整形外科の開業医・勤務医の年収は? 気になる開業資金も詳しく解説

公開日:2018年10月23日
更新日:2024年3月18日

整形外科で開業しようと考えている先生に向けて、開業医の年収や、勤務医との比較、開業資金の目安、開業の注意点について解説します。

整形外科は、医師や看護師だけでなく、理学療法士や作業療法士、放射線技師など、他科に比べて専門職の採用が必要な傾向があります。

このような専門職の人件費や、採用基準を考えておく必要があります。

また、整形外科にはリハビリに関する設備やスペースが必要になってきますが、無駄に資金をかけないように開業物件や医療機器の取捨選択が必要です。

※開業医の年収や開業資金は個人差がかなり大きく、バラツキがあるので、あくまで参考までにご覧ください。

医療経済実態調査から見る整形外科の開業医の年収と内訳

小児科の開業医の年収については、第22回医療経済実態調査のP351にある一般診療所(個人・青色申告を含む)で、医業・介護収益から費用を引いた損益差額を年収とすると、2998.4万円と算出できます。

同調査から算出される全開業医の平均年収は2,763万円(健保連の算出)なので、全診療科目の平均より少し高い金額です。

これは、産婦人科(4,551.9万円)、眼科(3,377.9万円)に次ぐ水準です。

この年収については、税金や社会保険料、借入金の返済額といった支出は含まれておらず、実際の手取りはもっと少なくなりますが、利益という点では、整形外科は比較的高い年収と言えます。

収益の内訳

第22回医療経済実態調査を元に小児科開業医の年間収益の内訳を示すと、医業収益は11,298.7万円となっており、産婦人科(13,774.5万円)に次いで高い数値となっています。

これは、患者さんがリハビリ目的で、月2.5~4回ほど来院するため、診療報酬が大きくなる影響もあるかと考えられます(その代わり、後述するように人件費がかかります)。

収益の内訳を見てみると、入院診療の内訳の割合は2.4%となっており、そこまで入院診療の割合が多くないと言えます。

これは、整形外科のクリニックは、手術をするケースでも日帰り手術で済むようなケースが多く個人診療所では入院する人が少ないためでしょう。

概ね、整形外科の医業収益の内訳については、他科と大きな違いはないと言えます。

経費の内訳

医業収入の高い整形外科ですが、経費の支出も多いところがあり、年間経費(医業・介護費用)は8,300.3万円となっており、これも産婦人科(9,222.6万円)に次ぐ高さとなっています。

ちなみに、整形外科よりも年収が高いとされている眼科の経費は5,980.9万円と、整形外科よりも2,300万円ほど低くなっています。

眼科の方が整形外科より医業収益は低いが経費は少ないため、利益の点で整形外科を上回っています。

なお、整形外科開業医の年間経費の内訳を以下の表にまとめると次の通りとなります。

 整形外科開業医開業医全体
医業・介護費用8,300.3万円(73.5%)5,842.7万円(68.1%)
給与費3,633.5万円(32.2%)2,330.7万円(27.2%)
医薬品費2,165.7万円(19.2%)1,333.6万円(15.6%)
材料費156.6万円(1.4%)190.3万円(2.2%)
給食用材料費22.6万円(0.2%)16.9万円(0.2%)
委託費251.7万円(2.2%)271.1万円(3.2%)
減価償却費530.9万円(4.7%)369.4万円(4.3%)
その他1,539.2万円(13.6%)1,330.8万円(15.5%)

開業医全体の平均に比べると、整形外科は若干給与費と医薬品費の割合が多いことがわかります。

整形外科の勤務医の年収

整形外科の勤務医の年収は、独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(2012年)によれば1,289.9万円です。

開業医と勤務医の平均年収は2倍以上の開きがあると言われますが、整形外科医の場合も2倍以上の開きがあり、約2.3倍という結果になっています。

ただ、繰り返しますが、開業医の年収は決して手取り額ではなく、税金や社会保険料、借入金の返済といった経費にならない支出を差し引いていません。

また、開業医の場合は年収が青天井の分、逆に収益を上げられずに廃業・自己破産のリスクもあります。

整形外科の場合も、他科と同様、どのエリアでも競争が激化しているので、どのような医院・クリニックを開業するのかしっかり戦略を立てていく必要があります。

整形外科の開業資金の目安

整形外科は、リハビリ施設の確保など広いスペースを必要とされますし、リハビリ機器の導入なども考えないといけません。

あまり無計画なまま開業すると、身の丈に合わない大きな医院を開業してしまったり、不要な医療機器を導入したりといったことになりかねません。

もちろん、施設や設備が充実していた方が多くの患者さんに対応はできますが、物件の大きさや医療機器は、一番開業資金がかかりリスクが大きいです。

そのため、開業する立地や、先生の診療方針、コンセプトからターゲットとする患者さんを考えて必要な施設・設備を揃えるようにしましょう。

特に最初は来院する患者さんが、開業2~3年目に比べれば少ないことが多いので、この時点で設備を揃えても稼働率が低い状態になってしまいます。

開業してから軌道に乗り、設備投資用の院内貯蓄額が増えてきたら医療機器を購入することでも問題ありません。

あくまでも目安ですが、整形外科の場合は内科と同様に、土地、建物だけで3,000万円、各種医療機器の導入については2,000~4,000万円程度を考えておくといいでしょう。

各種医療機器の購入を考えれば、最低でも5,000万円くらいの開業資金に、初年度の運転資金を用意しておくのがいいでしょう。

整形外科開業の検討事項

以上を踏まえて、整形外科開業の検討事項について、いくつかお伝えします。

整形外科のスタッフ採用

冒頭でもお伝えしましたが、整形外科の場合は理学療法士、作業療法士、放射線技師などの専門職の採用が必要となります。

特に理学療法士の採用がほぼ必須である点は他の診療科目とは大きく違う点で、オープニングスタッフの採用人数が多くなる傾向にあります。

例えば、医師、看護師、事務、理学療法士を各2~3名雇用するなら、開業時点で必要スタッフ数は10名前後になります。

人件費について慎重に検討しなければいけないのはもちろんのこと、組織をまとめるスタッフマネジメント能力も求められます。

なお、スタッフ数が10名以上になると就業規則を必ず作らなくてはいけなくなるので注意してください(労働基準法第89条)。

整形外科の物件・内装の検討事項

整形外科の物件・内装については、通常のクリニックの物件の検討事項に加え、以下のことが必要なことがあります。

  1. テナント物件の場合、車いすの人でも楽に出入りできるようにエレベーターが必要だったり、1Fの物件が良かったりしないか?
  2. 駅から近いか? 整形外科の患者さんが来院しやすいか?
  3. 住宅街であれば駐車場のスペースはどれくらい必要か? 余裕を持ったスペースは必要か?
  4. 車いすや松葉杖の人を考えて、待合室などはどれくらいの広さが必要か?
  5. リハビリ室は運動器リハビリの基準を超えるか(45m2)? もっと広いスペースが必要でないか?(※)

※厚生労働省「個別事項(その1)(リハビリテーション、医薬品の効率的かつ有効・安全な使用)」

また、整形外科は現状6~8割が高齢者の患者さんです。整形外科に通う高齢者の患者さんが来院しやすいような工夫も求められます。

整形外科で必要な設備

整形外科では、レントゲン、電子カルテ、診察用ベッドの他、リハビリ機器が必要となります。

先生の診療方針によっては、低・高周波治療器、マイクロ波治療器、ホットパック、骨密度検査機器DEXAが必要なこともあるでしょう。

ただし、先ほどもお伝えしたように、リハビリ機器には、「それは本当に必要なのか?」ということを慎重に検討する必要があります。

無駄な設備投資になる可能性もありますし、リハビリ室のスペースが余分に必要になることもあり、開業資金が莫大になるリスクがあります。

また、理学療法士の施術と比べて、その物理療法が本当に効果はあるのか? という観点でも機器の導入を検討するべきです。

今後の介護事業への発展を見据えるのであれば、物理療法だけに頼らず、理学療法士を充実させる方がいい場合もあります。

整形外科の集患の現状と接骨院・整体院との連携

他の診療科目も同じことが言えますが、整形外科も競合が多くなっています。

「少子高齢化だから高齢者が多く来院する整形外科は大丈夫」と楽観視できなくなっている状況にあります。

また整形外科の場合は、接骨院・整体院などの医療機関以外の組織もライバルになってきます。接骨院・整体院は、どの地域でも非常に多いです。

検査をして薬を渡すだけの整形外科ですと、施術などを行う整体院や接骨院などに患者を持っていかれる可能性は十分あります。

ただ、接骨院や整体院は競合としてではなく、連携を取っていく事例も増えてきています。

少子高齢化の社会において、接骨院や整体院を競合ではなく、医療連携を組むパートナーとして考えることも必要でしょう。

【まとめ】整形外科はリハビリにかかる費用を要検討

以上、整形外科の開業医の年収、勤務医との比較、開業資金の目安、開業の注意点についてお伝えしました。

整形外科の開業の場合、次の点に注意する必要があります。

  1. 理学療法士などリハビリの専門スタッフが必要なので、採用するスタッフ数が多い
  2. リハビリ施設や機器の導入が必要になるため、開業資金が高くなる可能性

整形外科開業医の先生の年収は、他科よりも多めではありますが、上記のことから経費や借入金の返済が圧迫し、手取りが少ないことも考えられます。

整形外科の場合、無計画にあれもこれも導入しようとすると、開業資金が無駄にかかってしまう可能性があります。

そのため、開業コンセプトを明確にし、介護事業も踏まえたうえで要否を慎重に検討するようにしましょう。

なお、整形外科の先生がどんな思いで開業したか、どうやって開業したかなどリアルな開業事例についてもぜひご覧ください。

【関連記事①】藤沢ぶん整形外科 髙山 文治 先生

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笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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