はじめに

多くの医院やクリニックでは、スタッフ採用や定着率、退職・解雇といった様々な労務問題に悩んでいます。

書類選考や面接を踏まえてスタッフを採用してみても、「やっぱり向いてなかった」ということは頻繁に起こり得ます。

そこで、正規雇用ではなく、一定期間試しに働かせて職場の適正を見極めるトライアル雇用という雇用形態を採用する方法があります。

また、トライアル雇用については国が積極的に推奨しており、助成金の対応になっています。

医院やクリニックでも、看護師や医療事務の採用にトライアル雇用の制度を利用しているところがあります。

そこで、今回は医院・クリニックの求人でも多いトライアル雇用について詳しくお伝えします。

トライアル雇用とは? メリットやデメリットは?

トライアル雇用とは、ハローワークの紹介によって、求職者を原則3ヶ月間試行的に雇用し、適性や能力を見極めてから正式に雇用する制度です。

3ヶ月間のトライアル雇用の後、クリニックとスタッフが両方合意して、本採用となります。

ただし、トライアル雇用はどの求職者に当てはまるわけではなく、一定の条件があるのが特徴です。

トライアル雇用のメリット

試行的に雇用し、実際に仕事ぶりを判断してから本採用するのはトライアル雇用のメリットの1つです。

試用期間と違い、適性や能力が妥当でなければ本採用を拒否できるため、採用に失敗するリスクが少なくなります。

また、継続して雇用した場合は助成金の対象になるため、通常の採用に比べて人件費を抑えることもできます。

トライアル雇用は、妊娠や出産、育児を理由に退職し、長く医療の現場を離れた人や、母子家庭の人も対象となります。

このような看護師や医療事務を採用する医院・クリニックであれば、検討の余地があるでしょう。

トライアル雇用のデメリット

トライアル雇用のデメリットとしては、基本的に対象が長期間仕事をしていなかった人や、転職を繰り返している人になることです。

例えばニートやフリーター、日雇い労働者なども対象になります。

そのため、通常の中途採用と比較すると、現場教育の負担が大きく、人材育成に時間が必要となる可能性があります。

また、トライアル雇用はハローワークなどの紹介が条件となっており、ハローワーク以外で求人したい先生にとっては、活用機会がなくなります。

トライアル雇用と試用期間の違い

トライアル雇用に似たようなものに、試用期間があります。

たしかに試用期間も、採用したスタッフの適性や能力のミスマッチを防ぐために設けられた期間という点では、トライアル雇用と似ています。

両者とも労働基準法が適用されるという点でも共通しています。

しかし、両者は似ているようでその位置付けや条件が全然違います。

試用期間は、どの求職者に対しても対象とすることができ、トライアル雇用のような制約がありません。

一方で、試用期間は「能力や適性が妥当ではない」という理由で解雇することは原則的には認められません。

トライアル雇用と試用期間の違いについては、具体的には次表のようになっています。

トライアル雇用 試用期間
助成金制度 あり なし
解雇 容易 難しい
期間の設定 3~12ヶ月(原則3ヶ月) 特になし
ハローワークなどの介入 あり なし
雇用条件 あり なし(求職者全員が対象)

両者の違いを比較すると、試用期間よりはトライアル雇用の方が良い、もしくは悪いなどと、そういう話にはなりません。

ハローワークの介入の有無、雇用条件の違いなどを考えれば、両者は別々に考えるのが妥当です。

なお、試用期間については、以下の記事で詳しくお伝えしているので、併せてご覧ください。

【関連記事】意外と知らない! 試用期間満了後に本採用を拒否したときのリスクとは?

トライアル雇用併用求人とは?

他の医院・クリニックの求人票を見ると、時々「トライアル雇用併用求人」という言葉を目にすることはありませんか?

トライアル雇用併用求人とは、求人募集の際、トライアル雇用する場合と、トライアル雇用なく正規で採用する場合、両方あるという意味です。

中途採用で経験者を歓迎するが、一方で未経験者の応募も可能としている場合に用いられることがあります。

トライアル雇用を希望する求職者と、通常雇用を希望する求職者が両方応募するため、倍率が高めになることがあります。

トライアル雇用助成金

トライアル雇用助成金については、次の4つのコースがあります。

  1. 一般トライアルコース
  2. 障害者トライアルコース
  3. 障害者短時間トライアルコース
  4. 若年・女性建設者トライアルコース

このうち、「若年・女性建設者トライアルコース」については建設事業主が対象となっており、開業医の先生には該当しないので割愛します。

一般トライアルコース

職業経験、技能、知識などから安定的な就職が困難な求職者が対象となっています。

ハローワークや職業紹介事業者などの紹介により、早期就職の実現や雇用機会の創出を図ることを目的としています。

具体的な対象は、以下の受給条件に示す通りですが、主に仕事に就いていない期間が長いか、転職を繰り返している人になります。

ただ、医院・クリニックの場合は、どちらかというと出産や育児などで長く離職したり、母子家庭の女性が対象となると思われます。

一般トライアルコースの主な受給条件

一般トライアルコースの主な受給条件については、厚生労働省では、次のように定めています。

(1)対象労働者がハローワーク、地方運輸局(船員となる場合)または職業紹介事業者(以下「ハローワーク・紹介事業者等」という。)の職業紹介の日(以下「紹介日」という。)において、次のイ~ニのいずれにも該当しない者であること。

イ 安定した職業に就いている者
ロ 自ら事業を営んでいる者又は役員に就いている者であって、1週間当たりの実働時間が30時間以上の者
ハ 学校に在籍している者( 在籍している学校を卒業する日の属する年度の1月1日を経過している者であって卒業後の就職内定がないものは除く。)
ニ トライアル雇用期間中の者

(2)次のイ~ヘのいずれかに該当する者
イ 紹介日前2年以内に、2回以上離職又は転職を繰り返している者
ロ 紹介日前において離職している期間が1年を超えている者
ハ 妊娠、出産又は育児を理由として離職した者であって、紹介日前において安定した職業に就いていない期間(離職前の期間は含めない。)が1年を超えているもの
ニ 紹介日において、ニートやフリーター等で45歳未満である者
ホ 紹介日において就職支援に当たって特別の配慮を有する次のa~iまでのいずれかに該当する者
a 生活保護受給者
b 母子家庭の母等
c 父子家庭の父
d 日雇労働者
e 季節労働者
f 中国残留邦人等永住帰国者
g ホームレス
h 住居喪失不安定就労者
i 生活困窮者

(3)ハローワーク・紹介事業者等に提出された求人に対して、ハローワーク・紹介事業者等の紹介により雇い入れること

(4)原則3ヶ月のトライアル雇用をすること

(5)1週間の所定労働時間が原則として通常の労働者と同程度(30時間(上記(2)d、gまたはhに該当する者の場合は20時間)を下回らないこと)であること

一般トライアルコースの支給対象期間

※厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)のご案内」より


上図のように、3ヶ月のトライアル雇用が終了し、正式に雇用してから1ヶ月単位で最長3ヶ月間(支給対象期間)を対象として助成金が支給されます。

支給対象期間中の各月の月額の合計額がまとめて1回で支給されます。

一般トライアルコースの支給額

母子家庭の母、または父子家庭の父 最大15万円(最大5万円×3ヶ月)
母子家庭の母、父子家庭の父以外 最大12万円(最大4万円×3ヶ月)

※2020年2月1日現在。

障害者トライアルコース

ハローワークまたは民間の職業紹介事業者などの紹介により、就職が困難な障害者を一定期間雇用することにより得られる助成金です。

障害者の早期就職の実現や雇用機会の創出を図ることを目的としています。

障害者トライアルコースの主な受給条件

厚生労働省の定めでは、次の1の対象労働者を2の条件により雇い入れた場合に受給することができます。

1.対象労働者
次の[1]と[2]の両方に該当する者であること

[1]継続雇用する労働者としての雇入れを希望している者であって、障害者トライアル雇用制度を理解した上で、障害者トライアル雇用による雇入れについても希望している者

[2]障害者雇用促進法に規定する障害者のうち、次のア~エのいずれかに該当する者
ア 紹介日において就労の経験のない職業に就くことを希望する者
イ 紹介日前2年以内に、離職が2回以上または転職が2回以上ある者
ウ 紹介日前において離職している期間が6カ月を超えている者
エ 重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者

2.雇入れの条件
(1)ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介により雇い入れること
(2)障害者トライアル雇用等の期間について、雇用保険被保険者資格取得の届出を行うこと

障害者トライアルコースの受給額

精神障害者 最大24万円(8万円×3ヶ月、4万円×6ヶ月)
精神障害者以外 最大12万円(4万円×3ヶ月)

※2020年2月1日現在。

障害者短時間トライアルコース

継続雇用する労働者として雇用することを目的に、障害者を一定の期間を定めて試行的に雇用する制度です。

雇入れ時の週の所定労働時間を10時間以上20時間未満とし、障害者の職場適応状況や体調等に応じて、同期間中に20時間以上とすることを目指します。

障害者短時間トライアルコースの受給条件

次の1の対象労働者を2の条件により雇い入れた場合に受給することができます。

1.対象労働者
本助成金における「対象労働者」は、継続雇用する労働者としての雇入れを希望している者であって、障害者短時間トライアル雇用制度を理解した上で、障害者短時間トライアル雇用による雇入れについても希望している精神障害者または発達障害者が対象となります。

2.雇入れの条件
対象労働者を次の(1)と(2)の条件によって雇い入れること
(1)ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介により雇い入れること
(2)3か月から12か月間の短時間トライアル雇用をすること

障害者短時間トライアルコースの支給額

最大48万円(4万円×12ヶ月)
※2020年2月1日現在。

他の助成金についても併せて検討を

助成金の種類は多く、なかには似たような助成金もあります。トライアル雇用助成金を検討する場合は、次の助成金も併せて検討すると良いでしょう。

(1)特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
⇒母子家庭の母、父子家庭の父、障害者が対象になります。

(2)特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
⇒発達障害者や難治性疾患患者が対象になります。

(3)両立支援等助成金(育児休業等支援コース)
⇒以下の場合に助成金が支給されます。

・「育休復帰支援プラン」を策定及び導入し、プランに沿って対象労働者の円滑な育児休業の取得・復帰に取り組んだ場合。

・育児休業取得者の代替要員を確保し、休業取得者を原職等に復帰させた場合。

・育休から復帰後、仕事と育児の両立が特に困難な時期にある労働者のため、以下
の制度導入などの支援に取り組み、利用者が出た場合。

【まとめ】トライアル雇用はスタッフ採用の1つの手段

以上、トライアル雇用の詳細と、助成金の活用についてお伝えしました。

トライアル雇用はハローワークの紹介が前提となっていることや、雇用条件があるため、活用機会は限定されます。

また、長く働いていない人や転職を繰り返している人を採用すると、通常雇用者より現場教育に負担がかかる可能性があります。

ただ試用期間と違って正式雇用の有無を柔軟に判断できること、助成金活用によって人件費削減に繋がるのがトライアル雇用です。

もし、本記事で書いた条件に当てはまるスタッフを採用する際は検討すると良いでしょう。

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