はじめに

開業してから数年経ち軌道に乗ってくると、節税対策や事業拡大(分院展開など)を目的に医療法人化を検討する先生が多くなります。

しかし医療法人化の設立にあたり、スムーズに手続きを進めたいが、どうすれば良いかわからないという先生は多いようです。

そこで今回は、医療法人設立の手続き、スケジュールと、そのなかでも最低限検討しておきたいことをお伝えします。

医療法人設立の相談事例

まずはこれまでの相談事例で、医療法人設立の手続きに関するものを紹介したいと思います。


【50代 東京都・眼科医の奥様】

「以前、医療法人の申請を断念したことがあります。

主人が診療に集中できるように、私が医療法人設立の書類作成をすすめていました。

しかし申請期限ぎりぎりになって、理事をお願いしていた方から印鑑証明書が届きませんでした。

また予算書・事業計画書の作成がいま一つよくわからなかったのもあります。

結局その時に取得した証明書もまた取り直しということになりました。」

 

この眼科医の奥様がおっしゃるように、医療法人化にはいくつか段階があり、スムーズに手続きが進むとは限りません。

また必要書類の作成や煩雑な手続きを考えると、開業医の先生やご家族だけで手続きを行うのは難しいものがあります。

そこで行政書士や顧問の税理士に手続きの支援をお願いすることになります。

つまり、信頼できる行政書士や税理士を探すことが必要になるわけです。

そういったことも踏まえて、医療法人設立には余裕を持ったスケジュールと準備が必要となります。

医療法人設立の必要手続きとスケジュール

医療法人の設立は、都道府県知事に対する医療法人設立認可申請手続きが必要となり、煩雑かつ複数回のやり取りが必要になります。

医療法人設立認可申請については、通常は年に2回程度の決まった期間に限定されます。

例えば東京都では、医療法人設立認可申請書の提出(仮申請)は、3月と9月の2回だけ申請を受け付けています。

医療法人設立認可申請については、この仮申請受付期間の約3ヶ月前(本申請から逆算すると約6ヶ月前)から準備が必要と考えてください。

例えば東京都の開業医の先生であれば、3月に設立認可申請書を提出する場合は前年の12月くらいから動きだすことになります。

3月に仮申請する場合、医療法人設立の手続きの概要とスケジュール、管轄を示すと、次のようになります。

医療法人化に関する検討を始めてから、医療法人設立までは約6ヶ月となります。

その後法人登記、診療所開設、保険医療機関指定申請、社会保険加入手続きを含めると、だいたい10ヶ月くらいかかる見込みです。

【医療法人設立許可申請】

(前年12月~1月)
・設立要件のチェック及び医療法人設立シミュレーション
・医療法人の形態、医療法人名、役員構成、社員構成、評議員構成、拠出(寄附)財産、承継負債、決算期、開業時期に関する検討

(2月上旬~中旬)
・必要書類の収集(印鑑証明書、領収書、各種契約書の控、診療所開設届の控など)
・定款(寄付行為)、財産目録などの作成
・該当する都道府県への仮申請書作成
・金融機関との交渉

(2月下旬)
・設立説明会の参加(絶対条件ではない)
・設立総会開催

(3月初頭)
・設立認可申請書の提出(仮申請・事前審査)・・・・・・・・・東京都庁

(5月~6月)
・設立認可申請 (本申請)・・・・・・・・・・・・・・・・・東京都庁

(8月上旬)
・申請書類の最終審査と医療審議会への諮問・・・・・・・・・東京都庁

(8月中旬~下旬)
・医療法人設立認可書交付・受領・・・・・・・・・・・・・東京都庁

【医療法人設立】

(9月上旬~中旬)
・法人設立登記申請(医療法人の成立)・・・・・・・・・・・法務局
↓(約1~2週間)
・法人設立登記完了

・法人設立登記完了届

【診療所開設・保険医療機関指定】

(9月中旬)
・使用許可申請と開設許可申請・・・・・・・・・・・厚生局・保健所

(10月上旬)
・診療所開設届と個人診療所廃止届(営業開始)・・・・・・・・・厚生局・保健所
・保険医療機関指定申請 (遡及申請)・・・・・・・・・・・・関東信越厚生局
・諸官庁への届出(社会保険、税務関係、施設基準)・・・・・税務署・社会保険事務所など

※医療法人化は、医療法人を設立したうえで、これまでの個人で開設していた医院を医療法人の開設に切り替える2段階の手続きになります。

このように、医療法人化の手続きは、管轄の行政、保健所、厚生局で必要書類が異なり、かなり煩雑なものになります。

しかし、信頼できる行政書士や税理士と連携を組むことで、これらの手続きはスムーズになります。

一番の問題は、最初の医療法人設立認可申請でしょう。

手続きのなかでも、行政の事前審査が医療法人化の最大の難関になります。ここを乗り越えれば、医療法人化はほぼ見えたと言って良いでしょう。

医療法人化の準備として検討しておくべきこと

つまり、医療法人設立の手続きで、最も重要になってくるのが、医療法人設立認可申請のための準備となります。

まず、医療法人設立のシミュレーションで、節税効果や医療法人化で新たにかかるコストを見て、医療法人化が有利かどうかを判断します。

そこで、医療法人を設立したほうが有利と判断できた場合、実際に医療法人設立の準備を始めていきます。

具体的には、医療法人の形態、医療法人名、役員構成、社員構成、評議員構成、拠出(寄附)財産、承継負債、決算期、開業時期に関することです。

医療法人の形態

医療法人の形態には、大きく分けて社団医療法人と財団医療法人の2つがあります。

一般的には社団医療法人は人の集まり、財団はモノの集まりとなります。

これは何かと言うと、社団医療法人は社員といわれる自然人の集まりで設立されます。

一方で財団医療法人は、医療法人の目的のために財産が提供されることで設立されます。

ただし、設立時に法人に提供する財産が完全に寄附することになるため、財団医療法人よりも社団医療法人が設立されるケースがほとんどです。

財団医療法人は、全医療法人の1%弱に留まり、残り99%は持分の定めのある、もしくはない社団医療法人になります。

なお、これから社団医療法人を設立する場合は、すべて持分のない新医療法人となります。

医療法人名

医療法人名といえば、一般的に「○○会」とすることが多いですが、「このような名称にしないといけない」という規定はありません。

特に診療所が1ヶ所のみである場合は、「医療法人社団○○医院」などとする都道府県もあります。

ただ都道府県によっては、他の医療法人と同一名称が使えなかったり、なぜその名称にしたかを問われる場合があります。

都道府県によって少し違ってきますので、確認するようにしていきましょう。

医療法人の役員構成

医療法人の役員構成は、原則として理事3人以上、監事1人以上を設置する必要があるとされています。(医療法第46条の2第1項)

また、医療法人の理事、理事の親族、従業員が監事に就くことはできません。

これは、監事は理事の業務執行状況を監督するという機能があるためです。

また、医療法人と取引関係にある個人、法人の従業員も同様に監事に就任することはできません。

つまり、医療法人の顧問税理士などは監事に就くことができません。

なお特例として、理事が3人未満で医療法人を設立しようとする場合は、都道府県知事の特例認可を受ける必要があります。

設立認可申請と同時に、医療法人理事数特例認可申請をする必要があります。(この場合も理事が2人であることが望ましい)

また理事を3人以上で設立後、何らかの事情で理事が3人未満になってしまう場合も、同様に特例認可が必要になります。

社団医療法人の社員

社団医療法人における社員とは、社団医療法人の構成員であり、社員総会において1人1個の議決権を有します。

つまり、株式会社でいうところの株主に相当することになり、一般企業の社員とは違ってきます。

そうなると、社員になるためには一定の金銭の出資が必要とも思えますが、医療法人における社員と出資者(もしくは基金)は別です。

つまり医療法人では社員でも、一切金銭的な支出をしないことも可能です。

ただし,一般的には出資(基金)を支出して社員になる方が多い傾向にあります。

社員は原則として3人以上必要であるとされています。

特に法的制限があるわけではないですが、社員が3名を下回ることは医療法人制度の趣旨から好ましくないとされ、行政指導の対象となります。

医療法人の拠出財産(寄付)

医療法人は、「その業務を行うに必要な資産を有しなければならない」とされています。

当然なんでもかんでも拠出財産にできるわけではありません。

医療法人の拠出財産については、医療法人設立認可申請時に業務に必要な資産かどうかをチェックされることになります。

なお、社団医療法人については、基金制度を採用した基金拠出型と、採用していない拠出型に分けられます。

医療法人の負債の引継

医療法人を設立する際に、個人開業医時代の負債を医療法人に引継ぐことがありますが、一定の手続きが必要です。

医療法人化では、どの負債であっても無条件に引継ぎが認められるわけではありません。

原則として、拠出する資産のために抱えた負債に限定されます。

個人に帰しているとされる運転資金の負債は引継ぐことができません。

また、負債で財産を購入したものだけが引継ぎの対象となるため、拠出する財産の取得日より前の借入日でなければいけません。

負債を医療法人に引継ぐ場合、金銭消費貸借契約書や返済予定表の添付及び負債の詳細な内容について説明が求められます。

医療法人に引継ぐべき負債が引継げずに個人に残ってしまうと、医療法人化後の個人の資金繰りに悪影響を及ぼします。

負債の引継ぎは漏れのないように注意が必要になります。

負債を医療法人に引継ぐためには、医療法人設立認可申請時に「負債残高証明及び債務引継承認願」を提出する必要があります。

これは債権者側からの承認を得る手続きとなり、速やかに債権者側の担当者に連絡し、手続きを進めていく必要があります。

医療法人の決算期

医療法人の決算期は、任意で設定が可能です。

個人開業医時代と同様に12月とすることも可能ですし、医院の繁忙期を避けた月に設定するケースもあります。

ただ、ひとつ忘れてはいけないのは、決算期の設定によって税金の金額が変わってくるケースがあることです。

例えば時期によって利益に差があるのであれば、儲かる時期が始まる前に決算日を設定したほうが、税金対策面でメリットになります。

診療科目によって目安があり、内科であればインフルエンザの予防接種が入ってくるのは11月だから決算は10月末。

耳鼻科であれば、花粉対策などが入ってくるのは2月だから決算を1月末とする。

決算日はすぐに変更ですが、過去に損したお金を取り戻すことはできません。

医療法人設立前に決算日を十分検討することをおすすめします。

また社会保険診療報酬の金額が5,000万円以下、かつ医療機関の総収入が7,000万円以下の場合。

社会保険診療に係る費用として損金に参入する金額は、実際の経費の額にかかわらず、特例として概算経費を適用することができます。

つまり、医療法人の設立事業年度では医療法人の決算日の設定次第で、個人開業医時代の最後の確定申告と医療法人の最初の決算それぞれで概算経費特例の適用を受けられる可能性があります。

例えば、月800万円の社会保険診療報酬が見込める場合は、年間では9,600万円になります。

もちろん、この場合は5,000万円を大幅に上回ることになり、要件は満たしません。

しかし、医療法人の決算日を、1年目の活動月数を6ヶ月とする月に設定するとどうでしょう。

9,600万円÷2=4,800万円となりますから、個人の最終年分と医療法人の第1期目の事業年度の両方とも概算経費の特例が適用されます。

まとめ

以上、医療法人設立の手続きとスケジュールの話でした。

医療法人設立の手続きの流れで、最も重要なことは、最初の医療法人設立認可申請のところです。

事前審査は医療法人化の最大の難関になります。

また、医療法人化の準備の際に、十分検討しておくべきことを検討しないと、節税面で損したり資金繰りが悪化することになります。

目安としては仮申請の3ヶ月前、本申請の6ヶ月前から準備をしていくことになりますが、早めに検討する分には問題ありません。

医療法人化を考え出した時点で、信頼できる行政書士や税理士に相談すると良いでしょう。

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この記事の執筆・監修はこの人!
プロフィール
笠浪 真

税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢42人(R2年4月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

                       

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