はじめに

遅刻や欠勤を繰り返すわけではなく、目立ったトラブルを起こすわけではない。

ただ仕事にやる気がなく、同僚との協調性もなく、患者さんからの評判も悪い。他の同僚スタッフからも「あの人辞めさせた方が良いと思います」と言われる始末。

もちろん何回か注意はしているが、改善される様子がない。

一般企業でも多いと思いますが、「勤務態度不良」の問題スタッフに悩まされているクリニックの院長先生は非常に多いです。

しかし、問題あるスタッフを「勤務態度不良」というだけで、すぐに解雇通知するのは困難です。

そこで今回は、勤務態度不良のスタッフを、角が立たないように辞めさせるにはどうすれば良いかについてお伝えします。

解雇の区分

一般的に、解雇の区分には大きく分けて「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」の3つに分けられます。

解雇といってもクリニックの経営上の理由によるものと、労働者側に理由があるものがあります。

労働者側に理由があるのは「普通解雇」と「懲戒解雇」になります。

また、冒頭に書いたような勤務態度不良を理由に解雇する場合は「普通解雇」に該当します。

それでは、以下に詳しくお伝えします。

普通解雇

普通解雇とは整理解雇、懲戒解雇以外の解雇全般のことを言います。以下のように労働契約の継続が困難な事情があるときに限られます。

・勤務成績が著しく悪く、指導を行っても改善の見込みがないとき
・健康上の理由で、長期にわたり職場復帰が見込めないとき
・著しく協調性に欠けるため業務に支障を生じさせ、改善の見込みがないとき

冒頭で書いたような、勤務態度不良の状態が、何回か注意しても改善されないようなときは、この普通解雇に当たるでしょう。

しかし、これについては解雇要件が就業規則等で周知されていることが必要になります。(労働基準法89条第3項)

またこの記事の後半で詳しくお伝えしますが、試用期間中の場合を除いてスタッフを解雇する場合は30日以内に解雇予告が必要です。解雇予告を行わない場合は、さらに平均賃金の30日以上の解雇予告手当を支払わなければいけません。

また、注意したいのは「改善の見込みがないとき」という解釈があることです。つまり、「改善の見込みがない」と判断できなければ簡単に解雇することができないことを意味します。

整理解雇

クリニックの経営悪化により人員整理を行うための解雇です。労働者側の理由ではなくクリニック側の理由の解雇になります。

ただ、経営が悪化しているからといって簡単に解雇が認められるわけではありません。整理解雇が合法とされるためには、次の「整理解雇の4要件」をすべて満たす必要があります。

  1. 整理解雇することに客観的な必要があること
  2. 解雇を回避するために最大限の努力を行ったこと
  3. 解雇の対象となる人選の基準、運用が合理的に行われていること
  4. 労使間で十分に協議を行ったこと

懲戒解雇

労働者がクリニックの規律違反等を犯した場合に、懲戒処分として行われる解雇になります。

極めて悪質な規律違反や非行を行った場合(例えば患者に暴力を振るうなど)には懲戒解雇が適用されるでしょう。

しかし、就業規則や労働契約書に具体的な定めを明示しておくことが必須になります。

【関連記事】クリニック内のスタッフを「懲戒解雇」する前に注意しておきたい3つのポイント

解雇が禁止される場合(労働基準法19条等)

次の場合は、労働基準法等によって原則的に解雇することが禁じられています。

これにより、クリニック側の一方的な都合や理不尽な理由で解雇することは許されなくなります。

  1. 業務上傷病により休業する期間及びその後30日間の解雇(労働基準法19条)
  2. 産前産後の休業期間及びその後30日間の解雇(労働基準法19条)
  3. 国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇(労働基準法3条)
  4. 労働者が労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇(労働基準法第104条第2項)
  5. 女性であること、あるいは女性が婚姻、妊娠、出産したこと、産前産後の休業をしたことを理由とする解雇(男女雇用機会均等法9条)
  6. 育児休業の申出をしたこと、または介護休業をしたことを理由とする解雇(育児・介護休業法16条)
  7. 労働組合の組合員であること、労働組合の正当な行為をしたことなどを理由とする解雇(労働組合法7条)
  8. 公益通報をしたことを理由とする解雇(公益通報者保護法3条)
  9. 解雇予告と解雇予告手当(労働基準法20条)

    労働基準法20条では、解雇する労働者の解雇予告と解雇予告手当について、次のように記載されています。

    使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
    2 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。

    解雇予告と解雇予告手当の解説

    先にも書いたように、スタッフを解雇しようとする場合は、少なくとも30日前に予告することが求められています。

    解雇しようとする日までに30日以上の予告をできないときは、30日に不足日数分以上の平均賃金を支払うことが必要になります。

    例えば2週間前の予告でスタッフに辞めてもらう場合は、2週間は通常通りに給料を支払う必要があります。さらに30日から14日分を差し引いた16日分の解雇予告手当を支払うことになります。

    即日解雇とする場合であれば、その日のうちに30日分の解雇予告手当を支払うことになります。(解雇予告手当は解雇の日までに支払う必要があるため)

    解雇予告手当として支払う1日分の計算は、平均賃金で行います。平均賃金の算出は、次の①②の計算式で行い、いずれか金額の高い方とします。

    ①過去3ヶ月分の賃金の合計/過去3ヶ月分間の暦日数
    ②(過去3ヶ月分の賃金の合計/過去3ヶ月分間の労働日数)×0.6

    解雇予告除外認定基準

    懲戒解雇の場合、「解雇予告除外認定申請書」を所轄の労働基準監督署長に届け出て認定を受けたら、上記の解雇予告手当の支払いは除外されます。

    例えば次のような場合は解雇予告除外が認められる場合があります。

    ① 院内における窃盗、横領、傷害等刑法犯に該当する行為があった場合
    ② 賭博や職場の風紀、規律を乱すような行為で他のスタッフに悪影響を及ぼす場合
    ③ 採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合
    ④ 他の事業へ転職した場合
    ⑤ 2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
    ⑥ 遅刻、欠勤が多く、数回にわたって注意を受けても改めない場合

    ただし、院内で懲戒解雇と処分されたからといって、すべての場合に解雇予告除外認定が受けられるとは限りません。

    解雇の前に解雇以外の懲戒処分、退職勧奨の検討を

    さて冒頭に書いたような、やる気がない、協調性が欠如して勝手な行動が多いなどの「問題職員」はどういう対応をすれば良いでしょうか?

    最近介護施設などで問題となっているような、スタッフが患者に対して暴力を振るったような場合は即日解雇を検討することもあるでしょう。

    しかし、「やる気がない」「愛想がない」と勤務態度に問題があるだけのスタッフをすぐに解雇するようなことは、まずできません。

    例えば「笑顔がない」「不満そうなオーラが出ている」と契約更新を拒否されたクリニックの元契約社員が慰謝料を求め、勝訴した例があります。

    このように、解雇をめぐるトラブルが訴訟にまで発展すると、クリニック側が敗訴することは珍しいことではありません。

    スタッフに対して安易な解雇はできない

    労働契約法16条では、解雇権の乱用について次のように定められています。

    解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

    医療機関や介護施設では、安易に職員を解雇して労使トラブルに発展しているケースが非常に多く見られます。

    さらに今は理不尽に安易な解雇を行ったクリニックについては、SNSなどであっという間に悪評が広まってしまいます。

    しかし、簡単に解雇ができないからといって、問題スタッフを放置するわけにもいきません。

    クリニック全体の雰囲気が悪くなり、他の優秀なスタッフが退職してしまうことは避けないといけません。

    まずは問題スタッフに注意・指導した事実を記録する

    少し時間はかかるかもしれませんが、労働契約法に記載の「解雇の合理性」が認められるには解雇までのプロセスが必要です。

    つまり、勤務態度不良のスタッフに対して注意・指導・教育を繰り返したが、まったく改善が見られなかったため解雇したというプロセスです。

    問題スタッフに対して指導や教育をした場合は、その事実を記録するようにしましょう。

    注意や指導を繰り返したという事実で解雇が有効とされた裁判例はいくつもあります。

    注意・指導しても勤務態度が改善しないなら懲戒処分

    注意・指導しても問題スタッフの勤務態度に改善が見られないのであれば、懲戒解雇以外の懲戒処分を検討します。

    懲戒解雇以外の懲戒処分としては、次のようなものがあります。

    ・譴責:始末書を提出させて将来を戒める。

    ・減給:労働基準法91条の範囲で給料を差し引く。「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」

    ・出勤停止:一定期間の出勤を禁止する。

    ・降格:役職、職位、職能資格を引き下げる。

    退職勧奨を行う

    もしくは、スタッフと話し合って退職勧奨による合意退職にもっていくことも検討すべきです。

    退職勧奨とはスタッフに対して退職を勧めることですが、最終的な判断はスタッフが行うため、解雇とは違います。

    「やる気がない」「スタッフとうまくコミュニケーションが取れない」といったものであれば、問題スタッフも辞めたがっている可能性があります。

    ただし、退職勧奨を無理に行えば「パワハラだ!」と言われ、退職を強要したとして損害賠償を求めて訴えられることもあります。

    退職勧奨については、次の記事で詳しく書いていますので、こちらも併せてご覧ください。

    【関連記事】【医院・クリニックの退職勧奨】スタッフ問題に悩む開業医の先生へ

    【まとめ】どうしてもだめなら解雇する

    安易で理不尽な解雇を防ぐため、解雇に関しては労働基準法や労働契約法など、様々な法律的な制約があります。

    例え他のスタッフから「彼女を辞めさせてください」と相談されたとしても、すぐに解雇するわけにはいきません。

    「解雇権の乱用だ!」と言われないようにするためには、解雇までには合理的なプロセスを踏む必要があります。

    問題スタッフは放置せず、日頃から注意や指導を繰り返し、話し合いなども含めて改善を促すようにしていきましょう。

    そして改善が促せないのであれば懲戒処分、それでもだめであれば懲戒解雇という手順を踏むようにしていきます。

    また解雇ではなく、問題スタッフに納得して退職してもらう退職勧奨も同時に検討すべきでしょう。

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