はじめに

開業医の先生の不動産の相続はクリニックの土地や建物だけではありません。相続税対策で賃貸不動産を相続するようなケースもあるでしょう。

実際に誰かに相続する際は小規模宅地等の特例で相続税評価額を下げることが可能であるためです。

また、クリニックの土地に限らず、先祖代々から引き継いでいる土地を持っているようなこともあるでしょう。

しかし、相続不動産の相談で多いのが「不動産を相続したけど実際に使わないし、誰か住むようなこともないので売却したい」というもの。

誰も住むことがなく、所有者が固定資産税や維持費などで経済的な負担を強いられるだけでは所有しても意味がありません。

そこで今回は相続不動産を売却する際のポイントについてお伝えしていきたいと思います。

【その①】相続不動産を未分割のまま売却する際の注意点

遺産分割協議が成立するためには、相続人全員の合意が必要になります。相続税の申告期限は被相続人の死亡から10ヶ月後ですが、それまでに円満に成立しないことも珍しくありません。

特に不動産の相続となれば、なかなか話がまとまらないようなケースも多いです。

この場合、遺産分割協議が成立していなからといって相続税の申告期限が延長されることはありません。

相続財産を未分割のまま売却する場合には、各相続人が法定相続分に基づいて共同で相続し、売却したものとします。

この割合に基づいて売却代金等を按分し、それぞれが税金を計算して申告することになります。

その際、以下の相続税対策に有効な特例が適用されないので注意しましょう。

配偶者の税額軽減の特例配偶者の相続分が法定相続分(または1億6000万円どちらか多いほうの金額)以下であれば、配偶者に相続税がかからない特例
小規模宅地等の評価減の特例一定面積までの事業用の宅地や居住用の宅地等については、一定の要件を満たせば評価額の80%(不動産貸付用は50%)を減額する特例

そうはいっても、申告期限から3年以内に分割が確定すれば、さかのぼって適用が受けられ、還付してもらえます。

いったん売却してしまうと法定相続分でそれぞれが相続することを同意したと判断されます。

あとで遺産分割協議をして法定相続分と異なる割合で代金を分割するということは、原則的には認められないので注意しましょう。

【その②】不動産を相続して10ヶ月以内に売却する際の注意点

不動産を相続してから3年10ヶ月以内に不動産を売却すると、後述する「取得費加算」などの特例が使える可能性があります。

しかし相続税の申告期限(相続10ヶ月以内)までに売却すると、小規模宅地等の特例で80%の減額が適用されず、50%になってしまうことがあります。

例え減額できると言っても、30%の差はかなり大きいので注意しましょう。

ただし、配偶者がその土地を相続する場合には、いつ売却しても80%の減額ができます。

【その③】3年10ヶ月以内に売却すれば取得費加算の特例が適用

相続してから3年10ヶ月以内に不動産を売却すると、「取得費加算」の特例を受けることができます。

例えば令和元年5月1日に被相続人が亡くなった場合は、令和5年2月28日までに売却すれば特例を受けられることになります。

これは相続税額の一部を取得費に加算して譲渡益から控除できることができるようになるものです。

不動産を売却すれば、短期譲渡所得もしくは長期譲渡所得に応じた譲渡税が適用されますが、そちらを減税するということです。

取得費加算額は次の計算式にて求められます。

取得費加算額=払った相続税×売却した不動産の相続税評価額÷その者が取得した相続財産総額

この取得費加算の特例を受けるかどうかで譲渡税に大きな差が出てきます。もし被相続人の取得時よりも高い金額で譲渡した場合は、取得費加算の適用を必ず考慮に入れましょう。

【その④】空き家売却特例

相続開始以後、3年を経過する年の12月31日までに譲渡した場合、空き家売却特例が適用されることがあります。

これはその字の如く被相続人の空き家を売った場合の特例です。ここ数年空き家のまま放置されている家が増えたことから、売却しやすいようにするための措置です。

空き家売却特例の適用条件は次の通りです。

家屋の建築時期昭和56年5月31日以前に建築された家屋(区分所有建築物を除く)
居住要件相続開始の直前において、被相続人以外に居住していた者がいなかったこと。また相続開始から売却までの間に居住用や他の用途として使用されていないこと。
譲渡金額の上限譲渡金額が1億円以下
耐震基準売却時に一定の耐震基準を満たしていること
売却相手親、子、夫婦など特別な関係のある人でないこと
その他取得費加算の特例等、併用のできない他の特例の適用を受けていないこと

これらの要件を満たしていれば、空き家売却の特例を使用することができます。

最大で3,000万円の特別控除を受けることができますから、長期譲渡所得の場合は3,000万円×20.315=609.45万円の節税が可能になります。

ただし、この特例の適用時期は、平成28年4月1日~令和元年12月31日までに譲渡したものに適用となるので注意しましょう。

【その⑤】自宅売却時は使える特例は全部チェックする

特に自宅として使用していた場合ですが、次の特例が適用できないかは必ずチェックしましょう。

3,000万円特別控除自宅を3年が経過する年の12月31日までに売却した場合、利益部分(譲渡所得)から3,000万円を控除できるといった特例。
10年超所有軽減税率の特例所有期間が、10年を超えている自宅を3年が経過する年の12月31日までに売却した場合で、かつ利益部分(譲渡所得)が3,000万円を超えている場合に、その超えている部分(6,000万円まで)に課税される税率が軽減されるという特例。3,000万円特別控除の特例と併用可。
特定居住用財産の買換え特例所有期間が、10年を超えている自宅を売却して新たに自宅を買い替えたときに、生じる利益にかかる税金部分を先延ばしにすることができる特例
居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除自宅を買い替えた場合で、さらに売却した自宅について損が出た場合に使用できる特例
特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除住宅ローンが残っている自宅を売却し、さらに損が出た場合に使用できる特例

【その⑥】事故物件を相続した際の注意点

自殺や他殺、変死などが起こった、一般的に「事故物件」「いわくつき物件」と呼ばれる物件。正確には「心理的瑕疵物件」と言います。

当たり前の話ですが事故物件の入居者は見つかりにくいもの。事故物件には宅建業法で定められた告知義務がありますから、入居者に隠すことはできません。隠そうものなら訴訟にまで発展することもあるでしょう。

そのような事故物件でも、相続してしまえば相続税は課税されます。

また、入居者が誰もいなくても固定資産税は支払い続けないといけません。

昔は土地に家屋が建っている場合は更地に比べて固定資産税が1/6だったのですが、2015年の『空家等対策の推進に関する特別措置法』で税率が上がりました。上記の空き家売却特例同様、空き家の放置を防ぐためです。

もちろん不動産を所有するわけですから維持費もかかります。

事故物件の相続税評価額は?

事故物件でも相続税は課税されますが、気になるのは相続した時点での相続税評価です。

結論から言うと、事故物件は一般的な周辺の不動産価値より低いので、相続税評価額は下がる傾向にあります。

もし事故物件である旨を考慮しない評価のまま相続税を支払ったのであれば、申請を行うことで差額分が還付される可能性が高いでしょう。

もし相続税評価額が、相続税の基礎控除額の計算式「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を下回れば非課税になります。

相続放棄はできないのか?

結論から言うと、被相続人が事故物件を所有していたからといって、相続放棄することは一概にはおすすめできません。

というのも相続放棄は借金などの被相続人のマイナスの負債だけではなく、プラスの資産もすべて放棄しないといけないためです。

ただし被相続人にプラスの資産がほとんどなく、事故物件が主な相続財産だった場合であれば話は別です。

例えば被相続人が借金苦などを理由に自宅で自殺したという場合であれば、十分あり得るシチュエーションです。

事故物件の原状回復に必要な費用や損害賠償リスクなどを抱えてしまうようであれば相続放棄も選択肢のひとつでしょう。

【関連記事】【隠れた借金が発覚】相続放棄の期限が過ぎたらどうする

事故物件は売れるのか?

事故物件は基本的に不動産会社が敬遠する傾向にあるでしょう。

しかしなかには事故物件を専門に取り扱う業者もあるので、売却することは可能です。

Googleで「事故物件 売却」などで検索してみると、PPC広告などで事故物件売却を専門とした業者が出てきます。

ただし前述したように事故物件に対しての不動産売買価格は、その周辺相場の2~3割程度で売却されることが多いようです。

【まとめ】自分が住まない、使わない、借り手もいないなら売却を

以上、相続不動産を売却する時の6つのポイントについてお伝えしました。

特に開業医の先生の場合、クリニックの建物だけでなく、不動産投資で所有している物件や先祖代々の土地を所有していることもあるでしょう。

しかし、自分が住まない、使わない、そして借り手もいないのであれば、早めに売却を検討したほうが良いでしょう。取得費加算の特例適用を目安とするなら相続開始から3年10ヶ月以内です。

ただ、不動産は流動性リスクが高いもの。「売りたくても売れない」ということも十分あり得るので、早めに専門家等を交えて対策した方が良いでしょう。

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