【必見!】クリニックの就業規則でこれだけは知っておきたい基本とは?

公開日:2019年5月25日
更新日:2024年3月18日
必見! クリニックの就業規則

就業規則は、そこで働くスタッフを守る(保護する)だけではなく、経営する医院・クリニック側も守る大切なルールです。

就業規則をしっかり周知し、そのルールを共有することで、医院(経営者)とスタッフの信頼関係を高めることもできます。

ひいては、それが労務トラブルの防止にもつながり、助成金等を申請する上でも大きなメリットになります。

そこで、今回は医院・クリニックが知っておきたい就業規則の基本についてお伝えします。

そもそも就業規則とは何か?

クリニックの就業規則とは?

そもそも就業規則とは何のためにあるのでしょうか?

就業規則とは、労働条件や職場のルール(規律)などについて医院が定める規則のことです。

労働契約法7条では

「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする」

引用元: 労働契約法7条

と記されています。

この条文を分かりやすく言えば、「就業規則に書かれている労働条件がそのまま労働契約の内容になる」ということを言っています。

つまり、就業規則とは、労働条件の基本ルールを決めるものなのです。

就業規則作成のメリット

就業規則のメリット

常時10人以上の労働者を使用する者は、就業規則を作成しなければなりません(労働基準法89条)。

しかし、10人未満であっても作成をおすすめします。

就業規則は、医院・クリニックで働く労働契約を決める基本ルールですから、その力(効果、影響力)は思った以上に大きいものです。

それは、医院・クリニックで働くスタッフを保護するだけではなく、雇用側を護るものでもあります。

具体的には、就業規則を定めることで、次のメリットがあります。

  1. スタッフ間の不公平感をなくし、不満を防止する
  2. 労使間トラブルを防止する
  3. 問題があるスタッフに対して、就業規則違反を理由に懲戒処分ができる
  4. スタッフの突然の退職願いに対応できる
  5. 雇用関係の助成金を申請する際に必須である

できれば、オープニングスタッフとの労使間トラブルの防止のためにも、医院開業の時点で就業規則を定めておくことをおすすめします。

また、雇用関係の助成金の申請は、就業規則作成が条件となっていることが多いです。

まだ就業規則を作成していない場合は、顧問の社会保険労務士に相談して対応するようにしましょう。

就業規則作成の基本ルール

クリニックの就業規則

就業規則には、次の3つの記載事項があります。

就業規則の3つの記載事項
  • ①絶対的必要記載事項:必ず記載が必要な項目
  • ②相対的必要記載事項:特定のルールを決めた場合には必ず記載する項目で、決めない場合は記載する必要はない
  • ③任意的記載事項:記載するかどうか自由(任意)に決めることができる項目

①と②は労働基準法第89条が以下のように具体的に定めているので、参考までに紹介しておきます。

絶対的必要記載事項

相対的必要記載事項

・始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交代制の場合においては就業時転換に関する事項

・賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

・退職に関する事項(解雇の事由も含む)(※ 勤務態様、職種等で条件が異なる場合はそれぞれについて記載する)

・退職手当の適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項

・臨時の賃金等(退職手当を除く)及び最低賃金額に関する事項

・労働者に食費、作業用品等を負担させる場合は、これに関する事項

・安全及び衛生に関する事項

・職業訓練に関する事項

・災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項

・表彰及び制裁の種類及び程度に関する事項

・当該事業場の労働者のすべてに適用される定めに関する事項(旅費の一般規定等)

就業規則のひな形を安易に使うのは避ける

クリニックの就業規則に、雛形は使わない

就業規則を作成する際は、Web上でダウンロードできる「就業規則のひな形」をよく吟味せず作成するのは避けましょう。

Web上のひな形は法律に即していない可能性もあります。

中にはクリニック側よりスタッフ側に有利なひな形もあるため、安易に使用すると思わぬトラブルに巻き込まれてしまう原因になります。

また、ほとんどのひな形はクリニックの実態には合っていません。

就業規則とは「労働条件の基本ルールを決めるもの」ですから、クリニックの実態や医師の方針に合ったものでなければなりません。

一方で、スタッフにしてほしいこと、してほしくないこと、理想の医療をめざすために必要な内容等を就業規則にしっかりと盛り込めば、「医院の経営者の理念・ビジョン・方針を明示し、スタッフと共有する」ツールとして活用することもできます。

労働基準法などの労働関連法に違反しない範囲で、ぜひ就業規則を経営ツールとして活用する意識をもちましょう。

就業規則をどのように周知するか?

クリニックの就業規則の周知

就業規則は、ただつくるだけでなく、スタッフに周知徹底しなければ効力はありません。

せっかく就業規則を作成したとしても、

・言われなければわからないパソコンの共有フォルダに格納しているだけで、スタッフに周知していない
・スタッフから言われたら見せるだけ

この状態では、「周知していない就業規則=無効」とみなされてしまいます。

使用者は、就業規則を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない。

引用元: ※労働基準法第106条 法令等の周知義務(要旨)

周知がなされていなければ効力が無効になるだけでなく、30万円以下の罰金となります(労働基準法第120条)。

具体的な周知の主な方法は次の通りです。

クリニックの就業規則の具体的な周知方法
  • ・休憩室、各作業場など、常時誰でも見ることができる場所に掲示する
  • ・印刷して(書面で)スタッフ全員に配付する
  • ・院内のネットワーク(社内LAN)に保管して、パソコンなどで、常時誰でも閲覧できるようにする

また、見ることができるようにするだけでなく、スタッフが誰でも理解できるように周知しておくことが重要です。

過去に「就業規則が周知されていたか」を巡り裁判で争われ、「スタッフが理解できるか」という点で「周知が不十分だった」とされ、周知が認められなかった判例もあります。

・フジ興産事件 (2003.10.10/最二小判)
・中部カラー事件(2007.10.30/東京高)
・丸林運輸事件(2006.5.17/東京地)
・関西定温運輸事件(1998.9.7/大阪地)

就業規則の周知はしっかり対応するようにしてください。

就業規則と雇用契約書について

就業規則と雇用契約書

スタッフと雇用側(医院・クリニック)の労働契約を締結する時、最も重要となるのが「就業規則」と「雇用契約書」です。

雇用契約書も就業規則と同様に、スタッフと雇用側が雇用関係を結ぶ際に、お互いが守らなければいけないルールを定めている非常に重要なものです。

ただ就業規則と雇用契約書の内容が矛盾する場合は、どちらのルールを優先するべきなのでしょうか?

こうした違いは、よく見られます。

就業規則と雇用契約書の違い

まず、就業規則と雇用契約書は何が違うのでしょうか?

就業規則も雇用契約書も、スタッフと雇用側の労働条件を示す内容となる、という意味では、役割は同じです。

就業規則は、院内全体に適用するルールです。

複数のスタッフに対して、統一的に適用したいルールがある場合は、就業規則にそのルールを記載します。

一方、雇用契約書は、ある特定のスタッフと雇用側が個別に結ぶものです。

あるスタッフだけに個別に具体的に適用したいルールがある場合は、雇用契約書に記載することになります。

つまり、就業規則は全体的なルール、雇用契約書は個別のルールということなります。

就業規則と雇用契約書の内容が違うとき、どちらが優先?

それでは、就業規則と雇用契約書の内容が矛盾する場合は、どちらのルールを優先するべきなのでしょうか?

例えば、賃金の計算方法、労働時間、休日の規定など、就業規則と雇用契約書の内容が異なるケースなどです。

これもよくある論点の一つです。

この場合、判断の基準は「『より労働者に有利なルール』にしたがえば良い」というのが正解となります。

雇用契約書は、スタッフが使用者と個別に結ぶ労働契約ですから就業規則より有利な条件なケースが一般的でしょう。

この場合、雇用契約書が就業規則に優先することで問題はないかと思います。

一方、就業規則が雇用契約書より有利な場合には、就業規則の内容を雇用契約として適用するために、以下の法律上のルールが定められています。

就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による

※労働契約法12条

要するに、就業規則の方が、雇用契約書の内容よりもスタッフに有利な場合には、その雇用契約書の内容は(いくら個別に契約したとしても)「無効」となります。

さらに、その該当する部分については、より有利な就業規則のルールを優先することになります。

この場合、「就業規則よりも不利な部分だけ」が無効となるのであって、雇用契約書すべてが無効になるわけではありません。

優先順位を医院・クリニック側が勝手に決めることはできない

以上、就業規則と雇用契約書の内容が違うとき、どちらが優先をすべきか?という論点は、「スタッフが有利なルール」を優先することになります。

ですので、例えば

・就業規則が全てのスタッフに適用される最優先のもので、個別に契約した内容は関係ない

・就業規則より不利な内容でも、雇用契約書で個別に契約したのだから、その契約が優先されるべきだ

・就業規則を守ると誓約書にサインしたのだから、個別の契約の方が有利であっても認められない

など、就業規則と雇用の優先順位を医院・クリニック側の都合で勝手に決めることができないので注意しましょう。

【まとめ】就業規則は作って終わりではなく、常に見直しを

就業規則は、できれば10人未満の小規模の医院・クリニックでも作成し、常に見直すという意識が大切です。

特に2019年の働き方改革のように大きな法律の改正があった場合は、今までの労務管理を振り返る良い機会となります。

また、法律だけではなく、業務に対するスタッフの意識も時代の変化とともに変化しています。

「今までの問題がなかったから、特に見直す必要がない」という考え方は、後のトラブルの元になります。

就業規則は、理想とする医院経営のあり方をスタッフと共有する重要なツールでもあります。

ぜひ就業規則を積極的に活用できるよう、細部にわたり検証してみることをおすすめします。

亀井 隆弘

広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。

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