はじめに

事業主(医院経営者)が従業員を一人でも雇用したら、必ず労災保険に加入しなければならず、保険料を納付する義務を負います。

もし、労災保険の加入手続きを怠ったたり、保険料を納付する義務に違反があると、罰金が課せられるだけではなく、医院の社会的信用を失うリスクも高まります。

そうした損失やリスクを回避するためにも、労災や労災保険の仕組みを理解し、適切な手続きを行うことが大切です。

今回は、
  1. 労災と労災保険
  2. 労災認定を決める2つの判断基準
  3. インフルエンザ労災
について、できる限り分かりやすく解説します。

そもそも「労災」とは何か?―労災の適用範囲について

はじめに、そもそもの「労災」の意味から説明します。

労災とは正式には「労働災害」と言い、従業員が、仕事が原因で怪我をしたり、病気をしたり、あるいは最悪のケースでは亡くなったりしてしまうこと言います。

一般的に、「労働災害(以下、労災)」というと、例えば工場や建設現場の作業中に怪我をしたりするようなケースをイメージすることが多いかもしれません。

他にも、最近ニュース報道でも頻繁に取り上げられる、職場の過度な負荷による「過労死」、「過労自殺」、あるいはセクハラ、パワハラなどの肉体的負荷ではなく心理的負荷による精神障害なども、労災と判断されるケースが多々あります。

また、職場のドアに指を挟んで怪我をした、職場の廊下が滑りやすく転んでしまって怪我をした・・・等々のちょっとした些細なことでも、仕事が原因で怪我、事故として労災認定されるケースがありますので、経営者にとっては注意が必要です。

労災保険とは何か?

次に「労災保険」にて説明します。

日本の社会保険には、「健康保険」、「年金保険」、「介護保険」、「雇用保険」「労災保険」の5種類があります。

この内、「雇用保険」と「労災保険」の2種類を「労働保険」と言います。「労災保険」とは、「労働者災害補償保険」の略称です。

労災保険とは、従業員が通勤時、あるいは仕事中に怪我や事故を起こしたり、仕事が原因で病院になったりした場合に労災と認定されると、その怪我や病気を治す費用、また休業中の賃金など、労働者の生活を(本来負担する会社に代って)国から給付金として必要な補償するための制度です。

労災保険の加入は任意ではなく義務です。事業主(医院経営者)は一人でも労働者を雇用したら、10日以内に所轄の労働基準監督署に届け出をし、加入手続きをしなければなりません。

また、雇用保険は労働者も加入し、保険料を一部負担しますが、労災保険は従業員が加入するのではなく、事業主だけが加入する点が特徴です。(保険料の事業主100%負担)

労災保険には加入要件がなく、雇用形態にかかわらず、全ての労働者が保険の適用対象となります。

つまり、正社員だけではなく、パート、アルバイト、日雇いの従業員であっても、全てが労災保険の対象となります。

労災保険の保険料率は3年に1度見直しがあります。労災が多く発生している場合で、(労災発生の)リスクが高いとみなされると、次回の見直しで保険料率が上がる可能性が高くなるので注意してください。

逆に、労災発生のリスク管理を徹底することで労災を未然に防ぐことができれば、医院側が負担する保険料の上昇を抑制したり、あるいは減額につながります。

労災保険の加入を怠ると・・・

事業主が、従業員を雇用にしたにもかかわらず労災保険の加入手続きをせず、従業員が怪我などをして労災認定を受けた場合は

  1. 追加徴収
  2. ハローワークでの求人掲載ができなくなる

などのペナルティを受けることになります。

一方、従業員の立場からすると、医院側が労災保険に加入していない場合でも、従業員は保険給付を受けることができます。

労災保険は、元来労働者を保護するための保険なので、保険料が高いから、あるいは労災のリスクが高くないからなどの理由で、医院側が任意に労災保険に加入しない場合であっても、変わりなく給付を受けることできるというわけです。

労災認定における2つの基準とは?

さて、職場で怪我や事故を起こした場合などに発生する労災ですが、必ずしも全てのケースで労災認定されるわけではありません。

例えば、前日に飲み会があり、終電を逃し、そのまま友人の家、あるいはビジネスホテルで宿泊。翌日、自宅とは全く別の場所(この場合、友人宅、ビジネスホテルなど)から出社し、たまたま事故に遭った場合は、通勤中に発生した事故とは言え、労災とは言えないケースもあります。

つまり、どこで、何をしていて、どのような状況で怪我をしたり、病気になったりしたのかを調査した上で、その事故が労災に該当するかどうかを判断してもらう必要があるわけです。この判断は、労働基準監督署が行います。

この労働基準監督署による判断(認定)を、「労災認定」というわけです。

従業員はこの「労災認定」を受けて、はじめて「労災保険」の給付を受けとることができます。

労災認定を受けるには?

労災は、以下のように労働基準法第75条に規定されています。

労働基準法
第七十五条:
労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、 又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
2:前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める。

そして、この労災認定を受けるためには、従業員が業務中、あるいは通勤中に、負傷したり、病気になったり、死亡したことが「業務によって発生したものである」と認められなければなりません。

では、この「業務によって発生したものであるかどうか(因果関係の有無)」はどのように判断するのでしょうか?

ポイントは、従業員の負傷、病気と業務との間に因果関係がなければ労災認定されないという点です。

労災認定では、「業務によって発生したものであるがどうか(因果関係の有無)」について、以下二つの判断基準を設けています。

  1. 業務遂行性
  2. 1つ目の基準は業務遂行性です。これは、「事故や怪我をした時に、業務中だったかどうか」という基準です。

    これは、本来の業務をしている最中だけではなく、会社主催で参加をしている親睦会、飲み会の場合や、業務を一時中断したトイレ、仕事の休憩時間に発生した怪我、事故も含まれます。

  3. 業務起因性
  4. 2つ目の基準が業務起因性です。これは、「その事故や怪我が、業務をしていたことが原因で生じたかどうか」という基準です。

    例えば、うつ病のケースを考えてみましょう。この場合、度重なる激務が原因でうつ病になってしまった場合、激務とうつ病の発生に業務遂行性と業務起因性を判断基準とした因果関係があると判断できるため、労災認定が認められます。

    一方、そのうつ病が従業員の個人的な事情(家族が不幸にあった等々)の場合は、「業務起因性」が認められないため、労災判定は認められません。

    以上、労災認定を受けるためには

    1. 業務遂行性
    2. 業務起因性

    労災認定には、この2点を両方満たさなければなりません。

    「インフルエンザ」は労災認定されるのか

    以上の点をふまえて、医療従事者が特に注意しなければならないインフルエンザの感染と労災について見てみましょう。

    厚生労働省のHPには、新型インフルエンザに対する認定について

    「一般に、細菌、ウイルス等の病原体の感染によって起きた疾患については、感染機会が明確に特定され、それが業務又は通勤に起因して発症したものであると認められる場合には、保険給付の対象となります。」

    ―新型インフルエンザ(A_H1N1)に関する事業者・職場のQ&Aより引用―

    と見解が述べられています。

    確かに理論上は、上記厚生労働省の見解のように業務中、あるいは通勤の途中でインフルエンザに感染した場合は労災の対象にはなります。

    それでは、例えば満員の通勤電車(「通勤中」は労災の適用範囲です)で隣に激しい咳をする人がいて、その人から感染した可能性が高い場合は労災認定されるでしょうか?

    結論から言いますと、一般的にインフルエンザに感染した場合、労災認定が認められることはほぼありません。

    理論上は業務とインフルエンザの感染の因果関係を明確に立証することができれば不可能ではありませんが、「インフルエンザの感染機会を明確に特定する」ことは事実上不可能という理由からです。

    インフルエンザのウイルスは目に見えるものではないので、いつ、どこで、そのような経路で感染したものか特定し、業務外で感染した可能性がないことを証明するのは難しいのです。

    院内でインフルエンザの患者さんに直接触れる機会が多い医師、看護師さんの場合はどうでしょうか?

    この場合、労災として認められる可能性は多少高くなります。とはいえ、その場合であっても「インフルエンザに感染している患者さんが意識不明で、業務上の必要性から人工呼吸の対処をした」など、業務遂行性、業務起因性が明確に立証できる特殊な状況でない限り、医療従事者であっても、インフルエンザに感染した場合は労災認定を受けることは難しいでしょう。

    しかし、医師や看護師など医療現場で働く人は業務の性質上、予防接種を徹底していると思います。その場合、もしその予防接種したワクチンによりインフルエンザを発症した場合、労災認定を受ける可能性は高くなります。

    まとめ

    いかがだったでしょうか?

    今回は、主に

    1. 労災、労災保険の基本的な仕組み
    2. 労災認定の認定基準
    3. インフルエンザ感染は労災認定されるかどうか

    について、解説しました。

    まずは、労災認定の2つの判断基準をしっかり把握した上で、従業員が怪我や事故などを起こした場合、適切な対応を行いましょう。

    インフルエンザに限らず、労災認定の判断は難しいケースが多いです。労災かどうか判断が難しい場合は、その都度労働基準監督署に確認し、労災に該当するかどうか判断を仰ぐようにしてください。

    今回の記事が参考になれば幸いです。

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