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はじめに
育児・介護休業法が成立して以降、子育てと仕事の両立を積極的に支援しようという風潮が主流になっています。
医院・クリニックは看護師など女性のスタッフが大半を占める職場ですから関心が高い先生も多いでしょう。
2009(平成21)年に「育児のための短時間勤務制度」が登場し、全国の医院・クリニックで時短勤務が導入されていきました。
一方、似たような名称で目的も似ている「短時間正職員制度」というものがあります。こちらは厚生労働省が推奨していますが、まだ全国的には普及しているとは言えません。
今回は、「育児のための短時間勤務制度」と「短時間正職員制度」の違いについてお伝えし、特に短時間正職員制度について詳しくお伝えします。
時短勤務などの柔軟な勤務形態の導入はクリニックの離職率の減少にも繋がっていきますので、院長先生はぜひご覧ください。
「育児のための短時間勤務制度」と「短時間正職員制度」の違いについて
まずは、似ているようで結構違う「育児のための短時間勤務制度」と「短時間正職員制度」の違いについてお伝えします。
簡単に概要を言うと、この2つの制度は以下のようなものです。
【育児のための短時間勤務制度】
3歳未満の子供を養育する男女労働者について、1日の所定労働時間を原則として6時間とする短時間勤務制度を設けなければいけない。(育児・介護休業法23条)
【短時間正職員制度】
正職員の雇用形態のまま短時間で働く制度。育児に限らず、特に利用期間も定められていない。
育児のための短時間勤務制度
こちらは冒頭にもお伝えしている通り、育児・介護休業法に則った制度で、全国の医院・クリニックでも導入されている制度です。
具体的には労働基準法23条1項で定められた制度です。
事業主は、その雇用する労働者のうち、その三歳に満たない子を養育する労働者であって育児休業をしていないもの(一日の所定労働時間が短い労働者として厚生労働省令で定めるものを除く。)に関して、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の申出に基づき所定労働時間を短縮することにより当該労働者が就業しつつ当該子を養育することを容易にするための措置(以下この条及び第二十四条第一項第三号において「育児のための所定労働時間の短縮措置」という。)を講じなければならない。
抜粋元: 労働基準法23条1項
つまり、3歳未満の子供を育てているスタッフについては、毎日の勤務時間を短縮することを認めないといけないということです。
条件としては、3歳未満の子供を育てていること以外に、次の要件を満たす必要があります。
- 本人から申し出があること
- 1日の所定労働時間が6時間以上
- 日雇い勤務でないこと
- 育児取得中でないこと
- 就職後1年以上
- 出勤日が週3日以上
つまり3歳未満の子供がいる場合は、本人からの申出があれば原則として所定労働時間を6時間まで短縮しなければいけないことになります。
短時間勤務制度については、就業規則の中でどのように運用していくか明示することが要求されています。
なお、本人の希望があれば所定労働時間を7時間にするのは問題なく、労働時間ではなく勤務日数を短縮することも可能です。
短時間正職員制度
一方で短時間正職員制度は、子供の有無に限らず、また育児の理由でなくても、正職員でも所定労働時間を短縮できる制度です。
育児のための短時間勤務制度の影響を受けて設けられた制度のため、目的は似ているものがあります。例えば労働時間ではなく、勤務日数を短縮することが可能なところは一緒です。
少なくとも、結婚や出産を控えているクリニックのスタッフにとっては注目度の高い制度です。
大きく違うのは対象を問わないことです。育児のための短時間勤務制度は3歳未満の子供がいるスタッフだけが対象でした。
しかし、この短時間正職員制度では、例えば「小学校入学前の一定の年齢まで」といった期間を設けることも可能です。
しかし、こちらは育児・介護休業法等の法律に則っているわけではなく、後述するようにあまり普及はしていません。
しかし短時間正職員制度をクリニックでも適用すれば、様々な勤務形態が可能になり、女性の多い職場では離職率の低下に繋がるでしょう。
時短勤務の場合の給料の支払いは?
「育児のための短時間勤務制度」と「短時間正職員制度」といった時短勤務の場合、給料の支払いはどうなるのでしょうか?
結論から述べると、育児・介護休業法では賃金の取り扱いには言及していないので、基本的には無給でも差し支えありません。
実際に育児のための短時間勤務制度を導入している事業所の8割以上は時短分を無給としているようです。
これは、上記の2つの制度だけの話ではありません。例えば妊娠した看護師が「通勤ラッシュを避けるため、勤務時間を短縮してほしい」という申し出に対しても同様です。
こちらは介護・育児休業法ではなく男女雇用機会均等法の範疇ですが、こちらについても賃金の取り扱いについては言及していないためです。
ただ、このような時短勤務についてはクリニックの勤務で低評価を受け、処遇面で不利益が出るようなものであってはいけません。
あくまで差し引く給料は時短分の勤務時間についてのみです。
また後述するように、敢えて時短勤務でもフルタイムと同様の基本給を与える方法もあり、その方がメリットが大きい場合があります。
短時間正職員制度を導入するにはどうするか?
育児以外にも適用できる短時間正職員制度の導入を検討しているクリニックもかなり増えてきました。
長時間労働が蔓延しやすい医療業界では歓迎すべき取り組みですが、先に書いたように法的な規定がなく、あまり普及していません。
短時間正職員制度を導入するには、どのように戦略を立てていけば良いのでしょうか?
スタッフ間の不公平感を解消するように
短時間正職員制度によって多様な勤務形態が増えるほど、フルタイム勤務者や単身者の負担は大きくなります。
短時間正職員制度の導入は就業継続の切り札になる反面、スタッフ間に不公平感が生まれやすいのも事実です。
短時間正職員制度を導入する場合は、この不公平感を緩和するために、次の視点が欠かせません。
①ルール化する
②金銭的なインセンティブを与える(処遇で差をつける)
スキルを持った職員に限定する方法も
時短勤務は時短分の給料は差し引かれるのが一般的なため、子育て中のスタッフを除けば、さほど希望者は殺到していないようです。
「給料が差し引かれるくらいなら、フルタイムでがんばる」というスタッフが多いのも納得できます。
たしかにインターネットで検索しても時短勤務中の給料を気にしている看護師は多い印象です。
それでは短時間正職員制度の対象となるスタッフを絞り、そのスタッフだけフルタイムと同様の基本給を与える方法を取るのはどうでしょうか?
つまり、「クリニックのニーズに合った人材」「クリニックが求めるスキルを持った人材」に限定して短時間正職員制度を適用するのです。そして、減給はしません。
なぜかと言うと、優秀な人材が育児や介護を理由に離職することを防ぐためです。
これは机上の空論ではなく実際に医療機関の適用例があり、優秀な看護師が介護と仕事の両立を選択しています。
週休3日型の短時間正職員制度
先にも書いたように、短時間正職員制度は労働時間だけでなく、勤務日数を短縮する方法もあります。
実際に「週休3日型」の短時間正職員制度を導入している医療機関もあります。
なかには労働時間短縮型と勤務日数型両方選択できるクリニックがあり、短時間正職員制度により様々な勤務形態が可能になることを示しています。
例えば1日6時間×週5日勤務と、週休3日制といったような勤務形態です。
労働時間を短縮しても、「自分だけ早く帰りにくい」というスタッフがいるのも事実です。クリニック側としても「途中で帰られてはシフトを組みにくい」と考える院長先生もいるでしょう。
勤務日数が少なくとも、1日フルタイムで働いてくれた方がシフトを組みやすく、スタッフは帰りにくい状態を防ぐことができます。
つまり勤務日数短縮型の導入の方が、クリニック側としてもスタッフ側としても歓迎されることもあるのです。
実際に夜勤免除制度や短時間正職員制度を組み合わせた多様な勤務形態を導入している医療機関もあります。
この場合、ライフステージに合わせて勤務日数や労働時間を増やしたり減らしたりできます。
この場合は賞与査定を70~100%の間で調整したり、夜勤や休日出勤率が高いスタッフにインセンティブを与えるなど、公平感を保つようにしています。
このような柔軟な勤務形態を取り、それでスタッフ間の公平性を担保しているクリニックはまだ多くないのでしょう。
この医療機関では看護師などの応募者が増え、さらに離職率も大幅に低下したとのことです。
【まとめ】様々な勤務形態の導入で離職率の低下を
以上、「育児のための短時間勤務制度」と「短時間正職員制度」といった時短勤務についてお伝えしました。
法律で明確に定められていない短時間正職員制度については、まだ普及が進んでいません。
しかし育児や介護を理由に優秀なスタッフが辞めてしまうというのは、お互いにとって、とてももったいないことです。
短時間正職員制度については、本記事で書いたように様々な適用例があります。
このように柔軟な勤務形態を取ることで、優秀なスタッフが育児や介護と両立して長く働いてくれることを期待できるでしょう。
ご相談・お問い合わせ

- 亀井 隆弘
社労士法人テラス代表 社会保険労務士
広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。
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