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はじめに
医科・歯科クリニックでは院長の妻が仕事を手伝ったり、共同経営することも珍しくありません。
この背景は、もともと看護師だったり、歯科衛生士だったり、医療事務として働いていたケースが多いのもあります。
また、以前よりは小規模経営のクリニックが増えてきたのもあるでしょう。
しかし一方で、昔から「院長の妻がクリニックに来るとスタッフが働きづらい」とも言われてます。実際に院長の妻とスタッフとの労務トラブルの話はよく聞きます。
逆にスタッフとの人間関係が円滑で、雰囲気の良いクリニック作りに一役買っている開業医の妻もいます。
そこで今回は、院長の妻がクリニックで働く際に、スタッフとのトラブルを防ぐにはどうすれば良いかをお伝えします。
院長の妻の適性をよく考える
基本的には、クリニックの院長先生が診療に専念するために、院長の妻が右腕として経理や事務を支えるのは悪いことではありません。
クリニックを経営するのは院長で、その院長を一番把握しているのは妻です。
夫婦でクリニックを共同経営すると、毎日顔を合わせるので仕事の話もしやすいですし、家族であれば経理も任せやすいでしょう。
離婚するようであれば話は別ですが、院長の妻であれば基本は裏切らないのでお金の管理は任せやすいでしょう。院長の妻に働いてもらうことで節税のメリットも出てきます(特に医療法人の場合)。
しかし、だからといって院長の妻がクリニックで働いて良いかはケースバイケースと言わざるを得ません。
重要なのは、妻の適性です。適性とは、何も仕事の適性だけではなく、スタッフとうまくやれるかどうかも含まれます。
院長の妻本人は意識しなくても、スタッフにとって「院長の妻」はどこか良くも悪くも特別な存在なのです。
クリニック内で疎外感を覚えたり、院長の妻と関わることに緊張感を覚えるスタッフも多いと言われます。小規模のクリニックほど、その傾向は強くなるのではないでしょうか。
実際に院長の妻とスタッフとの人間関係がギスギスするような話は結構聞きます。
ひどい場合だとスタッフが大量離職したり、新しく入ったスタッフがみんなすぐに辞めてしまったり……。
一方、スタッフとの人間関係が良好で、むしろスタッフから慕われている院長の妻も少なくはありません。
院長先生は、妻が自分のクリニックに適性があるかどうか、よく考えたほうが良いでしょう。
受付や看護師として他のスタッフと一緒に勤務するのか、会計や労務といった裏方に徹するのかでもかなり違ってきます。
すぐにスタッフの上司として働かせない
もしクリニックで妻に働いてもらう場合は、他のスタッフと対等に接するべきです。
えこひいきするのは論外ですが、いきなりスタッフの上司として指導的な立場に立たせるのは避けた方が良いです。
いきなりクリニックの現場も知らないまま指導的立場に立ったところで、スタッフはやりにくいでしょうし、反発を覚えるでしょう。
特に「言いたいことを言うだけ」「余計なことを押し付けてくる」と思われるのは避けたいものです。
ミスをしたり言うことを聞かないスタッフに対して怒ったり、緊張感を与えるような言動は論外です。すぐに大量離職に繋がるトラブルに発展してしまいます。
院長の妻が元看護師や元医療事務であれば、クリニックの仕事は働き出した時点ですぐに把握できるでしょう。
しかし当時のクリニックの現場と、現在のクリニックの勝手は違うものです。いきなり「前のクリニックではこうだった」と言ってもスタッフに受け入れてもらえるわけがありません。
いきなりスタッフの上司として働くのではなく、現場のスタッフとしてクリニックの業務を覚えるのが最初です。これは他のスタッフとは変わりません。
いきなりスタッフのところにやってきて、あれこれ口出しをしたがる奥様は、おそらくクリニックの仕事には適性がないでしょう。
現場の仕事をマスターして、スタッフから質問されたりするようになったら、指導的立場に立てば良いのです。
クリニックの仕事を手伝うだけなのか、経営に携わるかでも変わってきますが、基本的には院長の妻も1スタッフなのです。
これは将来医療法人化し、妻に理事になってもらうことを計画中なら、ますます大事なことかもしれません。
院長がはっきりと妻に対してクリニックの関わり方を示す
やはりスタッフに緊張感を与えてしまう院長の妻は、クリニックで働くことには向いていません。
とは言っても、最初は「院長の妻」というだけで、スタッフはどこか緊張感を覚えるかもしれません。
「仕事を見張られている」「うかつに院長に対する不満を言えない」と身構えてしまう可能性は十分あります。
そのときに重要になるのが、院長先生の姿勢です。
一見すると、院長の妻のスタッフへの関わり方が悪ければトラブルになると思われがちです。
しかし実は、院長先生の妻に対するはっきりしない態度が原因でトラブルに発展することも少なくありません。
その最悪の結果がスタッフの大量離職かもしれませんし、もしかしたら妻との離婚のきっかけになるかもしれせん。
そういったことを避けるために、院長先生の方で、妻にクリニックでの関わり方を明確に示し、立ち位置を明確にすることが大切です。
そして妻とスタッフ、両方の意見を客観的に聞くことです。
早めに改善点を導いて、実行していけばクリニック内の雰囲気がギクシャクするようなことはなくなるでしょう。
スタッフにも妻の役割をはっきりと示す
院長の妻にクリニックで働いてもらうときは、当初はスタッフにも妻の仕事の役割について、はっきり方針を示すようにしましょう。
育児と両立する必要があれば、出勤日や勤務時間についても明確に伝えておきましょう。
そのようにしておけば、最初の段階でスタッフの理解は得られやすいでしょうし、コミュニケーションも図りやすくなります。
これだけでも、院長の妻とスタッフの間のすれ違いはある程度防ぐことはできるのではないかと思われます。
院長とスタッフとの潤滑油的な存在であれば理想
院長の妻が長く働きスタッフから頼られるようになったら、院長とスタッフとの潤滑油的な存在を期待しても良いでしょう。
院長先生はできるだけ診療に専念したいのであれば、院長先生ではなく、まずスタッフが奥様に相談する体制を作ると良いでしょう。
何か問題があったら、奥様がスタッフと時間を取って話し合う。その結果を院長に相談する。
スタッフに何か不満や揉め事があれば、まずは奥様の方で受け入れる。
何かスタッフにあれこれ口出ししたり、自分の方針を押し付けるのではなく、スタッフから相談される立場になる。
クリニックのスタッフの大半は女性なので、院長の妻は、案外そのような役割に向いているのではないかと思います。男性が理解できないようなことも、女性なら理解できることもあるものです。
クリニックでそのような立場になれば、院長先生としてはかなり心強いのではないでしょうか?
ただ、スタッフの言い分ばかり聞いていても、スタッフ間、院長―スタッフ間で板挟みに合うだけです。そもそも経営が成り立たないでしょう。
院長の方針も聞きながら、各々のスタッフの話をよく聞き、患者目線で解決策を見出すようにしていきましょう。
院長の妻もスタッフの採用に関わった方が良いのか?
院長の妻もスタッフの採用に関わるべきかどうか、というのもよく議論されます。
結論としては、ケースバイケースとしか言いようがありません。院長の妻の適性にもよります。
もし、院長の妻が院長先生の右腕としてクリニック経営に欠かせない立場にあるのであれば、採用の面接に出てもらった方が良いでしょう。
もともと院長先生のことを一番知っているのは奥様ですし、院長先生とはまた違った視点で新しく採用するスタッフの適性を見れるでしょう。
採用するスタッフの大半は女性でしょうから、女性目線で採用に関わってもらえるのは大きいのではないかと思います。
一方で先に書いたように、クリニックで働き出したばかりで、現場の業務を覚える段階であれば、まだ採用に関わるのは早いかと思います。
また、自分の好き嫌いでスタッフの適性を判断する傾向にあれば危険です。
院長先生の経営理念について理解し、クリニックの現場を熟知していなければ採用には関わるべきではありません。
大切なのは長く働いてくれて、クリニック内の雰囲気を良くするスタッフを採用することです。
【まとめ】妻とスタッフとのトラブルは未然に防ぐことができる
以上、院長の妻がクリニックで働く場合、スタッフとどう関わるか、いかにトラブルをどう防ぐか? というお話をしました。
院長の妻とスタッフ間のトラブルの話は今でも多く聞きます。小規模経営のクリニックほど、この傾向は高いかもしれません。
しかし、一方でスタッフと円滑な人間関係を築き、院長とスタッフの潤滑油的な存在としてクリニックの経営に一役買っている妻もいます。
院長の妻が経営に関わることでクリニック内の雰囲気が良くなり、しかも売上が上がったようなケースもあります。
実際にスタッフの大半は女性ですから、女性である妻がスタッフの管理を引き受けるのは、それなりのメリットがあります。
ぜひスタッフが働きやすくて、患者さんからも喜ばれるクリニック作りを目指していきましょう。
ご相談・お問い合わせ


- 亀井 隆弘
社労士法人テラス代表 社会保険労務士
広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。
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