はじめに

2019年4月より、働き方改革関連法の順次適用が開始されました。

その働き方改革関連法の目玉の一つとして「有給休暇義務化」があります。

その背景には、諸外国に比べ有給休暇の消化率が悪く、一方で労働生産性の低さが課題として挙げられています。

平成29年の年次有給休暇の取得率は51.1%と18年振りに5割を超えましたが、政府は2020年までに有給休暇の取得率70%を目標として設定しており、まだまだ乖離があるようです。

しかし、有給休暇制度そのものは、以前からあります。

それでは、クリニックにおいて「有給休暇義務化」で何が、どう変わるのでしょうか?

そもそも有給休暇とは?

それでは、まず有給休暇とはそもそも何かについて確認しておきましょう。

有給休暇とは、労働基準法(以下労基法)第39条で定められた労働者の権利であり、この権利を行使することで賃金が支払われる休暇を取得することができます。

法律上は、雇い入れた日から6ヵ月(6ヵ月継続勤務し、全労働日の8割以上の出勤している)時点で10日間付与されます。

その後1年毎に付与され、また増えていきます。

例えば、6ヵ月働くと10日。

1年6ヵ月働く11日、2年6ヵ月働くと12日、、、という具合です。

6年6ヵ月働くと20日の有給休暇を与える必要があり、それ以降は毎年20日の有給休暇を与えればよいことになっています。

有給休暇の時効は2年ですので、有給休暇は最長で40日付与されることになります。

また、有給休暇の付与は、正社員に限りません。

アルバイト・パートタイムなど雇用形態にかかわらず法令上の要件を満たせば付与される点に注意してください。

有給休暇付与の条件は2つ

先ほど簡単に説明しましたが、有給休暇の付与の条件は、
1)雇い入れの日から6ヶ月以上継続勤務していること
2)その期間中に8割以上出勤していること
となります。

よくある論点として、育児休業中の従業員の場合はどのように考えればいいでしょうか?

よくある誤解が、「育児休業は出勤していない=有給休暇付与の条件を満たさない」というもの。

有給休暇の出勤要件は、以下の期間については「出勤したもの」を法律で定められています。

  1. 業務上の負傷、疾病により療養のため休業した日
  2. 産前産後期間
  3. 育児・介護休業期間

ですので、育児休暇を取得したからという理由で、有給休暇を付与しないということがないように注意してください。

働き方改革の目玉-「有給休暇の取得義務化」とは何か?

さて、今回働き方改革で改正された「有給休暇の取得義務化」とは具体的にどんなものでしょうか?

端的に言いますと、これは

10日以上有給休暇が付与された労働者に対し、5日分について会社が有給休暇を取得させる義務を負う

という法改正です。

この法改正は、企業規模に関わらず2019年4月から適用されます。

より具体的には、2019年4月以降に付与された有給休暇が上記義務化の対象となります。

有給休暇取得義務化の対象はどこまで適用されるのか?

まず一番注意しなければならないのは、10日以上の有給休暇が付与された全ての従業員が対象となるということです。

有給休暇は、先ほどの説明のとおり、雇用形態にかかわらず、全ての従業員に付与されるものです。

ですので、今回の有給休暇取得義務化の対象は、条件を満たせば、正社員はもちろんのこと、契約社員、パート・アルバイトも対象になることに留意が必要です。

それでは、従来の有給休暇制度と何がどう違うのでしょうか?

雇用する側(医院側)が有給休暇を付与し、従業員が有給休暇を取得する、という有給休暇制度のそのものは従来までもありました。

それでは、有給休暇の取得義務化により、具体的に何がどう変わるのでしょうか?

働き方改革法による法改正以前は、従業員から有給休暇の申請があった場合、それを医院側が拒否することは違法であったものの、従業員から有給休暇申請がなければ、特に医院側が有給休暇を取得するよう、従業員に働きかける義務はありませんでした。

しかし、2019年4月1日以降は、「従業員から希望が出なかったので、有給休暇の取得実績はありません」ということが法的に許されなくなりました。

つまり、従業員から有給休暇取得の希望が出なかった場合であっても、業務命令を出して、強制的に有給休暇を取得させなければならない義務を医院側は負うことになったのです。

そして、この義務に違反した場合には、「30万以下の罰金」の罰則も適用されます。特にこれは、従業員ひとりにつき罰金30万円の罰金が科せられますので注意してください。

また、従業員が希望する日程に応じなかった場合も、6ヵ月以下の懲役、または罰金30万円が適用されます。

ケーススタディー:こんな場合はどうする?

以上が、有給休暇取得義務化についての概要となります。

とはいえ、クリニックでの実際の運用にあたり、色々と論点があると思いますので、その中から特に注意するべきポイントを解説します。

1:計画年休制度がある場合は?

今回の改正法により、有給休暇取得日指定の義務になる場合であっても、あらかじめ院内で計画年休制度により有給休暇を設定している場合は、その日数分は有給休暇取得日指定の義務の日数から差し引くことができます。

※ワンポイトメモ:計画年休制度とは?
ここで「計画年休制度」について簡単に説明しておきましょう。計画年休制度とは、年休(年次の有給休暇)の計画的付与であり、GWや年末年始を大型連休にする場合など、あらかじめ指定した労働日を年休に充てるという制度です。

労基法39条6項では、

労働者と使用者による労使協定の締結を条件とし、付与された年休のうち5日は労働者が自由に使うために残しておく必要がありますが、5日を超える日数については年休取得の時季指定(計画的付与)をすることが可能

と定めています。

2:計画年休と育休が重なる場合は?

計画年休期間と育休が重なる場合はどうなるのでしょうか?

この場合、結論として“育休の申出が先か”、“年休の時季指定が先か”がポイントになります。

つまり、育休を先に申請していた場合は、育休の取得が計画年休に優先します。したがって、この場合、計画的付与の余地はありませんので、年休は消化されずにそのまま残ります。

逆に、計画年休が先に指定されていた場合、計画年休の付与が育休取得に優先します。この場合は、年休が消化され、その日数分の賃金支払い義務が生じます。

ただし、年休の計画的付与の対象者は、

特別の事情により年休の付与日があらかじめ定められることが適当でない労働者については、年休の計画的付与の対象から除外することも含め、十分労使関係者が考慮するよう指導

と定めています。

ですので、“育休の申出が先か”、“年休の時季指定が先か”という原則論で考えると複雑になりますので、基本的には育休対象者は計画的付与から除外するのが望ましいでしょう。

3:従業員からの請求により有給休暇を消化している場合は?
例えば、従業員から請求により、すでに有給休暇を3日消化済みだった場合はどうすればいいのでしょうか?

この場合は、あと2日有給休暇取得日を医院側で指定すれば問題ありません。

有給休暇義務化の実際の流れ

それでは最後に、実際に有給休暇義務化のルールをどのように運用していけばいいか考えていきましょう。

今まで通り、従業員の有給休暇取得の申請を「受け身」で対応しているだけでは、結局今まで通り有給休暇を取得(消化)しないままだったというケースが想定されます。(その場合は罰金の科せられてしまいます)

そこで、とるべき対応方法は以下2つが考えられます。

1)計画年休制度方式
2)個別指定方式

まず1)の計画年休制度から見ていきましょう。

計画年休制度は、先ほどお話した通り、会社が従業員代表との労使協定により、各従業員の有給休暇のうち5日を超える部分について、指定した労働日を年休に充てるという制度です。

院内で有給消化が年5日未満の従業員が多数を占める(有給取得率が低い)ケースでは、一括してルールを設定し有給休暇を消化する、計画年休制度による対応が適しているといえるでしょう。

計画年休制度の具体例として、以下のようにものあげられます。ぜひ参考にしてみて下さい。

例)夏季及び年末年始に有給休暇を付与する

夏季及び年末年始に休暇を設ける医院は少なくありません。この場合、夏季休暇及び年末年始休暇と有給休暇を組み合わせることにより、長期連休にすることができます。

例)飛び石連休の間に有給休暇を付与する

平日を挟んで休日が並ぶ「飛び石連休」の間に有給を設けることも効果的です。休日の並び方や有給休暇の取り方によっては、4日~10日程度の長期休暇を設定することができるので、従業員にとってもメリットが大きく、有給休暇の消化にもつながります。

例)アニバーサリー休暇制度を導入し付与する

アニバーサリー休暇制度とは、社員の誕生日や結婚記念日、家族の誕生日を休暇とする制度です。社員の誕生日や記念日を含む連続3日~4日をアニバーサリー休暇とし、社員の有給取得を促します。

次に、2)の個別指定方式ですが、この方式は従業員ごとに消化日数が5日以上になっているかをチェックし、5日未満になってしまいそうな従業員について、会社が有給休暇取得日を個別に指定する方法です。

医院側と従業員が個別に話し合いをして、有給休暇の取得の指定日を決めればよいので、双方は柔軟に納得いく形で決めることができるのがメリットです。

その反面、個別の従業員ごとに管理の手間がかかることがデメリットになります。

まとめ

今回は、働き方改革法の目玉の一つである「有給休暇義務化」について解説しました。

今回の法改正のポイントは、有給休暇の取得は「雇用する側の義務」であり、その義務を怠ると罰則(30万以下の罰金)が適用されることです。

とはいえ、法改正があったからといって、普段の業務量に変化があるわけではありません。

従来どおり、医院側が何の対策も取らずに従業員任せにしていても、業務量は変わらないし、休みを取れるタイミングがなく、結局取得できないという状況に陥ってしまいます。

「計画的付与」で従業員に有給休暇を取得させる制度を作るのも一つの方法です。

また、院内全体で「有給休暇を取りやすい雰囲気」を醸成していくのも必要となるでしょう。

ある統計によると、現在6割ほどの企業が有給休暇取得推進のための取り組みがあるそうです。
今回の働き方改革法の法改正を契機に、今後この流れが加速するものと思われます。

ぜひ、今回の記事も参考に、「有給休暇義務化」への対応を検討してみてください。

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