はじめに

歯科医院はコンビニより多い。

よく聞く言葉ですが、では実際にどれくらい多いかと言えば、コンビニが全国で約55,000件に対し、歯科医院は約69,000件。

さらに歯科医師の数は全国で10万人を超えており、ここまで多いと過当競争になるのは目に見えています。

それだけに廃業に追い込まれる歯科医院も徐々に増えており、年間1,600件もの歯科医院が廃業していると言われています。

競争が激しくなればもちろん廃業する歯科医院も出てきますが、廃業する理由はかなり共通することが多いです。

今回は、歯科医院が廃業に追い込まれる理由について書いていきたいと思います。

歯科医師の4人に1人は年収200万円以下!二極化の進む歯科業界

まず、競争が激しい歯科業界で二極化がどんどん進んでいます。

全国の歯科医師の平均年収は730万円です。

一般企業よりは高い年収とは言え、他の診療科目に比べれば決して高収入とは言えません。

しかも歯科医師の年収の平均値を押し上げているのは、一部の増収増益を続けている歯科医師です。

4人に1人の歯科医師は年収200万円以下と言われ、20人に1人は確定申告で申告した所得がゼロだそうです。

歯科業界が過当競争にさらされていく結果、このようにワーキングプアに陥る歯科医師が増えています。

これでは廃業していく歯科医院が、開業する歯科医院より増えていくのも頷けます。

そして、増収増益を続ける歯科医院はさらに集患力を上げていくでしょうから、この二極化は、しばらく続くと思われます。

それだけ、歯科業界は厳しい時代に突入しているのです。

良い物件選んでいるのに廃業に追い込まれる歯科医院

ここからは、実際に廃業に追い込まれる歯科医院の特徴について書いていきたいと思います。

歯科医院の開業の良い物件選びというと、だいたい次のようなことを思い浮かべると思います。

・近くに成功している歯科医院がない。
・比較的人口が多い
・駅から徒歩数分
・ビルの1Fや2Fなど、比較的目立つところにある
・郊外であれば近くにランドマークがあること
・川や線路、高速道路などでさえぎられていない

しかし、これらをすべて満たすことは容易ではありません。

都心に住んでいる方であれば、近所を散歩していれば、必ず何軒かは歯科医院の看板を目にします。

そもそも圧倒的な好立地でライバルの少ないところを探すことはかなり難しい。

また、たまたま良い物件に出会えたとしても、それで終わりではありません。

開業して間もないのに、近くにも別の歯科医院ができ、そこに患者が流れてしまうことも考えられます。

しかも、良い物件の条件は、どういった診療をしていくかによっても違ってきます。

子供を中心に診療をしていきたいなら、ファミリー層が多い地域、自費診療を増やしたいなら年収特性といった具合です。

そこを間違えると、一見良い物件を選んでいるようでも全然集患できない事態が発生します。

このような事情もあり、決して物件選びの条件は間違っていないのに、廃業に追い込まれる歯科医院も増えています。

ここまで過当競争になれば物件選び以上に重要なのが、他の近隣歯科医院との差別化になってきます。

独自性のある治療法、検査法を通して、他の歯科医院と競合しないか、ということがとても重要になってきます。

物件選びさえ間違わなければ大丈夫と勘違いして開業した歯科医院は、おそらく苦境に立たされることでしょう。

経営理念やビジョンのない歯科医院は生き残れない

近隣歯科医院との差別化は、決して治療法や検査法だけの話ではありません。

実際に、他の歯科医院にはない、とある高い治療技術を持ちながら廃業に追い込まれた歯科医院は数多く存在します。

一方で、ほとんど集患対策をしていないのに、知る人ぞ知る自費診療だけの歯科医院として成功している歯科医院もあります。

この大きな違いは何かというと、経営理念やビジョンといっても過言ではありません。

経営理念もビジョンも、決して形だけのお飾りではありません。

院長先生だけではなく、スタッフ全員と共有できていることが大切です。

「患者に対してどういう歯科医院であり続けたいのか?」

「スタッフに対してどういう歯科医院でありたいのか?」

「地域社会に対してどういう歯科医院でありたいのか?」

目指すところは、院長もスタッフも患者も幸せになるwin-win-win経営です。

これが曖昧になってしまうと、スタッフは違う方向を向いてしまい、いずれすれ違いが起こり、離職が相次ぎます。

そんなギスギスした歯科医院に通いたいと思う患者さんは少ないでしょう。

昔から通っている患者さんであれば別ですが、新規の患者さんはすぐに離れるでしょう。

何と言っても、近くにいくらでも歯科医院は存在するのですから。

もちろん、集患対策は必要ですが、それ以上に自分自身が、どういう歯科医院であり続けたいのか?

究極の歯科医院の差別化は、そこから生まれてくるものだと考えています。

マーケティングを強化しても、なぜあの歯科医院は廃業したのか?

将来的な保険制度の悲観的観測から、多くの歯科医院が自費診療の割合を増やす取り組みをしています。

それだけに、他の医療機関よりも、歯科業界は集患対策などのマーケティングの関心が高い業界です。

訴求力の高い歯科医院のホームページやチラシはかなり増えている印象です。

これは、他の医療機関よりは、同じくコンビニより多い整体院・整骨院などの治療院業界と似ているかもしれません。

ここまで競争が激化すると、マーケティングはもはや必須の課題になっています。

いくら最高の技術が提供できようが、崇高な理念を掲げようが、売上がなくては経営は成り立ちません。

しかし、これだけ競争が激化すると小手先の集客テクニックも蔓延してきます。

例えば、テンプレート化されたランディングページをもとに自身の歯科医院の情報に書き換えるだけとか、トークスクリプトの丸暗記など。

こうした小手先のテクニックだけを追求するとどうなるか。

ただでさえ過当競争の歯科医院のホームページやチラシが、みんな同じようなメッセージに見えてしまうことになります。

患者側からしたら、もう見飽きてしまうのです。

差別化しようとしてマーケティングを強化しテンプレートに頼った結果、余計に差別化されないという悪循環に陥るのです。

ですから一見して立派だが、じつは患者さんに全然響かないホームページを作っている歯科医院が増えてきました。

そして、2018年の医療広告ガイドラインの改正で、ホームページの規制が強化され、歯科医院のマーケティングはますます厳しさを見せています。

マーケティングは、テンプレートに頼れば頼るほどうまくいきません。

患者さんは既に見抜いてしまっています。

また、小手先のマーケティングに頼りすぎる弊害は他にもあります。

小手先のテクニックで作っただけの広告を見てやってきた患者さんは、広告で感じたことと大きなギャップを感じてしまいます。

「ホームページで載っていることと全然違ってがっかりした」

自分の歯科医院の魅力や患者さんにできることを伝える努力をせず、テンプレートをまねした結果、虚偽広告のようなものを作ってしまうのです。

それでは患者さんは「騙された」と感じて、転院してしまうでしょう。悪い噂も流れれば、集患に大きく響きます。

また、虚偽広告や誇大広告はそもそも医療広告規制に反しているので注意が必要です。

スタッフとの人間関係がギスギスした歯科医院に未来はない

他の医療機関に比べて、歯科医院はマーケティングに力を入れている傾向があるということはお話しました。

もうひとつ、他の医療機関に比べて多いと感じるのは、ソフトスキルに関する研修の参加です。

治療技術のスキルアップなどのハードスキルだけではないのです。

心理学等をベースにして、コーチングやコニュニケーションスキル、マネジメントスキルといったことを学ぶセミナーに参加する歯科医院が多いのです。

このようなソフトスキルを伸ばす研修の参加は、他の診療科目では、さほど多くは見られない印象があります。

一方で歯科業界と同様、コンビニより多いと言われる治療院業界も、こういったソフトスキルに関する研修参加を重視している印象があります。

なぜ、過当競争の業界ではこのような現象が起きるのか?

これは、そもそも競争を勝ち抜くためには小手先のマーケティングだけでは歯が立たないことに、徐々に気付いているからではないかと思います。

長期的に売上を安定させるには、ブレない理念やビジョンを確立といった本質的なことが重要ではないか?

そう思ってスキルやノウハウだけではなく、マインドの強化も求めるようになるのではないかと思います。

しかし、多くの歯科医院の顕在的なニーズは売上の向上です。

まだまだ理念やビジョンの必要性に気付いている歯科医院は少ないのではないかと推測されます。

では、なぜこのようなソフトスキルを求めるのかというと、多くの歯科医院のもうひとつの顕在的な悩みが人間関係だからです。

人間の悩みの85%は人間関係と言われるほど、多くの人は人間関係に悩みます。

人間関係のストレスは、多くの人に生きづらさを与えますから、ギスギスした人間関係ではスタッフはすぐに辞めていくでしょう。

入ったばかりのスタッフにすぐに辞められてしまっては、人件費の損失が大きくなるばかり。

また、スタッフが次から次から辞める歯科医院で働きたい歯科衛生士や医療事務の人なんていません。

ですから、そもそも人間関係がギスギスした歯科医院はスタッフ雇用すらできなくなります。

必要な人材を集めることができず、優秀な人材を雇用できず廃業に追い込まれた歯科医院も多いと思われます。

コンビニより多い歯科医院では、集患も大変ですが、人材の確保も大変なのです。

また、だからといってコーチングスキルやコミュニケーションスキルを学ぶことが必ずしも正解かと言われればそんなことはありません。

このようなセミナーは、受講生に大きな感動体験をもたらし、主体変容をもたらすことがある一方で、強い依存を生む可能性があるためです。

受講後気分が良くなり「あのセミナーに行って、私は絶対に変われる」と一度は思うのですが、現実には売上も人間関係も何も変わらない。

それでもセミナーに依存し、「私はまだこの先生の言うことを理解していない」と何回も受講を繰り返したり、他のセミナーを渡り歩く。

このような例は大変多いのです。

治療技術やマーケティングと同様、習ったことは現場に活かせなければ何も意味はありません。

セミナーに行って感動して終わるだけでなく、自分の歯科医院の現場でどのように落とし込むかが重要です。

なお、歯科医院のスタッフとのトラブルとの対応策については、以下の記事で詳しく書いていますので、併せてご覧ください。

【関連記事】【歯科医院の人事労務】スタッフとのトラブル6つの対応策

開業資金に人件費…無駄遣いする歯科医院に未来はない

これは他の開業医の先生にも言えることですが、歯科医院を開業するということは、歯科医であると同時に経営者になるということです。

ですから、お金の管理についてもしっかり考えないといけません。歯科医院の開業資金もかなり高額です。

例えば、よくある失敗例としては、高額の医療機器を揃えてしまった例です。

診療圏から考えて必要性のない医療機器まで、高機能かつ最先端のものを揃える必要はありません。

開業後の資金繰りや収支を計算せず、強引な設備投資に踏み込んだ結果、半年で廃業してしまったケースもあります。

あと、人材の確保についてですが、莫大な人件費を念頭に置く必要があります。

ただ単にベテランスタッフを揃えれば良いわけではありません。それでは固定費が経営を圧迫することになります。

また、スタッフが多ければ多いほどマネジメントも複雑になり、精神的なストレスもかかります。

人材を募集する際は、必要とされるスキルをしっかりと検討し、必要数だけ採用して、徐々に増やしていくようにしましょう。

相手は物ではなく人ですから、お金の支出だけでなくストレスまで増えてしまいます。

このように、開業時には以下のことをしっかり検討し、資金計画を立てるようにしていきましょう。

資金がショートすれば、黒字でも倒産してしまいます。

(1)貯蓄計画
(2)借入返済
(3)税金対策
(4)固定費算出
(5)事業収入

多くの先生は、診療圏調査をもとに売上(事業収入)を予測し、必要経費を除いた残りが院長先生の生活費(貯蓄)になるという考えをします。

しかし、それではおそらく歯科医院や院長先生のお金はほとんど残らず、廃業に追い込まれるでしょう。

重要なことは、5~10年後のビジョンから、何をすべきかを考えることです。

例えば10年後の院長先生や、歯科医院内の貯蓄はこれくらいにしたい。

経費はなるべく抑えたいが、どうしてもこれくらいかかる。

これを見据えた上で、自分の歯科医院にはいくらの事業収入が必要だろうか、と考えるのです。

このように考えれば、そもそも開業時点では、どこで、何をしようかという根本的なことから考える必要があります。

先にも書きましたが、理念やビジョンをもとに考えることはとても重要なことです。

事業計画時点では、収入も支出もコントロールできます。

自分が得たいビジョンをもとに、資金計画を立てるようにしていきましょう。

まとめ

今回は、歯科医院が廃業するほど追い込まれていく理由についてお伝えしました。

保険診療だけでは食べていくには厳しい現代で、治療技術を軽んじることは歯科医院としては論外です。

しかし、過当競争が激しい歯科医院では、もはや治療技術だけで生き残ることは不可能になりました。

だからといって小手先のマーケティングでは通用しませんし、崇高な理念を掲げるだけでも不十分です。

スタッフとの人間関係やコミュニケーションも重要ですが、財務がしっかりしなければ経営を圧迫します。

つまり、治療技術、マーケティング、スタッフとの人間関係、財務、理念やビジョン、すべての歯車が噛み合った歯科医院だけが生き残ります。

廃業した歯科医院の大半は、このいずれかが狂い始めたのです。

院長もスタッフも患者さんも、お互い幸せになることを追求した歯科医院と、そうでない歯科医院。この格差はどんどん広がっていくことでしょう。

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