「以前は笑顔を振りまいていて患者さんからも評判良かったが、最近笑顔がない」
「看護師が診断書を持ってきた」

うつ病など、スタッフのメンタルヘルスの問題に悩む開業医の先生が増えています。

基本的には身体の不調と同様に、有給休暇の取得を促します。そのまま欠勤が続いたら「私傷病休職」として扱うのが一般的です。

復職できれば職場でもバックアップをしましょう。復職できなければ普通退職というルートが多いです。

なお、休職制度は長期雇用を前提としているので、有期雇用のパートスタッフについては適用しないのが一般的です。

そこで今回は医師や看護師などの医療従事者のうつ病メンタルヘルス不調に対してどのように対応するか、そして休職のルールについてお伝えします。

医療従事者はうつ病などメンタルヘルス不調が多い

人間の健康や生命に直接関わる、看護師や医師といった医療従事者の心理的な負担は大きなものがあります。

そのため、うつ病などメンタルヘルスの不調を訴える割合が比較的多い職業であることが、厚生労働省などの調査結果でわかっています。

厚生労働省の調査

厚生労働省の「令和元年度 過労死等の労災補償状況」によれば、以下の表のように「医療業」は「社会保険・社会福祉・介護事業」に次いで精神障害の労災申請の多い業種となっています。

※厚生労働省「令和元年度 過労死等の労災補償状況 表2-2-1精神障害の請求件数の多い業種」より抜粋
業種(大分類)業種(中分類)請求件数(括弧内は女性)
医療、福祉社会保険・社会福祉・介護事業256(186)
医療、福祉医療業169(133)
運輸業、郵便業道路貨物運送業91(29)
情報通信業情報サービス業85(26)
宿泊業、飲食サービス業飲食店70(34)

 

また、職種別で見ても、「保健師、助産師、看護師」については上位5位以内に入っています。

職種(大分類)職種(中分類)請求件数(括弧内は女性)
事務従事者一般事務従事者339(221)
サービス職業従事者介護サービス職業従事者141(99)
販売従事者商品販売従事者123(67)
販売従事者営業職業従事者105(37)
専門的・技術的職業従事者保健師、助産師、看護師94(87)

 

【参考】コロナ禍でうつ状態を訴える医療従事者はさらに増加

しかも、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大によって、コロナ診療に対応する医療機関を中心に、メンタルヘルスの不調を訴える医療従事者が増えています。

日本赤十字社医療センターが、緊急事態宣言が出ていた2020年4~5月にかけて職員に調査したところ、27.9%がうつ状態になったことがわかっています。

また、国内2人目のコロナ感染者を受け入れた聖路加国際病院も、職員のバーンアウト(燃え尽き症候群)についての調査をしています。

やはり緊急事態宣言中の4月に、コロナ患者と接していた医療従事者の31.4%がバーンアウトを経験していることが判明います。

コロナ患者を受け入れた医療機関の調査とはいえ、メンタルヘルスの問題は今後も変わりません。メンタルヘルスへの対応や休職ルールの整備が求められます。

メンタルヘルス不調になるとどうなる?

スタッフにうつ病などメンタルヘルスに不調が見られた場合は、どのように対応すれば良いのでしょうか?

労働基準法上の取扱いはどうなる?

業務上の傷病により休業する場合は、労働基準法19条で解雇制限の対象となります。

(解雇制限)
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によって休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によって打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない。

具体的には療養期間と、期間後30日間は解雇することができません。

また、労働基準法75~76条によって、業務上の理由によるメンタルヘルス不調(うつ病など)であれば、期間中は療養補償と休業補償が必要になります。

(療養補償)
労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
② 前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める。

(休業補償)
労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない

うつ病の療養期間は長引くことが多いですが、例外的に3年以上の療養期間については打切補償(平均賃金の1200日分)を会社が支払うことで解雇が可能になります。

(休業補償)
第七十五条の規定によって補償を受ける労働者が、療養開始後三年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の千二百日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。

逆に言えば、業務上の理由でうつ病の療養が続いている限りは最低でも3年は解雇できず、その間は休業補償の支払いが必要になります。

労災認定される?

うつ病などメンタルヘルス不調でよく話題になるのが、労災認定されるかどうかです。

労災ですから、うつ病の原因が、業務上の理由によるものでないと認定されず、実際は労災認定されるケースはさほど多くありません。

実際に先の厚生労働省「令和元年度 過労死等の労災補償状況」によれば、医療業の精神障害の労災請求と、労災支給決定については、次のような結果が出ています。労災申請しても、認定されるケースが少ないことがわかります。

労災申請件数支給決定件数
医療、福祉医療業169件30件
専門的・技術的職業従事者保健師、助産師、看護師94件15件

 

精神障害の労災認定の要件は、厚生労働省が明確な基準を提示しており、次の3つを条件としています。

  • ①認定基準の対象となる精神障害を発病していること
  • ②認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  • ③業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

これらを満たす場合は、パワハラやセクハラ、マタハラ、過度の長時間労働など、大きな労使間トラブルに繋がるケースが大半です。

そのため、一部の大きな職場トラブルを除けば、スタッフのうつ病については、労働基準法や就業規則に則って対応することが一般的です。

医療従事者のうつ病を見抜くチェックポイント

ガンなど体の病気と同じように、うつ病などのメンタルヘルス対策で重要なことは初期対応です。

うつ病になった場合、単純ミスの増加、患者さんに対して無愛想になるなど仕事のパフォーマンスの低下が見られます。

不調に気付かず叱責したり、良かれと思って注意したりしてしまうと、うつ病を悪化させるリスクを伴います。

それで出社できない、休職せざるを得なくなったということになれば「パワハラだ!」とされても言い逃れできません。

厚生労働省「職場における心の健康づくり」のパンフレットには、『「いつもと違う」部下の様子』として次のチェックリストを挙げています。

日頃からメンタルヘルス不調のサインについて把握しておき、スタッフの心の叫びを見逃さないようにしましょう。

※厚生労働省「職場における心の健康づくり」
  • ・遅刻、早退、欠勤が増える
  • ・休みの連絡がない(無断欠勤がある)
  • ・残業、休日出勤が不釣り合いに増える
  • ・仕事の能率が悪くなる。思考力・判断力が低下する
  • ・業務の結果がなかなか出てこない
  • ・報告や相談、職場での会話がなくなる(あるいはその逆)
  • ・表情に活気がなく、動作にも元気がない(あるいはその逆)
  • ・不自然な言動が目立つ
  • ・ミスや事故が目立つ
  • ・服装が乱れたり、衣服が不潔であったりする

普段からスタッフに関心を持って接していないと、「会話が少ない」「動きに元気がない」「服装が乱れている」といった変化に気付くことができません。

そのため、スタッフには普段から関心を持ってコミュニケーションを取って、直感的に把握できるようにしておくことが必要です。

しかも、このチェックリストは勤務態度不良と紙一重の部分が多く、院長先生は日頃からスタッフの性格や特性を把握しておくことは欠かせません。

メンタルヘルス不調を理由とした不利益な取扱いの防止

もしメンタルヘルス不調が疑われる場合は、業務量の低減、配置転換などの負担軽減措置が必要になることもあります。

人間関係などの悩みであれば、配置転換でメンタルヘルスが回復することもあり得ます。

しかし、厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」によると、次のような不利益な取扱いはしてはならないとあります。

「労働者の心の健康の保持増進のための指針」
  • ①解雇すること
  • ②期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないこと
  • ③退職勧奨を行うこと
  • ④不当な動機・目的をもってなされたと判断されるような配置転換又は順位(役職)の変更を命じること
  • ⑤その他の労働契約法等の労度関係法令に違反する措置を講ずること

退職勧奨や、配置転換そのものは法的には問題ありませんが(退職強要は違法)、対象となるスタッフの意志を尊重したうえで慎重に判断しましょう。

私傷病休職から普通退職までのプロセス

メンタルヘルスが不調のスタッフに対して、有休休暇取得から私傷病休職までにどのようなプロセスを経ていくかについてお伝えします。

基本的には他の体の不調と同様に有給休暇を促し、欠勤が続いたら休職、復職できなければ普通退職となります。

それでは詳しくお伝えします。

残りの有給休暇の消化

メンタルヘルスの不調を訴えるスタッフに対しては、まず一般的には残っている年次有給休暇を利用して休ませることが考えられます。

うつ状態のスタッフほど、有給休暇をしっかり消化している人は少ないかもしれません。

その場合は

「有給休暇を使い切らないともったいないから、少し休んではどうか?」
有給休暇が義務化されているから、使ってほしい」

などと静養を促しましょう。

欠勤が続いた後に休職を発令

有給休暇を使い切り、欠勤が一定期間続いたら、就業規則の休職規定に基づいて私傷病休職を発令します。

注意したいのは、休職中のスタッフは「生活のためにも早く復帰しよう」と焦るケースが多いことです。

完全に治っていない状況で復帰してしまうと、さらに病状が悪化する危険性があります。

その病状の悪化の原因が、クリニック側にあるとされてしまう可能性もあるので注意しましょう。

一方で、休職があまりに長引くスタッフがいると、周囲のスタッフのモチベーションにも影響します。

最近はうつ病などに対する偏見をもつ人はあまりいないと思いますが、休職中のスタッフの分の仕事を負担している周囲のスタッフに対しても理解を促す必要があります。

なお、スタッフが休職中に安心して療養に専念できるように、次のような情報提供を行うようにしましょう。

  1. 傷病手当金、療養補償、休業補償などについて
  2. 不安や悩みの相談先の紹介
  3. 職場復帰支援サービスの情報提供
  4. 休業可能な期間

休職中のスタッフが旅行に行っていたらどうする?

休職中のスタッフが友人や家族と外出していたり、旅行に出かけたりするようなケースも考えられます。

ただ、日帰りの外出や2泊3日程度の旅行程度であれば、リハビリの一貫としてあり得るので、さほど問題視はできないでしょう。

しかし、1週間くらいの長期旅行や、他の活動を精力的に行っている場合は話が別です。

リハビリの状態を逸脱しており、本来は仕事ができる状態なのに、傷病手当金などの不正受給の可能性があるためです。

本来であれば、精神科や心療内科の医師から診断書をもらうべきものなので、念のためかかりつけの医師に確認するようにしましょう。

うつ病の休職から職場復帰したスタッフへの対応

私傷病休職によって症状が回復し職場復帰するスタッフについては、通常業務に復帰させ、徐々に仕事を与えていくことになります。

本格復帰へのスムーズな移行のためのリハビリ勤務を行い、復帰後も柔軟な労働時間を設定するのが理想的です。

リハビリ勤務

リハビリ勤務とは、正式な職場復帰を決定する前に、職場復帰の可否を判断する目的で実施する「お試し出勤」です。

厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」によれば、リハビリ出勤(試し出勤)の例として、次のようなものを挙げています。

厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」より
  • ①模擬出勤:勤務時間と同様の時間帯にデイケアなどで模擬的な軽作業を行ったり、図書館などで時間を過ごす。
  • ②通勤訓練:自宅から勤務職場の近くまで通勤経路で移動し、職場付近で一定時間過ごした後に帰宅する。
  • ③試し出勤:職場復帰の判断等を目的として、本来の職場などに試験的に一定期間継続して出勤する。

リハビリ勤務の取り扱いについては法的な定義はなく、休職期間の中に含めて無給とするのが一般的です。

リハビリ勤務がどの程度まで効果があるかどうかは個人差があります。ただ実施する場合は災害が発生した場合の対応などを含めて、あらかじめ労使間で十分に検討してルールを定めておきましょう。

職場復帰したスタッフの労働時間

リハビリ出勤を踏まえたうえで、以下のようなことを総合的に考慮して職場復帰の判断をしましょう。

  • ・労働者が十分な意欲を示している
  • ・通勤時間帯に一人で安全に通勤ができる
  • ・決まった勤務日、時間に就労が継続して可能である
  • ・業務に必要な作業ができる
  • ・作業による疲労が翌日までに十分回復する
  • ・適切な睡眠覚醒リズムが整っている、昼間に眠気がない
  • ・業務遂行に必要な注意力・集中力が回復している

職場復帰したスタッフの労働時間

職場復帰したスタッフに対する柔軟な労働時間とは、具体的には次のようなことです。(厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を参照)

  • ・短時間勤務
  • ・軽作業や定型業務への従事
  • ・残業・深夜業務の禁止
  • ・出張制限
  • ・交替勤務制限
  • ・危険作業、運転業務、高所作業、窓口業務、苦情処理業務などの制限
  • ・フレックスタイム制度の制限または適用
  • ・転勤についての配慮

また復帰直後については、スタッフのパフォーマンスは、休職前の6~7割くらいと見積もって接するようにしましょう。

復帰後に配置転換するかどうか

職場復帰時に配置転換するかどうかは、うつ病の原因が人間関係かどうかによって判断が変わるでしょう。

先にも書いたように、スタッフに不利益になるような配置転換はできないので、慎重に検討しましょう。

私傷病休職を見越した場合の休職規定のポイント

休職しても回復の見込みがなく、休職期間が満了した場合は就業規則に基づいて普通退職となります。

このプロセスの中で、就業規則の規定内容に不備があると、解雇の問題や労使間トラブルを引き起こすことになります。

休職規定は労働基準法などの法律で定めがあるわけではなく、雇用側の裁量に委ねられますが、就業規則で休職について規定することは非常に重要です。

休職については、次のような内容を規定しておくことを強くお勧めします。

  1. 休職の期間は,勤続年数を加味して設定する
  2. 休職期間中の賃金などの取り扱いを定める
  3. 復職の要件を明確に定める
  4. 休職期間満了時の取り扱いは「退職」か「解雇」か

【まとめ】医療従事者のうつ病への対応の基準や休業ルールを明確に

医師や看護師などの医療従事者は、比較的ストレスに晒されやすく、メンタルヘルスの不調を来しやすいとされています。

しかもメンタルヘルスの不調は、他の私傷病と違い、訴訟などの労使トラブルに繋がりやすい問題のひとつです。

院内の雰囲気や人間関係も良くて仕事にやりがいがあれば、少なくとも労働が原因でうつ病になることはありません。

しかし、それでも業務以外の要因が重なってうつ病になってしまうこともあります。言うまでもなく、日本は自殺率が高く、うつ病にかかりやすい国です。

メンタルヘルスの不調と休職は密接に関係しますので、就業規則などで休職について明確に規定し、トラブルを防ぐようにしましょう

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この記事の執筆・監修はこの人!
プロフィール
亀井 隆弘

社労士法人テラス代表 社会保険労務士

広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。

                       

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