はじめに

昭和60(1985)年の医療法の一部改正により一人医師医療法人制度が創立されました。

それ以降、個人開業医の医療法人化が飛躍的に進み、現在では医療法人の約8割は一人医師医療法人で占められています。

一人医師医療法人は医師か歯科医師が常時1~2人しかいない医療法人ですから、いずれ事業承継の問題が出てきます。

実際に開業医の1/4は70歳以上と高齢化が進んでおり、事業承継の問題が表面化してきています。

そこで今回は医療法人のうち承継問題で大半を占める持分あり医療法人の事業承継についてお伝えします。

医療法人の事業承継

医療法人の事業承継は基本的に理事長の交代により行われるため、個人の開業医に比べて至ってシンプルです。

医療法人の理事や監事は社員総会によって選任され、理事長については業務の執行機関である理事会の互選により就任されます。

後継者は社員総会で理事に選任され、理事会により理事長に選任されるという流れになります。

出資持分の移転

医療法人の運営は理事長が行いますが、医療法人の実質的な所有者は出資者である社員です。

そして、医療法人の意思決定機関は社員総会になりますので、事業承継するためには後継者が社員になることも必要になります。

よって、退任する側の所有している出資持分の全部または一部を後継者に移転する必要があります。

出資持分の評価方法

持分あり医療法人の相続・承継で重要となる、出資持分の評価方法についてお伝えしていきます。

ただし、平成29(2017)年の税制改正に則ったものであり、今後変更になる可能性があります。

出資持分の評価方法の規模の判定

出資持分の評価方法は医療法人の規模によって異なり、基本的には以下の判定表のように判定していきます。

なお、医療法人については「サービス業」の一種と考えられ、「小売・サービス業」に該当するものとして区分していきます。

Lは斟酌率と呼ばれる数値で、評価計算の際に使われます。

出資持分の規模別評価方法

出資持分の評価方法は大きく分けて類似業種比準方式と純資産価額方式の2種類があります。

上の判定表で決められた会社規模により、類類似業種比準方式を用いるのか、純資産価額方式を用いるのか、併用なのかが決まります。

規模 出資持分の評価方法
大会社 原則として類似業種比準方式
中会社 類似業種比準方式と純資産価額方式の併用
【計算式】評価額=類似業種比準価額×L+純資産価額×(1-L)
小会社 原則として純資産価額方式

類似業種比準方式による計算方法

類似業種比準方式は主に大会社、中会社規模で用いられる計算方法です。

類似業種の上場会社と「配当」「利益」「純資産価額(簿価)」の3要素がどのくらい違うのか、類似業種の上場株の平均株価に反映させて評価します。類似業種の株価、配当、利益、純資産価額は国税庁が公表しています。

公表されている数値のうち、医療法人は上場できないので業種番号113「その他の産業」を用います。配当も禁止されているので、利益、純資産価額のみ比べることになります。

類似業種比準価額の計算式は次のようになります。

純資産価額による計算方法

純資産額とは、相続開始直近の法人の資産から負債を差し引いた額のことを言います。純資産額を持分の口数によって割り返し、持分1口当たりの評価額を出す方法です。

この際の資産・負債は帳簿上のものではなく、相続税評価額に直した額を用います。また、この資産・負債については帳簿上には記載がなくても、実際には存在する財産(借地権など)も計上する必要があります。

例えば理事長の土地に医療法人の建物を建て、「土地の無償返還に関する届出書」を提出しているような場合です。

この際、帳簿には借地権の記載はなくても、評価では財産として借地権(その土地の相続税評価の2割)を計上します。

そのため、帳簿にない財産や帳簿上の評価と相続税評価の違いによる増額などで、持分の評価が上がることがあるので注意が必要です。

純資産価額方式の計算方法は次の通りです。

なお、評価差額の法人税等相当額については、相続税評価額と帳簿価額による純資産価額の差額の37%相当額です。ただしマイナスになる場合は「0」で計算します。

出資持分評価の具体例

出資持分評価については上記のとおりですが、以下のように比較的多い従業員10人前後の医療法人について具体的な評価例を紹介したいと思います。

出資金 3,500万円
口数 3,500口⇒1口当たり10,000円
医業収益 1億4,000万円
課税所得金額 800万円
総資産額 2億円
負債総額 3,000万円
従業員数 10名
出資50円当たりの利益 11円
出資50円当たりの純資産価額 242円
類似業種の株価 276円
類似業種の1株50円当たりの利益 29円
類似業種の1株50円当たりの純資産価額 233円
L 0.6

類似業種比準方式による計算

この計算式に、上の表の値を代入していくと、1株当たりの類似業種比準価額は

よって、出資1口当たりの比準価額は115.90×(10,000円/50円)=23,180円……①

純資産価額方式による計算

上の計算式で、評価差額の法人税等相当額を0として計算すると、
(2億円-3,000万円)/3,500口=48,571円……②

出資持分評価額の計算

評価額=①類似業種比準価額×L+②純資産価額×(1-L)

この計算式に各々の値を代入すると、出資1口当たりの評価額は
23,180円×0.6+48,571×(1-0.6)=33,336円

つまり、出資持分の評価額は33,336円×3,500口=1億1,667万6千円

持分あり医療法人の出資持分対策

これまで出資持分評価の計算についてお伝えしましたが、次に持分あり医療法人の事業承継で重要な出資持分対策についてお伝えします。

出資持分の評価額は株式と異なり、右肩上がりで上昇しやすい傾向にあります。

医療法人は配当が禁止されており、税引き後の利益がそのまま内部留保を形成して相続税評価額に反映されてしまうためです。

そのため、多額の相続税負担が発生する可能性があるため出資持分の対策を検討していく必要があります。

出資持分評価減対策

出資持分評価額を減少させる方法のうち、一般的に行われているものを紹介していきます。

役員退職金の支給

医療法人化の大きなメリットの1つが、役員へ退職金を支払うことができることです。

退職金を支払うことで費用が計上されるため類似業種比準価額の減少が見込めます。

退職金規程などを整備し、その規程に従って退職金の支給を行う必要があります。

他に類似業種比準価額を減少させる方法としては、役員賞与を与えることや、生命保険の加入などがあります。

クリニックの建替え

将来後継者にクリニックを承継しても良いように、内外装をリニューアルしようと考えている先生も多いでしょう。

建物をリニューアルすることで、純資産価額の減少が見込めるので相続税対策にもなります。

事業規模の拡大

事業規模を拡大することで、出資持分評価時の医療法人の規模を拡大させ、相続税評価額の減少が見込めます。

MS法人の活用

MS法人による不動産賃貸、業務外注化により、医療法人本体の出資持分の評価を引き下げることが可能です。

MS法人は税金対策や業務の効率化などで活用されますが、消費税負担によって資金が流出するデメリットもあります。

消費税の増税によってMS法人設立のメリットが低くなることも考えられるので注意しましょう。

【関連記事】【3分でわかる】MS法人の活用方法とメリット&デメリット

相続時精算課税制度の適用

利益配当を禁止され、純資産額が上昇しやすい医療法人にとって、相続時精算課税制度の適用は有効な手段です。

相続税の計算時に今までの贈与財産と相続財産を合算した金額で相続税額を計算し、すでに納めた贈与税額を差し引いて相続税を納付する制度です。

生きているうちから相続税を支払う、相続税の前払いのような制度で将来値上がりが確実な資産を贈与する場合はメリットが大きくなります。

次表で、相続時精算課税制度の特徴と内容についてまとめます。

贈与税の計算方法 ・複数年での合計が2,500万円まで非課税
・2,500万円を超えた場合は一律20%の贈与税がかかる
贈与者の要件 ・60歳以上の父母または祖父母
・贈与者ごとに暦年課税との選択ができる。精算課税を選択すると暦年課税は適用されない
受贈者の要件 ・20歳以上の子、孫
相続時の計算方法 ・精算課税により取得した財産は、贈与時の価額で相続財産として評価される
・2,500万円の控除はないものとする
・支払った贈与税は相続税から控除される

持分あり医療法人から持分なし医療法人への移行

持分なし医療法人への移行は、解散時に法人内に蓄積された利益が戻ってこないという理由でなかなか進んでいないのが現状です。

しかし、後継者が確実にいて解散するリスクが低い場合、特に大規模な医療法人であれば検討しても良いでしょう。

持分なし医療法人に移行することにより、出資金の相続税評価額をゼロ(基金拠出型医療法人の場合は基金額が上限)にできます。

持分なし医療法人へ移行するには、出資者全員が出資持分を放棄する必要があります。

注意点は、放棄した際に消滅する出資者の権利に係る経済的利益に対して、医療法人を個人とみなして贈与税が課税される場合があることです。

ただし、次の場合は、医療法人に贈与税が課されません。

・社会保険診療、検診、助産等に係る収入金額が全収入金額の80%超
・自費患者に対する請求金額が社会保険診療報酬と同一基準
・医業収入が医業費用の150%以内
・病院、診療所の名称が医療連携体制を担うものとして医療計画に記載(または一定の病床数以上かつ差額ベッドの割合が30%以下)
・同族親族等関係者が役員等の総数の1/3以下

持分なし医療法人に移行する際は贈与税の負担の有無、負担があるならいくらなのか事前に確認しましょう。

出資額限度法人への移行

出資持分の対策は相続税や贈与税の対策だけではありません。近年は出資持分の払戻しに対するトラブルも増えています。

医療法人の出資持分には、払戻請求権と残余財産分配権の2つの権利があります。

払戻請求権 社員資格を喪失した者はその出資額に応じて払戻しを請求できる
残余財産分配権 本社団が解散した場合の残余財産は払込済出資額に応じて分配する

この2つの権利の行使に伴う払戻額を定款において当初出資額に制限する医療法人を出資額限度法人と言います。

定款変更により出資限度法人に移行する際には、出資者個人及び医療法人ともに課税関係は生じません。

医療法人の社員が退社時に出資持分の払戻しを請求した場合でも、払込額が多額になり医療法人の運営に支障をきたすことが防止できます。

ただし、社員が退社時に払戻請求権を行使して払戻しが行われた場合、残存する他の社員に対してみなし贈与課税が適用される可能性があります。

みなし贈与課税とは退社した社員等から残存する社員に対して持分の贈与があったとみなして贈与税を課すものです。

ただし、以下の4つの要件を満たすことで、原則として残存出資者に対する贈与税等は課税されないことになっています。

出資額要件 出資者の3人及びその者と特殊の関係を有する出資者の出資金額の合計額が出資総額の50%を超えていないこと
社員数要件 社員の3人及びその者と特殊の関係を有する社員の数が総社員数の50%を超えていないこと
役員数要件 役員のそれぞれに占める親族関係を有する者及びこれらと特殊な関係がある者の割合が1/3であることが定款で定められていること
特別利益供与要件 当該出資額限度法人の社員、役員またはこれらの親族等に対して特別な利益を与えると認められるものでないこと

 

【まとめ】相続・承継対策は早めに検討を

以上、持分のある医療法人(旧法)の事業承継対策について、出資持分の評価方法や対策についてお伝えしました。

利益配当が禁止されている医療法人は、出資持分の評価が年数に応じて上がりやすくなり傾向にあります。

出資持分に対する対策は、クリニックの規模によっても違ってきますから、早めに専門家に相談して適切な対策をしていきましょう。

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