産婦人科クリニックの現状と財務・経営戦略

公開日:2019年9月9日
更新日:2024年3月18日

はじめに

最近産婦人科・婦人科のクリニックの収益が10年前と比べておよそ15%近く増加をしている感じになっています。単純に競合が減っているので収入は入りやすい状況になっています。

内科医の年収は開業医で2600万円程度、勤務医で1500万円程度と言われています。この年収は会社員や一般公務員などで働いている方と比較しても高めの年収といえます。ただ医師の激務・社会的責任ということを考えていくと決して高い年収ともいえないのかなという気がします。産婦人科も母子の健康を守る・日本の未来のための子供を守るという社会的責任のある大変な仕事といえます。

産婦人科の収入の増加の原因は産婦人科医の成り手の減少が挙げられます。若年層の医師そしてこれから医師を志す若い方が産婦人科を目指していく方が少なくなっている傾向があります。さらにこのような医師不足ということが相まって総合病院や一般病院でも産婦人科の規模を小さくしたりなくしてしまったりしているところもあります。毎日診療から隔日診療・終日診療を午前のみの診療にするなど診療時間を短くしているところが多くなっているとのことです。

ただ産婦人科の場合は個人のクリニックが頑張っている感じがします。このようなクリニックは院長・医師・看護師すべてを女性でそろえることができるので妊婦さんにとっても安心した環境で通院することができます。産婦人科自体の収入は平均して増加しているところが多くなっています。

競合が減少

産婦人科のクリニックの収入が上がる理由は病院数や医院数の減少という競合が少なっていることが挙げられます。出生数の減少から出産をする女性の方は減っています。ただそれ以上に産婦人科が人員を確保ができなくて維持できないという理由が大きくなっています。競合数の減少というのは産婦人科の経営には有利に働きます。

自由診療

また産婦人科の4院に3院程度は自由診療を取り入れていると言われています。出産はとてもお金がかかります。1回100万円以上することも珍しくありません。妊娠・出産は病気ではないので主に病気の時に適用される保険の適用外ということが大きな理由といえます。また産婦人科医のなり手が少ない・激務で昼夜関係なく立ち会わなければならないなどの様々な理由からこのような制度になってるものと思われます。

できるだけ産婦人科医の働ける環境を増やしたい・そこから産婦人科・レディースクリニックなどを多くしていきたいなどの施策を採っていこうという意図は伝わります。ただなかなか産婦人科の病院や医院が増えないむしろ減っているという実情を変えていく流れには現在のところ至っていません。ただ減るということは産婦人科を経営していく上ではマイナスにはなりません。

産婦人科の減少

さらに産婦人科の減少が経営面で大きな影響を与えていることも間違いないでしょう。産婦人科自体の数はこの10年で横ばいか数%程度の小さな減少に留まっているものと思われます。

ただ減少の中には産婦人科を閉院してしまうという直接的な減少だけではなく、病院の中で産婦人科をなくしてしまうことや産婦人科の診療時間をを短くしてしまうなどの間接的な現象も含まれます。そうなると相当数の産婦人科の病院や医院の減少になるのではないかと思われます。

ただ東京などの都市部や首都圏さらに地方都市の産婦人科クリニックやレディースクリニックがこの減ってしまった部分をカバーして収益を上げて経営面でも良好なところが比較的多くなっているのではないかと思われます。

女性は身体的な制約もあって長時間勤務や夜勤深夜勤務などを避ける方が多くなっています。そのような女性医師の方にも産婦人科クリニックやレディースクリニックはとても仕事がしやすい環境です。出産の時の夜間立ち合いなども稀にはあるものと思われますが、産婦人科病院のような恒常的な夜間の立ち合いはありません。

産婦人科医を目指さない若者・その中でも働きやすい環境で働ける女性医師・産婦人科病院の隙間を縫って経営を軌道に乗せたいクリニック側という事情が重なることで小規模の産婦人科クリニックなどが経営面で成功を収める可能性は十分にあるのではないかと考えられます。

若年層の減少

現在少子高齢化で若い方の人口がどんどん減っています。出生数も団塊ジュニア世が生まれた1970年代前半は年間200万前後。それが1980年付近で150万・1990年付近で130万前後・2000年付近で120万前後・2010年付近で105万程度・そして2018年現在で92万程度まで減少しています。だいたい20年で3割ほどのペースで減っている換算になります。このペースで行くと2035年前後には70万程度まで下がりそうです。

出産する女性の数は明らかな右肩下がりです。ただ産婦人科は激務で精神的なストレスも半端ありません。最近は男性医師だけでなく女性医師も産婦人科を敬遠する方向になっています。そうなっていくと産婦人科数・産婦人科医師数ともどんどん減っていってしまいます。これがほぼ同じようなペースなので産婦人科の経営が成り立っているといえます。

晩婚化と晩産化

さらに女性の初婚年齢が29.5歳付近で間もなく30歳代に入りそうです。ちなみに2000年時点では27.0歳で今より2.5歳ほど若かったということになります。また仕事とプライベートを重視する30・40代の独身女性の割合も近年増えています。それも相まって第1子出産の平均年齢が30.7歳と30歳を超えています。2011年に30歳代に入ってから少しずつ上昇しています。遅く子供を産む女性が増えたことでトータルで首相数は減少していく方向に進みそうです。今後もこの流れは変わらないと感じています。

ただ最近は専業主婦を希望する女性の方が多くなっています。若い女性が多く結婚することで出産が早くなり出生数の増加につながる可能性もあります。ただそうもうまくはいかないのが世の中です。結婚をしたがらない男性が多くなったようです。収入が低い・面倒くさいなどの理由が主なようです。たしかに結婚のメリットは圧倒的に女性の方が高いと思われますのでこういう傾向になるのも仕方ないかなという気がします。こうしていくと独身で実家暮らしのパラサイトの女性がやはり増えていく傾向は変わらない感じがします。

ただ高い年齢でも出産する方もいるというのは産婦人科側としてはありがたいものです。高齢出産にはリスクが伴うので負担やストレスは増えます。ただ来院客が多いというのは産婦人科にとってのプラスになります。

産婦人科の収入

内科のコスト

収入=患者数×客単価に診療報酬の点数が比例してきます。産婦人科の場合は出生数が減るも今後も競合が減っていきますので比較的安定した数字を見込めそうです。

分娩は昼夜を問わず大変な仕事ですが1件あたりの単価も高くなります。100万円程度になることが多いです。特に地方では祖父母などの高齢者の方も孫の出生にお金を出す家族も多いですので比較的高めに設定してもいけそうな感じがします(ただそれに比例するサービスがあることが前提になりますが)それなりに高い値段設定をしても大丈夫そうな気がします。

経営のコスト

今までは収益の面でみてきました。今度は医療スタッフや設備などのコストの面を考えていきます。

まず産婦人科クリニック・レディースクリニックなどを経営するには建物が必要です。建物を買うか・借りるか。またその費用を一発現金で払うか・ローンで払うかという問題が出てきます。そこで購入・一発現金払い以外の場合は毎月の建物のローンが発生します。このローンの額は地方・都市部なのか駅近く・郊外などによってかなりのばらつきが出ます。おそらく最低でも月10万円・高いところは100万円近くなってもおかしくはありません。

さらに看護師などのスタッフを確保する必要があります。内科のクリニックの多くは医師と看護師で足ります。ただ臨床検査技師やリハビリ士などのスタッフが必要になります。この看護師などのスタッフの月収を減らすことは基本的に難しいです。長く働いていただいた方には昇給をする必要があります。新規のスタッフを採用するとなると年間何百万円という経費がかかることがあります。

産婦人科の場合は収入=来院数×客単価になります。また病院の収益=収入ーコストになります。様々な経費がかかるのですがここでは簡単に説明をしていきます。

来院数は出生数がこの10年で15%ほど減少しています。ただ産婦人科の数もその間に2割近く減っているので産婦人科1医院あたりの来院数は横ばいというか増えているところが多くなっています。3割くらい増えている産婦人科医院もあるくらいです。平均するとだいだい2・3%程度の上昇という感じになっています。

また客単価も10年で3・4%ほど伸びています。出生数が減っているので自由診療を行っている少しでもお金を取りたいという病院側の意向と出産が晩婚化している・孫の顔も見たいという親も資金面で協力する家族も多いです。ということもあって出産にお金をかけられる状況にあるので客単価も上がっています。産婦人科の収入は10年前と比較して平均でおよそ5%ほど上昇しているといえます。

今度は産婦人科の経営をする上でかかるコスト面を考えていきます。

建物などのコスト・人件費などの固定費もかかってきます。人件費はさほど変わらないというかやや上がってしまう可能性があります。あとはこの固定費が基本的には減りません。ただ備品などのローンの返済が順調に進めばまだいいのですがここが進まないと難しいです。いずれにしても固定費もそう簡単に減らせません。

この収入が減る・固定費が変わらないということになってくると大変なことになってきます。

収益=収入ーコストで計算できます。前年度の収入が年間6000万円・固定費などのコストが5000万円であれば6000‐5000=1000万円手元に残ります。

この収入が6000万円から仮に3%増えて年間6180万円になると6180‐5000=1180万円になります。これはあくまでも目安ですので参考程度にしかなりません。

産婦人科の経営に関しては他の科よりもうまく行っているところが多くなっています。

ホームページ集客も重要

最近クリニックはホームページで患者やスタッフを集客したり求人をしている方もいます。

ただこのホームページを自身で作る方は多くありません。ホームページを制作業者に任せる方が多いです。その制作料金がけっこう高く150万円くらいかける方も多くいます。ただその制作をしても収益に結び付きにくいホームページを作ってしまう業者さんがいます。デザイン性はあっても検索にかからないホームページが多くあります。

地域や診療科目を意識してタイトルに盛り込むこと・医師や看護師の見栄えの良い写真などを意識して作ればそれなりに検索はされると思われます。あとはクリニックの場所をしっかりと明記しておくことも重要です。通いやすいそして行きやすいクリニックにしていけるようなホームページ制作を心掛けるべきです。

クリニック側の努力も必要

さらにクリニックの開業する医者や看護師などの努力も重要になります。いくら優れたホームページを作って集客がうまく行っても肝心の病院スタッフの対応が雑だったり不機嫌な対応を取ってしまうようであればクリニックの安定経営は望めません。

クリニックなどは特に女性の口コミで持っているところもありますので患者さん対応という面ではしっかりと行う必要があります。ここが丁寧か雑かで年間の収益が2・3割は変わってくるのではないかと考えています。産婦人科というともろに女性のデリケートなところとも関係がしますのでこの面での努力はより必要になってくるといえます。

全体的には縮小傾向

産婦人科は全国的に少なくなっています。地方の一般病院なども産婦人科をなくしたり診療時間を減らしたりしていく方向になっています。産婦人科医を目指す医師が減っている以上この流れは変わらないのかなという気がします。

ただ都市部や地方都市などに多くあるレディースクリニックや産婦人科医クリニックがその穴を埋めてくれるのではないかと期待しています。事業モデル的には収益が取れる可能性が高いので女性医師などで意識の高い方であれば開業を目指しても面白いかも知れません。開業の際は、財務と経営に強い税理士選びが重要なポイントになります。

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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