はじめに

医院、クリニックにおける医業収入として、診療報酬以外に、患者に商品を売ることによって得られる販売収益があります。

金額的には診療報酬の比ではありませんが、物販を行うことで、単に売上がUPするだけでなく、患者の症状改善や顧客満足度UPの可能性にも、その影響が期待できるのです。

では、医療機関が物販を行う行為は、果たして違法ではないのでしょうか?

実は、違法の場合と、そうでない場合があるのです。

医療機関の物販の場合、一般の小売業とは違う特別の医療法や薬事法の規制があるので、あらゆる商品を独自の判断で自由に販売できるわけではありません。

もし、それを知らずに商品の販売業務を行っていると、後で大変な事態になってしまう可能性もあるのです。

そこで今回は、医療機関による物販において、知っておくべき重要なポイントについてお伝えしていきます。

医療機関での物販は違法なのか?

医院やクリニックといった医療機関は、医療法上、「医業の範囲内」の行為しか行うことができないとされています。

医業の範囲内とは、「医療行為そのもの」もしくは「医療行為に付随する行為(付随業務)等」のことを指します。

では、物販は医業の範囲内なのでしょうか?

実は、物販に関しては、医業の範囲内のものと、そうでないものがあります。

物販そのものは医療行為ではないため、物販が医業の範囲内となるためには、それが付随業務である必要があるのです。

行政上、付随業務となる要件として、主に下記の2つの要件を満たす必要があります。

  1. 患者のための行為であること
  2. 療養の向上を目的とした行為であること

つまり、医療機関の診療を受けに来た特定の患者に対し、療養の向上を目的とした商品を販売する行為は、付随業務に該当します。

よって、この場合は物販を行うことが可能です。

具体的な例を挙げると、歯科クリニックの業務を行っている建物内で、患者に歯ブラシやデンタルフロスといった歯のケア商品を販売する行為が、これに当たります。

歯科診療という療養の向上を目的とした物販であり、付随業務に該当するので、問題ありません。

しかし、例えば歯科クリニックで「玩具」を販売することは、療養の向上を目的としていませんので、付随業務に該当せず、行うことができないのです。

このように、医療機関が物販をしても良い場合と、そうではない場合とがあるので、実施する際には、きちんとルールに従う必要があります。

医療機関はネット販売ができる?

経済産業省の平成28年の調査によると、近年インターネットによる買い物の市場は益々拡大し、物販の市場規模全体の3割以上に相当する金額となっているというデータがあります。

では、医療機関が関連商品の物販を行う際に、インターネットで販売をすることは可能なのでしょうか?

実は、ネット販売に関しては、対象者が患者のみに限らず、不特定多数の人に対しての販売行為に当たるので、医療行為の付随業務には該当しません。

つまり、医療機関がインターネットを利用して物販を行うことは、法律上できないのです。

あくまでも、先に述べた「患者のための行為」であり、且つ「療養の向上を目的とした行為」でなければなりません。

では、抜け道策として、メディカルサービス法人(MS法人)を設立して、そこにネット販売を委託すればOKなのでしょうか?

実は、この方法に対しても、すでに行政が規制をかけていて、「医業の範囲内」という考えに基づき、同じく前述の1と2の要件を満たすことが必須となっているのです。

このことから、たとえMS法人であっても、医業の範囲を超えた物販に関してはできないとされています。

仮に、インターネット等で物販を行いたい場合は、当該医療機関とは別法人を設立し、そこで物販を行う必要があるのです。

医療機関のネット販売に関しては、現在のところ法律上の制限がありますが、行政上では、医療費削減の観点からも、今後可能な範囲を拡大していこうという議論がされています。

従って、医療機関がインターネットで物販を行える日が、将来的に訪れる可能性も否定できないのです。

今後の行政の動きに注視が必要です。

物販は医療の大原則「非営利性」に反するのか?

「医療機関は非営利でなければならない」という大原則があります。

では、医療機関が物販によって利益を得ることは、違法なのでしょうか?

物販と非営利の関係からすると、相反しているように感じるかも知れませんが、実は違法ではありません。

このことは、医療法で規定されている、「医療機関の非営利性の主たる要素」によるものです。

では、その「医療機関の非営利性の主たる要素」とは何か?

それは、「医療機関が、団体の構成員に対し剰余金の分配を行わないこと」です。

つまり、そもそも利益を得ることが非営利性に反するのではなく、得た利益を構成員に分配することが禁止されているということです。

従って、医療機関が物販によって利益を得たとしても、それを構成員に分配しない限りは、非営利性の原則には抵触せず、違法ではないのです。

医療機関であっても、正しく物販を行えば問題ありません。

過度な広告表現は規制の対象に

では、実際に物販を行う際に気を付けなければならない、広告表現に関するポイントについて、お伝えしていきます。

ここでは、サプリメントの広告表現を例に説明します。

「飲むだけで、あなたも簡単に理想のスタイルに!」

「気づけば1週間でラクラク-5㎏!」

といった宣伝文句が、世の中に溢れています。

週刊誌の表紙や、電車の中吊り広告、折り込みチラシ等々、誰もが一度は目にしたことがあるキャッチコピーではないでしょうか。

こんな広告を見たら、誰でもいとも簡単に、何の苦労もせずに痩せられるのでは?と、思ってしまうでしょう。

今まで何をやっても続かなかったり、思うような結果が出ずに失敗してきた人なら、なおのこと、「今度こそは!」「これなら!」と信じて、購入してしまうかもしれません。

では、実際にそれを使用した人全員が、広告のうたい文句のように、簡単にダイエットに成功しているのでしょうか。

残念ながら、必ずしもそうとは限らないのが、ダイエットの厳しい現実であり、それゆえ、本人にとっては切実な悩みではないでしょうか。

つまり、過度な広告表現によって、それを見た消費者が過剰に購買意欲をそそられ、実際に購入してしまい、しかも結果につながらない、という構図に陥る可能性が高いのです。

そのような消費者を守るために、広告規制に関する法律が存在します。

それが、広告一般を規制する「不当景品類及び不当表示法(以下、景品表示法)」です。

景品表示法では、以下のように、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害する恐れのある広告を禁止しています。

  • 「優良誤認」

・・・一般の消費者に対して商品の品質等の内容が実際よりも著しく優良であると誤解させる表示

  • 「有利誤認」

・・・取引条件が実際よりも取引の相手方に著しく有利であると誤認させる表示

また、景品表示法の他に、食品販売に関する広告については、「健康増進法」による規制があります。

健康増進法では、健康の保持増進の効果等について、①「著しく事実に相違する表示」と、②「著しく人を誤認させるような表示」を禁止しています。

いずれにしても、例えば「飲むだけで誰でも必ず5kg痩せます!」といった表現は、事実と相違することが明らかです。

このような表示は、消費者の合理的な選択を阻害する恐れがあるため、景品表示法や健康増進法に違反していることになり、使用することが出来ないのです。

医療機関の物販においても、広告表現が景品表示法や健康増進法の規制に抵触していないか、広告を作成する際にはきちんと確認しておきましょう。

打消し表示では「打ち消されません」?

『個人の感想であり、効果には個人差があります』

『必ずしも効果効能を保証するものではありません』

健康食品やダイエット商品等、さまざまなチラシやCM等でよく目にするこのフレーズ。

これらは「打消し表示」と呼ばれています。

実際にその商品を使った人の体験談等で、この打消し表示が、当たり前のように広く使用されています。

一見、過剰な広告表現をその一文を載せることによって責任回避しているかのような、「逃げ道」的な、あるいは「安全策」の役割として使われているのかもしれません。

要は、景品表示法の「優良誤認」の対策として、そのような打消し表示のフレーズが多く見受けられるのです。

事業者側からすれば、「体験談を使って少しでも消費者に効果を訴えかけたい」、でも「規制には抵触しないように」といった状況での、苦肉の策なのかもしれません。

では、果たしてそれが有効なのでしょうか?

2017年に消費者庁から出された「打消し表示に関する実態調査報告書」によると、「打消し表示が一般消費者に与える影響はほとんど無いと考えられる」という結果でした。

つまり、「個人の感想です」という打消し表示が記載されているにも関わらず、広告表現に対する一般消費者の認識としては、ほぼ変わりが無いということです。

また、同じ実態調査の中で、打消し表示を見ても商品に対する認識に変化がなかった回答者について、以下のデータが得られています。

  1. 「効果に個人差があるのは当然のことだと思うから」67.9%
  2. 「このような注釈はよくあるもので、さほど意味のある情報ではないと思うから」26.4%

今や当たり前のように、どの商品にも同じような打消し表示が使われているので、その言葉を重く受け止めるという感覚が、どんどん薄れているのです。

一般消費者にとって、打消し表示はもはや企業側のクレーム対策用の記載であり、商品の効果に対する認識に影響を及ぼすものではないことが、調査結果から分かりました。

実は消費者庁は、それらの結果を踏まえ、打消し表示を含む景品表示法に関する新たなガイドラインを公表し、すでに指導の強化が始まっているのです。

早くも、某大手通信企業、某TVショッピング番組、某大手旅行代理店の広告が、景品表示法に抵触するとして摘発され、多額の課徴金が課せられています。

最近では、ハンバーガーのチェーン店で有名な店までもが、あたかも牛ブロック肉を使用しているかのような広告に対して、約2,171万円の課徴金の支払いを命ぜられたのです。

このように、景品表示法の優良誤認に関する取り締まりが強化され、摘発される事例が後を絶ちません。

将来的には、これまで業界として問題ないとされてきた注釈表示が、もはや一切意味をなさないという事態が、待っているのかもしれません。

物販を行う際は、くれぐれも体験談によって一般消費者の誤解を招かないよう、当該商品・サービスの効果、性能等に適切に対応した表現を用いることが重要なのです。

まとめ

今回は、医院・クリニックの物販と、広告表現の注意点についてお伝えしました。

  1. 医療機関での物販は、医療行為もしくはそれに付随する行為の範囲であれば可能。
  2. 不特定多数の人を対象にしたインターネットによる物販はできない。
  3. 物販で利益を得ることそのものは、医療機関の非営利性に抵触しない。
  4. 消費者に優良誤認や有利誤認を与える広告表現は、景品表示法で違法とされる。
  5. 広告の打消し表示は、優良誤認対策にはならない。

医療機関の物販は、限られた範囲でのみ行うことが可能で、物販によって得られる利益は、当然医院の経営面にも影響を及ぼします。

その際に、特に広告表示に関しては法律の厳しい規制があり、場合によっては多額の課徴金を命ぜられるケースもあるので、特に注意が必要です。

ぜひ、今回お話したことを踏まえて、クリニックの売上UPや、患者さんとの関係性UPのためにも、物販を正しく有効的に活用して頂きたいと思います。

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プロフィール
笠浪 真

税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

                       

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