はじめに

「最近ある看護師の言動がおかしく、単純なミスも増えている。うつ病ではないか」
「以前は笑顔を振りまいていて患者さんからも評判良かったんだが、最近笑顔がない」
「うちの看護師が診断書を持ってきた」

このようなスタッフのメンタルヘルスの問題に悩む開業医の先生が増えています。

そこで今回は医師や看護師などの医療従事者のうつ病に対してどのように対応するか、そして休職のルールについてお伝えします。

看護師や医師などの医療従事者はうつ病になりやすい

人間の健康や生命に直接関わる、看護師や医師といった医療従事者の心理的な負担は大きなものがあります。

厚生労働省の「平成30年度 過労死等の労災補償状況」によれば、「医療業」は「社会保険・社会福祉・介護事業」に次いで精神障害の多い業種となっています。

公的データを見ても、医療従事者のメンタルヘルスの不調は多いと言えます。

しかもその7割は看護職で休職に至るケースも多いです。パワハラが原因なことも多いですが、言うまでもなく訴訟など大きなトラブルに発展しやすいので要注意です。

うつ病などのメンタルヘルス不調は労災認定されるのか?

業務上の傷病により休業する場合は労災補償がされるうえ、労働基準法19条で解雇制限の対象となります。

使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によって休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によって打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない。

具体的には療養期間とその後30日間は解雇することができません。

うつ病の療養期間は長引くことが多いですが、例外的に3年以上の療養期間については打切補償を会社が支払うことで解雇が可能になります。

つまり、うつ病の療養が続いている限りは最低でも3年は解雇できないことになります。

ただし、これはあくまで労災認定されればという条件であり、実際に労災認定されるケースは多くありません。

業務との因果関係が認められないのであれば、多くは私傷病として扱われ、休職する場合、労務管理上は私傷病休職として対応することになります。

ただ時代の流れから考えれば、今後はうつ病などのメンタルヘルス不調でも労災認定されるケースは増えていくかもしれません。

医療従事者のうつ病を見抜くチェックポイント

ガンなどの体の病気と同じように、うつ病などのメンタルヘルス対策で重要なことは初期対応です。

うつ病になった場合、単純ミスの増加、患者さんに対して無愛想になるなど仕事のパフォーマンスの低下が見られます。

それを見て叱責したり、良かれと思って注意したりすることもあるでしょうが、うつ病を悪化させるリスクを伴います。

それで出社できない、休職せざるを得なくなったということになれば「パワハラだ!」と言われても仕方ありません。

メンタルヘルスに不調を来しているスタッフのサインにはパターンがあり、厚生労働省も公表しています。

日頃からメンタルヘルス不調のサインについて把握しておき、スタッフの心の叫びを見逃さないようにしましょう。

次に厚生労働省「職場における心の健康づくり」のパンフレットに記載のチェックリストを紹介します。

  1. 遅刻、早退、欠勤が増える
  2. 休みの連絡がない(無断欠勤がある)
  3. 残業、休日出勤が不釣り合いに増える
  4. 仕事の能率が悪くなる。思考力・判断力が低下する
  5. 業務の結果がなかなか出てこない
  6. 表情や動作にも元気がない
  7. 不自然な言動が目立つ
  8. ミスや事故が目立つ
  9. 服装が乱れたり、衣服が不潔であったりする
  10. 報告相談、職場での会話がなくなる

ただし、このチェックリストは勤務態度不良と紙一重の部分が多く、院長先生は日頃からスタッフの性格や特性を把握しておくことが必要です。

特にわかりやすいのが、遅刻や欠勤の状態などの勤怠の変化ではないでしょうか。

もしメンタルヘルス不調が疑われる場合は、業務量の低減、配置転換などの負担軽減措置が必要になります。

人間関係などの悩みであれば、配置転換でメンタルヘルスが回復することもあり得ます。

同時に、就業規則の受診命令に関する規定に照らして精神科などの受診を勧めるようにしましょう。

私傷病休職から普通退職までのプロセス

メンタルヘルスが不調のスタッフに対して、私傷病休職から退職までにどのようなプロセスを経ていくかについてお伝えします。

まずは他の体の不調と同様に有給休暇を促し、欠勤が続いたら休職、復職できなければ普通退職となります。

それでは詳しくお伝えします。

残りの有給休暇の消化

一般的な方法としては、メンタルヘルスが不調のスタッフに対しては、まずは残りの年次有給休暇を利用して休ませることです。

うつ状態のスタッフで、有給休暇をしっかり消化している人は少ないでしょう。

この場合は「有給休暇を使い切らないともったいないから、少し休んだらどうか?」と静養を促します。

欠勤が続いた後に休職を発令

その後、有給休暇を使い切って欠勤が一定期間続いたら就業規則の休職規定に基づいて休職を発令します。

休職によって症状が回復する場合は通常業務に復帰させ、徐々に仕事を与えていくことになります。(詳しくは後述します)

あるいは職場復帰プログラムなどに沿ってリハビリ勤務などの復帰支援を実施します。

注意したいことは、休職中のスタッフは「生活のためにも早く復帰しよう」と焦るケースも多いことです。

完全に治っていない状況での復帰を許してしまうと、さらに病状が悪化する危険性があります。その病状の悪化は、クリニック側が原因とされてしまうかもしれません。

また、休職があまりに長引くスタッフがいると、周囲のスタッフのモチベーションにも影響します。当然、「私だって休みたい」と思うでしょう。

最近はうつ病などに対する偏見を持つ人はほとんどいないと思いますが、院長先生は周囲のスタッフに対して理解を促す必要があります。

休職期間満了で普通退職

休職しても回復の見込みがなく、休職期間が満了した場合は就業規則に基づいて普通退職となります。

これが私傷病休職における休業から復職・退職までの一連のプロセスになります。

うつ病の休職から職場復帰したスタッフへの対応

私傷病休職から職場復帰するスタッフについては、本格復帰へのスムーズな移行のためのリハビリ勤務や、復帰後も柔軟な労働時間を設定しましょう。

リハビリ勤務

リハビリ勤務とは、正式な職場復帰を決定する前に、職場復帰の可否を判断する目的で実施する「お試し出勤」です。

例えば自宅から職場までの通勤経路で移動し、クリニックの近くで一定時間過ごして帰宅する。もしくはクリニックに試験的に一定期間継続して出勤する、といったようなものです。

リハビリ勤務の取り扱いについては法的な定義はなく、休職期間の中に含めて無給とするのが一般的です。

リハビリ勤務がどの程度まで効果があるかどうかは個人差があります。ただ実施する場合は災害が発生した場合の対応などを含めて、あらかじめ労使間で十分に検討してルールを定めておきましょう。

職場復帰したスタッフの労働時間

職場復帰したスタッフに対する柔軟な労働時間とは、具体的には次のようなことです。(厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を参照)

  1. 短時間勤務で働いてもらう
  2. 始業時間の繰り下げ、終業時間の繰り上げ
  3. 休憩時間の回数を多くする
  4. 軽作業や定型業務にとどめる
  5. 残業夜勤の禁止、交代勤務の制限
  6. 徐々に出勤日数を増やしていく
  7. 通院時間についても考慮する

復帰後に配置転換するかどうか

職場復帰時に配置転換するかどうかは、うつ病の原因が人間関係かどうかによって判断が変わるでしょう。

人間関係に改善が見られなければうつ病の再発も考えられるので、慎重に検討するようにしましょう。

休職規定のポイント

上記の休職プロセスの中で、就業規則の規定内容に不備があると、解雇の問題や労使トラブルを引き起こすことになります。

そこで、就業規則で休職について規定することは非常に重要です。

休職規定は労働基準法などの法律で定めがあるわけではなく、クリニックに委ねられますが規定することを強くおすすめします。

しかし休職制度は長期雇用を前提としているので、有期雇用のパートのスタッフについては適用しないのが一般的です。

休職規定では、次のようなことは必ず規定し、就業規則でスタッフに周知しましょう。

  1. 休職期間の設定は勤続年数を加味して休職期間を設定
  2. 休職期間中の賃金などの取り扱いを定める
  3. 復職の要件を明確に定める
  4. 休職期間満了時に「退職」か「解雇」かの取り扱い

【まとめ】医療従事者のうつ病への対応の基準や休業ルールを明確に

医師や看護師などの医療従事者は、比較的ストレスに晒されやすく、メンタルヘルスの不調を来しやすいとされています。

実際に公的なデータが出ており、特に看護師のうつ病はかなり多いことがわかっています。

しかもメンタルヘルスの不調は、訴訟などの労使トラブルに繋がりやすい問題のひとつです。

今回は詳しく書いていませんが、メンタルヘルスについてはまず予防策が重要です。

院内の雰囲気や人間関係も良くて仕事にやりがいがあれば、少なくとも労働が原因でうつ病になることはありません。

しかし、それでも複雑な要因が重なってうつ病になってしまうこともあります。そもそも日本は自殺率が高く、うつ病にかかりやすい国です。

メンタルヘルスの不調と休職は密接に関係しますので、就業規則などで休職について明確に規定し、トラブルを防ぐようにしましょう。

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プロフィール
亀井 隆弘

社労士法人テラス代表 社会保険労務士

広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。

                       

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