社宅

医院・クリニックによっては、救急対応で医師や看護師の時間外対応が求められ、夜遅くまで診療が及ぶことも多いでしょう。

そのため、いつでも出勤できるようにクリニックの近くに待機でき、なおかつ住み込み可能な施設を準備している医療法人も少なくありません。

そのような医療法人は、借上げ社宅という制度を運用することで住宅手当以上に節税を図る方法があります。

借上げ社宅とは、医療法人が不動産業者から借りた敷地やアパート、マンションをスタッフである医師や看護師に貸し出す制度のことを指します。

そこで今回は、住宅手当との違い、借上げ社宅制度のメリット・デメリット、また制度運用における注意点をお伝えいたします。

住宅手当と借上げ社宅制度の違い

家族

住宅手当はスタッフに対して、福利厚生の一環として住居費用の一部を負担する制度のことを示します。

しかし、住宅手当は給与扱いとされるため、医療法人側にとってもスタッフにとっても節税上のメリットは大きくありません。

それは、住宅手当が上乗せされた分の所得税が増え、かつ医療法人側が負担する社会保険料も増えてしまうためです。

一方、借上げ社宅制度を運用した場合、住宅手当とはまったく違った結果となります。

なぜなら、借上げ社宅は不動産業者から借り入れた賃貸物件を社員に貸し出す制度であり、家賃として一定額を徴収するためだからです。

そのため、借上げ社宅の賃料については福利厚生費として経費計上することができます。

借上げ社宅にすることで、所得税や社会保険料負担を軽減できるので、医療法人側およびスタッフ側の双方にメリットがあるのです。

借上げ社宅のメリット・デメリット

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税金面では住宅手当よりメリットのある借上げ社宅ですが、当然ながら良いことばかりではありません。制度導入にあたり、デメリットも存在します。

そこで、借上げ社宅制度運用におけるメリットとデメリットを以下の通りまとめました。

もし、先生の医院・クリニックでデメリットを許容できるのであれば、借上げ社宅制度の導入を検討されてはいかがでしょうか?

メリットデメリット
・家賃分を福利厚生費として経費計上でき、節税しやすい

・所得税・社会保険料を削減できスタッフの手取りが増える

・初期投資が比較的低額で運用可能

・借り換え可能であるため、老朽化などのリスクが低い

・維持管理のための費用と手間が比較的少なくて済む

・福利厚生の一環として求人の際に好印象を与えられる

・住宅賃貸における契約や支払い手続きの手間が発生する

・借りている部屋が空きになっても家賃支払いが必要である

・契約している物件の解約時に違約金が発生するリスクがある

借上げ社宅制度の医療法上の注意点

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医療法人の社宅の場合、税法だけでなく医療法に抵触しないかも慎重に検討する必要があります。

たとえば特定の役員のみを対象とした社宅の貸与は、医療法人資産の目的外使用となるため認められません。

剰余金の配当とみなされ、医療法に抵触する可能性が高くなります。

医療法人の業務範囲は医療法で定められており、医師や看護師に社宅を貸し付けるためには、次の要件を満たさないといけません。

社宅を貸し付けるための4つの要件
  • ①福利厚生として行うこと(そのため社宅に関する経費は必然的に福利厚生費となります)
  • ②役員とスタッフを含めた全員を対象とした貸付に関する内部規定を設けること
  • ③医療提供または療養の向上の一環として社宅が貸与されること。
  • ④救急対応など勤務時間外や夜勤対応をせざるを得ない場合が経常的にあること

借上げ社宅制度の税法上の3つの注意点

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借上げ社宅制度を導入すれば、どんな場合でも節税ができるのかというと、そうではありません。

節税する上で何点か注意すべき点があります。

本項では、借上げ社宅制度により節税を行う際の注意点や重要なポイントをお伝えします。

これからお伝えする内容を遵守しないと、節税効果が見込めないケースがあるのでご注意ください。

【注意①】スタッフから徴収する賃借料の計算

借り入れた社宅を無償、または低い家賃で貸与すると、スタッフに対する経済的利益供与があるとみなされ、現物給与として課税される可能性があります。

給与課税されないためには、賃貸料相当額として定められた評価基準に則り、最低限の家賃を徴収する必要があります。

その評価基準とは賃貸料相当額の50%以上であることです。

賃貸料相当額の計算方法

スタッフから50%以上の賃貸料を徴収できていない場合、課税対象となることがあるため、これからお伝えする賃借相当額の計算方法は必ず把握しておきましょう。

<賃貸料相当額の計算式>
以下の3つの計算式の合計額が賃貸料相当額となる。

(1)当該年度の建物の固定資産税の課税標準額×0.2%
(2)12円×(その建物の総床面積/3.3㎡)
(3)その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%

賃貸料相当額の計算例

社宅の床面積や構造に応じて若干の計算は異なりますが、下記条件の物件を想定して計算例を記載しておりますので参考にご覧ください。

<賃貸物件の条件(例)>
・その年度の物件の固定資産税標準額・・・500万円
・その建物の総床面積・・・ 99㎡
・その年度の敷地の固定資産税の課税標準額・・・1,000万円

<賃貸料相当額計算(例)>
(1)その年度の建物の固定資産税の課税標準額×0.2% 500万円×0.2%=10,000円
(2)12円×(その建物の総床面積/3.3㎡) 12円×(99㎡/3.3㎡)=360円
(3)その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×0.22% 1,000万円×0.22%=22,000円
(1)+(2)+(3)=32,360円

上記計算式に当てはめた結果、1ヵ月の賃貸料相当額は32,360円となります。

給与課税されないためには、上記計算式で求めた1ヶ月の賃貸料相当額の50%以上を徴収する必要があります。

具体的に言うと……

  1. スタッフに無償で貸与した場合⇒32,360円が給与課税
  2. スタッフから10,000円の家賃を徴収
    ⇒32,360ー10,000=22,360円が給与課税
  3. スタッフから50%の16,180円の家賃を徴収⇒全額非課税

なお、もし固定資産税の課税標準額が不明である場合には、医療法人が家主に払う家賃の50%以上をスタッフから徴収しておきましょう。

勤務場所を離れて住むことが困難な場合は例外も……

なお医師や看護師というと、勤務場所を離れて住むことが現実的に困難なケースがあります。

その場合、無償で社宅を貸与していても給与課税されない可能性があるので確認してみると良いでしょう。

【注意②】役員から徴収する貸借料の計算

医療法人の理事など役員から徴収すべき賃貸料については、小規模住宅と、小規模住宅以外で分け、次のように計算します。

小規模住宅とは床面積99㎡以下(木造は132㎡以下)の住宅となりますが、大半の社宅は小規模住宅に該当するでしょう。

小規模住宅の場合

以下の3つの計算式の合計額が賃貸料相当額となります。

(1)当該年度の建物の固定資産税の課税標準額×0.2%
(2)12円×(その建物の総床面積/3.3㎡)
(3)その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%

ここまではスタッフから徴収する賃貸料と同じ計算になります。

しかし役員の場合は、給与課税されない条件が賃貸料の50%以上徴収ではなく、100%徴収になるので注意しましょう。

小規模住宅以外の場合

以下のいずれか高い金額が賃貸料相当額となります。

(1) {建物の固定資産税の課税標準額×12% (耐用年数30年超は10%) +敷地の固定資産税の課税標準額×6%}×1/12
(2)医療法人が家主に支払う家賃の50%の金額

【注意③】豪華社宅は借上げ社宅対象外となる可能性

社宅が豪華社宅の場合は、通常支払うべき使用料に相当する額が賃貸料相当額になりますので注意が必要です。

豪華社宅であるかは、床面積が240㎡を超える物件が対象となり、取得価額、支払賃料の額、内外装の状況などから総合的に判定されます。

また床面積が240㎡以下であったとしても、プールなど個人の嗜好を著しく反映した設備があると豪華社宅と判定されるため、注意が必要です。

【まとめ】社宅を提供するなら医療法と税法両方に注意して節税を

今回は、住宅手当より税金面のメリットが多い借上げ社宅制度に関して、以下の内容についてお伝えしました。

  1. 住宅手当と借上げ社宅の違い
  2. 借上げ社宅のメリットとデメリット
  3. 借上げ社宅制度導入における医療法と税法上の注意点

多くの医師や看護師を抱える比較的大きな医療法人では、緊急出勤など待機用の住み込み社宅が必要となることもあるでしょう。

その場合、借上げ社宅制度を活用することで、医療法人側としてもスタッフ側としても節税が可能である旨をお伝えしました。

ただし、医療法人の場合は税法だけでなく医療法の制約にも気をつける必要があります。

また、そもそも社宅が必要なのかどうかも慎重に検討しなくては、社宅のデメリットだけが先行し、経営を圧迫する可能性があります。

ぜひ今回お話した情報を1つでも取り入れていただき、医院経営に活かしていただければと思います。

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プロフィール
笠浪 真

税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢42人(R2年4月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

                       

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