節税と労力削減のための出張旅費規程策定のすすめ

医院やクリニックの院長先生なら学会や研究会、他院での研修など何かと出張が発生することかと思います。

また、看護師などスタッフにも技術的な研修などの自己啓発のため、遠方に出張に行かせる機会もあるでしょう。

そういった出張時に発生するのが日当や交通費、宿泊費などといった出張旅費です。

交通費や宿泊費などの出張旅費は経費として扱われますが、学会や研修に掛かってくる参加費等の実費についても経費となります。

そんな出張旅費の支出は場所や金額の大きさ等によって、税金の計算上取り扱いが変わってくることをご存知でしょうか?

所得税の取り扱い上、非課税扱いとなる出張旅費は、スタッフの給与とならず、源泉所得税の計算対象から除外されることは多くの方がご存知かと思います。

ただし、これは出張旅費の金額が社会通念上妥当であるということが条件となります。

税務調査によりもし出張旅費が「妥当な金額でない」と判断された場合、過大な出張旅費は給与として扱われ、源泉徴収の対象となります。

そんなときにおすすめなのが出張旅費規程の作成です。

院内で出張旅費規程を作成することで社会通念上妥当な金額で計上できる仕組みを作り上げ、金額の基準を明確にしておく必要があります。

そこで今回は出張旅費規程を作成することによるメリットと作成時の注意点について、お伝えいたします。

出張旅費規程を策定する5つのメリット

メリット

出張した際に発生する交通費や宿泊費、研修費に接待交際費などの経費。

このような出張にかかる諸経費の取り扱いを定めた社内規程を出張旅費規程と言いますが、内容自体について法律上の明確なルールはありません。

そのため、医院・クリニックで金額や内容を定めることが可能です。

ではなぜこの出張旅費規程を定めた方が良いのでしょうか?

所得税・住民税の課税対象とならず雇用側・スタッフ双方のメリットに

出張旅費規程に基づいて日当を支給した場合、給与扱いではなく、非課税所得として計上することができます。

しかし、出張旅費規程を作成していなかった場合、出張日当は給与扱いとなるため、損金算入されない課税所得として扱われます。

出張旅費規程を策定することで、法人税を発生させず医院からスタッフへ資金移動できるため、出張が多い医院であればあるほど節税効果も大きくなるのです。

そして、日当費用を経費扱いとして計上できた場合、スタッフ側から見てもその費用は所得税や住民税の課税対象となりません。

社会保険料の節約にもなる

出張旅費規程を作成すると、社会保険料の算定基礎となる報酬に該当しないため、社会保険料の節約に繋がります。

社会保険料の削減に繋がることも、雇用側、スタッフ両方のメリットと言えます。

支払った消費税を還付できる

消費税の課税事業者となっている医院・クリニックに該当する話ですが、支払った消費税を還付することができます。

給与は消費税の仕入れ税額控除の対象外になる一方で、出張旅費規程を定めて日当や宿泊費を支払うことは課税仕入れの対象とできます。

出張旅費規程の作成は消費税の負担軽減の面でもメリットがあるのです。

出張旅費精算の手間を削減できる

もし規程がなく、多くのスタッフが出張に行った場合、出張経費を精算する手間が発生し、大変な手間になってしまいます。

出張旅費規程を作成していない場合、交通費や宿泊費の補填は、領収書に基づく実費精算が基本となります。

そのため、全ての領収書を確認するだけでなく、旅費の工程なども再確認し、目を通すだけでも精算処理に苦労することになります。

出張旅費規程を作成すると、実費精算ではなく固定額を支給します。

つまり、出張先に応じて支給額を定め、その金額内で交通費や宿泊費が収まるようにするという規程です。

あらかじめ支給額や日当等を定め、精算の労力やコストを削減でき、さらにはスタッフ同士の金額に対する不公平感を軽減できます。

スタッフの出張申請や手配が楽

経理担当者の事務負担だけでなく、出張するスタッフの申請の負担も軽減できます。

というのも、出張旅費規程を作成することで、ルールに従って出張の計画を立てるだけで良いためです。

出張旅費規程がなければ「新幹線を使うか飛行機を使うか」「自由席か指定席か」「ホテルの宿泊費はどこまでOKか?」などいろいろ悩みます。

本業とは関係ない事務的な申請で時間が取られるのは、スタッフにとっても嫌なもの。出張旅費規程を策定することで、そんな煩わしさがなくなるのです。

さらに経費精算システムを導入することで、経理担当者と出張申請するスタッフ双方の事務負担をさらに軽減することができるでしょう。

出張旅費規程を策定する2つのデメリット

デメリット

出張旅費規程を作成することは節税面と労力面でメリットがある一方でデメリットもあります。

後述する出張旅費規程を策定する際の注意点にも繋がるので、デメリットについてもお伝えします。

医院・クリニックの支出が増えてしまう可能性

後述するように出張旅費規程を作成することで、特定のスタッフや役員だけでなく、スタッフ全員に日当を支給しないといけません。

また宿泊費や交通費の固定基準が、実費精算よりも高くなるようなことも考えられます。

そのため、結果として医院・クリニックの支出負担が大きくなることが考えられます。

いくら節税のためとはいえ、支出負担の方が大きくなれば本末転倒でしょう。

税務調査時に経費として否認される可能性

後述する注意点に従って出張旅費規程を策定・運用しなければ、税務調査時に出張旅費が経費として否認される可能性があります。

必要経費として認められる範囲より、過大な金額を出張旅費として支給すると、超過分を損金不算入とされてしまうことも考えられます。

適正に運用しなければ、結果的に節税面のメリットを享受できません。

出張旅費規程を策定する上での4つの注意点

4つの注意点

前項までにお伝えした通り、出張旅費や日当を経費として計上するためには出張旅費規程を作成する必要があります。

ただし策定した内容によっては税務調査において、出張旅費が経費として認められないこともあります。

そこで本項では、出張旅費規程というルールを策定する上で注意すべき4つのポイントをお伝えします。

対象者は全スタッフとする

出張旅費の支給は役員だけでなく、スタッフも対象です。

特定のスタッフには支給しないなど意図的な操作が行うと、損金参入ができません。

そのため、出張旅費規程は役員を含む全スタッフが対象である旨を記載する必要があります。

出張旅費規程の承認をとる

出張旅費規程の策定後は社員総会などの意思決定機関の承認を受けて、正式な規程であることを証明する必要があります。

支給金額の設定の妥当性

出張旅費として含まれる交通費や宿泊費、日当などの支給額は、同規模の医院・クリニックと比較し、妥当であることが必要です。

社会通念上妥当な範囲とされず、過大な支給と判断されれば、超過分は損金不算入ということになってしまいます。

結果的に、医院・クリニックの支出が増大してしまい、デメリットが大きくなるので注意しましょう。

出張旅費精算書を作成する

出張が発生した場合にはその都度、出張旅費精算書を作成し、業務記録を残しておく必要があります。

日当支給の根拠となる情報を記載しておくことによって、税務調査などで提示を求められた際の証拠にもなります。

出張旅費規程の作成手順

作成手順

前項では出張旅費規程における注意点をお伝えしましたが、法律上定められていないため、医院によって規程には様々あります。

そこで、本項では一般的に運用されている出張旅費規程について、作成例をあげながら説明いたします。

目的・ルールを定義する

就業規則に、出張旅費規程の目的やルールを定義しておきましょう。

たとえば「就業規則〇条に基づき」や「この規程は、役員およびスタッフが業務命令により出張する場合の、手続きおよび旅費に関して定めるものである」といったものです。

なお、就業規則はスタッフ数が10人未満の場合は作成義務がありませんが、労使間トラブル防止と助成金申請の観点から、早めに作成することをおすすめします。

【関連記事】【必見!】クリニックの就業規則でこれだけは知っておきたい基本とは?

適用する範囲を明確にする

出張旅費規程の対象は基本的にスタッフ全員となります。

福利厚生費と同様の考え方なので、役員のみ対象とすることはできませんが、役職によって支給額に差をつけることは可能です。

もし、パート・アルバイトなど、正社員以外が出張する可能性があるのであれば、別途明記しておきましょう。

出張の定義を明確にする

学会や勉強会など内容によって、出張方法も変わるため、通常は移動内容や距離により判断されます。

法律上の基準は特にありませんが、一般的に「100km以内は近出張」「それ以上は遠出張」など距離によって、定められています。

旅費の支給額を定める

出張旅費規程を作成することで、「交通費・日当・宿泊費」が固定支給されますが、役職や移動距離によって基準が異なることもあるでしょう。

「新幹線の指定席・グリーン車の利用基準」など、役職や距離に応じて基準が異なるものは、あらかじめ明確な基準を決めておきましょう。

日当も自由に金額を決められますが、「近出張の場合、スタッフ:2,000円、役員:4,000円とする。ただし、8日目以降は支給額を50%減額する」といったように、役職や距離ごとに支給額を決めておきましょう。

宿泊費についても、役職ごとに1泊あたりの上限額を定めておくことをお勧めします。

出張旅費精算書を作成する

出張旅費規程を作成した建前、自由に経費を計上できるわけではありません。

そのため、出張が発生した際には、その度に出張旅費精算書を作成し、記入・提出してもらう必要があります。

出張旅費精算書の書式や項目に決まりはありませんが、一般的には「日時・場所・出張先や担当者・用件」などを記載します。

また、領収書も一緒に保管しておく必要があります。

出張旅費規程に「出張が終了した際には、5日以内に出張旅費計算書を作成し、領収書とともに提出しなければならない」と記し、速やかに精算できるようにしておきましょう。

【まとめ】メリット・デメリットを踏まえて出張旅費規程の作成を

今回は、出張が多ければ多いほど節税効果を見込める出張旅費規程のメリットと策定における注意点についてお伝えしました。

  1. 出張旅費規程を作成することで、節税面と労力面でメリットがある
  2. 損金算入を否認され、クリニックの支出が増大するリスクがある
  3. 損金として認められるための出張旅費規程の策定に注意点がある

医院・クリニックをされている先生であれば、学会や同業者との研修など、度々出張を経験されることかと思います。

そして、出張が発生した際には出張旅費規程に従った精算を行うことで、医院だけでなくスタッフとしても節税することが可能となります。

ぜひ今回お話したことを1つでも取り入れて、医院経営における節税を実現できればと思います。

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プロフィール
笠浪 真

税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

                       

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