はじめに

患者から請求する未払いの医療費(診療報酬)については、最初は内容証明郵便などで催促、弁護士に回収依頼など、様々な方法があります。

最初は自助努力で未払金を回収することになりますが、それでも患者が支払いを拒めば法的手段に出ることになります。

最悪訴訟に持ち込むことになりますが、60万円以下の少額の医療費未払いのケースも多いのではないかと思われます。

この場合、通常の民事訴訟とは違う、少額訴訟を検討した方が良いでしょう。(民事訴訟法368~381条)

今回は少額訴訟の特徴について詳しくお伝えしていきます。

少額訴訟が発生するケース

少額訴訟が発生し得るケースはもちろん医療費の未払いだけでなく、他には次に挙げるものが考えられます。

  1. 友人が貸したお金を返してくれない
  2. クライアントが制作物に難癖をつけてお金を払わない
  3. 商品を販売したのに代金を支払ってくれない
  4. 敷金を返してもらえない
  5. 車の接触事故を起こし、相手方に修理代を請求したが払ってくれない
  6. 会社から残業代が支払われない

少額訴訟は60万円以下の未払いに対して起こす訴訟ですから、このように身近に発生しやすいトラブルが中心になります。

医療費の未払金についても、身近に発生しやすいトラブルの1つと考えられます。

少額とはいえ、何人も医療費を支払わないようなことが積み重なると、医院経営に支障が出てきますので、少額でもしっかり対応しましょう。

少額訴訟のメリット

少額訴訟は簡易裁判所で行う民事訴訟手続きのことです。

後述するように、少額訴訟を利用するには一定の条件はありますが、通常の民事訴訟と違って簡易に手続きを進めることができます。

具体的には、少額訴訟には次のようなメリットがあります。

原則1回で判決が出る

少額訴訟で最も大きなメリットは、迅速に判決を得られることです。

通常の民事訴訟では、第1回、第2回、第3回……と何回も期日を重ねることになり、期日と期日の間は1ヶ月程度期間を空けます。

そのため、通常の民事訴訟では判決までに10ヶ月以上かかるのが一般的です。

正直60万円以下の訴訟で、これだけ時間をかけたくないものです。

一方、少額訴訟では、1回の期日で双方が主張・立証を出し尽くし(※1)、裁判所も即日で判決を出すのが原則(※2)となっています。

少額訴訟においては、特別の事情がある場合を除き、最初にすべき口頭弁論の期日において、審理を完了しなければならない。

判決の言渡しは、相当でないと認める場合を除き、口頭弁論の終結後直ちにする。

控訴ができないから迅速に判決が確定

さらに、少額訴訟は控訴ができない(※3)ことも大きなポイントです。

通常の民事訴訟では、判決に不服があると、控訴審(地方裁判所又は高等裁判所)に控訴することができます。

控訴されると、次の裁判所で審理となり、判決が出るのを待つ必要があり、訴訟が長引くことになります。

しかし、少額訴訟では控訴はできないので、迅速に判決が確定します。

少額訴訟の終局判決に対しては、控訴をすることができない。

【99.5%が本人訴訟】弁護士を立てる必要がない

少額訴訟の場合、弁護士を立てる必要がありません。司法書士・行政書士も同様です。

2016(平成28)年度の少額訴訟8,359件のうち、弁護士がついた件数はわずか39件と、全体の0.5%弱です。

少額訴訟は、弁護士を立てる必要がないと言って良いでしょう。

費用が安い

少額訴訟なのに、訴訟にかかる費用が高く、請求額を食いつぶすようであれば、訴訟を起こす意味がありません。

つまり費用対効果に対して心配になりますが、少額訴訟は通常の民事訴訟に比べて費用は安く済みます。

まず、弁護士を立てる必要がないので弁護士費用がかかりません。

また、訴訟にかかる費用(提起手数料)は、下記のように請求額に応じて高くなるので、少額訴訟では安く済みます。

請求額例 手数料
少額訴訟 10万円 1,000
20万円 2,000
30万円 3,000
40万円 4,000
50万円 5,000
60万円 6,000
通常の民事訴訟 100万円 10,000
500万円 30,000
1,000万円 50,000
5,000万円 170,000
1億円 320,000

近くに裁判所が多い

地方裁判所は支部を合わせて全国に203ヵ所ありますが、簡易裁判所は438ヵ所と2倍以上の数です。

数が多いということは、近くに裁判所がある確率が高いということなので、アクセスが容易です。

例えば、東京では地方裁判所は東京地方裁判所(霞が関)と立川支部(立川市)の2ヵ所しかありません。

しかし、簡易裁判所は東京簡易裁判所(霞が関)をはじめ、伊豆大島、八丈島、新島、八王子市、立川市、武蔵野市、青梅市、町田市の9ヵ所に設置しています。

このように数が多いと、近くの裁判所を探しやすく、負担が減るでしょう。

なお、訴えを起こす裁判所は原則として、相手の住所を管轄する簡易裁判所になります。

定型書式が充実している

少額訴訟は、もともと「利用しやすく、わかりやすい」司法を目指して導入された制度です。

そのため、法律に詳しくない人でも利用しやすいよう、裁判所のホームページには訴状の類型ごとに定型書式があります。

空欄を埋めることで訴状を簡単に作成することができる使い勝手の良い定型書式です。

強制執行が可能

通常の民事訴訟と同様、勝訴判決の際には、仮執行宣言が付与されます。

そのため、債務者(未払い患者)が弁済に応じなければ強制執行の申立てが可能になり、債務者の財産を差し押さえることが可能になります。

しかし、強制執行については、民事調停で調停調書を取得した場合にも可能になります。

医療費未払いの法的手段は様々あるので、総合的に検討するようにしましょう。

医療費未払金の時効が延長される

通常、医療費の未払金の時効は3年(2020年より5年)ですが、確定判決によって時効が10年に延長されます。これも通常訴訟とは扱いは変わりません。

少額訴訟のデメリット

少額の未払金の請求には、通常の民事訴訟より少額訴訟がおすすめですが、少額訴訟には、いくつかデメリットもあるので注意しましょう。

相手(未払い患者)が少額訴訟に反対した場合は通常の民事訴訟になる

少額訴訟は、相手(未払い患者)の同意がなければ起こすことができません。

もし相手が通常の民事訴訟を望み、少額訴訟を拒否するようであれば、通常の民事訴訟に移行しなければいけません。

結果として解決するまでに余計な時間がかかってしまう可能性があります。

少額訴訟の利用制限は年間10回まで

少額訴訟手続の利用回数は,同じ裁判所で1人年間10回までに制限されています。

医療費の未払い患者が複数名いるような場合は注意しましょう。

少額訴訟で勝訴できるポイント

少額訴訟は1回の期日で審理を完了し判決を出す手続きができるのが大きなメリットですが、注意点もあります。

事前に院長先生の言い分を裁判所に提出し、証人、証拠書類を準備する必要があること、さらに準備する証拠についても期日にその場で取り調べられるものに限られることです。

つまり、事前に決定的な証拠を準備しなければいけないということです。

通常、医療費の未払いが発生した場合は、少額訴訟などの法的手段に出る前に、電話やメール、内容証明郵便などで催促するのが一般的です。

その際、証拠としてメールや内容証明郵便の内容は保存しておき、電話については録音するなどして、証拠を集めておきましょう。

患者が医療費の未払いについて再三支払いを要求しても応じないことを証明する必要があるのです。

また、よく医療費未払いの患者に対して診療拒否できるのか? ということが話題になります。

医療費未払いだけを理由に直ちに診療拒否すると応召義務違反を問われる可能性があるためです。

応召義務違反を問われた際にも、再三請求しても支払いに応じなかった旨の証明が必要になります。

日常から「支払いの催促」をしたという証拠集めは行うようにしておきましょう。

通常の民事訴訟と少額訴訟の違い

ここで、今までお伝えしてきたことを踏まえて、通常の民事訴訟と少額訴訟の違いをまとめておきます。

通常の民事訴訟 少額訴訟
管轄裁判所 地方裁判所 簡易裁判所
請求金額 60万円以上 60万円以下
判決までの回数 複数回 1回
判決までの期間 10ヶ月程度 かからない
控訴 できる できない
弁護士 必要 不要
弁護士費用 かかる かからない
訴訟にかかる費用 比較的高い 安価
裁判所の数 203ヶ所 438ヶ所
裁判所までのアクセス 遠い 近い
定型書式 難しい 易しい
強制執行 可能 可能

少額訴訟を利用できる条件

繰り返しになる部分が多いですが、少額訴訟が利用できる条件は、次の通りになるので注意しましょう。

  1. 請求金額が60万円以下
  2. 少額訴訟の回数が年間10回以下
  3. 相手が少額訴訟に同意している
  4. 期日までに証人や証拠書類をすべて準備する
  5. 相手先(未払い患者)の住所のある簡易裁判所で行われるため、相手の住所を把握する

特に、最後の相手の住所を把握しておくことは、医療費未払いの請求では最も重要なことです。

悪質なモンスターペイシェントの場合、カルテ情報に虚偽の住所を記載することも考えられます。

患者の保険証を確認するのは当然として、保険証がない、または忘れた場合は、運転免許証など他の身分証明書の提示を求めるようにしましょう。

【まとめ】医療費の未払金問題の回収方法を把握しておこう

医療費の未払いの催促の法的手段のうち、少額訴訟についてお伝えしました。

ただ、少額訴訟については、電話やメール、内容証明郵便など、法的手段を取らなくても回収する手段はあります。

また、法的手段を取るにしても、民事調停や、裁判所を通じての支払催促という方法もあります。

医療費の未払金問題については、次の記事で詳しく書いていますので、こちらも併せてご覧ください。

【関連記事】【医療費の未払い対策】どうやって回収する?時効は?診療拒否できる?

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