税務調査のイメージ

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はじめに

医院・クリニックを経営する開業医の先生にとって、税務調査が入るとなれば「どう対応すればいいのか」と不安になるのではないでしょうか?

しかし税務調査の具体的な対応を知って心の準備をしておけば、いざという時に慌てなくて済みます。

ここでは税務調査の対象となる医院・クリニックの特徴、税務調査(実地調査)の流れと注意点、調査官が必ずチェックするポイントなど、医院・クリニックの税務調査で、多くの先生が気になる点についてお伝えしていきます。

そもそも税務調査とは?~強制捜査と任意捜査~

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経営者にとって、できるだけ税金を払わないようにしたいと考えるのは当然のことです。

税法上定められた中での「節税」は悪いことではありません。

しかし、現実には「脱税」という違法行為や、意図的でなくても経費処理ミスや解釈の誤りによる間違いがあるものです。

こうした違法な申告やルール違反による不公平、間違った申告内容を是正するために行うのが税務調査です。

税務調査には、大きく分けて任意調査と強制調査があります。

強制捜査は多額かつ悪質な不正が発覚した際、捜査令状を持って強制的に行われる犯罪捜査で、脱税が疑われるような場合でなければ行われません。

一般的には、不正の有無に関わらず、帳簿などを確認して適正に申告されているかどうかを確認する任意調査が大半です。

そのため、本記事では任意記事について詳しくお伝えしていきます。

税務調査の対象となる医院・クリニックの特徴とは?

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税務調査の対象となるクリニックの特徴については、周期的または時事的なことが理由になっている場合と、確定申告内容が理由になっている場合があります。

2つに分けて整理してお伝えします。

周期的または時事的な理由である場合

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じつは、個人的に疑われるようなことがなくても、次のように機械的に選んで税務調査の対象となることがあり得ます。

つまり税務調査は脱税や申告漏れの有無に関わらず、誰にでもやってくるものなので、特に怖いものではないと認識しましょう。

最後に税務調査があって何年も経っている

何か疑われるようなことがなくても、ただ「最近税務調査がない」という理由で、機械的に選ばれているだけのような場合もあると言われています。

実際に、「別に悪いことしていないけど……」「申告し忘れた税金なんてないと思うけど……」と、特に思い当たるような節がなくても、税務調査が入ることは珍しいことではありません。

開業してから3年ほど経過している

開業したばかりの時期は、一般的にはあまり利益が出ているとは言い難い状況にあります。

しかし、開業して3年ほどが経過すると、順調な事業であれば徐々に利益が出始め、経理処理にも少し油断が出るかもしれません。

また、一般的には事業を開始してから2年間は消費税が課税されませんが、事業者によっては3年目から消費税を申告するための帳簿も作成しなければいけません。

したがって、開業してから3年ほど経過した事業者は税務調査の対象になりやすいと言われています。

該当する年や地域で起きた注目すべき事件が起きた

税務に関する注目すべき事件が起きたなど時事的な理由で、水平展開として税務調査の対象になると言われています。

これについても、先生のクリニックを疑って税務調査をしているのではなく、機械的に対象とするクリニックを選んでいると思われます。

確定申告内容が理由である場合

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一方で、確定申告内容に疑問を持たれ、院長先生に身に覚えがなくとも、次のような傾向があるだけで税務調査の対象となることがあります。

収益に対する費用の割合や内容が同様の診療科目の傾向と異なる

一般的に、同じような事業を営んでいる事業者の収益に対する費用の割合や内容は類似しています。

したがって、収益に対する費用の割合や内容が、同様の診療科目と比較して大きく異なる場合、税務調査の対象となる可能性があるでしょう。

数年にわたり事業所得を赤字で申告している

事業により発生してしまった赤字は、きちんと事業を営んだ実態があり、結果的に数年にわたり赤字なのであれば問題ありません。

しかし、中には実態がないにもかかわらず、事業を営んだことにして自宅の家賃や携帯電話代、交通費や私的な交際費を経費として計上する人がいます。

一般的には、数年にわたり赤字の事業を継続する人は少ないですから、本当に事業の実態があるかどうか確認する目的で税務調査の対象になることがあります。

消費税の課税対象の売上が、いつも1,000万円ギリギリ

消費税の課税対象となる売上が1,000万円を超えた場合、その2年後は消費税の納税義務者となります。

毎年売上が900万円前後……という場合には、悪意をもって消費税が課税されない範囲まで所得を隠していないか疑われる可能性があります。

また、期ズレなどの指摘を受けた場合には、それが原因で非課税事業者だと思っていた年が課税事業者となることもあります。

悪意であれミスであれ、売上が1,000万円を超えた場合には消費税の納税義務が発生しますので、それを確認するために税務調査をすることになるでしょう。

税務調査の流れ(実地調査)と注意点

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ここでは、税務調査の流れ(実地調査)と、税務調査の現場で注意する点についてお伝えします。

税務調査のなかで、最も一般的な任意調査は、準備調査と実地調査の2段階があります。

準備調査とは、税務調査官が確定申告書などを、独自に収集した情報と照らし合わせて分析するなど、調査対象となる項目を判断する調査です。

実地調査とは、税務調査官が直接医院・クリニックを訪問し、院長先生や税理士の立ち会いのもと、申告内容の適正さなどを調査するものです。

一般的に多くの人がイメージしている税務調査については、この実地調査のことを言います。

実地調査については、特に個人の医院・クリニックの場合は1~2日で終わることがほとんどです。

実際に実地調査の流れをお伝えします。

実地調査の連絡が来た場合の注意点

実地調査に入る前、通常は事前に、税務調査官から実地調査を行う旨の連絡が来ます。

断ることは難しいですが、税務署から調査日の連絡があっても、都合が悪ければ別の日を指定できますので、遠慮なく日時調整を申し出ましょう。

強制捜査ではないので、「税理士の都合を確認したい」「繁忙期」などの理由で、柔軟に対応してもらえます。

実地調査1日目の流れと注意点

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だいたい10時頃に調査官が来院します。最初の1時間は、医院やクリニックの成り立ち、患者の層、診療の内容などを簡単に説明する必要があります。

調査官は特に、仕入れや入金などのお金の流れに注目していることを意識して説明しましょう。

その後、帳簿のチェックや領収書と帳簿の付け合せなど、実際の確認作業が始まります。

この調査の対応は、医療事務のスタッフと担当税理士に任せて大丈夫です。

確認作業の最後には、調査2日目までに準備してほしい資料の用意を依頼される場合もあります。

なお、実地調査中、調査官にお茶や食事の提供をする必要があるのか心配する方が多いのですが、調査官は飲食の提供は受けられません。

税務調査2日目以降の流れと注意点

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初日と同じ時間に調査官が来院するので、前日に依頼された資料等があれば提出します。

夕方まで実地調査が行われ、最後に2日間の調査内容について報告があります。

この時点で調査が終了しなければ資料を持ち帰ったり、3日目以降も調査が続きます。

資料の持ち帰りを求められたものは、すべて提出しないといけないかと言われれば、それは違います。

特にカルテの開示や帳簿の持ち帰りを税務調査のときに求められたら、開業医の先生は拒否して問題ありません。

特にカルテは患者の個人情報が記載されているもので、医師には守秘義務があります。

任意調査である税務調査において、調査官はカルテの開示を強制することはできません。

【関連記事】患者情報漏洩の危険!カルテの開示請求の正しい対処法とは?

帳簿の持ち帰りについても、納税者の承諾がなければ、調査官は持ち帰ることができません。

帳簿の持ち帰りについては、業務に支障をきたしたり、無制限に調査される可能性があるので拒否するべきでしょう。

実地調査後の注意点

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実地調査後、1週間~数か月で税務署からの問題指摘とそれに対する交渉(反論)を行います。

税務署からの指摘事項に納得できた場合
⇒修正申告書を提出、追徴納税を納付

税務署からの指摘事項に納得できなかった場合
⇒税務署と協議。認められず修正申告書を提出しない場合は、更正処分を受ける

税務署から指摘事項の報告がなかった場合
⇒そのまま税務調査終了

ここで注意すべきことは、税務調査官の指摘に納得できるかできないか微妙な場合は、即答はしてはいけないことです。

「顧問の税理士に相談してから返答します」と伝え、後日回答しましょう。

税務調査官が必ずチェックする税務調査8つのポイント

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基本的に税務調査官は、次の8つのことを重点的に調査します。早速お伝えしましょう。

【ポイント①】売上の計上漏れ

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保険診療に関しては、ほとんど売上の計上漏れが見られるようなことは稀です。

そのため、医院・クリニックの売上の計上漏れについて重点的にチェックされるのは、次の3点です。

自賠責収入の入金先

自賠責収入の入金先は請求ごとに個別に指定できるため、事業用口座以外にすることで収入の隠匿を図るケースがあります。

意図的で大規模な収入除外であると認定された場合には、重加算税の対象となりますので注意が必要です。

自由診療収入の除外

自由診療収入は、医院と患者間の金銭直接授受という特性から、過少計上や計上漏れが生じやすくなります。

当局には調査資料によって算定した標準的な自由診療収入割合のデータがあり、診察料や規模により一定の傾向が見られます。

税務調査の際には、その標準データとの乖離の程度もひとつの目安となります。

窓口収入の一部抜き取り

医療保険の患者自己負担は、外来診療の都度窓口で徴収するものと、入院費のように締日を設けて請求するものとに大別されます。

これらは現金収受の形態をとるものが多いので、一部抜き取りが起こりやすくなります。

しかし患者自己負担金と保険者が支払う給付金の割合は明確に定められており、給付金から逆算して患者自己負担金の推計は容易にできてしまいます。

窓口収入と給付金のバランスに異常がみられる場合、税務調査の要因になりかねません。

【ポイント②】売上の計上時期

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先にお伝えしたように、売上の計上時期について期ズレが起きていることがあるので、よくチェックされます。

その他の医業未収金

休日・夜間診療のように都道府県郡市医師会との契約が事業年度をまたがっている場合があります。

しかし、平日・休日・年末年始で支払単価が決まっている場合は、受け入れた患者数を基に、期末までの医療収益を未収計上しなければなりません。

入金サイクルが不定であるもの

入金サイクルが不定であるものを入金時に収益計上している場合、医業未収金の計上漏れとして、税務調査でよく指摘されます。

クレジットカードによる収入

自費診療、高額医療費をクレジットカードで決済する場合、入金時でなく期末までに発生した収入を計上しなければなりません。

【ポイント③】在庫の計上漏れ(架空・水増し・仮装形状の有無)

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医院・クリニックにおいては、金額の大きさと扱い品目の多さから、薬品材料仕入に不正が集中する傾向があります。

費用項目の税務調査で不正経理として大きな問題になるのは、架空・水増し・仮装計上の3点です。

利益操作の温床として、税務調査では棚卸資産の期末計上額を厳しくチェックされます。

【ポイント④】個人消費・家事消費の有無

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個人開業のクリニックの場合、事業と家事費との按分が必要になるケースがあります。

主な対象は車両費・通信費・水道光熱費・借入利息・損害保険料です。

按分の基準には絶対的なものはありませんが、事業と家事の使用割合、面積割合等に基づき按分します。

【ポイント⑤】交際費や消耗品の使途

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交際費や消耗品がプライベートで使っていないかは、税務調査では非常によくチェックされます。

帳簿と領収書を照合し、内容や相手との関係の説明を求められます。

また、最近では照会先に問い合わせることでプライベートな使用が発覚しやすくなっているので注意して管理しましょう。

【ポイント⑥】外注費の実態

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ホームページや広告制作などの外注費に実態があるかどうかも、税務調査では非常によくチェックされるポイントです。

  • 架空の外注費ではないか?
  • 給与として処理すべきでないか?

外注費は無形のサービスの対価として支払われることが多く、金額の設定基準も曖昧になりがちです。

そのため、外注費の水増しは、昔から脱税手段として用いられているためチェックされやすくなります。

【ポイント⑦】架空の人件費

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源泉徴収票やタイムカードなども確認されます。

医院・クリニックでの人件費で特に問題となるのは、アルバイト等を使った架空人件費の計上、専従者への不相当に高額な給与の支払い、非常勤医師の給与源泉の率や交通費の問題などです。

【ポイント⑧】青色事業専従者給与や医療法人理事長の親族への人件費

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個人開業の医院の場合、青色事業専従者給与額について、その職務内容がチェックされます。

青色専従者の業務をリストアップし、金額と職務内容の妥当性を主張できるよう準備しておきましょう。

また、医療法人で理事長の親族である役員に対して役員報酬を支払っている場合、その金額が過大ではないかをチェックされます。

【税務調査事例】税務調査で横領が発覚することも!

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あるクリニックのA医師は、税務調査で「自由診療の割合が少ないのではないか?」という指摘を受けました。

たしかに、A医師のクリニックは麻酔科の医師や看護師の採用などの人件費の割に、売上が上がっていませんでした。

税務調査官は、他のクリニックの傾向と比較しても、売上と支出のバランスがおかしいと指摘したのです。

しかし、A医師は売上の計上漏れや所得隠しについて、身に覚えがありません。

そこで、調査してみたら経理担当のスタッフが自由診療の売上の一部を横領していたことが発覚したのです。

経理担当のスタッフは懲戒解雇され、さらに刑事告発されましたが、クリニック自身も追徴課税で最も重い重加算税が課される結果になりました。

自由診療のような現金の授受の漏れは、帳簿ではチェックできないため、税理士も気付くことができません。

A医師のクリニックのように、税務調査で横領が発覚するケースは意外と多いです。

自由診療の割合が大きいクリニックは、ダブルチェックの体制を敷くなど計上漏れがないかチェックする仕組みが必要です。

【まとめ】税務調査を恐れるべからず

以上、医院・クリニックの税務調査についてお伝えしました。

  1. 多くの医院・クリニックで行われる税務調査は任意調査である
  2. 税務調査が入る理由は、特に理由なく周期的に入る場合と、確定申告内容が理由になっている場合がある
  3. 税務調査が終了して、少しでも納得できなければ税理士と相談して後日返答すること。また、税務調査官に、安易に資料の持ち帰りを認めない
  4. 税務調査官が必ずチェックするポイントがいくつかある
  5. 税務調査で横領が発覚することもある

不正さえしていなければ税務調査は恐れるものではありません。

税務調査が入っても堂々と対応できるよう、日頃から正しい経理処理を行い、確実に申告することが重要です。

そのためにも、日々の経理をしっかり丁寧に行いましょう。

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この記事の執筆・監修はこの人!
プロフィール
笠浪 真

税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢42人(R2年4月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

                       

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