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はじめに
「開業の際の保健所の立入検査にどう対応して良いか分からない」
「立入検査を受けたら、文書で指導項目が出されてしまい、後日、改善報告を求められてしまった」
「保健所の指摘項目について、『受け入れられない』と戦ってしまったら、もっと細かく見られて、指摘・指導項目が増えてしまった」
こんなことにならないよう、ここでは開業時に受けなければいけない、保健所の立入検査について、実際にどのような指摘・指導が出されているのか、検査の際に留意すべき事項は何か、などを見ていきます。
保健所立入検査で出された指摘事項とは?
保健所立入検査ではどのような指摘が挙がっているのでしょうか?
東京都福祉保健局医療政策部安全課が出した、「平成28年度 医療法第25条 第1項に基づく定例立入検査の実施状況 報告書」によると、平成28年度は240病院に立ち入り検査を行い、次のような指摘がなされています。
なんと240病院の検査において、全ての病院で何らかの指摘・指導事項が出ているのです。
つまり、指摘・指導事項がない病院はありません。
その指摘・指導事項の内容を見てみましょう。
指摘が最も多かった項目は次になります。
1)「診療放射線」(立入検査実施病院の10.4%)
2)「病院管理・施設使用・院内掲示」(7.5%)
3)「医療従事者数」(4.6%)
一番多かった、1)「診療放射線」では、
・「エックス線漏えい線量測定」(漏えい線量の半年に1回の測定頻度や部屋6面の測定場所について一部基準を満たしていなことに対する指摘)
・「エックス線室の表示」
・「移動型透視用エックス線装置の適切な管理」
という項目で指摘が出ています。
次の、2)「病院管理・施設使用・院内掲示」では、
・「変更許可申請、病床稼働状況等」(医療法上の届出と違った用途で部屋を利用している、使用許可を受けている病床を稼働していない病院があった)
・「院内掲示」
という項目で指摘が出ています。
これらの指摘は、「医療法の認識不足および院内の業務管理不十分等が原因と考えられる」、とされています。
指摘事項については、改善報告を文書で提出する必要があります。
また文書指導が最も多かった項目は次になります。
4)「個人情報」(立入検査実施病院の50.0%)
5)「職員の健康管理体制」(46.7%)
6)「医療安全管理体制」(42.1%)
50%の病院で文書指導となった、4)「個人情報」では、
・教育研修の未実施等に対する「従業者の監督(26.3%)」
・規定すべき項目の不足等に関する「個人情報保護規程の整備・公表(25.0%)」
・個人情報委員会の未設置・未開催等に関する「組織体制の整備(15.4%)」
といった項目が挙げられています。
次の、5)「職員の健康管理体制」では、
・深夜業務従事者健康診断の未実施または、実施項目不足に関する「深夜業務従事者の健康診断の実施(28.8%)」
・雇入時健康診断の未実施または、実施項目不足に関する「雇入時の健康診断の実施(16.3%)」
・深夜業務従事者健康診断結果の労働基準監督署への未届けに関する「深夜業務従事者健康診断結果の労基署への報告(12.5%)」
といった項目が挙げられています。
なお、指摘又は文書指導のいずれかを行った項目では、「個人情報」が最も多く、立入検査実施病院の51.3%に法令事項の不備又は指導事項の重大な不備が見られています。
実際の立入検査時の対応と、検査項目で押さえておくべきポイントとは?
「医療法第25乗第1項の規定に基づく立入検査要綱」には、「病院が医療法及び関連法令により規定された人員及び構造設備を有し、かつ、適正な管理を行っているかについて検査することにより、病院を科学的で、かつ、適正な医療を行う場にふさわしいものとすることを目的とする。」とあります。
実際には、開設届出時または、事前相談時に管轄の保健所と検査の日程を調整することになるでしょう。
自治体によっては、事前に文書通知を受けることもあります。
検査当日は担当者が1-2名で来院し、院内を回り、指摘事項を口頭で伝えることで終了することが多いと思われます。
ただし、指摘事項が多岐にわたる場合は後日、文書で指導項目が手渡され、改善報告を求められる場合がありますので、気を引き締めて臨みましょう。
検査を受ける日程が確定したら、当日は管理者に加えて可能であれば看護師や事務職員も同席させ、指摘事項を記録すると良いでしょう。
可能ならその場で改善可能なものは改善してしまい、保健所の心証を良くするようにすることも重要です。
検査の際の状況や指摘事項は、保健所が保管する医療機関ごとの台帳に記録され、病院を廃止するまでずっと同じ台帳に継続的に指導を受けることになります。
実際の検査項目としては、「医療法第25条第1項の規定に基づく立入検査要綱」の
・第1表の「施設表」(病院の施設名や開設年月日、所在地、病床数、診療科等を記載したもの)
・第2表の「検査表」(実際の検査項目を記載したもの)
に記載されている事項が対象となります。
第2表の「検査表」にある項目を、特に気を付けるべきポイントとともに、挙げておきます。
カテゴリ | 検査項目 | 特に気を付けるべきポイント |
---|---|---|
1.医療従事者 | 1-1.医師数 1-2.歯科医師数 1-3.薬剤師数 1-4.看護師数 1-5.看護補助者数 1-6.(管理)栄養士数 | ・管理者は、医師・看護師等の免許証の原本を確認し、その写し(コピー)を院内に保管しておくこと |
2.管理 | 2-1.医療法の手続 2-2.患者入院状況 2-3.申請時の管理 2-4.医師の宿直 2-5.医薬品の取扱い 2-6.医療機器等の清潔及び維持管理 2-7.調理機械・器具の清潔保持及び保守管理 2-8.職員の健康管理 2-9.医療の情報の提供 2-10.医療の安全管理のための体制確保 2-11.院内感染対策のための体制確保 2-12.医薬品に係る安全管理のための体制確保 2-13.医療機器に係る安全管理のための体制確保 2-14.ドクターヘリの運航に係る安全の確保 2-15.高難度新規医療技術、未承認新規医薬品等を用いた医療を提供するに当たっての必要な措置 2-16.特定機能病院における安全管理等の体制 | ・診療所開設届、X線装置備付届、各種年次報告書などの書類の控えを時系列で整理して保管しておくこと(変更時や次年度の届出の前提になる) ・労働安全衛生法に基づき、職員の健康診断を定期的に行い、その記録を残すこと 例1)麻薬:鍵をかけた堅固な設備に保管し、払出しの都度記録する専用の麻薬帳簿で常時在庫を確認できること ・個人情報管理指針を策定し、院内掲示等で周知した上で、指針に基づく運用を行うこと(個人情報は、個人を特定できる情報に及ぶことに注意) ・医療法施行規則に基づき、医療安全を確保するための指針の策定、従業者に対する研修の実施その他医療の安全を確保するための措置を講じること |
3.帳票・記録 | 3-1.診療録の管理、保存 3-2.助産録の管理、保存 3-3.診療に関する諸記録の整理保管 3-4.エックス線装置等に関する記録 3-5.院内掲示 | ・診療録、検査記録、処方箋の控え等は外部流出しない体制で保存淵源以上管理保存していること なお、電子カルテ等の電子媒体で保管する場合には、①真正性(無断書き換えができず、作成責任者が明確であること)、②見読性(必要な時に出力、表示、作成できること)、③保存性(保存すべき期間中、常時復元可能な状態で保存される体制であること)の3要件を満たすこと・院内掲示について、管理者氏名、従事する医師の氏名、診療日、診療時間を院内の見やすい位置に掲示すること(検査の際、必ず最初に確認されるポイント) |
4.業務委託 | 4-1.検体検査 4-2.滅菌消毒 4-3.食事の提供 4-4.患者等の搬送 4-5.医療機器の保守点検 4-6.医療ガスの供給設備の保守点検 4-7.洗濯 4-8.清掃 4-9.感染性廃棄物の処理 4-10.医療用放射性汚染物の廃棄 | - |
5.防火・防災体制 | 5-1.防火管理者及び消防計画 5-2.消火訓練・避難訓練 5-3.防火・消火用設備の整備 5-4.点検報告等 5-5.防災及び危険防止対策 | ・スプリンクラーが付いていない建物の場合は、院内の見やすい場所に適性数の消火器を設置すること |
6.放射線管理 | 6-1.管理区域 6-2.敷地の境界等における防護措置 6-3.放射線障害の法事に必要な注意事項の掲示 6-4.放射線装置・器具・機器及び同位元素の使用室・病室の標識 6-5.使用中の表示 6-6.取扱者の遵守事項 6-7.従事者の被ばく防止の措置 6-8.患者の被ばく防止の措置 6-9.器具又は同位元素で治療を受けている患者の標示 6-10.使用・貯蔵等の施設設備 6-11.照射器具及び同位元素の管理 6-12.障害防止措置 6-13.閉鎖施設の設備・器具 6-14.放射性同位元素使用室の設備 6-15.貯蔵箱等の障害防止の方法と管理 6-16.廃棄施設 6-17.通報連絡網の整備 6-18.移動型エックス線装置の保管 6-19.陽電子断層撮影診療用放射性同位元素の使用体制の確保 | ・X線装置ごとの照射記録に加え、医師又は診療放射線技師について、フィルムバッジ等による従事者ごとの被ばく管理を行うこと ・6ヶ月ごとにX線の漏れがないか測定し、記録すること |
なお自治体によっては、国からの要綱による検査項目に加えて独自の検査項目を重点検査項目として設けることもあります。
例えば、平成28年度の東京都は、「院内感染対策」やRI設備・放射線治療機器を有する病院を対象として「震災等に対する安全対策」について重点検査項目を設けました。
そうした項目がないかどうか、検査に入る前に保健所に確認しておくことも重要です。
まとめ 保健所の検査を活用し、院内環境をレベルアップしよう
保健所の立入検査について、実際にどのような指摘・指導が出されているのか、検査の際に留意すべき事項は何か、などについてお話してきました。
確かに保健所の立入検査に対応することは面倒ではありますが、院内の環境をレベルアップする良い機会ととらえることもできます。
立入検査の準備をしていく段階で、
・看護師やスタッフの教育体制が弱い
・薬品の保管体制に不備がある
など、弱点が浮き彫りになっていくでしょう。
開業準備を進める中で、せっかく時間を割いて保健所の立入検査を受けることになるのですから、改善のための有意義な時間ととらえてしっかりと対応していってください。
ご相談・お問い合わせ

- 笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢42人(R2年4月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。
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