はじめに

120年ぶりに大改正された改正民法が2020年4月1日から施行されます。

時効のルールが大幅に変更されるなど、今回の民法改正は少なからず病院やクリニックなどの医療機関にも及びます。

そこで今回は、民法改正で医療機関が最低限知っておきたいことをお伝えします。

医療費未払いの時効が3年⇒5年に

改正民法の大きなポイントの1つが、債権者などに対して権利主張ができなくなる消滅時効のルールの変更です。

医療機関において未払いに関するトラブルで代表的なのは、患者による医療費の未払いです。

今回の民法改正で医療費未払いの時効について変更があり、これまで3年だった時効が5年に延長されます。

売掛金など多くの債権の消滅時効は5年(商法522条、旧民法166条)ですが、医療費の未払いについては、旧民法170条では、次のように3年と定められていました。

(三年の短期消滅時効)
次に掲げる債権は、三年間行使しないときは、消滅する。ただし、第二号に掲げる債権の時効は、同号の工事が終了した時から起算する。
一 医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権
二 工事の設計、施工又は監理を業とする者の工事に関する債権

また、職業別に異なる短期の消滅時効については、旧民法170条の他、171~174条で定められていました。

しかし、今回の改正民法では170~174条が廃止され、新法166条に統一されることになりました。

つまり、医療費未払いの時効についても、次の新民法166条が適用されるため、時効が5年になりました。医療機関側としては、時効が伸びたので有利な改正になります。

民法166条の新旧比較表を以下に示します。

旧民法 新民法
(消滅時効の進行等)
第166条
1.消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。
2.前項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利の時効を中断するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。

(債権等の消滅時効)
第167条
1.債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
2.債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。

(債権等の消滅時効)
第166条
1.債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。

二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

2.債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。
3.前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。

商事債権であるかどうかにかかわらず、「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年」、「権利を行使することができる時から10年」で時効となることが明確になっているのがわかります。

なお、商事債権の時効期間を5年間と定めている商法522条の規定は削除されます。

しかし、ここで気になるのが「権利を行使することができることを知った時」と「権利を行使することができる時」の違いです。

結論としては、医療費の未払いの場合は2つが一致することが通常なので、基本的に時効は5年と考えるのが妥当でしょう。

なお、医療費未払いの時効の延長や中断については、次の記事で詳しく書いていますので併せてご覧ください。

【関連記事】【医療費の未払い対策】どうやって回収する? 時効は? 診療拒否できる?

連帯保証人保護の強化

医療費の未払い対策などで、相手に連帯保証人をつけてもらう方法があります。

連帯保証人は催告の抗弁や検索の抗弁がなく、保証人よりも責任が重くなりますが、それだけに、これまで多くの議論がされてきました。

そこで今回は連帯保証人保護の観点で、次の改正が行われることになりました。

次の3点を踏まえて、連帯保証契約の書面のひな形を変更しておきましょう。

連帯保証人の責任限度額の設定

1つ目は、連帯保証人制度で責任限度額の設定が義務付けられるようになったことです。(新民法第465条の2第2項,第3項,第446条第2項)

つまり、連帯保証人が追う限度額を書面で定めなければ、保証契約の効力は無効になってしまいます。

旧民法では、代金がいくらになるかが連帯保証人になる時点ではわからず、最大でいくらまで責任を負う可能性があるのか不明です。

特に1回きりの売買ではなく、医療費のような継続的な売買では、連帯保証人は予想外の責任を負う可能性があります。

そこで連帯保証人の保護の観点で、責任限度額を明確にするように民法が改正されたのです。

ただし、新民法施行前の契約については、改正前民法が適用されることとなります。そのため,医療費の連帯保証人について極度額を定めた契約を締結し直したり,連帯保証人なしの契約を締結し直したりする必要はありません。

主債務者(患者)から連帯保証人への情報提供義務

連帯保証人をつける場合は、主債務者(患者)から連帯保証人に主債務者の財産状況などを情報提供することが必須になりました。(新民法465条の10)

これは連帯保証人が主債務者の財産状況を誤解して、連帯保証人になることを承諾してしまい、過大な責任を負うことを避けるためです。

もし、主債務者が連帯保証人に対する情報提供義務を果たしていない場合、連帯保証人は契約を取り消すことが可能です。

連帯保証人の効力がなくなるので、医療機関側がとばっちりを受けることになります。

医療費の未払いでは十分起こり得る話です。

主債務者が連帯保証人に対して正しい情報提供をしていることを書面上で明確にしておきましょう。

債権者(医療機関)から連帯保証人への情報提供義務

さらに、債権者である医療機関側も、連帯保証人に次の情報提供が義務付けられました。

  1. 連帯保証人からの医療機関への問い合わせがあった場合の回答
  2. 主債務者が期限の利益を喪失したときは、医療機関から連帯保証人へ2ヶ月以内に通知する

この2点を怠った際は、連帯保証人に対して適切な請求ができないことになるので注意が必要です。

医療過誤の損害賠償の時効見直し

新民法では、医療費未払いなどの債権の時効だけでなく、医療過誤の損害賠償請求権の時効も見直しになっています。

医療過誤を理由に損害賠償請求する際は、次の2つのいずれかの場合になります。

  1. ①診療契約に基づく債務不履行に基づき損害賠償を請求する
  2. ②医師が負わなければいけない注意義務を違反したため,不法行為で損害賠償を請求する

①債務不履行の場合と②不法行為で各々損害賠償請求権の時効がありましたが、新民法ではどちらの時効も見直しが図られました。

旧民法の時効 新民法の時効
①債務不履行 10年(旧民法167条1項) (1)権利を行使することができることを知った時から5年
(2)権利を行使することができる時から20年
(新民法167条)
②不法行為 (1)損害及び加害者を知ったときから3年
(2)不法行為のときから20年
(旧民法724条)
(1)損害及び加害者を知った時から5年
(2)不法行為の時から20年
(新民法724条)

債務不履行、不法行為に関する民法の条文の新旧比較表は次の通りです。

①債務不履行

旧民法 新民法
(債権等の消滅時効)
第167条
債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
(債権等の消滅時効)
第166条
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。
(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)
第167条
人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一項第二号の規定の適用については、同号中「十年間」とあるのは、「二十年間」とする。

②不法行為

旧民法 新民法
(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
第724条
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時かを経過したときも、同様とする。

(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第724条
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
不法行為の時から二十年間行使しないとき。
(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第 724 条の2
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。

ただ、医療過誤については、引き続き防止策に努めることと、不要な医療訴訟を起こさないような対策が必要です。

こちらについては、以下の関連記事を併せてご覧ください。

【関連記事】医療訴訟の実態とクリニックが行うべき6つの対策とは?

【関連記事】医療過誤(医療ミス)の死亡事例から見る病院・クリニックの防止策

【まとめ】法改正に合わせた対応を

以上、2020年4月施行の民法改正のなかで、特に医療機関に大きく関わる部分だけ抜粋しました。

この中で医療費未払いの対応などで連帯保証人契約を交わしている病院やクリニックは、書面のひな形の変更を迫られますので対応が必要です。

民法に関わらず、病院やクリニックに影響のある法改正については、最新の情報を得るようにしましょう。

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