はじめに

医療法人を設立すると、開業医である先生自身の報酬を決める必要があります。

役員報酬の設定にあたっては、「お金欲しさで高く設定する」「交際費など必要経費を増やし報酬を少なく設定する」など、悩まれる先生が多くいらっしゃいます。

この役員報酬は節税する上での重要な要素であり、何も考えずに金額を設定してしまうと個人的にも医院的にも損を被ることにもなります。

また、金額を設定する上で法律に従わなかった場合にはペナルティが課されることもあります。

本記事では開業医の先生が役員報酬を決める上での注意点、そして節税効果を高めることができる報酬金額の決め方をお伝えしますので最後まで是非ご覧ください。

役員報酬を決定する上での注意点

節税手段のひとつであり、先生の所得や医院の財務体質を大きく左右する役員報酬。

この役員報酬は経営者である先生自身で決めることができ、また損金扱いとして計上できるため、設定額は慎重に決める必要があります。

しかし、闇雲に報酬金額を設定すれば良いかというと決してそういう訳ではなく、報酬額だけではなく、設定期間などの決まりもあります。

まず、本項では役員報酬を設定する際の2つの注意点をお伝えします。

医院設立後3ヶ月以内に決める

役員報酬は医療法人設立後3ヶ月以内に決定しなければ、損金として算入できない決まりがあります。

売上の見通しが立たない創業期に役員報酬を決めることは難しいことではありますが、定款や株主総会によって報酬額を定める必要があります。

3ヶ月という期間ですが、報酬の金額により毎月の社会保険料や所得税・地方税などの税金が大きく変わるため、将来を見据えた上で慎重に検討する必要があるのです。

毎月同じ報酬額で設定する

役員報酬は毎月定額を支払うことが必須であり、額面の金額と手取り金額を揃えておく必要があります。

では、なぜ役員報酬は同じ金額に定めないといけないのかというと、税金逃れ防止のためです。

たとえば、ある時期に予想を上回る利益が発生した場合、「役員報酬を途中で上げて節税しよう!」という発想に至ることがあるかと思います。

そのような報酬変更による税金逃れを防ぐために、毎月同じ報酬額を設定する必要があるのです。

役員報酬で決まる法人税と所得税

医院・クリニックの経営者は、組織としての法人税だけでなく、役員報酬に掛かる個人として所得税や住民税が発生し、さらに社会保険料も負担する必要があります。

そのため、手元に残すお金を増やしたいのであれば「いかに税金を抑えるか」がポイントであり、医療法人の法人税率・個人の所得税率を下げる行動を実現しなければいけません。

通常、法人税率は以下のように医院の所得によって変動します。

<法人税率>

  1. 年間400万円以下の利益:21.42%
  2. 年間400万円超800万円以下の利益:23.20%
  3. 年間800万円を超える利益: 33.59%

利益が少なければ少ないほど法人税率も低くなり、個人における所得税率も同様で所得によって変動します。

開業医の先生の中には役員報酬を高く設定し、年間で4,000万円を超える収入を得ている方もいらっしゃいますが、この場合は45%も所得税が課せられます。

更に住民税は、所得に関わらず一律で10%課税されるので、最大で55%と、収入の半分以上が税金として課せられる可能性があります。

役員報酬を可能な限り下げると収入を確保できますが、極端に少なくし過ぎてしまうと、医院の利益が増え、法人税率が上がってしまいます。

その逆もしかりで、役員報酬を増やし損金として算入すれば法人税率は低くなりますが、今度は逆に個人の所得税率が高くなってしまうのです。

効率の良い節税をするためにも、法人所得と個人所得のバランスを整え、適切な役員報酬の額を決めておく必要があるのです。

節税効果のある役員報酬の決め方とは?

では節税効果を最も効果的にするには役員報酬をどのように設定すれば良いのでしょうか?

家族構成や年齢、事業の規模など環境により変わりますが、今回は40歳独身で資本金5,000万円の医院を運営しているという設定でシミュレーションしてみます。

たとえば、役員報酬を除いた医院利益が年間2,000万円あったとして、役員報酬が年間1,000万円の場合と、1,500万円の場合とで税金の違いを比べてみましょう。

(役員報酬以外の所得がなく、基礎控除のみ所得控除がある場合を前提としています)

年間役員報酬1,000万円の場合(医院所得1,000万円)

個人の所得・住民税額は約184万円(※1)になり、会社の法人税額は約338万円。

所得税額と法人税額の合計は約522万円。

※1 役員報酬 給与所得控除 基礎控除 ((10,000千円-2,200千円-380千円)×23%-636千円)×102.1%+(10,000千円-2,200千円-330千円)×10%=1840千円

年間役員報酬1,500万円の場合(医院所得500万円)

個人の所得・住民税額は約386万円(※2)になり、会社の法人税額は約116万円。

所得税額と法人税額の合計は約502万円。

※2 ((15,000千円-2,200千円-380千円)×33%-1,536千円)×102.1%+(15,000千円-2,200千円-330千円)×10%=1,840千円=3,863千円

もし、医院と個人で合わせた税金で考えると、役員報酬を1,500万円にした方が1,000万円のときよりも、約20万円も手元にお金が残ることになります。

今回の例をご覧になれば分かるように、医院としての利益や個人の所得により税金は変わるため、一概に役員報酬を低く設定すれば良いという訳ではありません。

役員報酬の決定には医院の経営方針を考慮する必要があります。

財務体質を強化したい、設備投資したい…といった方針であれば、ある程度の資金を医院として残しておいた方が良く法人税が多く掛かってでも、個人より医院にお金を残したいと考える方も少なくありません。

役員報酬には基準額(業務内容や・会社規定・業界平均に左右される基準値)があり、不相当に高額と判断された場合には、一部の金額を損金として算入できないこともあります。

このように役員報酬は医院の状況に応じて適正な金額を設定する必要があります。

医院として発展を選ぶのか安定を選ぶのか、といったように医院方針と財務体質を決めた上で、自社のためになる「最適な役員報酬」を設定しましょう。

院長夫人による節税法

中小企業であればありがちなケースですが、医院と院長の財布が実質的に同一というケースは珍しくありません。

そのため、医院と院長を含めた全体での節税を考えた場合、院長夫人に給料を支払うことによって節税を行えるケースがあります。

医院に掛かる法人税等の税率は約30~40%、住民税(10%と想定)を合計した所得税の税率は15~50%。

所得税や住民税を「累進課税」と言い、法人税と異なって税率が広がるので、一定の所得までは医院よりも個人で納税した方が、医院と個人の税金合計が安くなることがあります。

そのため、医院と院長だけでなく、院長夫人も含めて節税を実現することも可能です。

院長夫人をただの従業員として雇う場合、給料についてはほぼ問題なく損金扱いとして計上できますが、いくつか注意すべき点があります。

それは、法人税法において、「登記簿の役員以外でも、院長の親族であり、かつ経営に影響力を持つ者など一定の要件を満たすとみなし役員」と扱うように定められているため。

院長夫人が経営に口を出せる立場として扱われ、給料を受け取っていた場合、多くの場合「みなし役員」と認定されます。

みなし役員にされると、奥様に支払う給料は「役員報酬」と同様の制限を受け、毎月決まった報酬を支給する必要があります(定期同額給与)。

そして、以下のように損金として算入できない扱いとなる可能性があります。

  1. 賞与は役員賞与と扱われ損金にならない
  2. 定款や株主総会の決議で決められた限度額を超える損金にならない
  3. 業務内容・経営状況などから妥当な金額を超えると、過大報酬となり損金にならない

このように、院長夫人の給料は法人税法の制約が生じるケースが多いのです。

はじめから役員とし、業務分担しつつ、役員報酬の額を株主総会で決議した方が、従業員としての給与より高額設定しても損金として認められ、節税できるケースが多いのです。

まとめ

今回は医院経営における役員報酬について、以下の情報をお伝えしました。

  1. 役員報酬は医院設立から3か月以内に決めること
  2. 役員報酬は毎月定額となるよう設定すること
  3. 医院の経営方針と財務体質を明確にした上で役員報酬を決めること
  4. 院長夫人は従業員より役員扱いの方が節税できやすい

役員報酬で医院として節税するのか?それとも個人として節税するのか?

この答えを求める前にまず医院の方針が明確であるかが重要なポイントとなります。

ぜひ、今回お伝えしたことを1つでも取り入れて、医院の節税対策に役立てていただければと思います。

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プロフィール
笠浪 真

税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢42人(R2年4月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

                       

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