はじめに

2019年4月より「働き方改革」に関する法律が施行開始されました。

この法改正の動きに対応する労務管理の一環として、これまでの就業規則を見直す医院が増えています。

就業規則は、そこで働く従業員も守る(保護する)だけではなく、経営する医院側も守る大切なルールです。

就業規則をしっかり周知し、そのルールを共有することで、医院(経営者)と従業員の信頼関係を高めることもできます。

ひいては、それが労務トラブルの防止にもつながりますので、有効に活用していきたいもの。

今回は本格的に始まる「働き方改革」に伴い、今注目すべき「就業規則」について解説をしていきます。

そもそも就業規則は何のためにあるのか?

そもそも就業規則とは何のためにあるのでしょうか?
就業規則とは、労働条件や職場のルール(規律)などについて医院が定める規則のことです。

労働契約法7条では

「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。」

と記されています。

この条文を分かりやすく言えば、「就業規則に書かれている労働条件がそのまま労働契約の内容になる」ということを言っています。

つまり、就業規則とは、労働条件の基本ルールを決めるものなのです。

就業規則は、常時10人以上の労働者を使用者は、就業規則を作成しなければなりません(労基法89条)。

しかし、10人未満であっても就業規則は、作成するようにしましょう。

就業規則は、医院で働く労働契約を決める基本ルールですから、その力(効果、影響力)は思った以上に大きいものです。

それは、医院で働く従業員を保護するだけではなく、医院を経営する側を護るものでもあります。

就業規則作成の基本ルール

それでは、就業規則では具体的に何を規定する必要があるのでしょうか。
就業規則には、以下3つの記載事項があります。

  1. 絶対記載事項:必ず記載が必要な項目
  2. 相対的記載事項:ルールを決めた場合は必ず記載する。※決めない場合は記載する必要のない項目。
  3. 任意掲載事項:記載するかどうか自由(任意)に決めることができる項目。

具体的には、就業規則の記載事項(労働基準法89条)について以下のように定めているので参考まで紹介しておきます。

1)絶対的必要記載事項
・始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交代制の場合においては就業時転換に関する事項
・賃金(臨時の賃金等を除く。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
・退職に関する事項(解雇の事由も含む)(※ 勤務態様、職種等で条件が異なる場合はそれぞれについて記載する)

2)相対的必要記載事項
・退職手当の適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
・臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額に関する事項
・労働者に食費、作業用品等を負担させる場合は、これに関する事項
・安全及び衛生に関する事項
・職業訓練に関する事項
・災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
・表彰及び制裁の種類及び程度に関する事項
・当該事業場の労働者のすべてに適用される定めに関する事項(旅費の一般規定等)

「就業規則はただ単に『あればいい』というものではない」

就業規則を作成・変更する際に、注意しなければならないのは、専門家に任せずに、WEB上からダウンロードできる「雛形式の就業規則」をそのまま(あるいは一部に手を加えて)作成してしまうことです。

これはできるだけ避けたほうが良いでしょう。

院内の実情を反映させることなく、紋切り型の就業規則をそのまま使用すると、後で思わぬトラブルに巻き込まれる原因となるので十分に注意が必要です。

就業規則を「法律で決められているから、とりあえず作る(準備する)」という考え方では本質を見誤ります。

就業規則とは「労働条件の基本ルールを決めるもの」ではありますが、一方で「医院の経営者の理念、ビジョン、方針を明示し、従業員と共有する」ものでもあります。

というより、そのように活用すべきです。

もちろん、就業規則の中には先ほど紹介したように、法令で定められた「必須の記載事項」というものがあります。

しかし、それ以外のことは「任意掲載事項」として就業規則に盛り込むができるのです。

従業員にやって欲しいこと、あるいは逆にやって欲しくないこと、医院の経営者として目指す理想のために必要な内容を就業規則中にしっかりと盛り込み、従業員と共有することは、とても大切なことです。

法令に違反しない限り、ぜひ就業規則をそのような経営ツールとしても活用する意識を持つようにしてください。

就業規則は、どのように周知すれば良いのか?

さて、作成・変更した就業規則は、どのように周知すればよいのでしょうか?
就業規則についてよくあるのが、
「従業員に見せていない就業規則は、効力があるのかどうか?」
「就業規則は具体的にどういう感じで、周知すればいいのか?」
という問題です。

まず結論から言うと、「周知していない就業規則の効力は無効」となります。

「就業規則は(あるにはあるが)従業員に存在を知らせずに、院内の共有フォルダなどのそのまま入れてあるだけ」、「従業員から言われれば見せる」というのでは、全て「周知していない就業規則=無効」とみなされます。

無効なだけでなく、周知を怠った場合は、30万以下の罰金となります。

ですので、就業規則を作成・変更した場合は、従業員にすみやかに周知しなければなりません。

周知してはじめてその効力が発生することになるのです。

具体的な周知の方法

それでは、作成・変更した就業規則は具体的にどのように周知すればいいのでしょうか?

ポイントは3点。

  1. 休憩室、各作業場などに、常時、誰でも見ることができる場所に掲示する
  2. 印刷して(書面で)従業員全員に配付する
  3. 院内のネットワーク(社内LAN)に保管して、パソコンなどので常時、誰でも閲覧できるようにする

など必要になります。(なお、こうした周知の方法についても、労基法106条,労基法規則52条の2に書かれています)

ここで重要なことは、いつでも、社員なら誰でも見ることができるようにしておくことです。

また、ただ周知すれば良いかというと、そうではありません。従業員が理解できるように周知する必要もあります。

実際、就業規則の周知義務に関して「就業規則が周知されていたか」を巡り裁判で争われ、「従業員が理解できるか」という点で周知が不十分であったと判断された判例も多々あります。

就業規則の周知はしっかり対応するようしてください。

雇用契約書について

従業員と使用者(医院)の労働契約を締結する時、最も重要となるのが「就業規則」と「雇用契約書」です。雇用契約書も就業規則と同様に、従業員と使用者(医院)が雇用関係を結ぶ際に、お互いが守らなければいけないルールを定めている非常に重要なものです。

雇用契約書、就業規則の違い

それでは、雇用契約書と就業規則は何が違うのでしょうか?

雇用契約書も、就業規則も、従業員と使用者(医院側)間の労働条件を示す内容となる、という意味では、役割は同じです。

就業規則は、院内全体に適用するルールです。

複数の従業員に対して、統一的に適用したいルールがある場合は、就業規則にそのルールを記載します。

一方、雇用契約書は、ある特定の従業員と医院が、個別に結ぶものです。ある従業員だけに個別具体的に適用したいルールがある場合は、雇用契約書に記載することになります。

つまり、就業規則は全体的なルール、雇用契約書は個別のルールということなります。

就業規則と雇用契約書の内容が違うとき、どちらが優先?

それでは、就業規則と雇用契約書の内容が矛盾する場合は、どちらのルールを優先するべきなのでしょうか?

例えば、賃金の計算方法、労働時間、休日の規定など、就業規則と雇用契約書の内容が異なるケースなどです。

これもよくある論点の一つです。

この場合、判断の基準は「『より労働者に有利なルール』にしたがえば良い」というのが正解となります。

雇用契約書は、従業員が使用者と個別に結ぶ労働契約ですから就業規則より有利な条件なケースが一般的でしょう。この場合、雇用契約書が就業規則に優先することで問題はないかと思います。

一方、就業規則が雇用契約書より有利な場合には、就業規則の内容を雇用契約として適用するために、以下の法律上のルールが定められています。

就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による

引用元:労働契約法12条

要するに、就業規則の方が、雇用契約書の内容よりも従業員に有利な場合には、その雇用契約書の内容は(いくら個別に契約したとしても)「無効」となり、その該当する部分については、より有利な就業規則のルールを優先することになります。

この場合、「就業規則よりも不利な部分だけ」が無効となるのであって、雇用契約書全てが無効というわけではありません。

優先順位を医院側が勝手に決めることはできない

以上、就業規則と雇用契約書の内容が違うとき、どちらが優先をすべきか?という論点は、「従業員が有利なルール」を優先することになります

ですので、例えば

  1. 「就業規則が全ての従業員に適用される最優先のもので、個別に契約した内容は関係ない」
  2. 「就業規則より不利な内容でも、雇用契約書で個別に契約したのだから、その契約が優先されるべきだ」
  3. 「就業規則を守ると誓約書にサインしたのだから、個別の契約の方が有利であっても認められない」

など、就業規則と雇用の優先順位を医院側の都合で勝手に決めることができないので注意しましょう。

まとめ

就業規則は、常に見直すという意識が大切です。

特に、「働き方改革」のように大きな法律の改正があった場合は、今までの労務管理を振り返る良い機会となります。

また、法律だけではなく、業務に対する従業員の意識も時代の変化とともに変化しています。

「今までの問題がなかったから、特に見直す必要がない」という考え方は、後のトラブルの元になります。

就業規則は、理想とする医院経営のあり方を従業員と共有する重要なツールでもあります。

ぜひ、就業規則を積極的に活用できるよう、細部にわたり検証してみることをおすすめします。

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