Contents
はじめに
開業しても失敗すれば多額の借金を背負い、挙句の果てに自己破産します。
少子高齢化に伴い、医療サービスのニーズは高まっていますが油断はできません。
都市部の人気エリアを中心に医院・クリニックの競争は徐々に激しくなっており、医院経営において集患・増患対策は欠かせません。
特にコンビニより多いとされている歯科医院はその傾向は強いでしょう。
せっかく開業した医院の経営が苦しくなったり、借金地獄、挙げ句の果てに自己破産…。
今回は、そんな失敗事例を紹介していきたいと思います。
医院の集患に苦しむケース
冒頭でもお話したとおり、都市部の人気エリアを中心に競争が激しくなっており、開業すれば勝手に患者さんがやってくるわけではありません。
自分は医師だからなんとなかなるという思いを持ち、一般の経営者と比較して集客(集患)に対する意識の低い開業医の先生は多いと思います。
実際にあった首都圏の開業医の先生の例です。
開業して3年目とのことですが、1日の患者数が20人そこそこ。
非常に厳しい経営なのは想像できます。
なぜ、その開業医の先生が集患数に悩んでいるのか。
1つめ、駅から歩いて数分の好立地条件にも関わらず、目立った看板などがなく、どこにあるのかわかりませんでした。
ようやく見つけたのは、マッサージ店や不動産屋さんと同居したビルの2階。
しかも1階にはクリニックの名称と電話番号が欠かれた小さな名札、そしてビルの2階を見上げると、窓にクリニックの名称。
それだけなので、実際にクリニックのあるビルに到着しても、気付かないくらいです。
2つめ、診療所の待合室に入ってみると、受付スタッフの対応に驚かされました。
患者として訪問したわけではないとはいえ、対応が無愛想そのもので、他の患者さんがいないからといって、目の前で爪を切り出しました。
とてもスタッフ教育が行き届いているとは思えない実情が見えてきました。
また、待合室も古い雑誌などが雑然と並んでいるだけで、お世辞にもきれいとは言えません。開業して3年の割には、とてもくたびれている印象。
確認したら、内装は業者にパーティションのみ依頼し、机や椅子は中古。
このあたりを、実際に開業医の先生に指摘してみると、「お金に余裕がない」とのことなので、お金をかけない方法を提案しました。
具体的には、スタッフさんに院内を掃除してもらうとか、立地が良いのですから、手作りのチラシを駅前の商店街に撒いてくるとか。
すると、今度は「営業なんて苦手」「スタッフには言いにくい」と言います。
つまり、言い訳ばかり繰り返しているわけです。
これでは、集患だけではなく、リピートも当然してもらえません。
医院・クリニックの患者さんは、一度来院したら、なかなか医院を変えない傾向にありますが、さすがにこれでは医院を変えられても仕方ありません。
この医院は立地条件も良く、開業医の先生のスキルも高いのですが、それを活かしたマーケティング、スタッフ教育に力を入れていないのです。
立地条件や開業医の先生のスキルは、とても重要な要素ですが、これは開業前に十分検討すべきこと。
開業後に重要となってくるのが、今度はマーケティングとスタッフ教育です。
立地条件や医師としてのスキルは、開業したらなかなか変えるのは難しいところ。しかし、マーケティングやスタッフ教育は、開業後でも十分変えられます。
この開業医の先生の救いとなる点は、この十分変えられる点で改善の余地があり、立地条件などは良かったことです。
手遅れになる前に早く改善して、経営を立て直していってほしいところです。
コミュニケーション能力の欠けた医師のケース
スタッフ教育の話で思い出したケースがあります。
とある小児科で開業した先生のケースです。細い小道に入る見つけにくさはありましたが、駅から徒歩5分と、さほど立地条件は悪くありません。
さらに小児科の開業医の先生も、医師としての経験やスキルも十分でした。
しかし、この先生は致命的な欠点が1つありました。
それがコミュニケーション能力の欠如です。
この先生は、小児科クリニックにも関わらず、子どもには無愛想。
しかも診療時間中、患者であるお子さんや一緒にいるママさんがいる前で、スタッフを怒鳴りつけてしまいます。
それを見たママさんはどう思うか。当然「こんな病院行きたくない」と思ってしまいます。
ママさんたちは一度お子さんを持つと、価値観をお子さんに合わせるようになります。
つまり、お子さんに対して無愛想な態度を取られると、まるで自分が愛想なく対応された気がしてしまうのです。
しかも、これまた失礼な言い方ですが、この開業医の先生の無愛想ぶりは目に余るほどでした。
小児科の先生なのに、子どもが嫌いなんじゃないかと思うほどだったということです。
小児科のターゲットは、小さなお子さんがいるママさんです。
女性は特に口コミで評判が広がりやすいというのは、マーケティングではよく知られている話。
このママさんを敵に回してしまったものですから、どんどん悪い噂が口コミで広がってしまいました。
この小児科の先生は、開業資金をかけすぎたのもあり、借金地獄に苦しみ、自己破産に陥りました。
一般の経営者と同じように、患者さんやスタッフを大事にできない開業医の先生は、ことごとく潰れていきます。
開業資金を注ぎ込んでしまった医院のケース
医院・クリニックの開業資金については、開業前に十分検討すべきテーマですが、そもそも、この開業資金を誤ったケースも多いです。
先ほどの自己破産した小児科クリニックの例では、開業資金は7,000万円とのことでしたが、これは小児科医としてはかけすぎです。
また、交通量もまばらな田園風景が広がる田舎に、2億円の開業資金をかけ、巨大なクリニックを建てたケースもあります。
このケースでも、負債が膨らみ借金地獄から抜け出せず、銀行から融資が打ち切られてしまったとのこと。結局、そのクリニックも自己破産してしまいました。
最新のグレードの高い医療機器を揃えるために開業資金を多くかけたいと思う気持ちもわかるのですが、これも条件次第です。
例えばMRIを導入するにしても、差別化が必要な地域での開業でしたら、グレードの高いものを買う必要もあるでしょう。
しかし、競合の低い、MRIの適用となる患者数も少ない地域であればMRIにお金をかける必要はなくなります。
このように、地域のニーズによって戦略は当然変わってきます。
先の田舎に2億円の開業資金をかけた先生はニーズを考えず、とにかく医療機器メーカーの勧めるまま巨額の投資をしてしまいました。
このような失敗を防ぐために事業計画書をしっかり作成し、開業資金を算出していくようにしましょう。
事業計画書の作成は、基本的には税理士や金融機関、医療関連業者などが作成できます。
開業医の先生は売上予想、何人スタッフを雇うのか、医療機器がいくらになるのかなどのイメージをします。
開業前にしっかりと医院の未来を予想し、地域のニーズに合った医院を開業するようにしましょう。
開業直後から浪費をする医師のケース
医師、特に開業医の先生のなかには、年収2,000万円以上の方が多く、4,000~5,000万円を超えるくらいの先生も珍しくありません。
また開業医の先生は、勤務医と違って損害賠償保険や退職金の積立などが天引きされるようなことはなく、自己責任になります。
自己責任ということは、医療法人化していなければ収入がまるまる自分で使えるわけです。
しかし、それだけに浪費癖の多い開業医の先生もいます。
いくらお金があっても、浪費してしまってはお金は貯まりません。
芸能人やスポーツ選手で浪費がもとで借金地獄に陥り、自己破産に陥った話は昔からよく聞く話です。
これは開業医の先生にも同じことが言えます。
特に開業直後は、いきなり派手に豪遊したり外車を乗り回すのは避けたいところです。
ある美容整形外科クリニックを開業した先生の話です。
美容整形というと、年収の高い開業医の先生のなかでも特に高年収が期待できそうです。
この先生も、先に開業した先生が大成功している話を聞いて、開業を決意します。
おそらく、この先生は開業後、とても儲かっている自分の医院の様子をありありイメージしてワクワクしていたのかもしれません。
この先生も開業時は、かけすぎといえる8,000万円もの開業資金を注ぎ込みます。
しかも、何を思ったか開業記念として2,000万円もするポルシェを買ってしまいます。
しかし、美容整形の業界は、じつはかなり競争の激しい世界で大手のクリニックが莫大な広告宣伝費をかけています。
そう言った事情もあり、思うように集患することができませんでした。
結局借金地獄、そして自己破産という、最初に夢に描いていた形とは真逆の悲惨な末路をたどることに。
儲かるイメージのする職業は、誰でも憧れます。
誰もが憧れるから、じつはレッドオーシャンだったりする。
これは医療業界に限った話ではありません。
さて、この自己破産したクリニックの先生は、いろいろ大きな戦略的な問題はありますが、今回はポルシェを買ったタイミングに注目します。
この開業医の先生がポルシェを買ったのは開業時です。
もちろん医師ですから、開業直後でも、そこそこのお金はあったのでしょう。
しかし、それでも開業時に車、しかも一軒家が買えるほどの車を買うのは間違いです。
一般の経営者・起業家に当てはめて考えてみてください。
会社を辞め、退職金とこれまでの貯金をあてに起業したばかりの人が、いきなりポルシェなんて買うでしょうか。
当然そんなことはしません。
起業直後は収入が安定するとは限らないので、それを切り崩すことも必要になるので、浪費は禁物です。
収入が安定してから、徐々に自分の好きなことにお金を使うようになってくるはずです。
これは開業医の先生でも一緒です。
最初は集患がうまくいくとは限りません。しかも競争が激しい美容整形であればなおさらです。
開業したら、自分のお金をあてにするわけですから、運転資金をできるだけプールしておくことが必要です。
また、開業して売上が安定してきてからポルシェのような高級車を買ったほうが税務の面でも有利です。
医院の名義でポルシェを買う場合、合理的な理由があれば、そのうちのいくらかは経費とすることができ、節税対策になります。
さらに医療法人化すれば、100%経費としてポルシェを購入することも可能になるでしょう。
赤字の繰越も当然可能ですが、個人開業の医院の場合は3年が限度です。(医療法人の場合は10年)
そもそも開業直後に浪費して、3年どころか1年もたずに自己破産するケースも多いです。節税対策以前の問題です。
まとめ
以上、このように、借金地獄や自己破産に陥ってしまう医院の特徴としては、次のようなことが挙げられます。
・開業資金をかけすぎている、立地条件が悪い、医師のスキルが未熟など、そもそも開業前の計画の時点で間違っている。
・立地条件、医師のスキルは良いのに、集患対策を怠っている。
・スタッフとの人間関係が悪く、医院全体のモチベーションが低い。診療時間中にスタッフを怒鳴り散らす先生も……
・患者に対して愛想が悪い。
・浪費家で、開業直後からお金を使い込んでしまう。
開業医はたしかに勤務医に比べると高収入が見込めます。
しかし、一般のサラリーマンと自営業・経営者の違いと同様、
開業医の増加に従い、集患・増患対策の必要性が年々高まっています。
医師が院長1人の場合、労働時間と売上が直結、院長が病気になれば収益が出ません。
少なくとも、昔ほど開業すれば儲かるという時代ではなくなっているようです。
今回の借金地獄、自己破産に陥った開業医の先生の事例を反面教師とし、医院経営の参考にしていただきたいと思います。
ご相談・お問い合わせ

- 笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢42人(R2年4月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。
こちらの記事を読んだあなたへのオススメ
