はじめに

クリニックが正社員としてスタッフを採用したものの、その後「相性が合わない」、「能力、スキル的に希望した基準に達成していない」、「採用後に態度が変わった」などの理由でお困りのケースは多々あるのではないでしょうか?

人材の採用に際しては、どんなに慎重を期しても、こうした採用後のミスマッチは起こるものです。

とはいえ、一度正社員として採用した後に解雇することは法的に非常に困難です。

そこで、採用後のミスマッチ、能力・スキル不足などに対応する有効な手段として、本採用前に「試用期間」を設定するクリニックも多いかと思います。

こうした「試用期間」の設定は、採用後のミスマッチを回避する解決手段として有効なのでしょうか?

今回は「試用期間」について解説していきます。

意外と知らない「試用期間」の基本とは?

試用期間とは何か?

試用期間の意味に、実は法律上の明確な定義はありません。

一般的にクリニックが新しい人材を採用する際に、従業員(スタッフ)としての適性を判断・評価するために設ける期間を指します。

試用期間満了後に本採用するかどうかの権利は使用者(クリニック側)が留保します。

ここで「留保」という言葉が出てくるように、一般的に試用期間というと「お試し期間」という印象を受けます。

しかし実際は、たとえ試用期間中であっても解約権保留付きの労働契約が成立しているという点に注意が必要です。

つまり、試用期間中であっても労働契約上は既に「採用後」の状態であることを意味します。

よって、試用期間満了後の本採用の拒否は、単なる採用拒否ではなく「解雇」という扱いになるのです。

試用期間はどのくらい長さを設定しても大丈夫なのか?

採用するクリニック側の立場からすると、採用後のリスクをできる限り回避するために、「試用期間はできる限り長い期間を設定して、じっくり本採用するべきか判断したい」というのは本音ではないでしょうか?

それでは、試用期間はどのくらいの長さを設定しても大丈夫なのでしょうか?

実は試用期間の長さは、法律上の明確に定められていません。

「ブラザー工業事件 名古屋地裁昭和59年3月23日判決」の判例では、「合理的な範囲を超えた長期の試用期間の定めは公序良俗に反し、無効」であるとされています。

それでは「公序良俗に反する合理的な範囲を超えた長期の試用期間」とは、一体どの程度の期間なのでしょうか?

一般的には試用期間は1ヶ月~3ヶ月以内と定めているケースが多いようです。

最長でも6ヶ月程度と考えましょう。1年超えると、上述の判例のように「公序良俗に反する合理的な範囲を超えた長期の試用期間」と判断される可能性が高くなります。
(※1年以上の期間設定は、裁判で不当と判断された例もあります)

試用期間の延長は可能か?

然るべき試用期間を設定したものの、本採用するべきかどうかの判断が下せない場合もあるかと思います。

その場合はどのようにすればいいのでしょう?

もし、試用期間中に本採用するべきかどうか判断が難しい場合は、「試用期間を延長する」という選択も可能です。

試用期間を延長することで、より時間をかけて、より正確に、採用後のミスマッチ、本人の能力有無を判断することができます。

ただし、事前に「試用期間を延長することができる(あり得る)」という規定を契約に盛り込む必要がある点は注意しましょう。

試用期間中の給料はできる限り低く抑えたいのだが・・・

試用期間中は、雇用するクリニック側としては一種の「見習い期間」ということで、本来求める業務上の能力に十分に達していないのだから、できる限り本採用後よりも給与を低く抑えたいニーズもあるでしょう。

試用期間中の給料をあえて低く設定することは可能でしょうか?

可能であれば、どの程度まで可能でしょうか?

結論から言えば、試用期間中における給与の減額は可能です。

ただし、最低賃金法という法律で、以下の条件を満たす必要あります。

  1. 都道府県別に決められた最低賃金(「地域別最低賃金」といいます)を下回らないこと
  2. 就業規規則や労働契約書にその旨を明記すること
  3. 使用者と労働者が合意すること

以上の条件を満たす前提で、試用期間中の給与の減額は可能となります。

最低賃金について

上述の最低賃金、「地域別最低賃金」について、ここで簡単に説明しておきましょう。

地域別最低賃金」とは、各都道府県で働く全ての労働者とその会社(使用者)に対して適用される最低賃金を指します。

全ての労働者を対象としていますので、産業(業種)、職種、雇用形態に関係なく適用されます。

「地域別最低賃金」は厚生労働省のホームページでも確認できます。
※資料:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」(平成30年度)

試用期間中の給与はどの程度まで減額できるのか?

それでは、試用期間中の給与はどの程度まで低く抑えることができるのでしょうか?

基本的には、最低賃金(「地域別最低賃金」)以上の金額を支払っている限り、従業員(スタッフ)に支払う給与の金額は、使用者(クリニック側)が自由に決定することができます。

また、試用期間中に最低賃金より低い金額にする場合、都道府県労働局長の許可があれば、最低賃金より最大20%まで減額することができます。(最賃則5条)(最賃法7条2号)

ただし、こうした試用期間中の減額特例の許可するケースは、年間通じて「ゼロ」のケースも少なくありません。あくまで参考として理解しておいて下さい。

人手不足の問題が深刻な社会問題となっている現状では、試用期間中の大幅な給与の減額は、人材確保の観点から現実的に難しいと思われます。

今後は試用期間中の給料の調整ではなく、本採用後に能力等の評価に応じて減額調整ができる給与制度の導入や、昇給・賞与の算定方法見直しを検討することも必要となるでしょう。

試用期間満了後の本採用拒否はできるのか?

そもそも試用期間とは、採用後のリスク(ミスマッチ、能力の問題)を回避するために設定した「本採用前のお試し期間」。

試用期間中に「本採用にしたくない」と判断した場合は、試用満了後の本採用の拒否は容易にできるような印象を受けます。

しかし、ここで注意が必要なのは、たとえ「試用期間中」であっても、労使間では既に解約権保留付きの労働契約が成立している点です。

つまり、「試用期間」とは単なる「本採用前のお試し期間」というわけではなく、クリニックと従業員(スタッフ)との労働契約ははじまっているのです。

事例研究)「三菱樹脂事件」(最大判昭和48.12.12)

試用期間満了後の本採用拒否を巡る判断で、有名な「三菱樹脂事件」の判例をご紹介します。

概要
・X氏は大学卒業後Y社に採用され、3ヶ月試用期間として勤務。
・その後、採用時に秘匿していた学生運動歴が発覚。
・Y社は、この事実を受けてX氏に対して試用期間満了直前に、口頭で本採用見送りを通知。

ポイント
Q:試用期間満了時の本採用拒否はどういった場合に可能なのか?

判例の結果
Y社の試用期間満了直前の本採用拒否は、使用者に留保された解約権の行使と解釈されました。

(試用期間中の解約権留保付労働契約が成立しており、Y社はその権利を行使したという解釈です)

そこで問題になるのは、どういった場合に解約権を行使できるか?という論点です。

判例では

『企業が採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合』

と定めました。

※なお最終的な判決は高裁に差し戻され、X氏の職場復帰、解決金2,500万円を軸とする形で和解が成立しました。

この判例だけですと、どういった場合に解約権を行使できるか判読しにくいのですが、ごく簡単に言いますと

試用期間満了後の解約権行使は、通常の解雇より広い範囲で解雇が認められるものの、労働契約成立後の解雇である以上、無条件に行使できるわけではない。

ということなります。

つまり、試用期間満了後の本採用拒否は「当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実」などの解雇事由に限られます。

逆に言えば、留保解約権の行使については通常の解雇よりも広い範囲で解雇の事由が認めるものの、

  1. 客観的合理性
  2. 社会的相当性

が必要ということです。

試用期間中(満了後)の本採用拒否は「解雇」という扱いになります。

そして解雇である以上、そう簡単には解雇は有効にはならないということです。

「求める能力に達していない」の理由で本採用拒否できるか?

採用するクリニック側の言い分としてよくあるのが「試用期間中の働きぶりを見てきたが、クリニック側が求める能力に達していないので、残念ながら本採用を見送る」と本人に通知するケースです。

この場合も、試用期間とはいえ採用した以上、正当な理由(客観的合理性、社会的相当性)がない限り、原則本採用を拒否(解雇)することはできません。

能力不足を理由とした本採用の拒否では、拒否に至るまでのクリニック側の相応の努力が問われます。

例えば、業務上必要なスキルを習得できるよう必要なサポートをしたり、再三教育しても難しいようであれば配置転換を打診したりなどです。

それでも最終的に「あらゆる努力を尽くしても、やはり本採用を拒否するしかない」という状況になって、はじめて能力不足を理由とした本採用の拒否が認められます。

その他の無断欠勤、遅刻なども同様で、本採用拒否を判断するまえに、クリニック側からの相応の指導が求められます。

例えば、「これ以上の無断欠勤、あるいは遅刻があれば、本採用の拒否をせざるを得ない。十分に注意してほしい」などの事前の指導が必要となります。

まとめ

いいかがでしたでしょうか。

多くのクリニックでは採用後のミスマッチというリスクを回避するため、一定期間の試用期間を設定しています。

しかし、「試用期間はあくまでお試し期間」「試用期間中だから何かあればすぐに辞めさせることができる」というのは法的な観点から見ても間違った認識となりますので十分注意してください。

試用期間を設けたとしても、本採用の拒否は「解雇」扱いとなり、容易に行使することはできません。

採用後のミスマッチというリスクを回避するためには、試用期間前の時点で慎重に採用選考し、「ミスマッチになりそう」と判断したらそもそも採用しない姿勢が大切です。

試用期間を適切に運用し、どうしても本採用を見送る場合は専門家に相談しながら適切な手続きを採るようにしてください。

以上、今回は「試用期間」について詳しく解説しました。

ぜひ参考にしていただければと思います。

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