【節税だけじゃない!】決算賞与が医院経営に与える好影響とは?

公開日:2019年10月23日
更新日:2024年4月9日

はじめに

医院経営で、当初の事業計画より利益が大きくなると、想定以上に税金が高くなります。そのため急遽、税金対策をする方法のひとつとして、決算賞与を従業員に支給するという方法を耳にしたことがあるかと思います。

今回はその決算賞与が通常の賞与とどのように違うのか。決算賞与を医院経営に導入することによるメリット・デメリット、そして実務において税務調査で指摘されないように賢く損金計上するための要点をお伝えします。

決算賞与と通常賞与の違いについて

通常の賞与は勤務医の時代になじみがあると思いますが、夏と冬の年2回などで支払われる賞与のことをいいます。税務上では通常の賞与は労働の対価である給料の後払い・別払いという意味合いで解釈されることがあり、利益に連動しないで支給する賞与になります。

これに対して決算賞与は決算時前後の医院の利益に連動して支給する賞与のことをいいます。利益に連動して支給するという性格から利益賞与と言われることもあります。利益に応じて支給するので、実力主義の外資系企業などで多く採用されている賞与の支給方式でもあります。

決算賞与のメリット

利益に合わせて人件費をコントロールできる

通常の賞与と異なり、決算時の利益に応じて賞与額を医院側で決めることをできるので、人件費を経営に合わせて上げたり下げたりすることができます。

その結果、医院の経営状況に合わせて支給額を決めることができるので、医院経営を安定化することができます。

仮に月給を下げる場合だと、労働基準法などの関連法規や組合対策、従業員など様々な面に配慮し、理由を細かく説明しなくてはいけません。しかし、決算賞与の場合だと、業績が悪かったから決算賞与も少ないと説明をしやすいことも、医院経営者にとっては大きなメリットになります。

決算賞与は夜間残業手当、休日出勤手当や、退職金の算出に用いる必要がないため、月給払いにしている分を決算賞与にまわすことにより、人件費を抑制することができます。

節税対策に使える

医院経営者にとって、決算賞与を支給することにより節税面で大きなメリットを得ることができます。決算賞与は税務上において全額を損金に算入することができます。

例として課税対象となる利益が1億円、法人税率を30%とします。
決算賞与を支給しない場合の法人税は3,000万円です。
決算賞与を3,000万円支給すると、利益が7,000万円なので法人税は2,100万円です。
結果として決算賞与を支給することで法人税900万円の節税になりました。

このように決算賞与を支給することで、支給額の全額を損金に算入することができ、節税面で大きなメリットを受けることができます。

従業員のモチベーションが大きくアップする

決算賞与は通常の賞与より、従業員のモチベーションを上げる側面が強くなります。決算賞与は業績に連動した賞与であるため、医院の成長と自身の収入に連帯感が生まれます。そのため医院の成長について関心が強くなり、医院をよりよくすることが収入アップにつながることを従業員自身がわかりやすく理解できます。

優秀な従業員を雇用・確保できる

決算賞与を導入している医院はそれほど多くないため、従業員の立場からすると通常の賞与以外に決算賞与を支給する医院は、利益を賞与として還元するということは従業員想いの医院として大変魅力的に映ることでしょう。

その結果、優秀な人材を集めることができ、離職率も低くなれば医院の価値も上昇していくことを期待できます。

決算賞与のデメリット

手元キャッシュの悪化

決算賞与の制度を導入し、従業員に支給することで手元のキャッシュは少なくなります。そのため、決算賞与を支給する際には入念な資金計画に基づいて行う必要があります。

仮に法人税率を30%で決算賞与支給前の利益を1億円、手元キャッシュも1億円とします。
決算賞与を支給しない場合は、法人税が3,000万円となり手元キャッシュは7,000万円となります。
決算賞与を3,000万円支給したとすると、残りの利益7,000万円に法人税率30%がかかり、手元キャッシュは4,900万円となります。

このように、手元キャッシュだけ見ると、決算賞与を支給することにより2,100万円手元キャッシュが少なくなります。

決算後に設備投資など大きなキャッシュを使う予定がある場合などは、節税面だけでなく、手元キャッシュについても加味したうえで支給額を決めることが大切です。

モチベーション低下のリスク

決算賞与は業績が上昇しているときには、従業員のモチベーションアップにつながります。しかし、業績が悪化している場合は、利益に連動して支給するという決算賞与の性格上、支給額を減額することになりますので、従業員のモチベーションを下げてしまうことがあります。

業績の悪い期が続きますと、医院に対して不満がつのっていき、医院の未来に悲観的になる従業員も出てくるかもしれません。

支給できない時は支給できない理由をしっかり伝え、早期に利益が出る体制を作ることが大事です。

決算賞与を支給する際における税務上の注意点

決算賞与は利益に連動して支給でき、急な節税対策として活用できることが大きな魅力の一つです。そのため、税務署も調査の時に支給額の算出方法や適用方法に不備がないか、入念にチェックしてきます。

適用方法が正当であれば全額を損金に算入することができますが、適用方法に不備があると決算賞与の損金算入を否認されることがあります。修正申告を求められ、余計な税金を支払う羽目になっては本末転倒です。

特に決算賞与の支給を翌期に支給する場合は細心の注意を払う必要があります。

実務上において決算賞与の支給は翌期に行われることが多くあります。

その理由は決算賞与の性格上、利益に連動して支給するため、決算期を過ぎて利益がある程度明確になってから支給することが多いからです。

決算日までに支給せず、未払いで計上をしても下記の条件を満たした場合は基本的に損金として計上することができます。

  1. 決算日までに、賞与が支給されるすべての従業員に対して、支給額を通知していること
  2. 上記の各従業員に通知をした賞与の金額を、通知した全ての従業員に対して、決算日の翌月末までに支払っていること
  3. 支給した日でなく、通知をした日の属する事業年度において、損金経理していること

上記の要件を満たせば、決算賞与を決算日までに未払いであっても損金として計上することが基本的に可能です。

ただし、実務上においては未払い計上するためには通知方法などについて細かいルールがあります。

そのため決算賞与を導入する際には、医院経営の実情と決算賞与の両方に精通している税理士など専門家に相談しながら行うことをお勧めします。

まとめ

決算賞与とは、決算時の利益に連動して支給する賞与です。

決算賞与のメリット

  1. 人件費のコントロール
  2. 節税対策
  3. 従業員のモチベーションアップ
  4. 優秀な従業員の雇用・確保

決算賞与のデメリット

  1. 手元キャッシュの悪化
  2. モチベーション低下のリスク

決算賞与の税務上の注意点

  1. 決算賞与を有効に活用することで節税対策だけでなく、従業員のモチベーションアップ、医院経営の安定化など多くのメリットを受けることができます。

医院経営と決算賞与の両方に詳しい税理士などの専門家に相談しながら活用していきましょう。

亀井 隆弘

広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。

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