はじめに

医院・クリニックの業界においても、患者さん側から「解約」の申し出を受けるケースがあり、経営者側にとって悩ましい問題となっています。

具体的には、エステティックサロンや美容医療で契約したプランの途中解約や返金請求、またはクーリング・オフといったものがこれに該当します。

特に、クーリング・オフについては、適用の条件内であれば、「特別な理由が無くても」消費者側から一方的に解約が可能な制度です。

その背景としては、市場において相対的に弱い立場にあるとされている消費者側が、法律で守られるような世の中の仕組みになっているからと言えるでしょう。

残念ながら、そういった消費者保護の制度を逆手に取り、一部で不当な解約が安易に行われている実態があることも、認識しておかなくてはなりません。

医院、クリニックの経営者にとって、患者さんからの解約や返金請求は極力避けたいもの。

単に売上が減少してしまうだけでなく、契約までに費やした労力が全て無駄になってしまうので、スタッフのストレスやモチベーション低下にもつながりかねません。

つまり、全体的な経営面での損失に影響が生じてしまうと言っても過言ではないのです。

したがって、医院やクリニックにおいても、解約の請求は当然に起こり得る可能性があるという認識で、事前に対策をしておく必要があるのです。

そこで今回は、患者さんから解約のお申し出や返金請求に適切に対処するため、知っておくべき5つの注意点についてお伝えしていきます。

法的に解約対象となる特定継続的役務提供とは?

まず、特定継続的役務提供についてお伝えします。

特定継続的役務提供とは、特定商取引に関する法律(特定商取引法)第41条で定める以下の7つの業種について役務を提供、または役務を受ける権利を販売することを指します。

  1. エステティックサロン(期間が1ヶ月を超え、料金が5万円を超えるもの)
  2. 美容医療(期間が1ヶ月を超え、料金が5万円を超えるもの)
  3. 語学教室(期間が2ヶ月を超え、料金が5万円を超えるもの)
  4. 家庭教師(期間が2ヶ月を超え、料金が5万円を超えるもの)
  5. 学習塾(期間が2ヶ月を超え、料金が5万円を超えるもの)
  6. パソコン教室(期間が2ヶ月を超え、料金が5万円を超えるもの)
  7. 結婚相手紹介サービス(期間が2ヶ月を超え、料金が5万円を超えるもの)

これらの役務は、その性質上、受けてみないと効果が分からないものや、目的の実現が不確実などの特徴が大きいがゆえ、現在は特定商取引法の規制対象となっています。

それまでは、消費者側からの中途解約が認められなかったり、解約時に事業者側から高額な違約金を請求されたりといったトラブルが、これらの業種で多発していました。

こうした、いわゆるエステサロンなどの7つの特定継続的役務が、特定商取引法の規制の対象となったことで、中途解約やクーリング・オフが法的に認められるようになったのです。

つまり、一般消費者が法律で守られる仕組みへと変わっていったのです。

しかし、上記のいずれも、5万円以下のサービスに関しては特定継続的役務には該当しません。

つまり、特定商取引法の規制の対象にはならないのです。

例えば、エステサロンでの「お試しプラン」や「トライアルコース」といった、お値打ち価格での体験コースがこれに当たり、規制の対象から除外されます。

よって、例え患者さんから解約や返金請求があったとしても、応じる必要がありません。

では、その場合どうなるのか?

これらの該当しないサービスに関しては、特定商取引法ではなく、民法等の一般法に従うこととなります。

つまり、民法上の債務不履行による解除や、合意解除が問題となることはあっても、クーリング・オフや中途解約で問題となることはありません。

ところが、冒頭にも述べたように、そういった消費者保護の制度を逆手に取り、一部で不当なクーリング・オフ等の解約請求が安易に行われているのも事実です。

こうした要求は、消費者から直接行われる場合だけでなく、消費者センターを経由したり、弁護士を通して行われたりと、さまざまです。

ですが一方で、エステサロンのみならず、医院・クリニックの経営者は、必ずしもそれらの法律に詳しい人ばかりとは限りません。

特別に専門機関と提携している医院・クリニックは別として、中には消費者からの不当な解約や返金請求でさえ、知らずに応じてしまっているケースもあるのです。

解約や返金請求に関しては、本当に応じなければならないのかどうかの正しい知識を身に付け、適切な対処を行える態勢を整えておきましょう。

規制の対象になる「関連商品」と、ならない「推奨品」

ここでも、エステティックサロン(以下、「エステサロン」)を例に説明します。

エステサロンのサービスを提供する際に、必ず購入する必要があるものを特定商取引法では「関連商品」と呼びます。

サプリメント、化粧品、美顔器、下着類などがこれに該当し、概要書面と契約書面には関連商品の商品名と金額を記載することが定められています。

これらの関連商品に関しては、クーリング・オフや途中解約の対象になります。

一方で、必ずしも購入する必要がなく、書面にも記載されていないものは「推奨品」と呼ばれ、クーリング・オフや途中解約の対象とはなりません。

もしそれがサプリメントであっても、関連商品としての条件を満たしていなければ推奨品と見なされるので、特定商取引法の規定は適用されません。

つまり、例え未使用状態で返金請求されたとしても、応じる必要はないのです。

このように、例えエステサロンを経営する事業者であっても、場合によっては顧客からのクーリング・オフや中途解約と返金の申し出を拒否することも可能なのです。

しかし、実際にどのようなケースで拒否できるのかどうかは、一概には言えず、事案によっては判断が難しい場合もあります。

後々になってトラブルに巻き込まれないよう、事前にきちんと説明を行い、事業者と消費者の双方に納得のいく契約を結べるようにすることが必要と言えるでしょう。

美容医療もクーリング・オフの対象に

一部の美容医療が特定継続的役務に該当し、特定商取引法の規制の対象となったことは、すでに述べましたが、もう少し具体的に説明します。

近年、美容医療サービスにおけるトラブルや相談が、国民生活センターに多く寄せられています。

2013年からは、毎年の相談件数が2,000件以上、危害件数は400件以上という状況が続いていました。

そうした背景も踏まえ、ついに2017年から、一部の美容医療についてもクーリング・オフの規制対象となったのです。

では、一体どういった美容医療が、クーリング・オフの対象なのでしょうか。

政令で、「提供期間が1ヶ月を超えるもので、金額が5万円を超えるもの」、

省令で、「以下の①~⑤の役務を特定継続的役務提供に該当すること」と定めています。

  1.  脱毛: 光の照射又は針を通じて電気を流すことによる方法
  2.  にきび、しみ、そばかす、ほくろ、入れ墨その他の皮膚に付着しているものの除去又は皮膚の活性化: 光もしくは音波の照射、薬剤の使用又は機器を用いた刺激による方法
  3.  皮膚のしわ又はたるみの症状の軽減: 薬剤の使用又は糸の挿入による方法
  4.  脂肪の減少: 光もしくは音波の照射、薬剤の使用又は機器を用いた刺激による方法
  5.  歯牙の漂白: 歯牙の漂白剤の塗布による方法

[主な規制]…概要書面・契約書面の交付、迷惑勧誘等の禁止、不実告知、故意の事実不告知、威迫・困惑行為の禁止、誇大広告等の禁止等

[解約ルール]…クーリング・オフ、中途解約、不実告知や故意の事実不告知により誤認して契約した場合の取消し等

また、先ほどのエステサロンの例と同様に、美容医療を受ける際に購入しなければならない商品については、「関連商品」に該当するものがあります。

健康食品、化粧品、マウスピース(歯牙の漂白のために用いるもの)、歯牙の漂白剤、美容目的の医薬品および医薬部外品などが、これに当たります。

つまり、クーリング・オフの対象となるのです。

もちろん、関連商品に該当するのであれば、やはり概要書面と契約書面に商品名と金額を記載しなければなりません。

クリニックがこのルールを知らない、もしくは知っているにも関わらず怠っていると、いずれ患者とのトラブルにもつながりかねないのです。

美容医療の一部が特定商取引法の規制対象となった2017年からは、相談件数も半数以下に減少しています。

ですが、サービスの性質上、将来的にトラブルが全く無くなるといった状況はありえないでしょう。

だからこそ、きちんとした対策が必要なのです。

消費者の利益を守るための「消費者契約法」とは?

消費者の利益を守るため、事業者が消費者と契約するとき適用される「消費者契約法」という法律があります。

事業者の不当な勧誘によって契約をしてしまったり、消費者の権利を不当に害するような契約内容だったりした場合に、契約の取り消しや、契約条項の無効を主張できるのです。

ビジネスを行う上では、「契約自由の原則」というものがあります。

契約の当事者が対等の立場で、契約を自由に決めることができるという考え方です。

しかし、実際には、商品やサービスに関する情報量や、交渉時の優位性に格差が生じているのが現状で、そういった面では圧倒的に事業者の方が有利な立場にあります。

近年、特に高齢者を狙った悪質な商法により、高額な商品の購入や、定期購入の契約を結ぼうといった手口が増え、社会問題となりました。

このような状況を踏まえ、事業者との契約でトラブルが生じたときに消費者を救済する方法として、平成13年4月1日に消費者契約法が施行されたのです。

消費者契約法では、主に次の2つを定めています。

    1. 事業者の一定の行為によって、消費者が誤認または困惑した場合等は、契約を取り消す事ができる。

具体的な内容としては、以下の6つです。

      1. 重要事項について事実と異なる説明があった場合(不実告知)
      2. 分量や回数などが多すぎる場合(過量契約)
      3. 不確かなことを「確実」だと説明された場合(断定的判断の提供)
      4. 消費者に不利な情報を故意に告げなかった場合(不利益事実の不告知)
      5. 営業マンなどが強引に居座った場合(不退去)
      6. 販売店などで強引に引き留められた場合(退去妨害)

更に、令和元年6月15日から、新たに以下の5つが追加されます。(平成30年法改正)

      1. 不安をあおる告知や恋愛感情に乗じた人間関係の乱用など、社会生活上の経験不足の不当な利用
      2. 加齢による判断力低下の不当な利用
      3. 霊感等による知見を用いた告知
      4. 契約締結前に債務の内容を実施
      5. 不利益事実の不告知に重過失を追加

    1. 事業者の損害賠償の責任を免除する条項や、消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部または一部を無効にする。

具体的な内容としては、以下の4つです。

      1. 事業者に責任がある場合でも、「損害賠償責任はない」とする条項(事業者の損害賠償責任を免除する条項)
      2. 「一切のキャンセルや返品・交換などを認めない」とする条項(消費者の解除権を放棄させる条項)
      3. 消費者が負う損害金やキャンセル料が高過ぎる(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等)
      4. 消費者が一方的に不利になる条項(消費者の利益を一方的に害する条項)

更に、令和元年6月15日から、新たに以下の2つが追加されます。(平成30年法改正)

      1. 消費者の後見等を理由とする解除事項
      2. 事業者が自分の責任を自ら決める条項

これらに抵触する勧誘等により契約の締結をすると、その後に契約が取り消されたり、契約条項が無効になったりする可能性があるのです。

例えば、「確実に儲かる」など断定的判断を用いた勧誘や、説明の際に消費者の不利益になる事実を伝えず都合の良いことのみ説明する、といった内容がこれに該当します。

また、消費者から「帰ってくれ」といわれても帰らない、逆に消費者が「帰りたい」と言っているのに帰さない、といった行為も、契約が解除される可能性があります。

また、「いかなる事由においても、当社は一切、損害賠償責任を負いません」

「予約の無断キャンセルをした場合は、100万円の損害賠償金をいただきます」(ただし「100万円」が消費者にとって不当な金銭的負担になる場合)

「この利用規約に同意した者は、本社の許可なく本契約の解除および解約ができないものとします」

といった条項も、消費者にとって一方的に不利益になるとして、無効になってしまうのです。

消費者契約法は社会情勢の影響を受けて変化するものです。

事業者は、契約の時点において、規制の対象項目に該当しているのか否かをきちんと把握しておく必要があります。

一方で、未然にトラブルを防ぐために、営業担当者などへの十分な社員教育にも努めなければなりません。

「瑕疵担保責任」による賠償請求

顧客や取引先へ納品した商品に瑕疵があった場合に、売主側が負う「瑕疵担保責任」があります。

事業者はここでも当然に、契約の解除や賠償責任を負う必要があるのです。

瑕疵の種類には、以下の2つがあります。

      1. 「容易に発見できる瑕疵」…例えば、表面のキズや破損など、納品前に行う最低限のチェックで見つかるもの。
      2. 「隠れたる瑕疵」…例えば、システムのエラーや内部部品の損傷など、一般的なチェックでは発見が困難なもの。

では、これらの瑕疵が発見された場合、事業者はどこまで責任を負うのでしょうか。

民法上では、「売買の目的物に隠れたる瑕疵があったときは、買主が瑕疵を知ったときから1年以内であれば、契約の解除や損害の賠償が請求できる」とあります。

商法上では、買主は納品後、遅滞なく商品をチェックし、容易に発見できる瑕疵、または6ヵ月以内に隠れたる瑕疵を発見したときは、直ちに売主に通知することが義務づけられています。

この通知なしに損害賠償を請求することはできません。

つまり、買主が売主に対して損害賠償を請求できるのは、納品後に速やかにチェックして瑕疵を発見し、通知を行った場合に限られるのです。

逆にいえば、納品して6ヵ月以上何も言われなければ、例えそれ以降にクレームが入ったとしても、請求に応じる必要は無いのです。

そもそも、こうしたトラブルを避けるためにも、契約書にあらかじめきちんと明記して、取り決めをしておく必要があるのです。

まとめ

今回は、患者さんからの解約やクーリング・オフの際に知っておくべき5つのポイントについてお伝えしました。

      1. 法的に解約対象となる特定継続的役務提供とは?
      2. 規制の対象になる「関連商品」と、ならない「推奨品」
      3. 美容医療もクーリング・オフの対象に
      4. 消費者の利益を守るための「消費者契約法」とは?
      5. 「瑕疵担保責任」による賠償請求

消費者の安全が法律で守られている一方で、医院、クリニックは、必ずしも全ての解約に応じる必要はありません。

解約や返金請求に関する正しい知識を身に付けることで、合法的に回避できるケースもあるのです。

解約や返金請求の対応に追われれば、無駄な労力やコストも発生してしまい、関係スタッフのストレスやモチベーションにも悪影響を及ぼします。

それらを無くすことで、安定した経営にもつながるのです。

ぜひ、今回お話した内容を踏まえて、顧客からの解約に対して、正しく対処していただきたいと思います。

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