クリニックの医師、看護師、経理などを懲戒解雇するイメージ画像

はじめに

医師や看護師、経理など、クリニックのスタッフが重大な問題を起こしたので、すぐにでも辞めてもらおう……。

このように、クリニックのスタッフに懲戒解雇すべき事案が発生した場合、どのような対応を取ればいいのでしょうか?

懲戒解雇はスタッフにとって極めて重い処分です。

懲戒解雇処分を受けたスタッフは、今後の転職なども相当不利になることが実情で、本人のその後の人生を左右するものです。

そのため懲戒解雇されたスタッフが後日、不当解雇として裁判を起こすケースもあります。

不当解雇の裁判は、雇用側にとって不利に働くケースが多く、多額の支払いを命じられるケースもあり得ます。

そこで今回は、クリニックの医師、看護師、経理などに問題があり、懲戒解雇する際の重要なポイントについてお伝えします。

普通解雇、整理解雇、懲戒解雇、諭旨解雇の違い

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本記事では懲戒解雇について詳しくお伝えしますが、まずは普通解雇、整理解雇、懲戒解雇、諭旨解雇の違いについて簡単にまとめておきましょう。

普通解雇整理解雇懲戒解雇諭旨解雇
解雇事由 (1)勤務態度不良や勤務成績が悪い
(2)健康上の理由
経営悪化などにより、人員整理を行う必要がある極めて悪質な規律違反や非行を行った場合懲戒解雇に相当する者が退職勧奨しても自主退職しない場合
解雇要件 (1)の場合は、指導を重ねても改善の見込みがないこと
(2)の場合は、長期的に仕事復帰が見込めないこと 次の4要件を満たす場合。
・整理解雇することに客観的な必要があること
・解雇を回避するために最大限の努力を行ったこと
・解雇の対象となる人選の基準、運用が合理的に行われていること
・労使間で十分に協議を行ったこと
・就業規則か労働契約書に明確な定めがあること
・過去に同じ事由で懲戒処分を科していないこと(二重懲罰の禁止)
懲戒解雇と同様の要件であり、かつ退職勧奨に応じない場合
共通要件・就業規則で規定されていること ・合理的な理由があること
解雇予告手当(※)必要必要不要(解雇予告除外認定を受けた場合)必要
退職金必要(減給あり)必要(減給あり)不要もしくは減給必要(減給あり)
備考右記のどれにも該当しない解雇処分雇用側都合による解雇処分十分反省しているなど、懲戒解雇より温情的な解雇処分
※労働基準法20条では、労働者を解雇しようとする場合は、少なくとも30日前に予告しなければならないとされている。30日以上の予告をできないときは、30日に不足日数分以上の平均賃金を支払うことが必要になる。これを解雇予告手当と言う。

このように懲戒解雇は、解雇予告手当を支払うことなく即日解雇ができ、退職金も支払わないか減給という、最も重い処分であることがわかります。

解雇の区分に関する詳細は、以下の記事もご覧ください。

【関連記事】角を立てずにクリニックの問題スタッフを辞めさせるには?

医師、看護師、経理などを懲戒解雇する時の6つのポイント

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懲戒解雇と他の解雇との違いについて理解できたら、次は医師、看護師、経理などを懲戒解雇する時のポイントについてお伝えします。

【ポイント①】解雇予告除外認定

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懲戒解雇については、解雇予告手当を支払わなくて良い場合がありますが、「解雇予告除外認定申請書」を所轄の労働基準監督署長に届け出て認定を受けることが条件となります。

この手続きをしない場合は、普通解雇などと同様に、解雇予告手当を支払うことになります。

解雇予告除外認定の条件

これは以下の労働基準法20条の、但し書き以降の条文が根拠になります。

使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

つまり、

・天災により事業の存続が困難となった場合
・労働者の責に帰するべき事由がある場合

のいずれかに該当すれば、解雇予告手当の支払いなく、即日解雇することが可能になります。

労働者の責に帰するべき事由

労働者の責に帰すべき事由については、解釈が以下の通達(昭23.11.11基発1637号、昭31.3.1基発111号)によって示されています。

①原則として,極めて軽微なものを除き,事業場内における盗取,横領,傷害等刑法犯に該当する行為のあった場合
②賭博,風紀紊乱等により職場規律を乱し,他の労働者に悪影響を及ぼす場合。
③雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合及び雇入れの際,使用者の行う調査に対し,不採用の原因となるような経歴を詐称した場合
④他の事業へ転職した場合
⑤原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し,出勤の督促に応じない場合
⑥出勤不良(遅刻、欠勤)が多く、数回にわたって注意を受けても改めない場合

※①②は著しく当該事業場の名誉もしくは信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの、労使間の信頼関係を喪失するものと認められる場合

認定を待たずに解雇しても良いか?

以下の通達を根拠とし、労働基準監督署長の認定を待たず解雇することも可能で、その際も解雇予告除外認定の効力が発生します。

認定処分が出るまでに解雇をしても、その後認定が出たときは、その処分は申請のときにさかのぼって効力を発生する。

【ポイント②】就業規則で懲戒解雇の懲戒事由を定めておく

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懲戒解雇をする場合は、普通解雇とは別に、判断の基準となる就業規則上の規定をしておく必要があります。

【就業規則記載例】

(懲戒解雇)

第◯◯条 従業員が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。この場合において、行政官庁の認定を受けたときは、労働基準法第 20 条に規定する予告手当は支給しない。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第 条に定める普通解雇又は減給若しくは出勤停止とすることがある。

  • 1 ……
  • 2 ……

就業規則に記載する、懲戒解雇となり得る事由については、大きく分けて以下のことは記載するようにしましょう。

  1. 経歴詐称をしている
  2. 犯罪行為
  3. クリニックの信用失墜や業務に悪影響を及ぼす行為
  4. 個人情報漏洩(カルテ情報など)
  5. 二重就職
  6. 業務命令違反
  7. 服務規律違反(業務に大きな支障の出る悪質なハラスメント、暴言・暴力、勤務不良等)

【ポイント③】弁明の機会を設ける

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懲戒解雇は労働者に対するペナルティであるため、原則としてクリニック側の一方的な判断で処分を行うのではなく、対象者に弁明の機会を与えるのが一般的です。

弁明の機会は、必ずしも与えなければならないものではありません。

しかし、弁明の機会なく懲戒解雇の手続きをすすめた場合は、客観的合理性(証拠収集等)に欠けるものとされ、無効となる可能性があります。

【ポイント④】懲戒解雇の合理的理由及び社会的相当性

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労働契約法15条、16条より、客観的に合理的な理由を欠いた場合と社会通念上相当と認められない場合は、懲戒も解雇も無効となります。

使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

懲戒解雇の合理的理由とは、対象者の行為の院内秩序を著しく乱す行為があったかどうか(就業規則に規定された懲戒解雇事由に該当するかどうか)を意味します。

さらに、仮に合理的理由がある場合でも、懲戒解雇というクリニック側の判断が社会的に見てどうかも問題となります。

例えば次の場合は、懲戒解雇の社会的相当性は否定されます。

・クリニックに実損が生じていない
・懲戒解雇せずとも秩序の回復が可能

例え就業規則で定めた懲戒解雇事由に該当しても、上記を理由に懲戒解雇が重すぎると判断された場合は、不当解雇とされてしまう可能性があります。

【ポイント⑤】二重懲罰の禁止

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懲戒処分については、同一の事由に対して、2回以上の処分を科すことができないとされています。

これが二重懲罰の禁止です。(日本国憲法第39条)

懲戒解雇以外の懲戒処分については、次のようなものが挙げられます。

・戒告(口頭での注意)
・譴責(始末書の提出)
・減給
・出勤停止(一定期間の出勤を停止し、賃金も休業補償分のみ)
・降格(役職の引き下げ)
・諭旨解雇

問題スタッフに対して解雇の可能性を残したいような場合は、軽い懲戒処分を与えないように注意が必要です。

事例として、とある問題スタッフに対して自宅待機を命じた院長先生がいましたが、給料を休業補償に相当する6割の減給ではなく全額支給しました。

減給しないことで上記の出勤停止に該当せず、懲戒処分を避けたのです。

その問題スタッフは結果的に自宅待機中に自主退職を申し出たのですが、選択肢を多く残し、柔軟な対応を可能にした例と言えます。

【ポイント⑥】退職金は不支給で良いか? 一部だけ支払うか?

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懲戒解雇に該当するほどの問題スタッフに退職金を支払うというのは、院長先生にとっては嫌なもの。

しかし、退職金を全く支給しないということができるかどうかというと、かなり判断は難しいと思われます。

なぜなら、犯罪行為で懲戒解雇し、退職金を受け取れなかった労働者が支払いを請求し、退職金支給が一部認められた判例があるためです。

退職金については、相場観や具体的事案の客観的分析が不可欠です。

懲戒解雇だからと言って、退職金を支払わなくて良いとは限りません。

従業員の退職金を不支給にする前に、社労士や弁護士の意見を聞いてから慎重に判断しましょう。

【まとめ】懲戒解雇は社労士や弁護士を相談しながら慎重に

以上、「スタッフの懲戒解雇」をする際の重要なポイントについてお伝えしました。

  1. 懲戒解雇でも解雇予告手当を払わない場合は、労働基準監督署長の認定が必要
  2. 就業規則に懲戒解雇について明確に定めておく
  3. 弁明の機会を設ける
  4. 懲戒解雇に相当する客観的合理性と社会的相当性を慎重に判断する
  5. 問題スタッフの解雇の可能性を残すなら、解雇以外の懲戒処分を避ける
  6. 退職金は一部支払わないといけないこともある

懲戒解雇に限らず解雇の問題全般、法的な問題が絡んで微妙な判断が不当解雇など大きな問題を招くことがあります。

必ず信頼できる社労士や弁護士に相談し、解決を図りましょう。

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この記事の執筆・監修はこの人!
プロフィール
亀井 隆弘

社労士法人テラス代表 社会保険労務士

広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。

                       

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