はじめに

開業医の先生の場合、クリニックと自宅が別々の場所にあるだけでなく、同じ敷地内にクリニックと自宅が両方ある場合があります。

土地相続トラブルや悩みにいついても、自宅の場合と、クリニック(もしくは自宅兼クリニック)の場合両方あります。今回は各々のトラブル事例についてお伝えしたいと思います。

【事例1】自宅の土地相続:亡くなった息子の前妻と後妻で相続闘争に

まずは自宅の土地相続トラブル事例です。孫息子の誕生を機に息子さんに土地を受け継いだのですが、その息子さんが不幸にも急死します。

息子さんは離婚経験があり、前妻と後妻がいたのですが息子さんの死後、土地の取り分をめぐって相続闘争が起きました。

【事例詳細】高額を払って土地を買い戻すことに

開業医のA先生は自宅から車で20分ほどにある内科クリニックを経営する傍ら、先祖代々から続く土地のある場所に長く住んでいました。

A先生の息子Bさんは医師の道に進みませんでしたが、地方公務員として働いています。Bさんは比較的若い年齢で結婚し、孫息子も誕生しました。

「これでA家も安泰だ!」と喜んだA先生はBさんに先祖代々から続く土地を受け継がせることにしました。

しかし孫息子が誕生後に夫婦間が急速に冷め、しかもBさんの不倫が発覚して離婚することになりました。

離婚すれば通常財産分与を行いますが、これは結婚後夫婦で築き上げた財産に限られます。ですからA先生から受け継いだ土地については財産分与の対象になりません。

しかし、親権については通常母親が指定されることが多く、この場合も孫息子の親権は母親に指定されました。

その後Bさんは不倫相手と再婚しますが、3年後に心筋梗塞で突然死しました。突然死だったためBさんは遺言書を用意していませんでした。

その結果、Bさんが受け継いだ土地については、前妻の孫息子と後妻に相続されることになりました。

孫息子が受け継いでいるとはいえ、まだ幼いので事実上は前妻と後妻が受け継いでいるようなもの。

しかも後妻は離婚の原因となったBさんの不倫相手です。そういったお互いの感情もくすぐり、すぐに土地の取り分をめぐって相続闘争に発展します。

泥沼化しそうな状況なところに、ついに後妻が土地を売却すると言い出します。

「このままでは先祖代々受け継いできた土地が失われる……」そう感じたA先生は土地を取り戻したくなります。

しかし、すでに土地の相続はBさんの前妻と後妻に発生しているため、市場価格よりもはるかに高い金額で買い取らざるを得ませんでした。

【対策①】親が元気なうちは土地を持っておく

まず失敗だったことは早々とA先生が息子Bさんに早々と土地を譲ってしまったことです。

先祖代々から続く、それほど大事な土地であれば元気なうちは自分で守っていくべきでしょう。

3人に1人が離婚する時代に、息子が結婚して妻子を持ったからといっても全然安心材料になりません。

どうしても自分の手だけでは守りきれないようなら、専門家等の第三者や信頼できる親族に管理を任せることも必要でしょう。しかし、そのような場合でも所有権は親の元に残しておくべきです。

【対策②】遺言書を遺しておく

今回、A先生は早々とBさんに土地を譲ったこと自体が問題だったのですが、例え元気なうちは自分で管理するとしてもまだ不十分です。

どうしても先祖代々の土地を守り抜くのであれば、万が一のこともしっかり検討しておくべきです。

具体的には遺言書を遺しておくことです。Bさんは突然死なので遺言書を作成しておらず、土地の相続が前妻と後妻に発生してしまいました。しかも仲の悪い2人に。

このように承継先が思わぬ方向にいってしまうことは相続の場面では珍しくありません。

遺言書に定めておけば、このような事態になっても被相続人の意向で決めることができます。承継先を変更したいと思っても、被相続人の意向で遺言書を書き換えることもできます。

遺言書作成については、次の記事に詳しく掲載していますので、こちらも併せてご覧ください。

【関連記事】【開業医の遺産相続】遺言書の活用、こんなときどうする?

【対策③】判断能力が衰えた場合は信託

万が一A先生の判断能力が衰えた場合は、やむを得ず土地の管理を信頼できる親族や第三者に委ねることになります。つまり「信託」です。

高齢などによって判断能力が衰えると、税金対策や遺産分割対策などができなくなる恐れがあります。

今回のケースのような大事な土地のケースでもそうです。

信託を使えば、自分が生存しているときから死亡した後まで、自分の財産の管理・継承・処分について定めておくことができます。

そこで、判断能力があるうちに信託契約書を残しておくと良いでしょう。

信託契約書で定めておけば、土地の管理を委ねられた受託者は契約上の責任を負います。A先生が判断能力を失ったとしても、元気なうちに遺されていた意思に基づいて土地を管理し、老後の資金も確保できます。

また自分の死後も先祖代々の土地を守って欲しいと考えるなら「受益者連続型信託」の仕組みを活用しても良いでしょう。

これは次世代、次々世代の承継先を定めることができる仕組みです。二次相続、三次相続で特定の人に渡したい場合には、この仕組みは役立つでしょう。

【事例②】多額の相続税が発生して自宅兼クリニックを手放すことに!?

開業医の先生の場合、同じ敷地内にクリニックと自宅を併設していることも多いでしょう。

しかし、クリニックの相続税評価額が思いのほか高いことがあり、そうなると多額の相続税が発生することになります。

実際に相続税が高く承継がうまくいかないケースは増えてきています。最悪の場合納税資金を用意できなければ自宅もクリニックも手放し、経営と生活の基盤両方失うことになります。

【事例詳細】再開発の影響でクリニックのある土地が値上がりしてしまった

とある内科のクリニック院長のMさんは、医師の道に進んだ息子のNさんに将来自分のクリニックを継ごうと考えています。

M院長の自宅はクリニックと繋がっている二世帯住宅です。このクリニックの周辺は以前再開発が行われました。

そのおかげでクリニックは広告宣伝に頼らなくても、常に患者さんが絶えることがありませんでした。

これなら安心してNさんに承継できると考えていたM院長ですが、持っている資産をまとめていて驚きます。

再開発の影響でクリニックのある土地の路線価がかなり値上がりしていたのです。

しかもM院長はNさんに承継した後のことも考え、最新の医療機器を導入したり内外装をきれいにしたりして費用をかけていました。

ですから、クリニック内にもそんなにお金は入っていません。

このままでは相続税を支払うことができず、Nさんがクリニックと自宅両方手放してしまうことにならないか不安になってきました。

ところがいろいろネットを調べてみると、どうやらある特例を使えば相続税を大幅に減らせるかもしれないと気付き、M院長は安堵の表情を浮かべました。

【対策】小規模宅地等の特例の要件を満たせば相続税減の対象に

相続税が払えないばかりにクリニックを手放すことになるのか……。

しかしながら、相続税評価額が上がったばかりにクリニックを手放すような事態が相次いだら、そもそも地域の患者さんが困ります。

これは医科歯科クリニックに限った話ではなく、すべての小規模の事業用建物や住宅すべてにおいて同じことが言えます。

路線価が上がって先祖代々の家に住めなくなった、店舗を手放さないといけなくなったでは悲劇です。

相続税法もそのあたりは考慮していますが、それが「小規模宅地等の特例」と呼ばれるものです。

これは被相続人が自宅・店舗・事務所などとして使っていた宅地を取得する場合、宅地の価格を一定の面積までは最大80%減額して評価する制度です。

小規模宅地等の特例は計算上、相続財産を大幅に減らすことになるため、相続税額に大きく影響します。

適用要件をしっかりと把握し、相続対策に活用してください。

小規模宅地等の特例の詳細

平成27年1月1日以後、小規模宅地等の特例は次のようになっています。

相続開始の直前における宅地等の利用区分 要件 限度面積 相続税評価額の減額割合
被相続人等の居住の用に供されていた宅地等 特定居住用宅地等に該当する宅地等 330㎡(約100坪) 80%
被相続人等の事業の用に供されていた宅地等 特定同族会社事業用宅地等に該当する宅地等(一定の法人の事業の用に供されていたものに限る) 400㎡(約121坪) 80%
貸付事業用宅地等に該当する宅地等 200㎡(約60坪) 50%

※上記限度面積を超える部分に対応する評価は通常の評価額となります。

特定居住用宅地等の取得者別適用要件

取得者 取得者等ごとの要件
配偶者 同居・別居等を問わず無条件に適用可能
同居親族 相続開始のときから相続税の申告期限まで同居し、かつ、その宅地等を相続税の申告期限まで有している人
別居親族 配偶者や同居親族がいない場合で、かつ次の①から⑤までの要件を満たす人
①相続開始前3年以上賃貸住宅に居住していた人
②その宅地等を相続税の申告期限まで有していること
③相続開始のときに日本国内に住所を有していること、または、日本国籍を有していること
④相続開始3年以内にその宅地を取得した人、取得者の配偶者、取得者の3親等内の親族または取得者と特別の関係のある一定の法人が、所有する家屋に居住したことがないこと
⑤被相続人の死亡当時に居住している家を過去に所有したことがないこと

 

特定事業用宅地等の要件

(1)被相続人の事業用の宅地等で、その宅地等を相続した者が次の要件のすべてに該当する被相続人の親族であること。
①その宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を相続税の申告期限(10ヶ月以内)までに引き継いでいること
②相続税の申告期限までその事業を営んでいること
③その宅地等を相続税の申告期限まで有していること

(2)被相続人と生計を同じくしていた親族の事業用の宅地等で、その宅地等を相続した者が次の要件のすべてに該当する被相続人の親族であること
①相続開始の直前から相続税の申告期限までその事業を営んでいること
②その宅地等を相続税の申告期限まで有していること

貸付事業用宅地等の要件

(1)被相続人の事業(不動産貸付業、駐車場業および事業と称するに至らない不動産の貸付)の用に供されていた宅地等で、その宅地等を相続した者が次の要件のすべてに該当する被相続人の親族であること
①その宅地等に係る貸付業を相続税の申告期限までに引き継いでいること
②相続税の申告期限までその事業を営んでいること
③その宅地等を相続税の申告期限まで有していること

(2)被相続人と生計を同じくしていた親族の事業(不動産貸付業、駐車場業および事業と称するに至らない不動産の貸付)用の宅地等で、その宅地等の取得者が次の要件のすべてに該当する被相続人の親族であること
①宅地等に係る貸付業を相続開始前から相続税の申告期限まで営んでいること
②その宅地等を相続税の申告期限まで有していること

【まとめ】土地の相続問題も事前にしっかりした対策を

以上、土地相続トラブル事例を2つお送りしました。

どちらも最悪大事な土地を手放すことになるかもしれないという話でしたが、どちらもそのリスクは回避できます。

前者の先祖代々の土地については、院長先生がご健在のうちは自分で守って、遺言書や信託を活用すること。

後者の相続税評価額については、小規模宅地等の特例要件をしっかり把握すること。相続税を大きく節税できるかもしれない。

相続トラブルや悩みについては、必要な場合は税理士などの専門家の力を借りながらしっかりと対策を立てていきましょう。

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