クリニック・医院の現状と財務・経営戦略【総論】

公開日:2019年8月7日
更新日:2024年3月18日

はじめに

今後日本は超高齢化社会を向かえます。現在は65歳以上の高齢者の人口が30%弱となっていますが2050年ごろにはその割合が40%弱程度になるともいわれています。それだけでなく子どもや若者などの若年人口はどんどん減っています。

実は平成初期の1990年ごろから若者の人口は減っていました。これからはその1990年前後の方が結婚・出産などをしていく世代の中心になります。基となる親世代の人口が少なくなっているのですから若者の人口がますます減っていくことは避けることができません。

そこに高齢者がどんどん増えていきます。これからの日本を担う若者や中堅世代の人口と高齢者の人口比がどんどん縮まっていくわけですから経済などを含めたいろんな面で厳しくなっていくことは容易に想像できます。

特に高齢者が多くなっていくと医療費は増えていきます。今までは負担の少なかった高齢者の方も保険診療で2割・3割は当たり前の時代になります。国の負担していく医療費の額も増えていくことが予想されます。

クリニック・医院の経営戦略


クリニックの場合は脳神経外科・内科・神経内科・整形外科・美容外科・眼科・耳鼻咽喉科・胃腸科・整形外科・産婦人科・歯科など様々な専門の科があります。またクリニックの場所・診療実績などによっても経営面で視界良好なクリニックもあればそうでないクリニックも多くあるものと思われます。

クリニック経営において確実なところは2つあるかなと思われます。1つは高齢化社会によって診療報酬の点数の減少があることそしてもう1つは都市部のクリニック経営は苦戦する可能性が高いということです。

診療報酬の点数の減少は病院にとっての直接の収入を失うことになります。多くのクリニックで患者さん1人あたりの単価が下がります。患者さんの増加によってカバーできるところもありますが仕事自体は忙しくなります。医師や看護師の負担は増えていきますので難しい問題になります。クリニックの医師は開業医であって院長を兼ねていることも多いので経営面と診療を両方行っていくことにもなりますのでさらなる難しい問題にもなってきます。

都市部のクリニック経営は苦戦する可能性が高いということも挙げられます。都市部には病院だけでなく多くのクリニックがあります。私も含めて都市部に在住している方には選択肢が増えるのでとても予言うことなのですが経営するクリニック側にとっては競合が次々に来るのでたまったものではありません。

都市部の新設クリニックの5院に1院程度は3・4年で経営難によって閉院してしまう可能性が高いということです。都市部のクリニック新設には土地や建物などの不動産、看護師や事務員などの医療スタッフ、診察や手術をするための器具などが必要になります。都市部でクリニック経営をするには最低でも数千万円はかかってきます。その費用は借金で賄うことはできますがいずれは病院経営を軌道に乗せて収入や収益を上げていくという形を取っていかないといけません。できなければ閉院・廃業という形になります。

ただ都市部の多くの地域はクリニックが乱立しています。競合という競合がほとんどの地域にはあります。そこから患者を取り返さないとクリニックとしての経営が成り立たないということになります。また都市部で生き残っているクリニックは医師や看護師なども丁寧な対応をするところが多くあります。魅力的なクリニックが多くあるのも事実です。その中でクリニック経営をして勝ち抜くことが求められます。簡単なことではありません。

この点地方ではまだクリニック経営で勝ち抜ける可能性があります。潜在的な患者数は都市部ほどではありません。ただクリニックにかかる可能性の高い高齢者の方と競合を比較した時に圧倒的に地方の方がその割合が有利になります。クリニック経営をしやすいということになります。

また地方の病院はまだ旧態依然のところも多く医師の態度が大きくても患者さんが従っているなどのところもあります。そのような面でしっかりとした患者対応をしていくことで地域の病院から患者を取り返せるもしくは新規の患者さんを確保できる条件もそろっています。クリニック経営をするのであれば実は地方は有利な面が多いのです。

あと、クリニック経営は科によっても有利不利が出てきます。産婦人科・小児科などは今後クリニックが減少していく方向にあります。内科も志す医師の数が減っているようであまりクリニックを増やせない実情などもあるようです。また眼科などは小さい施設で行うことができ手術が多くなりますので比較的収益が高くなります。美容整形外科も自由診療で、クリニック自身で価格を決めることができますのでこれらの科は比較的経営をしていく上では有利な科になってきます。

反面競合が多く参入がしやすい内科・整形外科・歯科などはクリニックも過多傾向で今後も大きな収益を伸ばしにくい状況があります。内科は診療報酬の点数の減少や入院ベッド数の問題、整形外科はリハビリ施設の問題、歯科はそもそも論としてコンビニよりもはるかに多い数の競合が問題になっています。歯科医の3分の1程度は新人・若手社員クラスの年収しかないという状況にもなっています。歯科はクリニック経営を行う以前の問題かもしれません。解説医院よりも閉院の方が多いのではないかというくらいの危惧さえ出てきます。

とにかくクリニックの経営戦略は地域・科によって大きく異なりますので一般論が通じない状況ともいえます。

クリニック・医院の収入

医院の収入


クリニックの収入は患者数×客単価に診療報酬の点数が比例してきます。後期高齢者の数が多いということは診療報酬・保険収入に頼る部分が大きくなります。この部分は今後も下げていくのではないかと思われますので安心はできません。さらに眼科は後期高齢者の患者の方が多いのでこの面でも影響を受ける可能性は少なからず出てくるのではないかと思われます。

クリニックの場合は平均しての患者数を50人・客単価が5500円程度になっています。そうなってくるとクリニックに入ってくる1年の収入は7260万円程度になります。この数字は診療しているクリニックの科や地域によっても異なります。一般に地方の方が収入や収益は高くなります。また自由診療の多い美容整形外科・眼科・競合の少ない産婦人科などは収入面では高めになってきます。

ただ参入障壁が低く競合の多い内科・整形外科・歯科などでは収入が取りにくくなっています。収入が取りにくいということは収益も取りにくく経営面では苦戦をしてしまう傾向になります。

また都市部のクリニックは競合が多くなるので新設医院などは収入が思ったほどいかないというケースも多く出てきます。

クリニック・医院の経費

医院の経費


今までは収益の面でみてきました。今度は医療スタッフや設備などのコストの面を考えていきます。

まずクリニックを経営するとなると建物が必要になります。建物を買うか・借りるか。またその費用を一発現金で払うか・ローンで払うかという問題が出てきます。そこで購入・一発現金以外の場合は毎月の建物のローンが発生します。このローンの額は地方・都市部。駅近く・郊外などによってかなりのばらつきが出ます。おそらく最低でも月20万円・都心部などの高いところでは80万円クラスの規模になってもおかしくはありません。

また人員面でも少なくても医師と看護師の確保などが必要になります。また眼科や整形外科などになると視能訓練士や理学療法士などの医療スタッフが必要になることもあります。このスタッフを常勤で雇用したら1人あたり年間で400万円から500万円はかかります。

事務員さんなどは奥さんや身内の方に手伝ってもらうことも可能ですがそれでも多少の人件費はかかってしまいます。いずれにしても固定費もそう簡単には減らせません。この収入が減る・固定費が変わらないというところが病院・診療所経営の難しいところでもあります。

建物・器具・人件費などででコストは初年度には数千万円程度かかると思われます。眼科などでは特に検査器具などに費用が掛かるようです。購入にするかリースにするかは考えていく必要があります。お金の少ない時点ではリースを選んでリースの償還が終了して経営が順調に進んだ時点で買い替えという道を選ぶのも1つの道かなと考えています。

収益=収入ーコストで計算できます。前年度の収入が年間7500万円・固定費などのコストが5500万円であれば2000万円程度が手元に残ります。

ただこれからのクリニック経営も診療報酬の点数の減少やスタッフの方の昇給や新たな求人費用などもかかります。器具代などのリース費などはどんどん減っていく方向にあるのですがそれでもコストもかかってきます。

数年後に収入が7200万円、コストが5600万円だとクリニックの収益は1600万円程度になります。今後のクリニック経営は厳しくなっていくことも予想されます。

ただ科や開業する地域などによっても異なるところがあります。一般に都市部・内科・整形外科・歯科などで開業していきたいというのであれば厳しいかもしれません。ただ都市部でも美容整形外科であればチャンスはあるかなという気がします。逆に地方都市・産婦人科・小児科・眼科などで開業していけばチャンスは多くなるかなという気がします。

ただこれも一般論であって必ずしも多くの人に当てはまるかどうかまではいえません。開業・経営自体は自分の城・パターンを作らなければいけないので万人に当てはまるものはないのかもしれません。

これからのクリニック医院・経営に大事なこと

医院経営で大事なこと


これからのクリニック経営にとって重要なことはまずはしっかりとした開業戦略を立てることが重要になります。競合をしっかりと調査することさらに開業する科を選定していく必要があります。

さらに収入とコストといった数字を知ることも重要になります。1日何人を診療すれば1か月・1年でどの程度の収入が見込めるか、建物代・施設設備費・人件費もかかります。ローンにするのかキャッシュにするのか。購入にするのか・リースにしていくのかなども大事になります。

このあたりのことを開業時にしっかりとしておく必要があります。

あとは診療時の患者さんへの対応をしっかりとしてしなければなりません。医師は特にこの面が弱点な方が多いです。看護師の方がサポートをしているところもありますが医師の言葉は重いですのでしっかちとこの辺りを行うことは重要になります。そこから口コミが広がって良い・悪いを判断されてしまう時代になります。数年で何倍も患者数が変わることもあります。ここをしっかりと行えるどうかでクリニック経営がうまくいくかの分かれ目にもなります。しっかりとした対応を取っていけるようにしましょう。

医者にとって重要なのが手術を含めた治療技術です。経営ができても対応が良くても医師本来の治療技術がないと安定して患者はきません。脳血管手術・がんの除去手術・レーシック・白内障手術・美容整形手術などの技術的なところも大事になります。手術次第では現状以上に悪化してしまってクレームものになることもあります。医師に手術は基本的につきものになってくるので手術の腕も大事になってきます。

開業医になってクリニック経営を軌道に乗せていくことは決して簡単なものではありません。ただ開業戦略をしっかりと立てていくことでクリニック経営にも勝ち抜ける方法はあります。クリニック設立・経営の専門家に誰を選ぶかも重要になりますのでこの辺りは注意をしましょう。

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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