はじめに

銀行にお金を預けてもお金が殖えない状況が続いています。

勤務医の先生方から資産運用や家計の相談を受けて、資産状況をお聞きすると、生命保険会社が提供している「ドル建て終身保険」に加入している方が増えている印象です。

月5万円、多い方は10万円以上支払っている方もいます。

「なぜドル建て保険に加入されたのですか?」と尋ねると、

「銀行に貯金していても殖えないし貯金を兼ねて」と答える方が多いですが、

貯金や資産運用はドル建て保険以外にも方法はあります。

今回は、ドル建て終身保険に加入をする前に、知っておきたい貯蓄の考え方について解説します。

お金を貯めるにはどのような手段があるのでしょう?

日頃当たり前のように貯蓄をされている方も多いと思います。

お金を貯める方法にはどのような手段があるのでしょうか。

(お金を貯める商品・仕組み)
・銀行預金(普通・定期)
・財形貯蓄
・生命保険(終身保険・養老保険・学資保険・個人年金保険等)
・確定拠出年金(個人型・企業型)
・資産運用商品(株・投資信託・債権・仮想通貨・FX・金等)
・タンス預金

ご相談者の資産状況をお聞きすると、銀行預金・生命保険などを利用している方が多いようです。

一方で、最近は個人型確定拠出年金(iDeCo)や積立NISA(投資信託)を国が積極的に宣伝をしている背景から、興味をもつ方が増えています。

これらの貯蓄手段を効果的に活用するためには、「貯蓄の目標」を考える必要があります。

何のためにお金を貯めるのか?目的と利用時期の整理

お金を貯めるということはどの年代でも大切ですが、何のために貯蓄をするのでしょうか?

(貯蓄目標例)
・とりあえず何かあった時の生活費として
・車・旅行を始めとする趣味や余暇などのお金
・結婚式に備えて
・住宅購入費用
・子供の教育資金
・年金が不安だからとりあえず など

代表的な項目を列挙させていただきましたが、

これ以外にも様々な目的があると思います。

次にこの目標を3つの資金と時間で分けていきます。

(3つの資金と時間の考え方)
①短期資金:日々生活に必要な資金
②中期資金:10年から15年先に必要な資金
③長期資金:15年以上先に必要な資金

(① 短期資金:日々生活に必要な資金)

短期資金は日々生活する為に必要な資金、例えば食費・光熱費・雑費・教育費・住居費など毎月必ず必要な資金を意味します。

これらの資金はいつでも引き出せるように、銀行や郵便局などの預金を利用するといいでしょう。

短期資金の目標貯蓄額ですが、毎月必ず必要な費用の最低6ヵ月分から12ヵ月分が引き出しやすい銀行・郵便局の預金にあると安心です。

(例)
・月の生活費(住居費・教育費等含)50万×12カ月=600万

(② 中期資金:10年から15年先に必要な資金)

中期資金は今すぐ必要ないけど近い将来使う予定がある資金、

例えば車の購入費用・子供の教育資金(高校・大学)・住居の繰り上げ返済・記念旅行など。

積立期間として10年から15年ぐらい確保できます。

この場合、銀行預金で貯蓄をしてもいいでしょう。

しかし、債権や生命保険、例えば学資保険などの商品を利用して、銀行預金よりは運用利回りの高い商品で資産形成していくのも一つの選択肢です。

(③ 長期資金:15年以上先に必要な資金)

長期資金は15年以上先の資金で主に老後資金などになります。

長期資金の場合、積立期間が15年以上ありますので、銀行預金の低金利に預けるのではなく資産運用の要素を取り入れた商品を選択したいところです。

例えば、投資信託(積立NISA)・確定拠出年金(iDeCo)・生命保険(変額保険・ドル建て保険)などの商品が該当します。

このように、お金をいつ使うのか?何の目的で貯蓄するのか?

という視点で整理すると、どのような貯蓄手段を選ぶべきか選択しやすくなります。

ここまで「お金を貯める手段」と「目的と時間」の関係を解説してきました。

次項からは、ドル建て終身保険や国が推奨する個人型確定拠出年金(iDeCo)と積立NISAの特徴を具体的にみていきましょう。

多くの勤務医が加入しているドル建て終身保険の特徴は?

ドル建て終身保険は、外貨建て終身保険の一つで、主に外資系の生命保険会社が提供している外貨で保険料を支払う保険です。

外貨には米ドル・豪ドル・ユーロなどいくつかの外貨より選択することが可能です。

しかし、米ドル利用が中心で日本円より高い返戻率をうたい文句に人気のある商品です。

終身保険には解約返戻金という、解約するとお金が戻ってくる仕組みがあります。

この解約返戻金を貯金代わりとして、保険の営業マンがセールスをしています。

そのため、ドル建て保険=貯蓄保険として周知されています。

実際のドル建て終身保険と日本円の終身保険を比較してみましょう。

某保険会社設計例日本円終身保険ドル建て終身保険
保険料28,910円17,995円
保障額1000万1009万
保険料総支払額8,673,0005,398,562
60歳時点の解約返戻金8,008,0005,589,702
返戻率92.33% 103.54%

※35歳男性60歳払込 保障額1000万で比較
※1$:113.47円で試算
※2018年12月時点

上記の比較表をみてもわかるように、日本円の終身保険に比べ安い保険料で保障を確保できることができます。

返戻率も日本円と比較すると10%近く高いことから、保障と貯蓄を備えた商品として広く利用されています。

ただし外貨建て保険は為替の影響を受けます。

そのため、返礼率や保障額も為替リスクがあることを前提に利用することが大切です。

貯蓄を兼ねながら死亡保障を確保できるのは生命保険最大の特徴です。

生命保険としての保障が必要な方は、このようなドル建て保険を利用するのもお勧めです。

保障の必要がない方は、その他の選択肢として個人型確定拠出年金(iDeCo)や積立NISAなども併せて検討し、ご自身の目的にあっているか確認してみましょう。

節税を考えるなら個人型確定拠出年金(iDeCo)

前述の生命保険には生命保険料控除という控除枠があります。

そのため、生命保険に加入すると節税効果も期待できますが、生命保険料控除以上に節税効果が高いのが個人型確定拠出年金(iDeCo)です。

個人型確定拠出年金(iDeCo)は銀行や証券会社などで申し込みができる、国の年金制度の一つです。

自身で積立金額を設定し「元本保証」「リスク性商品(主に投資信託)」の商品が用意されていますので、自身で配分を設定し60歳迄積立をすることができます。

【確定拠出年金の拠出額(積立金)】

利用できる拠出額はご自身が勤めている会社の制度に関係しますので、事前に確認するようにしましょう。

個人型確定拠出年金(iDeCo)のメリットは下記の通りです。
① 拠出金(積立金)は所得税・住民税が非課税
② 運用益非課税
③ 確定拠出年金受け取り時、一時金の場合は退職所得控除扱い。
年金受け取りの場合公的年金の控除の対象

税制優遇されている個人型確定拠出年金(iDeCo)ですが、生命保険と比較して圧倒的に効果が高いのが拠出金(積立金)に対する税制優遇です。

一般的に知られている生命保険料控除と比較してみましょう。

毎月1万積立生命保険(生命保険料控除)個人型確定拠出年金(iDeCo)
年間積立金額12万12万
年末調整控除額4万 12万

 

仮に月1万円を生命保険で貯蓄を兼ねて利用した場合と、個人型確定拠出年金(iDeCo)で貯蓄をした場合を比較します。

すると、同じ1万円でも年末調整で控除できる額は個人型確定拠出年金(iDeCo)が生命保険よりも3倍の効果があることがわかります。

個人型確定拠出年金(iDeCo)の拠出金(積立金)は「小規模企業共済等掛金控除」という年末調整の項目に掛け金(積立金)全額を記入することができます。

個人型確定拠出年金(iDeCo)は、60歳迄途中で引き出すことが原則できないため、注意が必要です。

家計に余裕があり、節税効果を得ながら老後資金を準備したい方は、検討したい制度です。

いつでも現金化できる積立NISAの活用方法

途中引き出しできない個人型確定拠出年金(iDeCo)に対して、税制優遇を受けながらいつでも現金化できるのが積立NISAです。

2014年から始まったNISAは運用益に対して税金がかからない制度で非課税の期間は5年間でした。

2018年1月より積立NISAが利用できるようになり非課税期間が20年となりました。

積立NISAの新規投資額は年間40万までとなっており、金融庁が承認した公募株式投資信託と上場株式投資信託(ETF)の運用商品を利用することが前提となっています。

主に運用することが前提となる為、元本保証を求めるような方にはお勧めできる制度ではありません。

しかし、将来に向けて資産運用を利用しながら貯蓄を考えている方は、非課税枠を有効に活用できますので、選択肢の一つとして検討するのもいいでしょう。

自分にあった貯蓄方法を選択するポイント

具体的な商品としてドル建て終身保険・個人型確定拠出年金(iDeCo)・積立NISAの解説をしてきましたが、ご自身にあった商品・制度を選ぶポイントを整理してみましょう。

生命保険
ドル建て終身保険
個人型確定拠出年金
(iDeCo)
積立NISA
① 積立金の節税効果
② 払込停止
③ 払込再開×
④ 積立途中での利用
※早期解約は
元本割れします。
利用不可
⑤ 運用益について解約時一時所得非課税
※60歳迄
20年非課税
⑥ 死亡保障× ×

 

(ドル建て終身保険 生命保険の利用が向いている方)

家族がいるので死亡保障を得ながら将来の積み立てをしたい方
お任せで積立をしたい方(保険会社が全て管理してくれる)
通貨分散したい方
為替リスクを許容できる方

(個人型確定拠出年金(iDeCo)の利用が向いている方)

税制優遇を最大限利用したい方
日本円の元本保証で節税効果を得たい方
資産運用の運用益非課税枠を利用したい方
拠出金(積立金)の払い込み停止・再開を柔軟に対応できるようにしたい方
60歳迄途中引き出しできなくてもいい方
※iDeCoの利用期間によっては受け取りが最長65歳になります。

(積立NISAの利用が向いている方)

いつでも現金化できるようにしたい方
拠出金(積立金)の払い込み停止・再開を柔軟に対応できるようにしたい方
資産運用の運用益非課税枠を利用したい方

重複する項目もありますが、各商品・制度を組み合わせて利用する選択肢もあります。

特徴を踏まえてご自身にあった積立方法を選択するようにしましょう。

まとめ

資産形成の手法は生命保険に限らず様々な方法があります。

今回ご紹介した個人型確定拠出年金(iDeCo)や積立NISAは、積極的に活用を促す施策を国が行っています。

しかし、なかなか浸透していない現状もあります。

消費税増税が予定され家計の負担増が予想されるなか、
勤務医の方が節税効果を享受できる数少ない制度です。

一つの商品に偏らず広い視野で商品・制度を選ぶといいでしょう。

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この記事の執筆・監修はこの人!
プロフィール
笠浪 真

税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

                       

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