとっても良いペースメーカーになるため、両方とも自己ベストを出しやすくなります。
これは仕事においても同じことが言えます。
同じ年齢で、同じくらいの力量のスタッフが互いに認め合い、しのぎを削るかのように互いに成長する。
院長先生や先輩スタッフが叱咤激励する前に、勝手に「こうしたら良いよ」「ああいう風にしたらどう?」みたいな議論も活発になる。
このようなスタッフが2人いれば、お互いの向上心が刺激され、非常にモチベーションの高い状態で仕事をすることができます。
もちろん、早い段階でスキルアップが見込めますから、重要な戦力となるのは言うまでもありません。
敢えて2人1組で競わせるような仕組みを作るのも有効です。
気をつけたいのは、このような闘争本能と、嫉妬や劣等感は紙一重であることです。
あくまでもお互いが認め合うことが重要なので、個人間の競争と同時に、組織力を高めないと逆効果になる可能性があります。
先生や先輩スタッフに意見が言いやすい雰囲気を作る
スタッフのモチベーションが下がっていて、院内の雰囲気もギスギスしている場合、院長先生がボスマネジメントに陥っている可能性があります。
ボスマネジメントとは、「院長の言う通りに動いてくれれば良い」というトップダウン型のマネジメントです。
院長先生の方針を伝えることはとても重要ですが、スタッフが反論したり、意見を言い合える風通しの良さがないとモチベーションは維持できません。
ボスマネジメントは、指示待ち人間のようなスタッフには有効かもしれませんが、自主的に動くスタッフにとってはマイナス要因になります。
さらに立場を越えた意見交換ができない組織は、組織力の高いクリニックに比べ、突発的なトラブルに非常に弱くなります。
2008~2013年までサッカーの名古屋グランパスで監督をしていた、ドラガン・ストイコビッチ元監督の例をご紹介しましょう。
ストイコビッチ元監督は、選手と同じ立場でいようと努めたことで知られています。
「監督と選手の間には、リスペクトがなければならない。
それは勝手に生まれるものではなく、日頃の触れあいが培う信頼や信用によってついてくる。
選手によって性格は違うから、接し方は変えなければならない。
選手からの意見はもちろん受け入れるし、質問に対する答えは相手を納得させられるものであるべきだ。
選手と私がお互いを理解していることが、このチームの力の源になっている」ストイコビッチ元監督
このストイコビッチ元監督の言葉は、監督⇒院長、選手⇒スタッフと言い換えれば、そのままクリニックに当てはまるでしょう。
今後クリニックが発展し続けるには、お互いを尊重し、何でも言い合える雰囲気があることは必須条件になります。
【まとめ】何でも言い合える風通しの良さと闘争本能をミックスしたクリニックづくり
以上、クリニックで働くスタッフのモチベーションを高くする方法をお伝えしました。
- 自院の理念や方針に共感できるスタッフを採用する
- 本を読むなら古典的名著と他人が薦める本
- お互いを認めながらも闘争本能を掻き立てる雰囲気づくり
- 何でも言い合える風通しの良いクリニックにする
このうち1つでも改善できれば、クリニックの雰囲気は劇的に変わり、スタッフが笑顔でイキイキと働くことができます。
できるところから実践して、組織力の高いクリニックを作っていきましょう。
ご相談・お問い合わせ

- 亀井 隆弘
社労士法人テラス代表 社会保険労務士
広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。
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