「自己資金はいくらくらい用意すればいいの?」
「祖父や祖母が開業資金を援助してくれると言っているけど、注意点は?」
「本当に金融機関は融資してもらえるの?」
「開業したら、給料は?生活はどうなるの?」

医院開業する際に、まず気になることは、開業に必要なお金の準備、つまり資金調達ではないでしょうか?

資金調達には、自己資金、親族や知人からの借り入れ、金融機関からの借り入れ、補助金や助成金など様々な方法が存在します。

ここではぜひ知っておいていただきたい資金調達についてのポイントをお話します。

ポイントは、自己資金や金融機関の調達だけでなく、

開業資金の使途によって調達手段やタイミングは変わる

開業資金については、その使途や支払いがやってくるタイミングに合わせ、調達方法を組み合わせることがおすすめです。

必要な合計額を借入金などで使って一括で用意するよりも、必要に応じて調達を行っていくほうが、次のメリットがあります。

・支払うべき利息が少なくなる
・一括借り入れより融資を受けやすくなる
・使途によって有利な資金調達の手段がある

大きく分けて、開業資金の使い道には次の4つがあります。

使途資金調達手段で多いもの
1)テナント契約費用自己資金
2)土地・建物取得、建築・内装工事費用借入金
3)医療機器・備品借入金、リースや割賦の利用も一般的
4)開業経費・運転資金借入金、自己資金を残して充てるケースもある

1つずつ説明していきましょう。

テナント契約費用

テナント開業の場合、診療できる場所の確保が必要となってきます。
そのため、契約時の諸経費や敷金等を自己資金で賄うことも多くなるでしょう。
自己資金で対応することが多い傾向があります。

土地・建物取得、建築・内装工事費用

・土地を入手して病院を建てる場合
・すでにある病院を購入する場合
・リフォームなどの内装を行う場合

こうしたケースでは必要資金について、事業計画に沿って金融機関から借入金を調達して支払うことが多いでしょう。

ただし、不動産取得等の契約に伴い、手付金等を支払う場合には一時的に自己資金を充てたり、金融機関等から「つなぎ融資」を受けたりすることもあります。

医療機器・備品

医療機器や備品についても、事業計画に沿って設備資金から、借入金から支払うことが多いようです。

ただし使用期間が短い機器の場合には、リースや割賦(かっぷ)の利用も一般的です。

これらには後でご紹介するように、所有資産に比べ、固定資産税や保険等の管理手数料がかからない等のメリットがあるからです。

また、比較的少額のものは自己資金を充てることも考えられます。

開業経費・運転資金

医師会の入会金や開業時の印刷物、消耗品、スタッフ募集な内覧会等の広告費用が挙げられます。

多くは借入金を充てることになりますが、運転資金として、開業初年度分について自己資金を残して使うことも検討して良いでしょう。

資金調達を検討する際に4つの検討すること

資金調達を検討する際は次のことを押さえておきましょう。

自己資金をどの程度用意するか

自己資金としては、開業資金の10-20%程度を用意するのが一般的と言われます。
ただし最近では、色々な調達手段を組みあわせて、自己資金をほとんど出さずに開業することもできるようになってきました。

しかし、「貯金はほとんどありません」と言うより、手元に資金があるほうが金融機関の審査では有利になります。
なぜなら、行き当たりばったりで起業をしようとしているのではなく、計画的に開業準備をしていると判断されるからです。

また、ある程度貯金を貯めていた方が、堅実な経済観念を持っていると判断されやすくなるのです。

さらに開業後に自己資金を使い切り、追加融資を受けることになれば、
「事業計画や見通しが甘かったのではないか」
「経営者としての力量は大丈夫か」
と疑問を持たれ、融資を受けることは非常に厳しくなる傾向があるのも事実です。

自己資金が豊富にあれば、「良い物件を見つけた。このタイミングでぜひ手に入れたい」と思った時に、一括で手付金を支払うこともできます。

そのため自己資金をたくさん用意するに越したことはないでしょう。

融資条件の考え方

金融機関からの融資を受ける際には、次のような諸条件を考慮することになります。

・融資金額
・金利
・返済期間
・担保や保証人の有無

近年のクリニック開業資金では、無担保・無保証人の融資も増えつつあります。
融資金利は低く、また返済期間をなるべく長く設定したほうが経営に余裕が出るでしょう。

また返済期間を長く設定しておいた方が不慮の際のリスク回避になります。

開業時は何よりも資金繰りを重視すべきで、資金不足に陥ることを避けるためです。
もし資金に余裕があれば、その時に繰上げ返済を目指せば良いでしょう。

なお、借入金の返済方法には、以下の2つの方法があります。

元金均等返済元利均等返済
返済金額少ない多い
返済開始当初の返済額多い少ない
毎月の返済額だんだん少なくなる一定
元金の返済額一定だんだん多くなる

さらに金融機関の間では、医院開業を全面的にバックアップしようという流れができつつあります。

例えば診療所向け貸出商品「みずほクリニックアシスト」のような商品があります。
2023年3月現在、無担保の場合の融資金額は上限5000万円、金利は1%前後(変動金利)、返済期間は最長10年、連帯保証人不要、とかなり有利な条件です。

こうした商品を上手に活用することで、自己資金不足を補い、連帯保証人を立てられないようなケースでも医療開業が可能になるのです。

そのためにも融資を得る際には、必ず現実的かつ借入金の返済計画を記載した、事業計画書を用意しておきましょう。

リースと購入の賢い併用

開業時に必要な医療機器等で、買い替えずに長期使用するものはまずは購入を検討することをお勧めします。しかし、使用期間が比較的短い物品については、リースの利用を考慮しても良いでしょう。

5年間のリース契約を結んだとすると、5年後の期間満了時には、新たに再リース契約を結ぶか返却するかの選択もすることできます。

リース契約のメリット
  • ①融資審査を受けて購入するよりは利用が容易
  • ②融資枠を別に使える
  • ③所有資産に比べ、固定資産税や保険等の管理手数料がかからない
  • ④利用期間に融通が利く(利用期間の延長や短縮もできる)
リース契約のデメリット
  • ①融資金利よりは割高となる
  • ②途中解約ができない、できても違約金が生じることが多い
  • ③特別仕様の機器等には、原則利用できない
  • ④特別償却等の、税務上の特典がある物品では、特典が受けられないことになる

身内からの資金提供時の留意点

開業資金を検討していく上で、「開業するなら応援しよう」と両親や祖父母等、身内からの資金提供がある場合も少なくないでしょう。
その際のメリットとリスクを理解しておきましょう。

身内からの資金提供を受けるメリット
  • ①金利がない、もしくは非常に低く資金調達できる
  • ②返済金額や返済期間などを、比較的自由に決められる
  • ③身内からの資金は、融資審査のうえでも自己資金扱いとなりやすい
  • ④「返済しなくてよい」と言われることも多い
    (その場合、贈与税の負担を考慮することが必要)
身内からの資金提供を受けるリスク
  • ①税務署から「贈与」認定され、高額な贈与税を負担する可能性がある
  • ②身内から経営に介入される恐れがある
  • ③期待に応えられないと、人間関係が悪化する

上記のリスクがあるため、身内からの資金提供を受ける際には、可能な限り金銭貸借の形式を整えましょう。
借用書や金銭消費貸借契約書を作成して、各条件を明記しておくことです。

その際に、返済期間は現実的な期間を設定しましょう。
また、返済を行う際に、返済記録をしっかり残しておくことが、何よりの税務対策となります。

資金調達検討の優先順位付けと手順

資金調達の手段は、次の順に検討すると良いでしょう。
①自己資金
②補助金・助成金
③身内からの資金提供
④金融機関からの調達

最初は、何と言っても自分で用意する①自己資金、次に原則として返済の必要がない②補助金・助成金から検討します。

そして、上記のメリット・デメリットから身内から資金提供を受けられないかを検討し、最後に資金調達を検討します。

自己資金をいくらにするか決める

まずは、いくら開業資金が必要かを算定したうえで、上記のことをもとにいくら自己資金を用意するか決めます。

自己資金なしで開業することも不可能ではないですが、開業後の資金繰りも考慮して、ある程度の自己資金を用意することに越したことはありません。

補助金・助成金を活用する

補助金や助成金については、次のようなものがあります。
原則として返済の必要がないため、条件に当てはまる場合は積極的に活用を検討しましょう。(下記はいずれも、2023年3月現在のものです。)

創業関係の助成金

1つは、創業時に活用できる補助金・助成金で、開業医が申請できるものです。

創業時の補助金・助成金は開業医や医療法人が申請できないものもあるので注意しましょう。

事業承継・引継ぎ補助金

承継開業であれば、「事業承継・引継ぎ補助金」を活用してみるのもいいでしょう。
https://jsh.go.jp/r4/

こちらは医療法人ではなく、個人開業医に条件が限定されますが、以下の補助額が出ます。

補助率補助額
経営革新1/2100~500万円

(廃業費は上乗せ+150万円まで)

専門家活用1/2100~400万円

(廃業費は上乗せ+150万円まで)

IT導入補助金

業務効率や売上アップを目的としてITツールを導入する際は、IT導入補助金を活用するのもいいでしょう。

ITツールであれば何でもいいわけではなく、導入するツールが、補助金の対象になっているかどうか確認しましょう。

こちらは、個人開業医の方も医療法人でも申請が可能です。

補助率補助額
A型1/230~150万円
B型1/2150~450万円
セキュリティ対策推進枠1/25~100万円
デジタル化基盤導入枠2/3~3/4ソフトウェア購入費・導入関連費:5 ~350 万円以下

PC・タブレット等:下限なし~10 万円

レジ・券売機等:下限なし~20 万円

ものづくり補助金

新しい治療やサービスを提供するための設備の導入であれば、ものづくり補助金も検討してみましょう。

医療法人は対象外となりますが、個人開業医であれば対象です。

様々なタイプの枠がありますが、多くの場合に対象となる通常枠については以下の通りです。

補助率補助額
通常枠1/2~2/3従業員5人以下:100万円~750万円

従業員6~20人:100万円~1,000万円

従業員21人以上 :100万円~1,250万円

キャリアアップ助成金

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html

キャリアアップ助成金も要注目の助成金の1つです。

キャリアアップ助成金にも様々なコースがありますが、もっとも一般的なのが正規雇用等に転換または直接雇用する制度を規定し、有期契約労働者等を正規雇用等に転換した場合に支給される正社員化コースです。

助成金額は中小企業者の場合 有期→正規で57万円(生産性向上が認められれば72万円)、無期→正規で28.5万円(生産性向上が認められれば36万円)になります。

その他、以下のコースもあるので、該当する先生はチェックしておきましょう。

・障害者正社員化コース
・賃金規定等改定コース
・賃金規定等共通化コース
・賞与・退職金制度導入コース
・選択的適用拡大導入時処遇改善コース
・短時間労働者労働時間延長コース

身内から資金提供してもらう

次に、身内からいくらか資金提供してもらえないかを検討します。

ただ、その際は贈与税がかかる可能性など、上記のメリット・デメリットを把握しておくようにしましょう。

金融機関から資金調達する

最後に足りない分を金融機関からの調達で賄います。

金融機関からの調達については、次のような方法と特徴があります。
審査にかかる時間も考慮しつつ、早めに融資の審査を受けるようにすると良いでしょう。

方法金利審査担保その他
WAM(独立行政法人福祉医療機構)固定、低利率手続はやや複雑土地建物の担保設定が必要、原則的に保証人が必要診療所の場合、不足地域のみ対応

融資額は所要額の70%が上限

日本政策金融公庫固定、比較的低利率比較的スムーズ基本的に不要(新創業融資制度など)担保が必要な商品では、評価が民間に比べて厳しい
自治体制度融資固定、比較的低利自治体により異なる基本的に不要別途信用保証料がかかることがある

制度の種類が多く、専門的な情報と知識が必要となる

医師信用組合変動、比較的低利比較的スムーズないと借りづらい医師会員のみ。組合が存在しない都道府県もある
民間銀行等基本的に変動金利審査は個別(銀行によっては審査が早いことも)ないと借りづらい交渉次第で条件が有利になることがある
ノンバンク金利はやや高め比較的スムーズないと借りづらい基本的に非推奨

医院開業時の融資は、経営実績を示すことができないので、根拠のある事業計画書の作成が必要となります。

また、事業計画書は融資の観点だけでなく、資金繰りに苦しむことなく開業後の余裕を持った経営を行うためにも重要です。

特によく検討しなければいけないことは次のポイントです。

①医業収入開業当初からどんな患者が何人来院するか予測・目標を立てる
②人件費正職員かパート、アルバイトか? 社会保険に加入する必要はあるか? 助成金は見込めるか?
③税金院内の利益は、翌年に支払う必要のある税引き後の利益が重要。自費診療が多いクリニックでは消費税がかかる
④借入返済すぐに利益を上げるのが難しければ、開業直後は据置期間(利息のみを支払う期間)にできるか?
⑤生活費開業前の貯蓄残高はどれくらいか? 保険や貯蓄・資産運用の見直しは必要ないか?

重要なことは、生活費をいくら確保するかを決めて、逆算思考で収入や支出について考えることです。

詳しいことは、以下の記事に掲載されていますので参考にしてください。

【関連記事】失敗を避ける!医院・クリニック開業 事業計画書作成の5つのステップ

また、拙著「開業医の教科書Q&A」には、テンプレートを使って実際に事業計画書を作成するところまで解説していますので、良かったらご覧ください。

まとめ 資金調達の手段のポイント

資金調達のポイントについて述べてきましたが、一番のポイントはやはり無理をしないことです。
用意できる資金をはるかに上回る建物や設備を取得しようとすると、必ず経営的に苦しくなってしまいます。

融資の際は事業計画書が求められますが、融資のためだけでなく、余裕のある経営をするためにも根拠のある事業計画書を作成しましょう。

その方が、信金や公庫だけでなく銀行からも融資を受けることができますし、開業後も順調に経営ができます。

ここで挙げたポイントを頭に入れ、余裕を持った医院経営ができるよう、ご検討ください。

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この記事の執筆・監修はこの人!
プロフィール
笠浪 真

税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

                       

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