手紙

「開業医の妻」というと、かなり華やかなイメージ。憧れを持つ方も多いのではないでしょうか?

開業医の平均年収は2,746万円というデータがあり、1,488万円の病院勤務医に比べても1.8倍の開きがあります。(第22回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(2019年)より)

一般的なサラリーマンの平均年収は436万円(※2020年民間給与実態調査)で、その差は歴然としています。

しかし、離婚問題を扱う弁護士などがよく言うのが、「開業医の妻からの質問は意外と多い」というもの。

具体的な統計データは見当たらないですが、「3組に1組は離婚する」という全国平均とあまり変わらないと言われています。

平均年収だけ聞けば、一部破綻寸前のクリニックを除けば、明らかに玉の輿なわけです。

なぜ、開業医の妻は離婚を選んでしまうのでしょうか?

そして、養育費や財産分与はどうなるのでしょうか?

※ちなみに、「開業医の妻」だけでなく女医の離婚率も高く、一般女性の2倍くらいと言われています。

なぜ、開業医は離婚に至るのか?

夫婦

日本全国の医師の数は約32万人、歯科医師は約10万人です。(厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」による)

これだけ見ると「意外と多い」と思うかもしれません。しかし、日本の労働力人口である6,886万人に比べれば、ごくわずかな人数です。(総務省2019年労働力調査による)

さらにこの数字は病院勤務医を含めた数のため、開業医となれば、さらに絞られます。

にも関わらず、離婚相談では、かなり開業医の奥さんも珍しくないというのです。

これは弁護士さんだけではなく、開業医の先生を対象にコンサルタントをしているような方からもよく聞く話です。

少なくとも経済的には恵まれた立場にある「開業医の妻」は、なぜ離婚を考えるのでしょうか?

【開業医のストレス】4人に1人はうつ状態?

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開業医は、病院勤務医に比べれば平均年収は高いものの、それだけにやることが多くなります。

日々の診療に加え、キャッシュフロー、借金、売上、スタッフの給料、スタッフ雇用・教育、マネジメント……。

開業医は医師本来の診療だけでなく、経営者としての業務と責任があります。

だからストレスも溜まりやすく、うつになる人も多いと言われています。

少し古いデータですが、2007年の全国保険医団体連合会の調査によると、開業医の先生の23.4%がうつ状態であることがわかっています。

開業医の先生の4人に1人がうつ状態で、さらに同じ調査では、「身体が疲れている」が82.4%、30%が「限界」、45%が「不眠症」という結果が得られています。

古いデータとはいえ、基本的には大きく変わりはなく、開業医の先生も大きなストレスに晒されていることが考えられます。

そのストレスが開業医の妻に矛先が向くことも少なくありません。

  1. 毎日のように怒鳴り散らす
  2. 口を利かなくなる
  3. 「家事を手伝って」と言われたら暴力を振るわれた
  4. そもそも忙しすぎて家に帰ってこない

もちろんストレスが溜まっているからといって、妻に当たる開業医の先生は、人間的には問題があるでしょう。

しかし、ストレスはウィルスのように周囲に伝わっていくものです。

経済的に恵まれているからといって、精神的に耐えられなければ、結婚生活は耐えられません。

しかも2020年以降は、経済的な豊かさよりも精神的な豊かさが重視される時代になると言われています。

そんな時代に、いくら経済的に豊かだからといって、ストレスフルな結婚生活を続けられるとは到底思えません。

開業医の病院内の浮気

浮気

開業医の先生の浮気が原因で、妻が離婚相談という話もよく聞きます。

たしかに開業医の先生は女性にモテるイメージがあり、誘惑にかられやすいと考えられます。

また、先に書いたようなストレスが浮気のトリガーになることもあるでしょう。

さらに、開業医の先生の浮気は、クリニックの職場内で起こることが比較的多いです。

多忙な開業医の先生は人間関係も狭くなりがちで、それだけに浮気も、かなり身近なところで発生します。

結婚でも、医師と看護師、医療事務、歯科衛生士など、院内の恋愛結婚のケースは多いものです。

職場結婚が多ければ、職場内の浮気や不倫も多いのは自然でしょう。

しかもクリニックの場合、開業医の妻が医療事務や看護師として働いているケースもあります。

だから、浮気相手が共通の知り合いなんてこともあり得ますから、浮気発覚時の精神的ダメージも大きいでしょう。

医師は亭主関白になりやすい?

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ものすごく忙しい開業医の先生。

なので、家事も子育ても旦那と一緒に……というのはなかなか想像しづらく、むしろ亭主関白になりがち。

その状態で、開業医の妻が「家事を手伝ってほしい」なんて言ったら…

「普通の仕事と一緒にしないでくれ。開業医の仕事は毎日ヘトヘトなんだ。家事くらいやってくれ」

と冷たく言われてしまう……。

そもそも、あまりの忙しさに家に早く帰ってきてくれない場合も多いでしょう。

すべての開業医にあてはまるわけではないですが、あまりに家のことは放ったらかしになると、結婚を後悔する開業医の妻も多いようです。

開業医の離婚で必ず発生するお金の問題

お金

離婚問題で必ず発生するのがお金の問題です。

特に、開業医の場合は基本的に高年収の人が多いため、養育費や財産分与などが高額になることが考えられます。

ただ、離婚で発生するお金の問題については様々ありますが、養育費や慰謝料など、各々混同している方が少なくありません。

大きく分けると、離婚にかかるお金については、民法で次のように定められています。

①養育費=離婚してから子どもの自立までに継続的に支払う費用

父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。

②婚姻費用=結婚~離婚までの間に必要な生活費、居住費、子どもの学費など

夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。

③財産分与=結婚している間に夫婦で築いた離婚時点での財産を貢献度に応じて分ける

協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。

④慰謝料=不法行為をしたら相手に賠償する費用

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

この中で、離婚というと慰謝料を真っ先に思いつく方もいるでしょう。しかし、慰謝料は相手に不法行為や不倫など、不貞行為があって初めて請求できるお金です。

離婚したからといって請求できるものではありませんし、離婚しなくても請求できることがあります。

慰謝料の請求については、以下の記事で詳しく書いていますので、合わせてこちらをご覧ください。

【関連記事】医師の離婚の慰謝料|相場はどれくらい?どんなときに請求できる?

いずれも共通することは、どれもお互いの収入状況や資産に応じて計算されるので、支払う側の収入が高いならば、高額な金額を請求しやすくなることです。

一般的には、会社員や公務員の場合で月に数万円程度なのが、開業医の場合は毎月数十万円と、桁が違うケースもあります。

だから、開業医の妻は、開業医の言いなりになって、低い金額で養育費や慰謝料で離婚しないことが重要です。

また、開業医の方でも、他の診療所でアルバイトしているケースもあるため、アルバイトの収入も見逃さないようにしましょう。

婚姻費用(離婚するまでの生活費)

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婚姻費用は、離婚後に請求する金額、一方で、離婚協議が成立するまで、生活費を請求できるお金です。

婚姻費用については、別居期間があっても含まれます。

民法上、「その資産、収入その他一切の事情を考慮して」とあるため、高収入であうほど高額になることが読み取れます。

そのため、離婚協議が長期化すればするほど、開業医は、延々と高額の生活費を支払うことになるでしょう。

夫の立場から見れば離婚協議の長期化は地獄ですが、妻から見れば有利に働く要素です。

やはり、妻の立場から見れば、安易に低い慰謝料、養育費、財産分与で離婚に応じないほうが良いのです。

なお、医療法人の院長が、婚姻費用(生活費)の支払いをしていない場合、役員報酬や診療報酬を差し押さえることが可能です。

特に診療報酬の場合、健康保険組合がクリニックへ診療報酬を支払う前に、健康保険組合が直接、妻の口座に未払い分を振り込んでくれます。

つまり、いくら夫が反対しても、自動的に天引きされるので、夫を説得する必要もありません。しかも、一度差し押さえてしまえば、離婚が成立するまで、自動的に天引きをしてくれます。

具体的な養育費・婚姻費用の計算

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それでは、具体的に、養育費や婚姻費用はどのように計算されるのか、ということです。

開業医の先生は、年収1,500万円を超えている場合がほとんどだと思います。

事業所得者の年収が1,567万円、給与所得者であれば年収2,000万円を超えると、通常の計算方法(標準的算定方式や簡易算定表)が使えません。

どちらも算出方法は、いくつかパターンがあって複雑になります。

ただひとつ言えることは、養育費にしても、婚姻費用にしても、事業所得者の年収が1,567万円を超えると、月々の支払いが高額になる傾向にあります。

養育費はいつまで支払うのか?(もらえるのか?)

養育費

養育費については、子どもが何歳になるまで支払わないといけないのか?

子どものいる夫婦が離婚すれば、誰でも気になるところですが、養育費の支払期間については、民法上の規定がありません。

とはいえ、支払う側としては、延々と支払い続けるのも嫌ですし、もらう側としては逆に「ここで終わり?」となるのは避けたいところ。

そのため、離婚する際に、何歳まで養育費が必要になるかは、予め弁護士などに相談してお互いに決めておく必要があります。

なお、養育費の目安としては、「子どもが働くまで」「20歳になるまで」という目安があります。

開業医の離婚での財産分与

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開業医と離婚する場合、多く揉めるのが財産分与です。

財産分与とは、夫婦が婚姻中に積み立てた財産を分け合う手続きのことで、通常は夫婦が1/2ずつ取得します。(配分はあくまで目安です)

財産分与の対象になるものは、預貯金、生命保険、退職金、積立金や不動産、車など、流動資産と固定資産両方対象になります。

不動産や車などは、どちらかが不動産か車を取得し、他方は評価額の半分の現金を受け取るか、売却して山分けします。

当然、不動産も車も購入時の評価額よりは価値が下がりますが、離婚時点の評価額で計算することになります。

開業医の場合、厄介なのは医療法人資産が絡んでくることがあること。

特に妻が持分あり医療法人に出資していた場合、払い戻す際に出資持分の評価額が高騰になりがち。

妻には有利な条件ですが、夫である開業医の先生にとっては医院経営を揺るがすほどのインパクトがあり、トラブルが発生しやすくなります。

財産分与については、詳しいことは次の記事で書いています。

【関連記事】医師と妻が離婚で揉めないために知っておきたい財産分与の話

【まとめ】養育費や婚姻費用、財産分与は十分な話し合いを

離婚届

今回は、開業医の妻の実態として、なぜ離婚に至るのか、そして離婚にかかるお金はどうなるのか、というお話をしました。

平均年収2,500万円の開業医との結婚に憧れて結婚したものの、精神的に耐えられないケースも出てきます。

いくら高年収でも、精神的なストレスで壊れるくらいなら、思い切って離婚することも大切でしょう。

その場合問題になるのが、生活費、慰謝料、養育費、財産分与などのお金です。

これらについては、開業医の妻は、どれも高額になるケースが多いので、可能な限り請求できるようにしておきましょう。

また、開業医の先生は、離婚になった際は、比較的これらの金額が高額になることを知ったうえで、対策していきましょう。

もし、十分な話し合いで決着が付かない場合、まずは信頼できる弁護士に相談することになります。

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プロフィール
笠浪 真

税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

                       

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